『AIKI』 − 2004/02/25


 リアルであってもドキュメンタリーやノンフィクションではない、って点で… 主役が
障害者ってのもあるけど『AIKI』という映画は邦画なんだけど邦画臭くない映画だった。
 それが意図してのものなのか、脚本兼監督による手腕なのかは判別出来ないが、
無理に泣かせようともしないかわりに無理に答えも出そうとはしていない… まぁ、
それがこの映画のいい部分でもあるのと同時に悪い部分でもあるんだけどね。


 新人王戦に挑もうとしていた主人公がバイク事故で下半身麻痺となり、人生を投げ
遣りになっている時に…

 というストーリーはお涙頂戴や感動モノになら簡単に出来たろう。
ましてコレ、実際にあった事をベースにしているんだから普通に製作をすればそれなり
の映画になったかとは思う。泣けて、感動して、何かいい気分になれる映画に。

 しかし。

「(この映画は)甘っちょろい絵空事だと思うんです。
でも、『映画の力』ってのがあると思う。観た人の助けにはならないだろうけど、
何か元気が出るようなものになればいい。」

 とDVDの映像特典であっさりと言っていた監督によってこの映画は、『映画』として観る
ならば甘い、無駄、多い、惜しい部分は一杯あるんだけど、ただの、普通のそれなりの
映画にはならず、冷たいけど暖かいし、汚い部分もあるけど綺麗で、嘘のお話なんだけど
でも伝えようとした事は実に素敵な映画になっている。


 兎に角驚いたのは作り物、お話をそうは思わせない登場人物らの「リアルさ」。
加藤晴彦君は冒頭のボクシングシーンこそ危ういが、後の車椅子生活や合気シーンなど
でも嘘臭さが見られない。そこに彼の『素』の素直さ、陽気さ、そして芯の堅さが出ていて
演技としての物足りなさがちゃんとカバー出来ていて結構いい感じ。

 そして師匠役の石橋凌氏の姿勢の良さ、所作の佇まい等も嘘臭く無い。
俳優が役作りの為のトレーニングも、台本を読み込んでの演技の模索も特にせず、『素』
の雰囲気だけで済ませてしまう事が主流になっている昨今にあって、
「観ていて自然に見える。違和感が無い。」
 という事をキチンと創りあげてみせた事は凄いと思う。


 だって出演者の中には甲冑組術や小太刀等の本物の古武道の人達も出ているんだけど、
その中にあってもさして浮いてたりしないのは多分、俳優達もまた真剣に取り組んでいた
証拠だと私は思うんだよね… 勿論、それは映画のマジック… カッティングやカメラワーク
等もあっての事だとは思うんだけど、でも大抵浮いてしまうものじゃない? でもそうじゃない。


 ただまぁこの映画、お話の構造からすると男向けかもしんないけど… ホント、色々な部分
で『惜しい』トコロが少なくない映画だとは思うけれど… でも、この映画が見せる「画面」や
「空気」って私は嫌いじゃぁないんだよね…
「あぁ、日本にも、日本でも、こういう映画を撮れる監督がいるんだ」
 って。
 


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