「映画の感想・3本立て」 − 2003/11/16

● 『レッド・ドラゴン』

 ハンニバル・レクター・サーガで一番最初のお話で、実は一度映画化
されてはいたんですが、それとは全くの別物ですね。
 と言うかこのサーガ、監督による嗜好の差が出ていて、

『羊たちの沈黙』は「ジョディ・フォスターをいかに撮るか?」
 で
『ハンニバル』は多分、
「あれだけボリュームのある原作をまともに映画化するのは無理だから、
いかに原作の小説の『世界』『シーン』を映像として再現するか?」
 で
『レッド・ドラゴン』は「映画を作る」
 だと思ったんですね。

 原作にしてもやりたい事はそれぞれ違ったワケだし、コレをして
「ワチャシは『羊たちの沈黙』をやってくれると思ったのにッ!」
 とか言うのは勝手ですけど、手前ぇ勝手で見方、狭いっす。

 一見、地味な俳優さん達だし、本来地味なお話だったんですがこれが
とにかく脚本も映像も演技も無駄らしい無駄が無い、それでいて伏線の
つけ方や、展開の緩急のつけ方も巧いし、ミステリー映画としての出来
言えばからかなりの作品ではないでしょうかね?

 よく出来ているだけに、実は繰り返して何度でも観たいとは思えないん
だけど、レンタルで一回観て、
「あ〜面白かった」
 って楽しむだけの映画ってのもいいと思う。
映像的にも人を驚かす作りではなく、オ−ソドックスでありながらも配色の
点で物凄く計算して目立たせる部分と抑える部分とでのメイハリも効いて
いると思えましたし…

 とにかく無駄が無い、ってのは観ていて気持ち良かったしキチンとレクター・
サーガを「輪」としようとしてるのも成功してると思うし。字幕があんまりいい
出来ではないのが玉に瑕だが、これは本編の質を下げる程のものではない
と思いましたし。

(しかしアンソニ・ホプキンスはやっぱりバケモノだと思う。この作品
が一番若く見える気がするのはメイクだけはないよ… )


●『 A 』

 1996年におけるオウム真理教を荒木広報部長を軸に密着したドキュメンタリー。
色々と話題にはなったモノだが…

 残念ながらコレが発表された時に観ていなかったんで、もぅコレ『歴史』になってる
んで作者がこの映画を作って見せようとした「モノ」とはどうしても現在観た時の感想
なり印象なり意味合いが意味違ってくると思うが…

 私、やっぱり60年代っか全共闘って嫌いだ。

 対権力、って部分で権力側を悪とするのは簡単だし、実際に出てくるシーンでもマス
メディアや警察などは悪にされても仕方ないシーンは出てくるんだが…
「でも、それって結局片手落ちになってません? 中立だと言えば言うだけ… 」
 って思うんですよ。
個人の思想、信条がドキュメンタリーに入るのは仕方ない事ではあるんだけど、でも、
あえて中に入ってこの人が見たもの以上に情況や時代、問題に対しては放棄してる
ような印象がありましてね… 本当に「見る」だけで終わっているのなら、それでもいい
とは思うけど、そうではない。何物にも迫ってもいないかわりに、監督の反体制の心情
が滲み出ているだけ、ってのもねぇ…

 人によっては結構ショックを受ける内容かもしれんけど…
でも普段からドキュメンタリーを観ていると取り上げている題材を除けば、私はそんなに
いい出来とは思えないんだよね… 
 勿論、オウムも権力もマスコミも、この映画に出る登場人物も日本的ではあるけれど、
どこかしら「衆愚」と思って撮ってるフシが見られるのが個人的には駄目なんだよね…


●『愛しのローズマリー』

 お気楽なコメディって事での選択、の筈だったんですが…
 コノの映画は侮れませんぞ、マジで。

 パッケージやTVCMでのイメージを期待すると… と言うか私も『メリーに首ったけ』
『ふたりの男とひとりの女』の監督作品だけにもっとこぅ、直裁的なブラック・コメディか
と思っていたんだけど、一見お気楽なコメディに見えて、提示しているのは奥深いのね。

 多少、モタついた部分はあるしエピソードにもぅ1、2個積み重ねが欲しかった気が
しないでもないんだが
「外見と内面」
 を、冷酷に現実的に見せ、ファンタジーや奇麗事のままでで終えなかったんですな。

 人を笑ったり、馬鹿にするのはとても簡単なんだよね。
でも、それはその人の視野の狭さや人としての弱さでしかない。
 まぁ、
「外見のブス=心が綺麗」
 ってワケでは無い、ってトコが正直欲しかったのと、
「心が醜い」
 って表現にもうちょっと工夫が欲しかったなぁ… ってのを残念に思ったんでDVDを
買うまでにはいかないんですが、でも、日本に比べればまだ開放的と言うか、健全と
言うか… ちょいと羨ましくもありましたね。
 隠すだけではどうにもならない。
 でも、自分が生きていこうと思えばその居場所はずっと色々あるってアメリカが。

(ローズマリーが他者に心を開いてるからこその出会いでもあった、って点を見過ごす
と駄目だと思うんですよ。「出会い」は偶然に依る部分もあるけど… でも、その当人の
生き方、程度以上の出会いってのは無い、と思うんよね… )


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