・『マジェスティック 特別版 (2001)』


 原題:The Majestic
 製作国:アメリカ
 製作年:2001
 字幕: 石田泰子 イシダヤスコ
 吹替翻訳: 小寺陽子

 販売元: ワーナー・ホーム・ビデオ
 発売日: 2002/11/08
 時間: 168 分

 音声仕様:英語/日本語(Dolby Digital 5.1)
 字幕: 日本語/英語
 画面サイズ: ビスタ

 【映像特典】
 ・劇中映画『サハラの盗賊』完全版 (約5分)
 ・未公開シーン (約10分)
 ・オリジナル劇場予告編

・CGやカットワークに頼る事なく画面の構成もテンポもどっしりと落ち着いていて、ゆったりと誘われる
ように映画へと導かれてゆく心地よさ… というのを久々に満喫した作品でしたよ、『マジェスティック』
という映画は。
 約3時間という長編ながら、こちらの意識としてダレを感じる事も無く、エンドクレジットが終わり場内が
明るくなってから時計を見て経過時間に驚いたくらいでしたがそれは私や妻だけでなく、場内を生めた
様々な年齢層の観客達も同様で、はじめこそあちらこちらで会話が聞こえていたものの、次第に場内全
体が映画に自然に向き合ってゆく空気に満ち、そしてゆっくりと開放されてゆく… それも温かい気持ち
に満ちながら… ってのも久々な気がしましたが、多分それは、色々な意味で「無理」が無かったからだ
ろう、と思うんですよ。派手なBGMも、とってつけたような笑いやお色気、過剰な演技、叩きつけるような
バイオレンスなどは無い。テーマも含めて、淡々としつつも、それでいて投げやりになるのでも押し付ける
のでもなく… 「映画」として、素敵な、実に素敵な「作品」だと思いましたし、その堂々さが気持ち良かった
んですよね…

 特筆すべきは主人公ピーターを演じたジム・キャリーでしょう。『トゥルーマン・ショウ』『マン・オン・ザ・ム
ーン』で既にその実力を知ってはいたものの、ここでも彼は、地の人の善さを滲ませながらもやはり彼は
非凡の才の者であり、そういう彼が凡を演じて切ってみせたのが素晴らしい。だからこそ観客を作品世界
へとゆるやかに誘い、感情移入させてくれるし、それは主人公だけでなく脇を固める人達もまた、決して
埋没もしなければ出しゃばる事もせず、皆がこの「作品」を作り上げていっている… 優しさに満ち溢れた
作品だなぁ… と。
 
 しかし…

 この「作品」が素晴らしい「物語」か? というと私は正直言って抵抗感がある。
この「作品」に於いて主人公に対する試練として、かのマッカーシズム、赤狩りの描き方がその原因で、パン
フのみならず作品中に於いても赤狩りはハリウッドのみで行われたような描写をしているのだが、歴史的な
事実としては全米を席巻し、映画人だけでなくジャーナリスト、知識人などが迫害され、石もて追われた時代
の筈である。 クライマックスでアメリカ国憲法を唱え、自由を訴えたジム・キャリー演じるピーターは満場の
拍手喝采を受けたが、ハメットは作家としての命を(一時的にせよ)断たれた。追われ、アメリカを出た人とて
いた事を思うと、あまりにも作り事過ぎて冷めて居心地が悪くなって。
「これは魔女狩りなんだ」
 と作品中ピーターは赤狩りを指して言うが、事実として魔女狩りが行われ何十人もの人が処刑された… と
いうアメリカの歴史を知ってた私と知らなかった妻とでは比喩の重みが違ったように、赤狩りの凄惨さのイメー
ジもまたおのずと違ってくる。それ以上の重みや厳しさがあった筈なのがあれでは伝わらないし、あの伝え方
では気持が冷める部分もあるんですよ… 「お話」としてステロでありすぎる分だけ「お話」としてはいいのかも
しれないが、事実からいけば、歴史から言えば、やや甘いんじゃぁないか… っと。
 
 勿論、それは「作品」としての完成度には何の落ち度でも失点でもミスでもない。
本当に映画作品として、この映画はよく出来ていると思っている。でなきゃぁ3時間も時間を忘れて観ていたり
なんかしない。だが、『物語』としては…  それが寓話(フェアリーテール)なのを承知していても歴史に材を取
っている以上、やはり私の中では抵抗感や居心地の悪さがあった。監督にしろ脚本家にしろそういう歴史、事
実は知っていて尚こうした「作品」にした事を、その意図は解るけれども、しかし私には… というトコロで。
 
 でも本当、いい「作品」だと思いますよ。
未見だった『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』が観たくなったくらいに、この映画は素敵な「作品」と思い
ましたもの。機会があれば観ても損は無い、と思いますよ…

・っと書いたのは02年の7月1日の事。今もこの映画のお話については同じような感想ですが、
DVDソフトとしては…

・フランク・ダラボン監督作品の中で一番好きなのは『グリーン・マイル』なんですが、視覚的に私
が一番好きだった映画がこの『マジェスティック』で、あの色使いと色合いが低価格で… って事
で買った一品。映画として駄目でも眼の栄養になりそうな綺麗な絵、画面の作品ってつい買って
しまうんですが… 観終えて
「あれ? なんか短いような… 」
 っと妻と?マークを浮かべつつ、未公開シーンを観てみて
「これ、劇場ではあったシーンじゃない?」
「これもあったよね!」
 っと驚いたんですが… って事はコレ、アメリカ劇場公開を元にしたUSオリジナルDVDをマスター
にしてるから日本劇場公開版とは違う、って事なのか? だったら何故それを明記しておいてくれ
ないんだよ… じゃなきゃこのDVDは買わなかったよ… っと、なんとも複雑な気分になりましたな。

 アメリカ版DVDを元とするのなら、映画だってアメリカ公開版のままで… ってなっていないのが
現状なんだから、せめてそういう情報くらい明記するのが筋ってもんじゃないの? こういう形であっ
てもディレクターの判断によるカット版なんだから、本編の時間は168分じゃないんだから、そう教
えてくれたっていいじゃねぇか。なのに専門誌でも一切触れられていないってのはどうなんよ?
 そうと知っていたのなら日本版より綺麗なUSオリジナル版を買ってたっての!
 ジャケットもUS版の方が私の趣味だし。
 
 …っと、好きなモノが好きな状態のままに手に入れられない悲しさをまたも味わいましたな。
『ブルース・ブラザース』とは逆なんですが、しかし選択肢が無い状態でかつて劇場で観た時の姿を
壊されるのは本当に辛いんです。何の為の日本版なんだ、って。劇場で観た人間はどうだっていい
のか? って。こういうのって切ないっかヤリキレナイですわ…





 … っと、映画館で観て気に入ってた私らにとっては不満の残るDVDなんですが、果たしてこの版
で初めて観る人にはどうか? というのはよく解りません。カット分だけテンポアップしていると言え
なくもありませんが、「テンポが良い」イコール「傑作」では無いですしねぇ…

画質、音質、共に良好。日本版の中では良好な部類だと思います。

・字幕はやや政治方面に左翼臭い訳をする印象があるのを除けば、必要充分の良訳だと思います。
吹替えのキャスティングにはやや難はあれど、訳は良い方だと思います。


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