『アイ・アム・サム』 − 2004/02/16


「Fairy-Tale」、という言葉がある。
この言葉が日本語に訳される場合、

「童話」 … 子供のために作られた話。古くから伝えられた
      おとぎ話や寓話(ぐうわ)などのほか、創作された物語

「寓話」 … 教訓や処世訓・風刺などを、動物や他の事柄
      に託して語る物語。「イソップ物語」など。

「御伽噺」… (1)大人が子供に語って聞かせる昔話や言い伝え。
       (2)現実とは懸け離れた架空の話。夢物語。


             (三省堂提供「大辞林 第二版」より)

 とされるのだが、実際にはもう少し意味合いが違い、例えばティム・バートン
監督作品の『シザー・ハンズ』も監督、脚本家によれば「FairyTail」なのだそうだ
がさて…

 この映画、私が観た印象に一番印象が近いのは「寓話」であろうが、果たして
「寓話」としていいものだろうか? … と、思った『アイ・アム・サム』。


 私も種類は違えど障害者であり、そんな私が障害者のドラマを観るのは、それが
アクションやホラーにしても実は結構シンドイ。社会におけるマイノリティとして、抑圧
と排除をされるフリークス、って点で感情移入し過ぎてしまうってのに、
「ヒューマン・ドラマ」
「泣ける」
 なんて映画なんか観てらんない… と、思ってもいる。
 実際、そうだし。


 しかし、
芸の鬼の一匹であるショーン・ペンのインディペンド映画、って点での興味はそそられて
いたのも事実で、CATVのムービープラスで放送されるのを機会とばかりに妻と共に観て
みる事にしたのだがいい意味で予想は裏切られた。

 兎に角、ショーン・ペンをはじめとして、役者の演技が凄い。
本物の知的障害者かと思うばかりの演技レベルの高さには驚きやドラマを観ている事を
通り越した感慨を残すし、娘役をはじめとする健常者役も芸達者な人ばかりで、ハリウッド
の役者層のぶ厚さったら堪んない!

「自主制作」が日本では低予算や不出来の言い訳に使われる事が殆どだが、少なくとも
アメリカでの「インディペンデント」では製作環境(形態?)の違いを現わすものでしかない…
 って違いも現わしている。それくらい画面は美しいし、音楽の使い方の絶妙さにも唸った。
(私的には娘に強く迫られて仕方なくサムが(形式上の)誘拐をしてしまう時にビートルズの
『STRAWBERRY FIELD FOREVER』がかかった時、画面の美しさと歌詞の切なさと情況が
見事にハマってぐっときてしまったですよ。)


 そして、ウエットに見えていて実は結構ドライ。
知的障害ゆえの天使性(イノセンス)だけではなく、感情の自己制御が出来ずにしばしば
エキセントリックになるサムをはじめ、都合の良い味方や協力者が出る事も無く、検察や
児童保護局にしても対立する役割ではあるものの、言っている事はまた1つの善意、視点で
あって、決して単なる悪役では無い。


 でも、
本物と見間違うばかりの役者達がいたからと言って、この映画が単にリアルなものか? と
言うとそれはまた別の話。そういう枠には収まってはいないのね。
 例えば画面にしてもドキュメンタリー風になったり、映画的にもなったりするが、それは【物語】
を語っていく上での状況によるんですよね。サム等の心情によってではなく。

 そして、例えばサムの性欲の問題などが一切描かれてなかったりする部分も含めて語って
いないが故に観ていて不自然な部分は結構ある。でも、それはこの【物語】に邪魔だから。

 そして、この映画は何かを… 例えば
「障害者の悲劇」
「父と娘の愛情」
「人と人との繋がりの素晴らしさ」
 などを訴えていない。そういう目的の為の映画ではないし、それを語る【物語】ではないから。

 それらはサムがごく普通に一人暮らしをしていたり、(職業の制限はあれど)スターバックスや
ピザハットで働いている事と同様に、同列に、ある。おまけにラストを観れば解るが実は問題
そのものは解決していない。得るものもあった反面、失ったものもある。

 だから
「とにかく映画を観て泣きたい!」
「とにかく感動したい!」
 って人には多分、肩透かしの作品になっている… と思う。
 悲劇をお望みならば、それこそいくらでもそういう映画はあるから、そっちを観た方がずっと
いいと思う。

「映画を観る事は、何かの「為」である(になる)」
 って人にもお薦めはしません。
明確な回答も人生訓も、お説教も解り易い形で提示さないから。


 でも、そういう映画だったからこそ、私はこの映画に好感を持った。
好き嫌いで言えば好きではない映画だけど、それだけで語るのなんて不毛もいいとこだしね。

「感動作」「泣ける映画」って括りに敬遠してるのも勿体無いですよ…





 ちなみに、
「EXCEED 英和辞典」で「Fairy-Tale」を調べてみると、

 
fairy story [tale]
 おとぎ話; うそ
 fairy-tale a. おとぎ話のような;すばらしい[美しい].


 となるが、やはり英語には英語のニュアンスがあって、日本語には訳しきれないものが
あるように私は思う。無理に訳した意味ではなく、その言葉の持つ空気ってのかな… それを
感じれタラそれでいいんじゃぁないのかな、とこの映画を観て改めて思いました。

 勿論、その逆もあるけどね。


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