・『CASSHERN』 − 2004/05/03
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私が映画館に行く時の動機の1つが
「映画館のスクリーンの大きさで観る必然性がある(だろうと思う)」
ってのなのね。
その点でいくと『CASSHERN』というのは微妙なトコロだと思う映画だったが、微妙と
思うのなら… ってのと宇多田のPVでの世界観の密度と色彩感覚が好きだったから
妻と共に観賞したが…
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「まぁジョン・レノンの『イマジン』ですかね」
と妻。
「まぁそんなトコだな。でも『俺の屍を越えてゆけ(PSのゲーム)』の方がずっとブッ飛んで
たよなぁ… でもアレだね。子供が生まれた時にテロをくらわなかったらこの映画、こう
なったのかなぁ?」
と私。
「さぁねぇ… でも『絵(画)』を観に来たと思えば」
「だけどこれって映画館のスクリーンって必然はあるかね?」
「ん〜… 」
「ご家庭のプロジェクターで100インチかそうでなければ15インチのPC用モニターに向い
ているような… 」
「嫌いじゃぁないけどね… 音を消して環境ビデオとして流しておく、ってのには悪くないと
思うし」
「にしても最後まで持続しないけどな」
「そうだねぇ… 」
って夫婦の会話だけではアレなので説明。
(逆に解る人はスッ飛ばしてもらって結構です)
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作家が作品を作る時に完全に自己検証できるものではない、ってのは承知していても、
作っていく過程の中で自己検証や自己確認行為が出来ない作品、というのは基本的に
駄目だと思う私からすると、今回観た『CASSHERN』は初監督作品という点で
「大目に見てやろう… か」
というレベルであって、同じ事をタランティーノや押井がやったら
「寝惚けた事、言ってんじゃねぇぞ馬鹿野郎!」
と怒っていたであろう程度の作品、としか言い様が無いくらいに作品のテーマも曖昧なら
物語も曖昧、ビジュアルイメージもオリジナリティに欠けているし、兎に角、未整理なまま
収拾をつけずに放り出した様も含めて実にTV版『新世紀エヴァンゲリオン』に構造的にも
視覚的にも思想的にも似ているし、何よりも『映画』だったら台詞で語らずに画面で見せて
欲しかった… 決して出来ない事では無いし、今までにも同じ事を映像で見せてきた先人が
いるのにやっていないし… 加えて語る台詞の矛盾も酷いが示された映像の安易さと発想
の貧困さが酷い上にクドく繰り返されては辟易としてしまう。
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そう、
画面の密度やCGの方にリアルの俳優を取り込む画面構成や計算高さは庵野なんかよりも
徹底しているから「まだ観れる」んだけど… その密度や計算高さや台詞の過剰さが『映画』
や『物語』に慣れていない人達には『CASSHERN』という映画、見かけは裕福に見えるかも
知れないが、私には未整理なだけでなく貧困な精神の荒野を見せられるだけ、って印象が
どうしてもしてしまう。
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だから
「あんたは本当に、人を憎んだ事があるのか?」
って思ってしまうんですよな。
憧れたり、嫉妬したりした事はあったかもしれないし、世の中の不条理に憤った事もあったの
かもしれない。ひょっとして挫折感を持った事もあるのかもしれない。
だが…
己が身を焼き尽くすような恨みを、
世界の滅びを滾らすような憎しみを、
己の呼吸や鼓動すらも忌まわしい絶望感も、
どれも感じた事はこの脚本兼監督の人には無かった、と思う。
それくらいに台詞にしろ、テーマしろ、最後のテーゼも青臭い。庵野が自己(存在)の絶対視
からの価値構築と他者観から徹底しているのを思えば、それにも及ばない。ま、庵野のような
詭弁と自己肯定の言い訳と他者非難&自己憐憫、って程でもないから3時間の長尺に我慢
して付きあえれた、とも言えるけど(だからこそ、そういう歪みや偏りの異質、奇怪さを、庵野と
その製作物が『見世物』としての存在価値はあると思うけど… ってのは閑話休題)、結局どちら
も裕福なご家庭の人だと思うし、その裕福な育ち故の豊かさと気楽さは観るべきものかもしれ
ないが、この監督の程度としてはイラクの3馬鹿と大差無い、って言うのは厳しいかなぁ…
でもさぁ、
人が生きている事、それ自体に意味も価値もねぇんじゃねぇの?
生きていく事に意志や意義はあると思うんだけどね、私は…
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クドくても青臭くても借り物ばかりでも自己整理も出来ていなくたって、せめて気概のある映画
だったら私はこうは思わなかったと思う。でも、この映画には気概とか野心はこれぽっちも無い。
満たされている人間のお遊戯であって、情念とか熱意とかは感じられなかったんで、多分、この
監督の作品はよほどの事が無い限り、もぅ観ないでしょう。
「映画は観客を選べれないから大変。」
と監督は言うが、こんなんじゃ敬遠しますな、私。
あ、だからかな、
「人が人を裁くなッ!」
って何度も何度も登場人物に言わせているのは。
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レンタルで借りてきて、違う音楽をかけながらの観賞ならオススメ。
でも、説教くらうのがお好きな人や宗教とかセミナー好き、毎日や朝日新聞好きな方にはいい
気持ちになれる映画かもしれませんね