・『ロスト・イン・ラマンチャ』 − 2004/06/29


 テリー・ギリアム監督作品が好きなのはその狂ったイマジネーションを緻密に
構築していって出来上がった狂った映像故であり、雇われ監督作品である『フィ
ッシャー・キング』『12モンキーズ』『ラスベガスをやっつけろ!』でさえも
「何人犠牲になったんだろう?」
 と思うほどにイカレているが、ギリアム脚本、監督作の『バンディットQ』、
『未来世紀ブラジル』、『バロン』にしても
「どうしたってコレ、予算には収まってないよな… 何人死んだのかなぁ… 」
 という芳醇さが私を惹きつけるのね。


 そんなギリアムがドン・キホーテを題材にした映画を監督、と聞いたのはいつ
頃からかは忘れてしまったが… 何せ長年撮りたい作品として彼が言い続けて
きたので… それが撮影6日目にして中止、さらに撮影再開未定、ってニュース
を聞いて
「嘘だろう!?」
 と期待が壊れた失望感よりも
「あぁ、やっぱり… 」
 と思ってしまったんですよね、私。


 元々、共同監督ではあったものの『ホーリー・グレイル』の時から常に予算を
オーバーし続けてきた。『バロン』が最大の予算オーバーと言われているが、
あれはイタリア映画界にタカられまくったのと無能な会計士、逃げたプロデュー
サーが酷過ぎただけであって、それまでの作品が興行収入が良かったから悪く
は言われていないだけで、雇われ監督作品以外は皆、予算オーバーだったし。

 しかも、ドン・キホーテはヨーロッパ各国から出資者を募り、スタッフもヨー
ロッパ各国からの集合で、スペインで撮影… って時点で
「無事に済むワケねぇじゃん… 」
 って思うって、普通。


 そんなデタラメな状況がギッシリ詰まった『ロスト・イン・ラマンチャ』。
本来はDVDの映像特典のメイキングとして撮影されていたもので、コレ自体は
映画ではないがドキュメンタリーにはなっている。で、観たんだけどねぇ…

 
辛過ぎ。
 っか、
 
デタラメ過ぎ。

「テリー・ギリアムと仕事をするのは鞍のついてない馬に乗るようなもの。必死
に鬣を掴んで… 振り落とされないように命がけ」
 と、長年の付き合いがあるとされる第1撮影班監督の人が言うけれど、それを
予算とスケジュールの範囲を見越して制御すべき筈のフランス人プロデューサー
の無能さ故に、観はじめて10分程で
「こんな状況で完成する方がおかしい」
 と思うくらいにスタッフ… 特にフランス人が酷過ぎる。

 撮影開始1ヶ月前なのに主要俳優陣とコンタクトが取れない。

 ヴァネッサ・パラディは出演契約にサインさえしていない。

 主演のジャン・ロシュフォールはヘルニアを患って出演そのものが危機。

 用意されたスタジオは倉庫同然で最悪の音響。

 で、屋内シーン用のセットを組むことが出来ない。

 撮影を開始してもロケ地がNATO軍事演習地と隣接してるので上空を戦闘機
や爆撃機が飛びって交っている。

 役に立たない天気予報のせいで予定も立たないばかりか突然の雹混じりの豪雨
でロケ地は大洪水でキャストもスタッフも衣装も小道具も撮影機材も泥だらけに
なる上に、肝心のロケ地の砂漠の色を変えてしまう。

 エキストラに何の指示もリハーサルもしてない助監督。

 ロクに動かない馬と調教師…


 ってねぇ…
スケジュール・マネージャーやコーディネーター、プロデューサーがしなければ
ならない仕事を一切、本当に一切やってないから監督のギリアム自身が俳優らの
確認の為に電話をかけたりしているようではどうにもならんて。
「この映画を撮る意欲が消えた」
 と最後にギリアムが呟くが、監督がそんな雑事に振り回されていたら創作なん
て出来ないって… 同人映画や糞フランス映画ならともかく、50億円って予算
の映画企画でこんなにスタッフが無能、いい加減、デタラメ、怠け者だらけじゃ
出来っこないっての… 


 しかし、ギリアムはこの映画の撮影に意欲がある、と最後に文字が出る。
「それだけ好きな、思い入れのある作品なんだろうな…」
 と思うし、途中のラッシュで出る撮影されたシーンを観ると
「あぁぁぁぁ… この映画、観てぇ… 」
 と本気で思う。

 だから今は05年公開予定の『グリム兄弟』が是非、ヒットして欲しいと思う。
こっちはもぅ撮影は済んでいて編集の段階だから、余程の事が無い限りは公開さ
れる筈だし… と思うし、そもそも原作者J・K・ローリングの第1希望監督が
ギリアムだったんだから是非とも『ハリー・ポッター』とかお金稼ぎの映画でも
撮って欲しいと思う。

 さしあたって私が出来る事、と言えば… やっぱり…

『Lost in La Mancha』を買う事、かなぁ…

日本版はUS版から特典ディスクを抜いたものでしか無いし、ね。


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