・『タンポポ (1985)』


 製作国:日本
 初公開年月: 1985/11/23
 販売元: ジェネオン エンタテインメント
 発売日: 2005/9/22
 時間: 114 分

 音声仕様:
 Dolby Digital モノラル - 日本語

 字幕: 英語、日本語(拡大字幕)、日本語

 画面サイズ:16:9/LB ビスタ

 DVD特典:
 ・オリジナル劇場予告編
 ・ブックレット(4P)


 ・コレ、劇場で観たんだけど面白くて可笑しくて堪らなかったんだけど周囲の他の観客には
 サッパリ、記憶では確か「あの『お葬式』に比べると…」ってボロクソに言われてて興行成績
 もイマイチだった作品ですが、後のフィルモグラフィを振り返るに私は『マルサの女』がよく
 まとまっているとは思うもののどうにも好きになれないでいて結局『あげまん』で嫌んなって
 『ミンボーの女』で寝てしまって以降の伊丹十三作品は観てない、という偏った人間でして。

  でもこの映画は大好きなんですが決して出来がいい作品とは思っていないんですよ。

 今回DVDで何度目かの再見してみて楽しかったんですけども、繋ぎが巧いトコと下手なトコ
 の差が凄くあるし、電車がメタファーとして描けてないから映画で機能してないのに長いとか
 構図の作り方は凝っていても画面作りは上手くねぇとか力也さんのやられ方の下手糞さは
 『スパルタンX』のベニー・ユキーデを思い出したとか、最後の試食んトコで心情表現のライ
 ティングは何だよアレ、とか、そういやぁこのポスター嘘だよなぁ… 結局その最後まで役所
 公司のヤクザはラーメンを喰ってもないし語ってもいねぇじゃん!(笑) とか、劇場で観た
 当時から思ってた難点とか駄目な点とかいくらでもあるんですけどね、だけど心情や情況を
 台詞でなく演技で見せてるトコや全体的に凄くフェチ的で生々しくベタなんだけど決して泥臭
 くない演出がギリギリんトコでやり過ぎてる演技を馬鹿馬鹿しくさせない微妙ぅなトコで踏み
 とどまらせてる匙加減とか、まだ「伊丹十三監督」ってのに自縄自縛になってはいない、それ
 こそ『ヨーロッパ退屈日記』等、様々な素材をシニカルになり過ぎず、独特の湿度のユーモア
 を交えたエッセイに見られていた精神の軽さが上手く映画という場での遊び心にも転換して
 満ちてると思うんですけどねぇ…

  確かに『監督日記』によるとゴローとタンポポはあの焼肉デートの後でデキちゃってた事に
 なってたらしいのに全然そういう風には伝えられなかったトコ(でも、そもそも元ネタである
 『シェーン(1953)』でシェーンはマリアンとデキちゃわなかった、ってのにあえてデキちゃった
 事にするだけの説得力も必要も必然性も無い、と思うんだけどなぁ… )や、最後の試食で
 出されるタンポポとしてのラーメンの形が出せなかったのは作品として失敗でありましょうし
 前述したように至らない、拙い、乱暴なトコは一杯あるんですよ。でも、それでもこの映画は
 それも持ち味になってる。嘘が… 特に監督における宮本信子への、彼女を起用する事で
 のファンタジーがまだ映画としてのリアリティの範囲内で、観客が許せて物語に没入出来る
 程度に収まっている、っと私は思うんですけどね…

  でも面白いですよ、この映画。

  公開当時、日本ではウケなかったこの作品は海外では大ウケで実はアメリカ等で先に…
 大体10年前かな?に既にDVD化されていたくらいでJuzo Itamiで検索すれば出演作として
 「The Family Game (『家族ゲーム』(1984)」が、そして監督作として「The Funeral」「Tampopo」
 「A Taxing Woman」がアメリカでもカナダでもイギリスでもフランスでも出るんですよ。

  当時の日本人にはウケず興行成績もイマイチだったのは事実ですが、しかし今これだけ
 洋画を観る機会が増えて観客層も変わった今ならば面白いと思える人も多いのではないの
 でしょうか。今、観直した私が贔屓目を抜いてもテンポはいいのに、人によっては嫌悪感を
 抱くやもしれないあのフェチ的な対象の撮り方や見せ方といい、現在のTV屋がコンテンツ
 ビジネスの為に粗製濫造する映画モドキには無い作家性というか個性がつゆだく状態の、
 監督が自分にとって好きで、面白いと思う事を詰め込んだコメディですからお好きな方には
 堪らんと思うんですよ。

  確かに公開から20年、本編で邪道・外道の如く言われていた「濁ったスープのラーメン」が
 今の主流になっていたり、ポテチの袋が透明だったり、バブルの頃だったからこその乞食が
 グルメとかデティールが変化してしまった部分はありますが、あるんですが! それでも尚、
 この映画は素晴らしい! そして楽しい! っと思いましたよ。

 ・さて、DVDソフトとしては…

 ・メーカーの商品ページによれば「オリジナル原版より新たにローコントラストポジを起こし、
 撮影監督監修のもとハイビジョンテレシネ収録を行いデジタルレストアされたHDCAM-SR
 マスター仕様」って事ですが、我が家の29型アナログテレビにD1接続での視聴でもPCで
 の視聴でも、ぶっちゃけ綺麗とは言い難い画質だと思います。そりゃまぁ酷いノイズは見当
 たらないんですが全体的に色合いがどうにもボケてて発色がイマイチ、鮮明さっかシャープ
 さに欠け、質感の薄いのっぺりとしたもので
 「これ、ひょっとしてLDをマスターにしてんじゃねぇの?」
  と思ったくらいで、綺麗だ美麗だとはとても思えませんでした。
 これはハイビジョンTVとかで観ればまた違うんでしょうかね? でも普段海外オリジナル版
 DVDを観慣れている身としては心の動く事の無い画質でありましたが…

 ・音質も同様で、オリジナルが意図してのモノラル音声だったのは解るにしても、容積的には
 余裕があるんだからもぅ少しレストアした版とかステレオアレンジがあっても良かったんでは
 ないでしょうか。オリジナルがそうでも音が割れ割れになってるトコとか聴き辛い場面がチョイ
 チョイとありますし… まぁモノラルはモノラルなりに音の迫力はあるもので黒澤とかキューブ
 リックも結構オリジナルはモノラルに、って監督もいますし、それが監督の意図なんでしょうし
 その監督が既に故人で監修が出来ないのも解ってはいますが、別にアレンジを変えろって
 んじゃないんだし、大体映像のリマスターはしているんですから音声だってリマスター版を収
 録したっていいんじゃぁないんでしょうかねぇ? いいお値段取ってんだし。

 ・あと特典がねぇ… 今時劇場予告だけ、って。特報も無かったっけ? あとスチルとか収録
 してくれても良かったでしょうに。ブックレットって言うか二つ折りの紙の解説文はまぁ悪くは
 ありませんが、しかし写真は白黒だしもちっと作り込んでもらっても良いんじゃぁないの?


日本版 映画 Index

Index