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Serial Story 『風に語りて』

1  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:15
★この物語はフィクションであり、
 実在の人物、団体等とは一切の関係が無いことをご了承下さい。

平家「あったり前やないかい!
   関係あってたまるかっちゅうねん! ナメとんのかい!」
中澤「まぁまぁみっちゃん落ち着きいな、
   せやけど珍しいね、ウチならまだしも、
   みっちゃんがクダ巻いとるやん、なんや悪いモンでも食べた?」
平家「そないな時だってあるわい! 悪いかぁぁ!」
中澤「……よう分かった、
   分かったから読むだけ読んでみようや(やれやれ……)」
02  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:17
< 1st Affair >

あわただしいスケジュール、せわしない人の往来、
『これぞ収録!』 そう思わせる程の現場のテンション……、

久々に『ハロー! プロジェクト』としてのスペシャル番組が収録されている。
スタジオ内には、カメリハを終え次の進行の確認をする司会の中澤と平家、
すき間の時間を利用して、隅でダンスのチェックをする保田と石川、
ミカを除くココナッツ、そしてメロン記念日の姿があった。

「これ、オンエアいつやったっけ?」

それは、中澤が台本に目をくれたほんの一瞬の出来事だった。

「?」

とっさに神隠しかと思った。それとも、自分だけかつがれているのだろうか。
今しがたのやかましさがウソのような静けさである。
収録はまだまだ続いているというのに……、中澤は少々頭に来た。
平家の姿が見えなくなっていることには、何故かもっと腹が立った。

「何しとるねん! 遊んどるのとちゃうねんで!」

その声は室内に空しく響いた。
大人数の人が一瞬に消えた、しかしある種の気配は感じられる。
何とも言えない奇妙な空気に、中澤の足は自然スタジオの外に向いていた。

「誰か居らんのかい……」

そうつぶやいた中澤の後方で、スタジオのドアが音もなく閉じた。
そして、それ以降扉は開かなくなった。
03  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:19
今日の収録は長丁場になる予定だ、各ユニットの収録も盛り沢山である。
時間の空いたメンバーから合間に食事を済ませることになっている。

安倍と飯田は楽屋で弁当を食べていた。
いや、実際にはもう食べ終わっている。多忙な日常からか、
自然に食べるのが早くなっているのだ。勢い余計なモノまで食べてしまう。
安倍の場合はそれが特に顕著に見えてしまうのだろう……。

「なっち食べ過ぎ……」
「かおりも食べるっしょ?」

飯田は差し出された『あんぱん』には目もくれない。
残りの大きさにして1/4、馬鹿にされているのだろうか?

「干しイモ食べたいね……」

弁当以上に菓子を食べる安倍を見て飯田はフッとつぶやいた。
驚いたことに、既にポテチの袋も開いているではないか!
その堂に入った食べっぷりは、見ているこちらまで満腹にしてしまう。

「なっちは象だね」
「かおりはキリンだべ」

(クスクスクス……)、二人は共に声を出さずに笑った。
その時、楽屋の空気は平穏だった……。
04  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:21
「それにしても遅いじゃん。何してるのかな?」
「裕ちゃんが、ゴネてるべサ」

少しイライラし始めた飯田に、『あんぱん』四個を食べ切った安倍は言った。
それにしてもあわただしい現場だ、そろそろ呼ばれてもよいはずだ……、
あるいは、メンバーの誰かがここに食べに来てもよいはずだ……。

「アタシさぁ、ちょっと見てくるよ」

言うが早いか飯田は楽屋を飛び出して行った。
ペットボトルの烏龍茶をガブ飲みしながら安倍は思う。

「やっぱコレだべ」

彼女にとってはそれが『コーラ』でも同じではないのか?
そう言ったら余りに失礼だろうか?

「な、な、な、なっち、大変!!」

凄じい形相で駆け戻った飯田に、安倍は思わず烏龍茶を吹き出してしまった。

「(ゴホッ、ゴホッ) ……なんだべ、落ち着くべ」
「誰も居ないんだよ、建物の中!」

その余りの慌てぶりに、全部見たんかい! とはさすがに言えず、

「馬鹿こくでねぇ、どこ見て来たのサ」
「だからぁ、誰も居ないんだってば、なっちも一緒に来てよ!」

二人が部屋を出ると、楽屋の扉は二度と開かなくなった。
05  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:23
元気一杯! 新曲も披露!
実際のところ矢口は、
これが加護と辻に引っ張られてのことであることは十分承知している。

「オイラ一人じゃ、ここまでは無理だよね」

矢口の勘の良さは今日も冴えていた。無事収録OKで、
ミニモニ。が休憩に入る。少々疲れたところで食事だ。

「グ〜ッド・タイミング!」

加護がおどけて言う。誰もがそんな気分だった。
スタジオを出て楽屋へ向かう途中、矢口はミカの姿が無いことに気付いた。

「ミカちゃんは?」
「えっ?」
「居まへん!」

(キャハハハハハハ……)、辻と加護は笑い合っている。
どうやら収録時のテンションが持続しているようだ。

「これはこれでいいか……」

矢口は怒る気にもならなかった。ミカもすぐに追いついて来るだろう。
加護と辻は小走りに楽屋へ向かって行く。
間もなく矢口が着いてみると、思いがけず加護と辻が入口の前に立っていた。
06  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:25
「どうしたの?」

何故中に入らないのだろう、不思議そうな矢口に、

「開きまへん……」
「かぎがかかっているのれす」

二人の笑顔が消えている。食事がしたいのだろう。

「中にいるの誰? ちょっと開けてよ!」

弁当が食べたいのは矢口も同じだ。思わず口調が激しくなる。
電気は灯いている、ふざけているとしたらあんまりだ。

「お〜い! 誰でもいいから開けろよ〜!」

扉の前に仁王立ちする矢口に、加護と辻がすり寄って来た。
さっきまでのテンションは既に無い。かすかなおびえさえも見てとれる。

「矢口さん……」

二人のすがるような声で矢口もハッと気付いた。
ミカが来ない、そしてこの面妖な空気、これはただ事ではない。

「……まぁさ、楽屋で食べれないなら別の所で食べればいいさ」

矢口は二人を促してここから離れることにした。
ピッタリくっついてくる二人に対して、自然と真ん中で肩を組むような
態勢になるのだが、こうなると矢口の足は地面から浮き気味になってしまい
正直複雑な気分であった……。
07  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:27
吉澤はトイレの鏡を見つめていた。後藤待ちだ。

仕事で顔が合えば行動はいつも一緒。
学校ノリの延長線ということは多分にあるのだろう。
どこまでが本当の仲の良さなのかは分からないが、
互いに居やすい仲であることは確かなのだ。
結局、面倒なので後藤はこれを単純に相性が良いということにしているが、
仮にただの同級生であるとしたら、自分たちはどうなんだろう?

「よっすぃ、お待たせ!」

いつの間にか後藤が隣で手を洗っている。
体が気持ちタックルしてくるようだ。

「ごっちん重たいって」
「人のこと言えるのか〜」

無邪気に戯れるそんな関係、プッチモニの新メンバーが吉澤だったことに、
改めて考え直すことこそしないものの、後藤は感謝していた。
後藤がトイレを出ると、一足先に待っていた吉澤が怪訝な顔をしている。

「どしたの?」
「あのさぁ、変だよ、なんだかすご〜く変!」
08  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:29
吉澤のいつものおかしなイントネーションに、後藤はうれしくなった。

「なにそれ? そっちの方がも〜っと変!」
「違うの! ごっちんも感じない?」

どうやらふざけている訳ではないらしい。
二人はとにかくスタジオへ急ぐことにした。
その間にも、ついさっきまでとは何かが違うこの空気は
状況の異様さを二人に突き付けていた。

スタジオに到着したものの、さっきまで開いていた扉が閉まっている。
無造作に開けようとしたがビクともしない。

「なに?」

後藤は少々ムッとしている。

「締め出し?」

吉澤は神妙な顔をした。
二人は顔を見合わせた。さてどうしたものか……?
すると突然、後藤は吉澤を背に、振り向きざまに叫んだ。

「大変〜!! 誰かぁ〜!! 吉澤ひとみが階段から落ちて大ケガ〜〜!!」
09  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:31
後藤の声は案外大きい、まして吉澤ひとみが大けがだと?
突飛な行動に吉澤は驚いてしまった。

「誰が階段から落ちたって?」

再び振り向いた後藤の顔は笑っている。
ますます理解出来ないでいると、満面の笑みを浮かべて後藤が言った。

「ねっ! 誰も出て来ない、みんなどっか行っちゃったんだよ」
「どっかって……、どこ行っちゃったんだろう……」
「だからさぁ、ウチらもどっか行こうよ」
「えぇ! だって仕事中だよ」
「誰も居ないんだから、仕事になんかならないじゃん!
 大丈夫、言い訳なんてどうにでもなるよ」
「……うぅん、そうだね、これじゃしょうがないもんね」

話は早かった。深く考えないのが青春時代なのだろうか。
確かにどうしようもない事態なのだが、この環境適応というか気楽さが
まさにこの二人こそなのだろう。それにも増して、
堂々と授業をサボるのにも似た感覚が二人をワクワクさせていた。

「で、どこ行くごっちん?」
「外行こ、外〜!」
10  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:33
「こっち、こっち!」

飯田のテンションが上がっている。
その感情の起伏の激しさは、時に物議をかもし出すが、
今の状況ではハイテンションが行動力につながっているようだ。

「なっち〜! 早く〜!」
「今行くべって……」

確かにおかしな静けさだ、さっき自分たちが楽屋に戻るまでを考えると
尋常では無いことは十分に実感できる。
しかしこの時、安倍はとにかく体が重かった。
やはり食べ過ぎだろうか、このまま昼寝したい、せめて走りたくない……、
そう思いながら廊下の角を曲がると、あれだけ人を急かしていた飯田が
背中を向けたまま立ち尽くしている。

「どした、かおり? 交信中だべか?」
「な、なっち……、あ、あれ……」
「?」

飯田の指が小刻みに震えている、
飯田の体ごしに指さす方を見ると、それは人影だった。
11  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:35
「誰も居ないなんて、おかしいと思ったのサ、
 かおりは思い込みが激し過ぎるべ……」
「あ、あ、あれって、も、も、もしかして幽霊……?」

硬直している飯田はどこか滑稽に思えた。
『幽霊』はかおりの専売特許だろう?
一瞬口元が緩みかけた安倍の余裕は、すぐさま打ち砕かれた。
その人影がこちらに気付いたようだ。
ゆっくりだが、確実にこちらに向きを変えている。

その姿は、いわゆる旧日本陸軍の兵士だろうか?
幽霊……と言うよりも、もっとリアルな実体感があるが、
その青白い顔に生気は無く、ところどころ破れた服は生々しい赤味を帯びている。
なにより恐怖を駆られるのは、手にしている長銃である。
発砲できるのだろうか?

「か、かおり、に、逃げるべ!」
「に、逃げるって、どこへ!?」
「この建物の外!!」

重い体のことなどとうに忘れていた。
この状態で『ピンチランナー』の撮影に臨んでいれば
優勝も夢ではなかったことだろう。
二人共パニックには違い無かったが、出口を目指す冷静さは残されていた。
12  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:37
熱心かつ真面目な二人である。
傍らには夏先生にも付いてもらって、ダンスの確認が続いていた。

「そこのステップが反対だよね」
「こうですか?」

没頭しているその刹那、ふいに保田はスタジオの異様さに気付いた。

「なによ、これ……」
「保田さん……」

イメージを裏切らない石川の不安気な面持ちが、逆に保田を落ち着かせた。
しかし変だ……、気が付けば保田以外には石川しかいない。
何だ? あれだけ居た人たちが一瞬でイリュージョン?
それとも、自分達こそがイリュージョンのただ中なのか?

「……休もう」
「……はい」

とにかくその場に腰を降ろした。体は一時の休息を得るが、
心中は休むどころでは無い、むしろダンス中よりも高鳴っている。
水を打ったような静寂さが却って不快である。
13  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:39
保田は深く息を吸い込み目を閉じた。全くもって訳が分からない。
分かっているのは、これが夢では無いということ位だ。
もしこれが夢であるなら自分はもうこの世の人間では無いかもしれない。
取り留めもないことを考えていると石川が体をゆすった。

「保田さん、保田さん……、あ、あれ……」

相変わらず石川の声は不安気である。
ことの異常さは保田以上に感じているらしい。
ゆっくり目を開くと三人ほどの人影がこちらに歩いてくる。
その瞬間、保田は凍りついた。

血まみれの兵士二名に、血まみれの看護婦一名。
一様に青白い顔をして真っ直ぐこちらに向かってくる。
石川に目をやると、力が抜けてしまったのかへたり込んだままだ。

「ここから出るよ!」
「保田さぁん……」

恐怖が悲鳴を封じているのか、石川は今にも泣き出す寸前でバランスしている。
力まかせに石川を立たせると、保田は引きづるようにして近くの扉から外へ出た。

「とにかく、ここには居られない」

状況把握が不完全なまま廊下に飛び出すと、遥か向こうに五人の兵士が見える。
その足取りはこちらを目指しているようだった。
14  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:41
中澤は既に出口を目指していた。

「冗談やないで、なんでゾンビばっかやねん……
 一階や、一階へ降りよう」

スタジオを締め出され、仕方なく建物内を歩き回っていた中澤だったが、
歩き回るほど、この建物の奇怪さが目についた。

事の始まりは、突然人が消えたことであるが、
それにも増しておかしなことを発見した。時間が皆目分からないのである。
さながら、消された時間と言うか……、アナログの時計は一切無い、
デジタルの時間表示も見えないか、見えるべきところは全て死んでいる。
照明が生きていることから考えれば、電気系統は恐らく正常なはずだ。

さらに困ったことに、自分が今どこに居るのかさえ分からなくなってきたのだ。
もう少し補足すれば、ここはどこのなんて場所やねん?
注意深く見てみると、そこかしこがおよそ今の時代にはない古さであったり、
そのフロア全体が、まるで悪意の元に作られたとしか思えない、
迷路のようなレイアウトだったりするのだ。

「うわぁ……、最悪や」

楽屋にもスタジオにも戻れない、迷子状態になりつつある中澤の視界が
五人の人影をとらえた。
15  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:43
「やった! 人居ったやん!」

感激のあまり歩み寄ろうとした中澤は、次の瞬間きびすを返した。
向かって来るのは青白い顔の一団、肩に傾けた長銃が一層不気味だ。

悲鳴とともに猛ダッシュをしている!
さんざん歩き回ったダルさも吹き飛ぶ程の脳内物質全開パワーで、
なんとか振り切ったかのように思えた。
しかし、振り切ったはずの目先には、先程の兵士様御一行。

「わあぁぁぁ! なんでやねん!」

しまった! 叫んでもうた! そう思った時には彼らはこちらに歩いている。
走れば逃げ切れる程の速度であるため、今のところは何とか無事でいるものの、
心臓に良い筈はない。すっかり肩で息をしている。

「はぁはぁ……、ゼェゼェ……、
 アカン、アカン! ええ加減にしいや」

わけの分からないまま、とにかく事態を現実として悟った中澤は、
こうして一路正面玄関を目指しているのだが、
どうやら抜けられそうだ。

「助かった!」

そう思った中澤の眼前には、奇妙な光景が広がっていた。

「……あのなぁ、ここホンマにどこやねん?」

振り向くと、そこに自分を締め出した筈の建物は存在していない……。

                          < To be continued >
16  920ch@居酒屋  2000/12/18(Mon) 02:45
中澤「ここまでが第一回やね」
平家「で?」
中澤「なんやねん?」
平家「出とるのは裕ちゃんたちだけなん?」
中澤「そら、ウチらの話やしなぁ、なんで?」
平家「誰か大事な人を忘れてへんやろか?」
中澤「大事な人って……? 誰やろ?」
平家「せやから、もう一人居るやん、
   ヒントは『み○ち○』」
中澤「……あぁ! 及川光博さん!
   せやけど、及川さんはウチらと何も関係無いやん」
平家「惜しい! 惜しいなぁ、他にも居るやん」
中澤「う〜ん……、あぁ! 渡辺美智雄さん!
   せやけど、この人はもう鬼籍やろ」
平家「なんで自民党の人やねん!
   もっと居るやろ、こう歌のうまい……」
中澤「……あぁ! 三橋美智也さん!
   『とんびがクルリと輪をかいた……』ってな、
   せやけど、この人も鬼籍やで」
平家「もうええわ! 大体裕ちゃんはなんやねん!
   いっつもいっつも、人のことコケにしくさって!
   ウキー!! (バタン!) ウキャー!! (ドカン!)」
中澤「……みっちゃん荒れ狂っとるんで今日はここらへんでな、
   次回は『12/25未明』予定、ほなね!」
17  名無しさん@超超超超いい感じ  2000/12/18(Mon) 02:56
ええっ!!これで一週間も待たせるなんてひどい!
続きがムチャクチャ気になる!これからどうなるんだろ?
居酒屋さん、がんばって!!
18  名無しさん@超超超超いい感じ  2000/12/18(Mon) 03:08
ここで本格的な小説ってほとんどないから新鮮だ。
続き待ってるよ。
19  名無しさん@AllTogetherNow!  2000/12/20(Wed) 03:16
期待age
20  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:37
中澤「……メリー・クリスマス! みっちゃん!
   これ差入れな、『ミュージックソン』の『矢口くんクッキー』、
   みっちゃんの為に特別に分けてもろてたんよ、
   メチャメチャ美味いねんで」
平家「なんで裕ちゃんがここに居るの? オンエア中とちゃうんかい?」
中澤「なんやみっちゃんのことが気になってな、わざわざ中抜けして来てん、
   ……せやけど良かったわぁ、今日のみっちゃん普通やん、
   この間は大荒れやったさかいな、
   まだ尾を引いてたらどないしよか思うてたんよ」
平家「別にいつもの通りやで、この前のはたまたまやん、
   ……大体人間な、いつでも完璧やったら逆に気味悪いっちゅうねん」
中澤「完璧で無さ過ぎるのもえらい問題や思うねんけどな」
平家「……何が言いたいねん?」
中澤「せやから、
   みっちゃんはやることなすこと全てボロボロやっちゅう……」
平家「誰のせいでボロボロにされとるねん!
   ええ加減にしいや!
   ウキー!! (バタン!) ウキャー!! (ドカン!)」
中澤「アカン、暴走再びや!
   しゃーないから、本編行ったって……」
21  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:39
< 2nd Affair >

中澤は眼前の光景を目の当たりにした時、
集合の際にもっと周囲をよく見ておくべきだったと後悔していた。
今中澤が立っている場所は、およそ最初に集まった場所とは思えなかったからだ。

唯一、完全に見知らぬ土地では無いことを教えてくれているのは、
そびえ立つ巨大な建造物、東京タワーの威容であった。
しかし、その鉄塔は黒一色だった。鉄筋にもかかわらず、
まるで木材が焼かれて炭化したような黒……。
それは、異様さと同時に何がしかの悲しさを漂わせていた。

その黒と対を為すように、乳白色の空はやけに無表情な明るさを湛えている。
まさかそんな物を見せられるとは思ってもみなかった……、
東京タワー好きを自認する中澤には、いささかショックが強過ぎる光景であった。
思わず空を仰ぐと三羽の鳥の姿が見える。
その飛影は縦帯となり、中澤の真上でクルクルと旋回を始めた。

「イヤやわぁ……」

まるで目的が自分であるかの様な鳥達の行動は、
不快であると同時に、中澤の疲弊の度合いを増して行く。
頭上で旋回を続けていた鳥達は、突如中澤の眼前に急降下して来た。
思わず目をつぶったが音はしない。ゆっくりと目を開けるとそこには
古風な鎧に身を固め、背中に大きな翼を生やした三人の人間が立っていた。
もしかして、これが天使というものだろうか?

「ほほぅ、やはり人の子でしたか」
「人の子がこんな場所に一人、何をしておられるのです?」
「………………」
「お答え願えないのですか?」
22  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:41
何をしているか? そんなことはこっちが聞きたい。
彼らの慇懃無礼な態度は中澤をますます不愉快にさせていたが、
そこは中澤とて大人だ、つとめて平静を装い、
何か手掛かりが聞き出せないものかと思案した末、ようやく切り出した。

「あ、あのですね……、ここは一体どこですの?」
「ここがどこだか分からない? あなたはどこから紛れ込んだのでしょう?」

天使達は声にこそ出さないものの、明らかに失笑している。
何かおかしなことを聞いただろうか?
さっきからの態度といい、中澤の怒りは頂点に達しようとしていた。

「ほぅ、あなたは怒っている。私達を邪魔だと思っていますね?
 いいでしょう、場違いな自分を悔いなさい、改めなくて結構!」

心を読まれている!? フワリと上昇を始めた天使達は滞空するのかと思うと、
矢庭に前傾姿勢を取り始めた。

「!」
(ピシャ! バリバリバリ!)
「わあぁぁぁっ!」

閃光が走った。電撃だ!
中澤は本能的に逃げた。一撃をかわしたものの足元はまともに歩くことさえ
困難な程笑ってしまっている。
中澤の身代わりとなった街灯は無残な姿に変わり果てていた。

(ピシャ! バリバリバリ!)
「なんでやねん! ウチが何した言うねん!」

中澤は這いつくばりながら、身を隠す場所を必死で探した。
このままここに居ては危ない。極度の緊張と絶え間ない肉体の活動に、
その疲労は極限に達しようとしていた。
ヨレヨレになりながらなんとかガレージの片隅に身を隠すと、
夢中で自分を襲った天使の動向を探ったが、既に天使の姿は無かった。
弄ばれていたらしい……。
23  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:43
保田と石川にとっての不幸は、階下へ降りられないことであった。
行く手には必ず兵士達が現れる。
二人は迷子になりながら、ジリジリと上階へ追い詰められていた。

決まり事の様に出現する血まみれの兵士達、
その度に巻き起こる石川の悲鳴は、
一連のパターンとして繰り返されている様にさえ思えてくる。
そうこうしているうちにも、兵士達はこちらに向かって来る。
石川と離れない様に気を配りながら、いくつもの廊下の角を曲がっていた。

「しまった!」

最悪の状況に陥った。行き止まりである。
その壁をこの手でぶち破ってやりたい衝動に駆られる保田達の後を、
ゆっくりと、確実にその数を増やしているかの様な兵士の群れが追って来る。

「や、保田さぁん……」
「アンタ達! いい加減にしなさいよね!」

悔し紛れに大声で叫んだ。石川はガクガク震えている。
その時になって、保田は兵士の銃が担げているのでは無く、
体に一体化していることに初めて気付いた。何と言う悲しい屍なのだろう……。

「……イインダ、ホンノヒトクチ……」
「……クルシイ……、……カラダガ……」

会話が出来る!?
以外だった。まともな会話にこそなっていないが、
この屍鬼達の言葉が理解出来る。こちらの言葉は通じるのだろうか?

「……クワセテクレェ……、ヒトクチデイイ……」
「イタイ……、ワキバラガエグレテ……」
「な、何よ! アタシなんか食べてもおいしくないわよ!」
24  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:45
下手くそなトークだ……、保田は今更ながらに思った。
どうにも陳腐な返答しか出来ない。この連中は味など問題外だろうに……。
石川は保田の二の腕をしっかりと握り締めている。その痛覚が保田の意識を
現実につなぎ止めていた。その石川自身は余裕のかけらすら有る筈が無い。

「ダメです! 絶対にダメです!」
「イヤです! イヤだったらイヤ!」

泣きながら、首を左右に振り切れんばかりに振っている。
口に出るのは絶対的な拒絶だ。保田はその迫力にしばし圧倒されていた。

「ドラえもんのしずかちゃんだ……」

こんな状況にもかかわらず、石川と一緒に居てこの方、
妙な余裕が度々生まれることに、保田は苦笑していた。
それも束の間、屍鬼との距離はそう遠くない所にまで接近していた。
一体の兵士がこちらに向かって来る!
保田は石川を庇いながら、やや中腰でこの屍鬼を蹴り上げた。

(ドタタ!)
体よく払い飛ばすことには成功したものの、
その拍子で石川と一緒にしりもちをついてしまった。

「……イインダ、……ヒトクチ……」

今度は一体どころでは済まなかった。少なく数えても二十体、
動きこそゆっくりしているが、これだけの数で押し寄せられたら、防ぎ様が無い。
このまま無残に食い千切られてしまうのだろうか?
屍となった上、その状態でゾンビと化したら目も当てられないではないか。
25  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:47
兵士達が保田達の上に覆いかぶさって来る。
石川は保田にしっかりしがみついたまま、今や微動だにしない。
保田は目を見開き、毅然と屍鬼達を睨み付けていた。

その時、保田は自分の後方が鈍く輝いているのを感じた。
目線だけを斜め後に移すと、
うずくまる石川の頭上にピンク色の五忙星が浮かんでいる。

全くどうしたことだろう?
今日という日は、何もかもがイチイチ驚かせてくれる。
相変わらず沸き起こる妙な余裕に、保田はこの局面でも苦笑してしまった。

前方の兵士と後方の石川の間に、交互に視線を泳がせていると、
石川の頭上に一人の女性が現れた。それを見た屍鬼が一瞬動きを止めると、
その女性は何やら人語では解せない呪文の様なモノを呟き始めた。
その瞬間、前方の兵士達の胸元が鮮やかな光を放った。

「……オォォ、……ヒカリダ……」
「……アタタカイ……、アリガトウ……」

破魔であろうか? 次々に言葉を発しながら兵士達は消滅して行く。
感謝の言葉を述べながら消えて行く分には、こちらも救われるというものだ……。
目の前の屍鬼を全て消滅させると、石川の頭上の女性も消えた。
それと同時に石川はガックリと保田にもたれかかって来た。
呼吸が感じられる……、石川は気を失ってしまった様だ。
敢えて取り乱すことは無かったものの、その場をすぐに動くことは出来なかった。
兵士達が消える迄気付かなかったが、その角にまだ何かが居る……。
26  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:49
階段を降りると、二人は何事も無い様に通用口を出た。

「ここ出て少し行くとね、コンビニがあるんだよ」
「ふ〜ん」

全くの放課後気分だ。弾む声の後藤を吉澤は追った。
外へ出た二人の後で、さっきまで番組の収録が行われていた建物が
忽然と姿を消したことについて、二人は全く気にとめていなかった。
いや、気付いてさえいないのかも知れない。

「あれぇ? おかしいなぁ? 確かこの辺にあったんだけど……」
「思い違いとかさ良くあるよ。もう少し歩いてみようよ」

後藤の記憶とは明らかに違う風景だった。
しかし、後藤は訝しむこと無く、鼻歌混じりに前を行く。
異様に静かなこの空間をしばらく気ままに歩き回っていると、
それらしい店舗を見つけた。

「あった、あった!」

後藤の声が一際弾んだ。
店名の無いコンビニエンスストア……、
正面入口のフレームが、さも意味有り気に黒い縁取りを描いている。

「ねぇ、ごっちん、本当にここなの?」
「え!? うん、うん、ここ、ここ! ここでいいじゃん!
 もうさ、のど渇いちゃって!」

さすがに薄気味悪さを感じたのか、少し引き気味の吉澤を後に、
後藤はサッサと店に入って行った。
27  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:51
明るい照明の店内は、一見普通のコンビニのように思われた。
他の客も店員も居ない、その気配すらしないことを除いては……。

「よっすぃ、何飲む?」

後を追って入って来た吉澤は、
異様な店内よりも先に、ペットボトルを物色している後藤に目が行った。

「ごっちん、お金持ってるの」
「お金? えへへぇ〜、持って無い!」

後藤は力強く言い切った。
ここまであっけらかんと言われるとこちらも返答に窮する。
確かに途中で収録を抜け出して来たのだ、持っていなくて当たり前である。

「……駄目だよ、泥棒じゃん」
「よしこは堅いなぁ、さっきも言ったじゃん、ここはおかしな世界だって、
 それにさぁ、これ見てみぃ」

そう言うと、後藤は麦茶を投げてよこした。

「何? これがどうしたの?」
「賞味期限見てよ」

言われるままに、確認しようとしたが肝心の日付がどこにも無い。
賞味期限の表示は義務付けられているのではなかったのか?
28  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:53
「こ、これ……」

言いかけて、店内を見回した吉澤は、そこに新聞・雑誌を始めとした
一切の媒体が無いことに気付いた。空の本棚が寒々しく鎮座している。
吉澤は初めて意識したことだが、ここには時計が無かった。

店の外を見ると、空は無表情に明るい。
しかしその明るさは、今が昼間であること以上の情報を与えてはくれない。
不意に店の電話を掛けてみたが、受話器の向こうは全くの無音だった。
携帯は楽屋に置いたままだが、例え持っていた所で、
結果は今と同様であろうことは想像に難く無い……。
自分達は今どこに居るのだろう……。

「ねっ! だからさぁ、気にしなくていいって!
 アタシ、お腹減っちゃったからおにぎり食べるね、よっすぃは?」

後藤は物怖じすること無く、大胆に店内の食べ物に手を付けている。
奇怪な状況ではあるものの、目の前の後藤を見ているとおおよそ
恐怖などと言う感覚は薄らいで行く様に思えた。

「じゃ、卵のフルコース!」

吉澤の笑顔を見て、後藤は笑顔を返した。
正常な日常なら当然非難されるべきこれらの行動も、今彼女らが置かれている
状況からすれば、ほんの些細なことに過ぎないのかも知れない。

「賞味期限の表示が無いのって、
 ちょっと気になるけど別に構わないよね?」
29  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:55
レジカウンターの上に、それぞれ好きなモノを運ぶと、
二人は思い切り食べまくった。
ひとしきり腹ごしらえを終えると後藤が言った。

「これからさぁ、アタシの家に行かない?」
「うん……、でもさぁ、ここからどうやって行くの?」
「バスでも地下鉄でもいいじゃん、だって都内だよ」
「車なんか一台も通って無いし、地下鉄の駅ってどこ?」

ここへ来る途中、吉澤は気付いていた。どこかで見た様なこの街並みに
住居表示等は一切無い。車だって一台も通っていなかったではないか。
店内には地図も無く、まるでお手上げだ。

「やだなぁ、よっすぃ」

後藤が店を飛び出して行く。
……しばらくすると、息を切らせて戻って来た。

「……ほんとだ! わかんない!」
「だから、ここはおかしな世界なんでしょ」

後藤は憮然としている。
さっきまであれ程この状況を逆手に取っていた後藤が、
実感としてその異常さを感じた今、ムッとしている。
その様子は余りに滑稽で、吉澤は何だかとても可笑しかった。

「……ところでよっすぃ、
 さっきからその頭の後に浮かんでる人魂みたいなのは何?」
30  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:57
必然的に三人は迷子になっていた。
その上、辻と加護は相変わらず矢口の両肩だ。余程怖いのか、
肩を組みながらおしくらまんじゅうをしている状態になっている。
たまらず矢口は口を開いた。

「あのさぁ! すっごく歩きづらいんだけど」
「へい……」
「でも……」

素直に歩きづらいと言っただけのつもりだったが、
二人は予想外に凹んでしまった。

「大丈夫だよ、ウチら『ミニモニ。』だぜィ!
 ミカちゃんはどっか行っちゃったけど」
「てへへ……」
「アハハ……」

必要以上におどけて見せた矢口に、二人はかろうじて笑顔を見せてくれた。

「じゃあさぁ、『ミニモニ。ジャンケン』しながら行こうよ、
 勝った人は、グー、チョキ、パーで
『グリコのおまけつき』、『チョコレイト』、『パイナップル』で進むのね」

したたかな矢口の計算であった。
取りあえず肩を組むことは避けられる、これで足が浮くことも無い。
最初の勝負は、グーで矢口の勝ちだった。

「オイラが勝っちゃったね、じゃあ行くよ、
 『グ・リ・コ・の・お・ま・け・つ・き』!」
31  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 03:59
廊下の突き当たりまで勢い良く進んだ矢口だったが、
すぐに真っ青な顔をして今来た辻と加護の元へ走り出した。
目は点になり口元はひきつっている。キョトンとする二人に矢口は叫んだ。

「逃げろ〜〜!」

走り出そうとしたその瞬間、
辻と加護は廊下の突き当たりから姿を現す不気味な兵士の姿を見た。

「きゃあぁぁぁぁぁ〜〜!」

三人は『ミニモニ。』のロゴの入った赤い衣装のままである。
それはまさに運動会の様であった。

「きゃあぁぁぁぁぁ〜〜!」

二人の強烈な悲鳴に矢口も一緒になって叫んでいたが、
程なくその悲鳴のトーンが変わり始めていることに矢口は気付いた。

「きゃあぁぁぁぁぁ〜〜! (キャッキャッ!)」

楽しんでいる!?
余りの出来事に、二人共気が変になってしまったのだろうか?
しかも、矢口の考えとは全く別の方向に走って行くではないか。

「ちょっと!? 何でそっちに行くんだよ!」

ここではぐれる訳にはいかない、怒ってやりたい衝動を抑えて、
ヘロヘロになりながら、矢口は何とか口を開いた。

「二人共どうしちゃったんだよ?」
「矢口さん、アレ!」

笑顔の加護が走りながら指をさしている。辻も楽しそうだ。
しかし、矢口には何も見えない……。
32  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:01
二人には何かが見えているらしい。一人だけでは無く二人共にだ。

今の状況を考えたなら、むしろ辻と加護の方が正しいのかも知れない。
それを拒む気は無かったが、見えないモノは仕方が無い。

途中、何度も恐ろしい兵士達に遭遇こそしたものの、
まるで、当たらない銃弾の様にその間を走り抜けると、
三人はそのまま一気に建物の外へ飛び出した。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

飛び出した目の前の景色はそのままだったが、
今まで走り回っていた建造物は飛び出した直後に消滅した。
歩道に座り込み肩で息をしている三人は、その光景を目の当たりにしていた。

「うっわぁぁぁ〜!」
「……きえちゃいました!」
「………………」

建物がアッサリ消えたその跡には、
ただコンクリートで固められただけの空間が広がっている。
矢口は絶句していた。さっぱり分からない。
分からないことがまだあった。辻と加護に見えているモノって一体何だ?

「ねぇ二人共、さっきから何が見えてるの?」

辻と加護は一緒に目線を合わせた。依然その何かは見えているらしい。
辻が見えない方が不思議という表情をしていると、加護が説明を始めた。

「人の顔位の大きさで、色は金色ですねん……」
「あやつりにんぎょうみたいれす……」
33  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:03
「うわぁ〜〜、何これ〜!」
「どっかに飛ばされたんだベか?」

確かに後方玄関を出た筈だった。
後を気にしつつ、出口へ急いだ二人は、自分達が出る直前に
再度後を振り返っていた。脱出成功と思ったその矢先、
待ち構えていたかの様に姿を消す瞬間の建物をマジマジと目撃している。
それは、建物全体が一つの大きな顔で、しかも自分達が逃げ出す間際に
微笑を浮かべていた様だった。……脱出は失敗かも知れない。

建造物の元あった場所だけでは無い、安倍と飯田の周囲は
画像の切り替わったスライド写真の様に全く違う場所になっていた。
見覚えがある気もするが定かでは無い。
それは強制的に引きずり込まれた迷路の様だった。
そのまま、しばらく無言の状態が続いた。
このままでは飯田の交信が始まってしまう……、とっさに安倍は言った。

「かおり、お腹……、減ったっしょ?」
「減ってない! ……でものどは渇いた」

開口一番の安倍の言葉を予測していたのか、
飯田は否定し、次いで部分的に肯定した。
腹ごなしをした安倍は、本音を言えば軽くオヤツが欲しい気分だった、
飯田は腹こそ減っていないものの、あれだけ走らされた後だ、
水分は是非とも補給したい所であった。
34  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:05
「……コンビニかな?」
「……コンビニだナ」

あては無いが、とにかく歩くことに決めた。
人も歩けばコンビニに当たる……、
ふとした思い付きに飯田は一人口元を緩ませていた。

「何が可笑しいんだべ?」
「え? うぅん、何でもない」

どうせいつもの電波を受信しているのだろう……、
安倍はそう思った。そしてさらに質問を続けた。

「なぁ、さっきからかおりの後に浮かんでいるそれは何なのサ」
「何? 何のこと?」

いくら電波体質の飯田とは言え、後に目が付いている訳では無い。
怪訝な表情で後を振り向くが、そこには何も無い。
こんな時に言って欲しく無い冗談だ。

「変なこと言わないでよね」
「変で無いって、かおりの動きに合わせて隠れてるべ」

何だか分からないが気になる。
飯田は安倍が言うソレを見るため、シャドーボクシングばりの動きを
しばらく続けた。その動きは妙にメカニカルで、安倍は自然と笑ってしまった。

「見つけた!」
35  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:07
裏をかいた動きがようやく功奏し、ソレを視界に捕捉することに成功した。
捕捉されて驚いたのか、ソレは空中で凝固している。
見れば淡く燃える人魂の様だった。丁度、人の顔位の大きさのソレは、
向こうが透けて見える程淡いくせに、昼間でもハッキリと見ることが出来る。
そして、何よりも目を引くのは、明確に人型であるということだった。
目、鼻など顔のパーツが有る訳では無く、指がはっきり別れている訳でも無い。
しかし、ヒトデでは無く人、或は人形という風体に見えるのだった。

「何、これ〜……」
「こっちが聞きたいべサ」

そうと分かると無性に気になる飯田ではあったが、
のどの渇きも相当なモノだ。今の所悪さもしない様子なので、
とにかくコンビニを目指すことにした。

人魂はフワフワと二人の後を付いて来る……。

「なぁ、かおり……、寒くねぇべか?」
「全然、なっちは?」
「それが、変なんだべ? 気持ちいいかも知んない……」

今着ているのは、収録時のごくカジュアルな衣装である。
少なくとも、この季節にその服装では、
いくら二人が北海道出身であるとは言え、決して快適では無い筈だ。
しかし、実際寒くは無かった、もちろん暑い訳でも無い。
それは気候を気にさせない快適さであった。
冴えた精神状態を作り出すのに最も適しているとも言えるが、
今の状況では、逆に過剰に張り詰めた意識を作り出している様でもあった。
36  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:09
「なぁ、かおり……」
「……何! もぅ、さっきから!」

しばらく歩いていると、安倍の質問がまた始まった。
こんな事になってしまった経緯、口の中がくっつく程ののどの渇き、
そして、自分の後を付けてくる得体の知れない人魂、
飯田は諸々のストレスから、つい言葉の端々に怒気がこもってしまった。

「……あ、あのな、
 さっきから後で聞こえる『カタカタ』……って音は何?」

ちょっとキツく言い過ぎただろうか。安倍の声に元気が無い。
横顔を見ると、青ざめている様にも見える。

「『カタカタ』……って、……」

恐る恐る後を見た飯田は愕然とした。
刃物を手にした裸のマネキンの群れが自分達をズッと付けているではないか。
その数、数十体!

「なっち! ダッシュ!」

普通ならもうこれ以上走ることは、気持ちの上で限界であった。
37  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:11
背中の人魂が安倍と飯田の前方に移って来た。
相変わらず宙に浮いたままで、何やらゼスチャーをしている。
それは行く道を指し示している様にも見えたが、今の二人には伝わらなかった。

「アンタ、邪魔!」

自分のゼスチャーを無視された人魂は、仕方が無いと言った素振りで、
二人の後を追った。大き目の通りに出ようとした時には、
安倍と飯田は大量のマネキンに取り囲まれてしまっていた。
モノ言わぬマネキンは、ジリジリと間合いを計っている様だった。

「何だベ〜〜!」
「もぅ、本当にのど渇いたぁぁ〜〜!」

人魂は、再び二人の前方にやって来た。
その体色はさっきより濃くなっている。或は輝いている様にも見える。
マネキンの数体が刃物をかざして近づいて来た。

「暴力は止めれ〜〜!」
「わあぁぁぁぁ! 誰か〜〜!」

斬られる! そう思った瞬間であった。飯田の上半身が鈍く輝き、
続けてその頭上に青く輝く五忙星が現れた。
そして、そのペンタグラムから甲冑を纏った騎士が現れると、
マネキンの動きが驚いた様に止まった。

「うわわわ! 何だベ、それ〜〜!」
「何って、かおりが知りたい〜〜!」
38  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:13
安倍の驚きも唯事では無かったが、何より驚いたのは飯田自身であった。
その余りの驚き様には、
そのままフリーズしなかったのが全く以て幸運としか言い様が無い。
飯田の甲冑は襲いかかるマネキンの刃物を次々に払い落とし、
ついにはその体を両断し始めた。

マネキンの輪が一回り分後退した時、今度は安倍の上半身が鈍く輝いた。
飯田と同様五忙星が現れたが、それはとうもろこしの様な黄色であった。
そして、安倍から出現したのは宝飾品で飾られた派手目の象であった。
それを見て一瞬吹き出した飯田にムッとした安倍であったが、
象はそんなことにはお構い無しで、取り囲むマネキン達に火炎を放った。

「カタカタカタカタ……」

炎に崩れ落ちて行くマネキンの外側に、二人は燃えさかるもう一つの物体が
あるのを見付けた。それは濃緑色のタールと言うべきか、スライムと言うべきか、
何か不定形の物体であった。マネキンはこれに操られていたのだろうか?
燃え尽きる間際、その物体は片言の様な言葉を発した。

「オマエタチ……、マグネタイト……、ムネン……」
「今の聞いた?」
「確かに聞いたベ、『マグネットは体にいい』、肩凝りのことだナ」

二人の周囲には何も無くなった。甲冑も象も消えたが、人魂だけは浮かんでいる。
そして、それは二人にOKとでも言いたげなゼスチャーを見せた。
安倍と飯田はその場にへたり込んだ。何故だか一気に疲れが倍増している。
39  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:15
休息を取りたい気持ちと、得体の知れないモノに脅える気持ちを
交互に反復させながら、中澤はようやくコンビニエンスストアを見付けた。
店名その他一切飾りの無い正面には、黒い縁取りが施してある。
嫌な気分にさせられたが、この際それはどうでも良いことだった。

フラフラである。
店に入るとカウンターに手をついたまま、ヘナヘナと座り込んでしまった。
案の定誰も居ない。おかしな所は山ほど目に付いたが、
その視線は自然に食べ物へと向かっていた。

……勝手に食べてはいけない。
そう考えたのは一瞬だけだった。こんな状況で勝手もクソもあるかい!
食欲は衰えていなかった、何よりのどがカラカラだ。
中澤は手当たり次第食べ物に手を付けた。

空腹と昂った気持ちを紛らわすだけ食べた中澤は、
食べ散らかしたまま、いつしかまどろみ始めていた。
とても落ち着いて眠れる状況では無い筈だが、疲労の度合いはそれを遥かに
上回っている。身の危険を考えない訳でも無かったが、
いつしかレジカウンターの内側にもたれる様に眠り込んでいた。

……どれ位寝てしまったのだろうか?
不意に目が覚めると店の外は暗くなり初めている。
40  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:17
「……昼と夜の区別位はあるんやな」

そう呟くと、ゆっくりカウンターに手をかけ、
背伸びをしながら立ち上がろうとした。
同時に、何気無く目をやったその先で、店員用の扉が音も無く開いた。

「!」

それが良い知らせである筈は無かった。
固まった様にじっと見ていると、小さな男の子が姿を現した。
真っ青な顔をした人形の様な子供が一人、
小さな手を挙手するかのごとく動かす。
その先端には果物ナイフ程の小さな刃物が握られていた。

「オマエ、ニンゲンダロ……」

とても子供の声とは思えない、低く沈んだ気味の悪い声だった。
そのまま扉の奥からは、一様に同じ格好をした子供がワラワラと五人ほど現れた。

「オマエ、ニンゲンダロ!」
「オマエ、ニンゲンダロ!」

語気を強めて中澤の方へ向かって来る。
中澤は声も出せずにカウンターを乗り越えると、一目散に店を飛び出した。
その後を不気味な子供達が追って行く……。
41  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:19
石川を抱きかかえたまま、保田はその角に居るモノと睨み合いを続けている。
睨み合いと言っても、目と目を合わせて火花を散らしている訳ではない。

その角に居るモノは、少し顔を出してはすぐに引っ込める、
出しては引っ込めることの繰り返しで、
むしろこちらを警戒しているかの様な素振りに受け取れた。
保田もそれを警戒していると言う膠着状態だった。

「ちょっと、そこのアンタ!」

保田が強い口調でそのモノを呼んだ。
このままでは埒が明かない、何より早くこの場を去りたいという衝動が、
保田に勇気を与えた。

そのモノは強い声に驚いた様子だったが、意外にも素直に保田の前に姿を現した。
保田はシゲシゲとそのモノを眺めた。大きさは思った以上に小さい。
丁度『デッサン人形』をイメージしてもらえれば近い線だろうか。
色はやや土気がかった金色……、昔、駄菓子屋等で売っていた、
安い造形のプラスチックの光らない金色とでも言った色合であろうか。
その佇まいは『マリオネット』の様でもあるが、
どこにも糸は無く、動きは逆に滑稽とも思える程キビキビしている。
そして、照れた様に頭を掻いている仕草はやけに人間臭かった。

「う、う〜ん」

石川が目を覚ました。
一体ここ迄、どれ位の時間が経過したのだろう……。
その人形はどうやらこちらに危害を加えるつもりは無いらしい。
保田が立ち上がると、人形は道を開けるかの様に廊下の脇へ寄った。
42  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:21
保田は石川を立たせると、
力の抜けた様にフラフラしているその体を軽く抱擁して、
背中をトントンと叩いた。

「どう? 歩ける?」
「……大丈夫だと思います」

いつにも増して頼り無さげな石川は、
その華奢加減に一層の磨きがかかった様に見えた。
でも一安心だろう、なんとか歩ける様だし……。
保田は建物の外に出ることにした。
まだうろついているかも知れない兵士達を警戒しながら歩いたが、
あれ以降襲われることは無かった。
そして、体が建造物の玄関を抜けたその時、
おぞましい出来事があった建物は幻の様に消えた。

「何よ! もうこれ位じゃ驚かないわよ!
 とにかく何か食べるんだから!」

健康的な考え方だ。
さっきの人形が後を付いて来る。
蹴飛ばしてやろうかとも思ったが、保田の無意識がそうさせなかった。
うまくは言えないが必要なモノに感じたからだ。
辺りは既に暗くなっている……。

                                < To be continued >
43  920ch@居酒屋  2000/12/25(Mon) 04:23
中澤「>>17さん、>>18さん、>>19さんおおきにな」
平家「>18さん、別に本格的とちゃいますねんで、
   日頃の行いの良くない裕ちゃんが懲らしめられるちゅうのが
   この話のキモで……(ゴチン!)」
中澤「オホホホホホホ……、
   楽しんでいただければ何よりですわぁ」
平家「(痛ったぁぁぁ……)
   その行いのことやっちゅうねん!」
中澤「せやせや、 >17さん、
   早いうちにこの物語のスケジュールをお伝えしときます。
   連載小説の形式を取ってますんで、毎週月曜日未明UPを2001年3月まで、
   1クール・13回の予定にさせてもろてます」
平家「3月までかい!
   ……せやけど、毎週月曜日なら全部で15回とちゃうん?」
中澤「15週分のうち、1週分は万一予定が狂った時の為のリザーブな、
   あと1週分は来週が休みやねんから、15-2=13回」
平家「来週は休みなんかい!」
中澤「当たり前やないかい! 21世紀、初っぱなの元旦やで!
   お正月位、みっちゃん並みの優雅な時間を過ごさせてえな」
平家「誰が優雅な時間を過ごしてるねん!」
中澤「せやから次回は『2001,1/8未明』予定です。
   ほなみなさん、風邪とかホンマ気いつけてな、バイヴィィ〜〜!」
44  17  2000/12/25(Mon) 04:30
これから月曜の朝が楽しみになりそうです
月並みですけどがんばってください
45  名無しさん@AllTogetherNow!  2000/12/25(Mon) 05:19
3月まで13回ですか。本格的な連載っすね。
どんな話になるのか全く読めませんが、面白いです。
これから毎週楽しみにしてます。

46  名無しさん@AllTogetherNow!  2001/01/02(Tue) 17:19
おすすめアゲっす。
作者さん、がむばって。
47  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:09
中澤「なぁ、みっちゃん……、
   ウチの話聞いてくれるか?」
平家「なんやねん、改まって」
中澤「タモリさんな、『ヅラ』やねん……」
平家「(ブッ! ……ゴホッ! ゴホッ!)
   ……それはアカンやろ! 芸能界NGワードやんか!」
中澤「せやけどな、ウチの目の前で外すねんで、
   もう誰かに打ち明けられへんのは、お腹が破裂しそうでな……」
平家「『王様の耳はロバの耳』かい!
   ……で、どないしたん」
中澤「『ヅラ』付け替えよったらな、鶴瓶さんやねん……、
   又、付け替えてな今度は島田紳助さんやねん……、
   最後はな、外したまんま歌丸さんやねん……、
   なぁ、みっちゃん……、あの人は一体何者なん?」
平家「……それ、コージー冨田さんとちゃうの?」
48  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:11
< 3rd Affair >

混沌と喧騒の狭間、
抜けるような青空と聖なるガンガー……。

「此処、どこだべ……?」

……嗅覚をくすぐるカレーの匂い。
夢を見ている?
それにしても美味そうな匂いだ……。
インド?
……それらしい光景に戸惑う安倍の目の前に影が現れた。

「……今度は何だべ」

もう、うんざり……、と言う呟きであったが、
どこかで見覚えのあるその姿に安倍は言葉を飲み込んだ。

宝飾品を身に纏った青い象……。
それは自分の頭上に出現したあの象であった。
二本の足に四本の腕、片牙の主は、
その掌にカラフルな四色のカレーを持ち、片足で立っている。
どちらかと言うとカレーに目が行っている安倍に、
青い象は、ゆっくりと口を開いた。
49  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:13
「我が名はガネーシャ。
 学問と智慧を司っておる。縁あって、そなたに我が力を与えよう、
 しかし過信はならぬ、そなたは我、我はそなた、
 我を呼び出すにはそなたの気力と体力を要する、
 それが尽きた時、我もそなたも滅することであろう」

安倍は思わず質問をしていた。

「気力と体力って……、尽きたらどうすればいいんだべ?」
「よく食べ、よく寝て、よく笑うことじゃ」

快眠快食?
何かの健康法みたいだ、そう思った安倍はさらに質問を続けた。

「なっちが食べ過ぎるのは象さんのせいだべか?」
「な、なんと……、象さんとな……」
「なっちが寝坊して遅刻するのも象さんのせいだべか?」
「失礼な! それはそなた自身の問題じゃ!
 象さんと言うのも如何なものか! 我はシヴァとパールヴァティの息子、
 本来なら絶世の美男子であるところ、この顔は間に合わせなのじゃ!
 不愉快千万! 我は帰る! さらばじゃ!」

安倍は目を覚ました。ただの夢とは思えない。
どうやら五忙星の主を怒らせてしまったらしい……。
50  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:15
安倍が目覚めるとそこはコンビニ店内だった。
横を見ると、中澤と飯田が眠っている。
そうだ、ここへたどり着いてから自分も飯田も眠ってしまったのだ。

そう……、その時、中澤は不気味な子供達に追われ懸命に走っていた。
人間で悪いか! 出来れば叫んでやりたいところだったが、
とても叫べるどころの話では無い。
ビルの角を曲がった時、中澤は否応なく足止めされてしまった。

(ファサ! ファサ!)

辺りに凄じい風が巻き起こり、街灯に照らされた一面が影に覆われた。
その影の主は、巨大な翼を持つ爬虫類に思えた。
人間ならその背中に軽く三人は乗れるだろうか。
恐龍? そんな馬鹿な筈は無い! それともこの世界ならあり得ることなのか?

「ホゥ……、ニンゲンカ……」

『ワイアーム』……、知る人ならそう言ったかも知れない。
その龍は、ビルの間をまるで鮫が泳ぐように飛び回っていた。
中澤を見つけると、ゆっくりとその前に滞空し、
鋭い爪を持つ足を伸ばして中澤を捕獲した。

「なんやねん……、どいつもこいつも人のこと人間、人間って……、
 アンタらこそなんやねん、化け物やんか……、
 …………アカン、ウチなんてホンマに無力や……」

身動きが取れない。
中澤は悟った、これが人間であることの限界か。
体を封じられたその視線の向こうには、ナイフを持った青い顔の子供達が
こちらの様子を伺っている。
51  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:17
自分には何も出来ない。このまま化け物の爪に引き裂かれ、
無残な屍をさらすのだろうか。しかし、最早パニックには陥らなかった。
涙さえも出ない。ただ一思いに止めを刺して欲しい、
中澤はいつしかそんなことを考えていた。

龍のもう片方の爪が中澤を狙っている。
絶望的だ……、何という人生の幕引きだ。中澤は固く目を閉じた。

(バキィィィン!!)

凄まじい衝撃と共に、爪の弾かれる音が響き渡る。
またしても新手か!? 中澤はまぶたを見開いた。

「裕ちゃん無事?」
「もう大丈夫だべ!」
「かおり!! なっち!!」

そこには苦楽を共にした懐かしい顔があった。
中澤は二人の名前を呼ぶのが精一杯だった。もうそれ以上は言葉にならない……。
飯田も安倍も頭上に五忙星を描いていた。
ペンタグラムの上には本人の約1.5倍程の大きさの甲冑と象がいる。
一体何だそれは!?

安倍の頭上の象は、豪火を発してナイフを持った子供達を焼き払っている。
飯田の頭上の甲冑は巨大な龍に対し、果敢な突きを見舞っている。

(ガチン!)

中澤を捕捉していた爪が体から外れた。
それを待っていたかのように、飯田は素早く中澤を抱きかかえると、
その場から後退を始めた。
52  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:19
「なっち、行くよ!」
「OっK! かおり!」

気味の悪い子供達の姿はすでに消えていた。
安倍が始末を終えたのだろう。中澤に逃げられた龍は愚鈍な動きを続けている。
三人は大急ぎでビルの陰に隠れた。

「まともにやったらあいつには勝てないけど、
 鈍いから結構楽に巻けるんだよね」

飯田がやけに頼もしい。
中澤には、飯田の言葉が百戦錬磨の戦士のように聞こえた。
そうこうしているうちに、龍はどこかへ行ってしまった。
外見にたがわず、恐れるほどに鋭敏ではないようだ。

再会した三人は円陣を組むように抱き合った。中澤は号泣している。
この風船のような弾力……、なっちだ……。
この鋼鉄のような剛性……、かおりだ……。

今まで幾度となく試練に遭遇して来た自分達であるが、
ここまで来るとそれは最早災難だ。
中澤は、改めて仲間というものに安心と愛おしさを覚えながら、
泣きじゃくった。

「よしよし、恐かったべナ。もう大丈夫だべ」

安倍に頭を撫でられ、落ち着いたのか中澤はいつしか眠りについていた。
あのスタジオの事件以来、初めて心休まる気がする……。
53  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:21
中澤に眠られてしまった二人は、文句を言うでも無く、
とにかく落ち着ける場所を探した。
程なく見つけたのがこのコンビニであったのだが、たどり着くと、
安倍も飯田もそのまま寝入ってしまったらしい。

考えてみれば、召喚しただけではない、
曲がりなりにも人外のモノと戦闘までしているのだ。
その疲労は相当なものだろう。
安倍の夢は図らずもそれを裏付けているかのようだった。

安倍は取りあえず辺りを見回した。
さっきから自分達と行動を共にしている人魂が、背泳のような姿勢で
宙をゆっくりと漂っている。
これといっておかしな店内では無いものの、空の本棚には否応なく目が行く。
食べ物を物色しようと立ち上がろうとした時、中澤が目を覚ました。

「……な、なっち?」

照明が眩しいのだろう、目をしばたかせている。
その横で飯田もモゾモゾ動き出している。みんな目覚めたようだ。
時計の無い世界の中、自分達がどれだけ寝ていたのか、
今が何時なのかは皆目見当が付かない。
コンビニの窓越しに見えるのは、
街灯以外、死んだように照明の消えた夜景だった。

「なんか食べるっしょ?」

心なしか、食べ物を前に嬉しそうな安倍をぼんやり眺めながら、
中澤は、ここはさっき自分が飛び出した店であることに気付いた。
54  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:23
「な、なっち、そこ!」
「……なにサ裕ちゃん、何も無いべサ」
「(ぷっ!) 裕ちゃん、鼻の穴」

飯田が横で笑い転げている。
鼻の穴が拡大していることは自覚していることだ、
疲れているのだから仕方ないだろう。
ムッとしたが、却って気分は落ち着いた。
もしも今、あの気味の悪い子供達が現れても自分は一人じゃ無い。
そう考えれば、むしろ出て来て欲しいものだとさえ思えた。

「なっちはカレー、かおりと裕ちゃんは?」

安倍は楽しそうに弁当を抱えている。
しかし、よく見るとカレーだけで四つも持っている。
まさかそれは全部自分用なのか?
中澤は呆れていたが、それと同時にレジカウンターの内側がきれいに
片付いていることに気付いた。
この店を飛び出す時、自分は食べ散らかしたままではなかったか?

「ねぇ、誰かここ来てから掃除とかした?」
「なんのことだベ?」
「かおりもなっちも裕ちゃん運び込んでそのまま寝ちゃっただけだよ」

安倍にも飯田にも心当たりは無いようだ。
おまけに、乱雑に食べた筈の食料品に減っている気配が無い。
いつの間に補充されたのだろうか?

店員用の扉からは何も出て来る様子は無い。
中澤は漠然と、異様に穏やかなこの気候と、日用品、差しあたりの食料が
確保出来るコンビニは自分達の味方だと思った。
55  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:25
人間は無いものねだりだ。
ここまで売れてしまった今、後藤と吉澤、特に後藤が一番欲しかったものは
自由な時間だったのかも知れない。

実家には帰れないことが分かり、時間さえ分からない世界だとしても
それならそれで好都合という趣きで羽を伸ばしていた。

コンビニから調達したマーカーでところ構わず落書きをしたり、
取り留めの無い話をしながら吉澤と走り回ったり、
公道の真中に大の字に寝転んでみたり……、

「ちょっと、ごっちん道の真中だよ……」
「大〜丈夫、何も通らないもん!
 よっすぃも寝っ転がってみなよ、せかせか動かされてたのが嘘みたいだって」

幼稚園にも入らないころは、誰でも一度や二度道路に寝転んだことは
無いだろうか? もちろん、危険な行為ではあるが仮に危険では無いとしても、
常識という鎧が固まるにつれ、人はそんなことはしなくなる。

後藤は常識さえも脱ぎ捨てられるほどの開放感の中にいるようだった。
吉澤も隣に寝転ぶと、二人の上をあの人魂が漂っている。

「ねぇ、よっすぃ、アレ」
「うん……」

吉澤にも自分に帯同する人魂の存在は分かっていた。
確かに気にはなったが、実害が無いので放っておくことにしているだけだ。
炎のように見えるが、接触しても熱くない……、
と言うより素通りしてしまう、まるでホログラムのようであり、
そのつかみ所の無さに、いつしか後藤の関心も薄れているようだった。
56  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:27
人魂も後藤と吉澤の態度を見て判断しているのか、
二人とはつかず離れずの距離を保っている。
乳白色の空と優しい気候は、いつしか二人を眠りに誘っていた。

「わっ! よっすぃ起きて!」

そのままどれ位寝ていたのだろう、辺りは暗くなり始めている。
相変わらず寒くは無いので、体にこそ堪えはしないが、
やはり野宿はしたくない。

「ホテル泊まろ! ホテル!」
「お金は……」
「持ってない!」
「……よね」

後藤が堂々と無銭宿泊を宣言している。もちろん犯罪だが、
こんな状況だ、大目に見てもらうこととしたい。
珍しく人魂が不可思議な動きを見せたので、後を追ってみると、
おあつらえ向きにホテルに出くわした。
それは高層の建物に見える。

「一番上の部屋にしようよ」

後藤の声が弾んでいる。
入り口からして当然のように無灯だったが、二人は構わず進むと
一目散にエレベーターに乗り込んだ。

「あれ?」
「どしたの、よしこ?」
57  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:29
高層に見えた建物だが、エレベーターの表示は13階までしか無い。

「いいよ、いいよ、上まで行こう」

後藤は大らかだ、もしかすると鈍感なのかも知れない。
エレベーターは12階で止まった。
いちいち引っかかる吉澤だったが、後藤は構わず降りて行った。

「よっすぃ、ここね、ここ!」

深く考えずに選ばれたであろう部屋には、
二つのベッドの向こうに大きな窓がある。
街灯だけが形作る夜景は、まるで無造作に置かれた真珠のようだったが、
その景色さえ考えれば考えるほどおかしなものだった。
それだけの眺望なら、ここはもっと高層階ではないのか?

部屋の中をざっと見まわすと、二人はコンビニから持ち寄った品物を
広げ始めた。後藤はメイクを落とし始めている。

「アタシ先にお風呂入っちゃうね、
 よっすぃもメイク落としちゃいなよ、
 で、アタシも待ってるからさぁ、ご飯は一緒に食べようね」

後藤はバスルームに消えた。
テレビは電源こそ生きているものの、何も映らない。
夜景を見たとき、その窓の下までの距離を見て、
吉澤は、今自分のいる階がどこだか分からなくなってしまった……。
58  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:31
後藤が風呂から上がって来ると、
バスローブを羽織る姿はすっかりくつろいでいる。

「あ〜、気持ち良かった……、え……?」

トイレに行きたい……、風呂上がり直後なだけに、なんだか損した気分だ。
後藤がトイレに入ると、閉じた洋式便座の上に少女が浮かんでいた。
歳の頃は小学校一年生位、おかっぱ頭に黄色いシャツ、赤い吊りスカートに、
脇に抱えているのはぬいぐるみのようだ。
見つめ合う二人であったが、少女が先に口を開いた。

「お姉ちゃんは人間?」
「そうだよ」
「どうしてこんな所にいるの?」
「お姉ちゃんにも分からないの」
「これからどうするの?」
「どうしようかなぁ」
「……それならこうしてやる!」

少女の顔が突然醜く、おぞましい老婆の顔に変貌した。
後藤は一瞬固まったが、すぐ元に戻るとはしゃぐように吉澤を呼んだ。

「よっすぃ! よっすぃ! 来て来て、この子この子!」

吉澤が駆け付けると、老婆は元の少女に戻っていた。
明らかに困惑の表情をしている。後藤にその手の脅しは通用しないようだ。

「お姉ちゃんは人間?」

今度は吉澤に質問しているようだ。
59  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:33
すると、二人の上半身が淡い光に包まれた。
何が始まったのか分からない後藤と吉澤は互いに見つめ合っている。
まもなく後藤には赤、吉澤には紫の五忙星が頭上に現れ、
後藤からは人魚、吉澤からは鳥が出現した。

「(キャッキャッ!)
 ただの人間じゃないんだ! じゃぁ使っていいよ」

少女は飛び切りはしゃいだ後、そう言い残して消えた。
後藤と吉澤は見つめ合ったままだ。

「……よしこ、何それ?」
「ごっちんだって……」

気持ちの切り替えは早いのだろう、
二人は今の出来事にこだわること無く、各々行動を再開した。
吉澤は浴室に入った。
キチンと独立したバスルームは思った以上に広い。
後藤はきれいに入浴していたが、ただ一点驚いたことがあった。

見ると浴槽には、おびただしい量の毛髪が浮かんでいる。
吉澤は思わず絶句したが、
さほどショックでも無い様子で浴室から声を張り上げた。

「ごっち〜ん、か〜み〜の〜毛〜!」
「ごめ〜〜ん、片付けといて〜」

その色と長さは、明白に後藤の毛髪では無かったが、
吉澤は特に気にする風でも無く、
排水溝の金具を開けると躊躇無く流し去った。
これで赤い色のシャワーでも出ようものなら、出来過ぎの感もあるが、
さすがにそれは無かった。
60  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:35
飯田は惣菜パンと菓子パンを食べている。
中澤は酒のつまみ類と、アルコール類が店内に無い為、
代わりにホットの日本茶を飲んでいる。どこか縁側っぽい取り合わせだ。
安倍は見事にカレーを四個、完食しようとしている。
飯田も中澤も、もうそのことについては何も言わない。
中澤は、自分達の周囲を浮遊している人魂のことが気になっていた。

「……ところでな、そのフワフワしたヒトデは何?」
「何って、ねぇ……、最初はウチらの後を付けて来てたんだよね……」
「したっけ、ウチら囲まれて頭の上から何か現れて、
 しまいには裕ちゃんのとこまで連れて来られたんだべ」

事実を述べてはいるが、要領を得てはいない。
安倍も飯田も完全に状況を整理するには至っていないらしい。
人魂はヒトデと言われたことが気に入らないようだ。
言葉こそ話さないものの、憤慨している様子は一目で分かる。
中澤はここに来てからというもの、得体の知れないものを敵に回すのは
得策では無いということを実感してか、あわてて言葉をつないだ。

「なぁ、この子の名前は何?」
「そう言えばなんだベ……?」
「ねぇ、あなたの名前は何て言うの?」

飯田が尋ねると、人魂もそれを伝えるのを忘れていたという仕草を見せた。
三人が眺めていると、人魂は空中に何やらおびただしい量の文字を表し始めた。
……しかし、とても読めない! そもそもそれは地球上の文字なのか?
61  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:37
そのまま時間だけが過ぎていた。飯田と中澤は再びウトウトし始めている。
一人、人魂を見つめ続ける安倍は、一瞬平仮名らしき文字が流れるのを見た。
それが本当に平仮名だったかどうかは定かで無いが、
『じぇんきん』と読めた気がする。

「わかった、わかった!
 『ジェンキン』だベ『ジェンキン』!」

安倍の声の大きさに、飯田も中澤も眠りに落ちる寸前で我に返った。

「……ジェ、ジェンキン?」
「……さよか、ジェンキンか」

人魂の体の顔に当たる部分が頷いている。それで良しと言っているようだ。
人魂を眺めている内に、安倍は自分の見た夢のことを思い出した。

「あのサ……、なっちこんな夢を見たのサ」

安倍は象が語ったことを二人に話した。
その話も含めて三人の意見が一致したことは、
これまでのことが、全てジェンキンと絡んでいるということだった。
三人の視線がそれとなくジェンキンに集まった時、
ジェンキンの体が点滅を始めた。

「なっち、アレ」
「そうだべ、裕ちゃんの時と同じだ」

安倍と飯田はコンビニの袋をつかむと、
食料品はもちろん、慌しく店内の品物を物色し始めた。
62  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:39
「二人共いきなりなんやねん?」
「ウチらが裕ちゃんのところに来たのも、ああなったからなんだよ」
「分からないでいたら、ジェンキンに急かされたんだベ、
 また誰かのピンチだとして、今度は準備を整えて行きたいっしょ」

納得した中澤は自分も店内を物色し始めた。
雑多に品物を詰め込んだ安倍と飯田が、店の出口へ向かおうとすると、
中澤が何かを差し出した。

「これも入れたってや」

『裂きイカ』が二袋。
中澤はアルコールが無いのが残念でならない、という顔をしている。

宙を泳ぐように進むジェンキンを三人は追った。
街灯だけとは言え、月明かりも合わせた街は想像以上に明るい。
気候も良い為、闇の中を行くことにも別段恐怖感は無く、
自分は夢遊者ではないかと思わせる程だった。

しばらく進むと、前方に何やら影がうごめいている。数にして四つ。
ジェンキンは前進を止めない為、ためらうことなく後を追うと、
その影の正体は犬であることが判明した。
しかし、ただの犬である筈は無く、体中のあちこちから皮や肉が剥げ落ち、
骨が剥き出しになっている箇所さえある。その凶暴な顔は狂犬を思わせた。

「ドコヘユク……」

お前の知ったことでは無いだろう!
誰もがそう思った。ジェンキンは進んでいた時よりも高い位置で滞空している。
ことの成り行きを見守っているのだろうか。
63  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:41
犬達の唸り声が次第に大きくなっている、
戦闘になるのは仕方無いとしても、これから向かう先でも戦闘になるだろう、
安倍も飯田も、こんな道草で余計な気力は使いたく無かった。

「ソウカ……、ムシスルノカ……、
 ……オマエタチ、マルカジリ!」

犬が襲い掛かって来た。
安倍と飯田がそれぞれ召喚しようとしたとき、
一瞬早く中澤の上半身が光に包まれた。
続いてその頭上に赤い五忙星が出現すると、コウモリを思わせる翼と、
先端が槍のように尖った尻尾をもつ女性が現れた。

「うわっ! 裕ちゃんエッチ〜!」

飯田が顔を赤らめて言った。
その女魔は小柄ながら、見る者を誘惑するような体のラインに、
これ以上無い位に際どいレオタードを纏っている。
中澤は、そのプロポーションに思わず見とれてしまったが、
女魔が何か呟くと、襲って来た犬は呆気なく眠ってしまった。

「今のうちや、行くで」

再び進み始めたジェンキンを一行は追った。
中澤は自分も召喚を行ったことをあれこれ考えていたが、
出現した女魔の格好を思い出すと、今更にして恥ずかしくなった。
64  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:43
風呂を済ませ、コンビニから調達した食事も済ませた後藤と吉澤は、
早々にベッドに入っていたが、まだ寝付いてはいなかった。

「ねぇ、よっすぃ起きてる?」
「うん? 起きてるよ」
「13階ってどうなってるのかな?」
「そう言えばエレベーター行かなかったね」
「天井の上から何か聞こえない?」
「ううん? ごっちんは聞こえるの?」

後藤は既に体を起こしている。
吉澤はスタジオを出て以来ここに来る迄の間、
普段オンエア中に見せる後藤の投げやりな表情が見て取れないことを悟っていた。
主体的に動く分には退屈が入り込む余地など無いのだろう。
後藤はソワソワし始めている。

「ねぇ、上行ってみようよ」
「これから? エレベーターじゃ行けないよ」
「すぐ向こうに階段があったじゃん」

好奇心が勝っているらしい。
吉澤はどちらでもよかったが、後藤の浮かれているような素振りに
いつしか自分もつられていた。

「なんにも持って行かなくていいよね」
「アハハハハ……、よしこは何を持って行きたいのさ」

二人はバスローブ姿のまま部屋を出た。
65  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:45
二人が階段を上り切ると、そこには想像も出来なかった風景が広がっていた。
自分達のいる階の広さ分以外には何も無い……。
そこにあるのは床と天井、そして総ガラス張りとなっている建物の外周だけ、
柱が一本も無いということ自体、建築物としてはあり得ないことだった。
そして、やはりここが最上階なのだろうか、これより上に階段は無かった。

外から届く光は、夜の空気を揺らめかせる青色で、
何気なく見ていると、まるでどこかのプールか、
水族館の水の中にいるのでは? と錯覚するほどだった。

「わあぁ! 凄いね、海の中みたいだね、龍宮城かな?」
「なんとか神殿じゃない?」

どこかメルヘンチックにも見えるこの空間に、
後藤と吉澤は思わず前へ歩き出していた。
窓際に近づくと、何かが後藤の頭に触れた。

「よっすぃ、何?」
「えっ? 何ってなに?」

吉澤には身に覚えが無い。
自分達に付いて来る人魂なら触感は無い筈だ。
二人は周囲を見渡すと、何かが浮かんでいることが分かった。

見ると二人の同行者とは違う何かが、その数をにわかに増やし始めている。
『ポルターガイスト』、二人にその名称は浮かばなくても、
さっきから後藤に聞こえていた音の主がこれであることは、容易に想像出来た。
66  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:47
(ポヨン!)

また後藤に当たった。
二人に随行する人魂より少し大きい位、
マジックペンで塗りつぶした黒丸を、逆三角形に三つ並べたような顔は、
何かの玩具のようにも見えた。当たられた感触は、水風船に近い。

「えへへへぇ、カワイイね」

後藤は手でつかもうとしたが、水風船は逃げるように体をかわした。
無邪気に戯れる後藤を横に、吉澤は自分達がここへ来た時と比べて、
その音が大きくなっているのを感じていた。
……さらにまた、その数も一段と増えた気がする。
吉澤の上半身が光り始めた、無意識のうちに臨戦体制に入った吉澤は、
後藤との距離を詰めるべく近寄った。

(ボスン!)
「痛い!」

悲鳴に近い声を後藤があげたとき、水風船の数は一気にスズメバチの
巣を攻撃したほどに膨れ上がっていた。

「ごっちん! こっち!」

吉澤は後藤を抱き寄せると頭上に鳥を召喚した。
二人の逃げ場は窓に向かう以外塞がれている。襲い掛かる水風船の体当たりは、
単なる体当たりというほど生易しいモノでは無くなっていた。

(ボボボボボボスンッ!)
「キャッ!」
「よっすぃ!!」
67  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:49
吉澤の鳥は見る間に叩き落とされた。
吉澤もダメージを受けたのか、悲鳴と共にその場にうずくまっている。
吉澤の鳥が消滅すると、今度は後藤が人魚を召喚し、
うずくまる吉澤をかばうように、その上から覆い被さり、
頭上の人魚は水の壁を張った。

結界を張ることにより、当座の衝撃は緩和出来るとしても、
いつまで持ち堪えられるだろう?
水の壁を完成する間際に、人魂もその中に滑り込んだ。
その体が点滅を繰り返していることを知る余裕は二人には無かった。
後藤は気力を集中させるのに精一杯である。

(ボボボボボボボボボボボボボボボボ……!!)

二人はかろうじて大ダメージこそ凌いではいたものの、
水風船の大群に、ジリジリと窓際へ押しやられている。
或いは、後藤の気力が尽きる前にもここから落とされてしまうかもしれない。
いずれにしろ、危機的状況に変わりは無く、後藤は気力を集中させながらも、
吉澤に申し訳ないことをしたという思いが、度々頭の中をよぎった。
吉澤は許してくれるだろうか?

「ごっちん〜、がんばれ〜、がんばれ〜」

吉澤の声が聞こえる。小さいが懸命な声だ。
自分に付き合わせた結果が招いた事態だけに、後藤の胸は一杯になった。
顔を緩めると涙がこぼれてしまうので、
後藤は歯を食いしばった。そして、押されている自分達を
全身で踏ん張るようにして押し止めようと、必死の抵抗を試みた。
68  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:51
途中、幾度となく魔犬に絡まれたものの、
すべて中澤の女魔の催眠により、無用な戦闘は回避出来た。
召喚を繰り返した結果、中澤も安倍と飯田が言っていた気力の疲れ
というものを実感していた。
これで、強力な魔法でも使ったらその疲労度はどれ程のものだろう……。

ジェンキンの後を追って到着したのは、とあるホテルであった。
何階建てだろう? 外見的には結構な高さに見える。
依然点滅を繰り返すジェンキンに付いて中に入るとロビーは暗闇に包まれている。

「こんな時の為に、なっちは懐中電灯を持って来たベ」

手探りで袋の中身を探し当てると、安倍は懐中電灯の封を開いた。
点滅するジェンキンは辺りを照らし出す明るさでは無い。
深海魚の提灯というのが近いイメージだろうか。
安倍の手元は一向に明るくならない。飯田がしびれを切らし始めた。

「どうしちゃったのよ!」
「……電池が入って無いベ」

電池は別売だった……、
飯田の口調が厳しくなりそうなことを見越した中澤は、機先を制して言った。

「大丈夫、ウチには見えるねん、
 少し探してみるさかい待っててな」

中澤の夜目が利いていることは事実だった。女魔の副次的効果だろうか。
程無く電源らしきスイッチは見つけたが、それが生きているかどうかは別問題だ。
これまでの経過を考えれば、生きていると見ても良さそうなモノではある。
中澤がしばし考えていると、飯田がスイッチを押した。
果たして……、エントランスに明かりが灯った。
69  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:53
エレベーターも生きている。
ただ、解せないことは、このホテルの外観に見合わず、
最上階が13階となっていることだった。

「何階に行けばいいんだべ?」
「一番上まで行ってさぁ、それから降りてくればいいんだよ、
 ……裕ちゃん乗るよ!」

エレベーターに乗り込もうとする二人の後に、気が進まない中澤が立っている。
たとえ生きているとは言え、一体どこまで安全なのだろうか?
途中で止まってしまったら自分達の方こそ大ピンチではないか。

「エレベーターは止めた方がええんとちゃうか?」
「大丈夫、心配いらないってば!」

さっきから急に慎重になっている中澤を、飯田は半ば強引に乗せた。
飯田とて絶対安全という保証がある訳では無かったが、
胸騒ぎのようなモノが、自分を妙に急かしている。
順調に動いていたエレベーターは、12階まで来るとそこで止まってしまった。

「……せやから言うたやないかい! みんなかおりのせいやで!」

中澤は飯田にお返しと言わんばかりに声を荒げている。
飯田の方もさっき迄の確信的な態度が一変して、パニック一歩手前に見える。

「ここ押せばいいっしょ」

気まづい空気を察してか、安倍はさり気無く開閉ボタンを押した。
扉は何事も無いように開き、一行はホッとしてエレベーターを降りた。
階段の上から聞こえてくる騒々しい物音に、三人は気合を入れ直す。
70  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:55
一行は階段を寄り添うように上っていた。13階は目前だ。
ジェンキンの点滅はピークに達している様子だ。
間も無く階上が見えて来ると、その騒がしさは予想以上だった。

身構えながら到着した三人は、その光景に唖然としてしまった。
そこには、客室も廊下も何も無い広大な空間が広がっている。
ただ一面の大広間……、
それはどことなく、来てはいけないところに来てしまったようだった。

大広間には、無数の水風船が飛び交っている。
大きさは、丁度ジェンキンを一回り大きくした位だろうか。
その水風船も人形を思わせるが、全体的な丸さは
雪だるまに、手足に当たる四個の球体がくっついているように見える。
顔に当たる部分には、炭団のような丸が三つ、逆三角形に並んでいるが、
よく見ると、中には目に当たる二つが逆ハの字だったり、口に当たる一つが
薄気味悪く歪んでいたり、まるで取り留めが無い。

面食らっている三人だったが、気を取り直して尚も室内を見渡すと、
窓に近い場所に誰かがうずくまっている。
二人? 三人?
その誰かは、自分達の周りに水の結界を張っている。
そして、時折その頭上に人魚の姿が浮かび上がる。

「うわっ! タコ殴りやん、……あれはアカンで、
 あの風船ども、窓から突き落とそうとしてるのとちゃうか?」
「早く助けるべ!」
「なっちも裕ちゃんも行くよ! 『ディアァァァァァ!』」
「(プッ!) なんやねん、それ! (ワッハッハッハッハッハ……)」
「気合が入るんだよ! 裕ちゃんも言ってみなよ」
「さよか! ……ほな、『行っくでぇぇぇ!』」
71  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:57
飯田が甲冑を、続いて中澤が女魔を召喚した。
安倍も象を呼び出したが、気合の入った呼び声はかけない。
そこは安倍とて乙女である、恥ずかしくてとても言えなかった……、
……と言うよりは、飯田が面白過ぎて言いそびれてしまった感が強い。

水風船は三人の方へも押し寄せて来た。
安倍の象は強烈な火炎を放った。
安心した……、
どうやら象は夢の中の出来事を根に持ってはいないらしい。

(ボスッ! ボスッ!)
「痛っ! イタタタタタタ……、
 アカン、アカン、ウチのはレディーやねん、これ無理やわ」

水風船の体当たりとはいえ、桁違いの打撃力だ。仮にこれが日常の出来事なら、
乗用車でさえほんの数分で破壊されてしまうだろう。
それに輪をかけて中澤の女魔は打たれ弱いらしい、
呼び出しの気合はどこへやら、早々に退散してしまった。
中澤は尻餅をついたまま安倍の後ろに回り込もうとしている。

安倍の象が放つ火炎も、期待程の効果を挙げてはいない。
魔法の相性が良くないのだろうか。散発的に体当たりを受けながら、
なんとか凌いでいる状況は、助けに行く所か自分を守ることで手一杯である。

「誰!? ……後藤と吉澤!?」

飯田の甲冑は強力だった。
無数の水風船を薙ぎ払うと、返す刃は自分の周囲に結界を張っているのにも
等しい空間を作り出している。
72  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 06:59
水の結界は体当たりの直接のダメージこそ軽減しているものの、
後藤と吉澤は、依然ジリジリと窓際へ押しやられ続けていた。

「わあぁぁぁぁ、よっすぃぃぃぃ、もうそろそろ限界ぃぃぃぃ」
「(!) 飯田……さん?」
「えっ! かおりぃぃぃぃぃ!」

猛然と突き進んで来る飯田の形相とその動きは、
普段なら、笑いの種ともなりそうなものであったが、この状況では
この上なく頼もしいものであった。

「しっかりしな! ここから出るよ!」
「うへえぇぇぇ、助かったぁ〜〜」

飯田が二人の許へ到達すると、後藤の人魚は消え、水の結界も消滅した。
甲冑が形作る刃の結界の中、三人が窓際から離れようとした時、
この階の中央から低い地鳴りのような音が響き渡り始めると、
見る見るうちに、上半身だけの巨大な人影が形成されて行く。

「なっち〜〜!」
「OっK、かおり〜〜!」

退却の合図だ。安倍も飯田も連続して召喚するにはそろそろ気力の限界だ。
それにもまして、そもそも疲労が全快している訳では無い。

「ゴルアァァァァ!」

鬼神の如く前進する飯田の後ろを、ほふく前進の如く後藤と吉澤が続く。
飯田が後ろに回ったことを確認して、
安倍の象も最後の火炎を放ちながら、階段を下った。
下り切ってみれば、そこにあるのはごく普通のホテルだった……。
73  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 07:01
「二人共、危なかったなぁ」
「なんであんなとこに追い詰められてたんだベ?」
「え? えへへへぇ〜……、ねっ、よっすぃ」
「え!? う〜ん……」
「あ〜疲れた! かおりキチンと休みた〜い!
 ……あっ! 後藤と吉澤何その格好! かおりも休みた〜い!」
「だってここホテルだし、ねえねえみんなここに泊まろうよ」

その目は真っ赤に腫れていたが、後藤に悪びれた様子は無い。
後藤のそんな姿に安心したのか、吉澤の目は眠たそうに宙を泳いでいる。
一行は後藤と吉澤の部屋に入ったが、そこはツインルームだ。

「ここに五人は狭いのとちゃう?」
「でも離れるのも危険だっしょ?」
「魔法、魔法! 壁なんかぶち抜いちゃえばいいよ」

後藤が言うと、皆の視線が一斉に安倍に向けられた。

「使ってもいいけど、火事になるべ?」
「アタシとよっすぃもいるから平気だよ」

余りに乱暴な考えだとは思ったが、安倍も同意した。象を呼び出すと、
壁の中心から周囲に向けてバーナーで穴を開けるように焼き始めた。
人が通れるだけの大きさに貫通すると、今度は後藤が人魚を呼び出し
延焼している箇所を最低限の水流で消火する。最後に排煙担当だった
吉澤の鳥が、消火で濡れた箇所に、ドライヤー並みの正確さの強風を送り
素早く乾かした。にわか仕込みとは思えない程の手際の良さだった。
74  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 07:03
「ベッドが四つしか無いからさぁ……、
 今夜はアタシとよっすぃが一緒に寝るね、
 それから、お風呂はあっち、バスローブはそこのクローゼット、
 化粧落としとかはコンビニからいろいろ持って来たから、適当にやって、
 あ! あとねトイレはね……、えへへへ……、
 じゃ、ダ〜イバ〜イ」

トイレのことは結局話さず後藤はベッドに入った。
吉澤が横に立った時にはもう寝息を立てている。

「よっすぃ、さっきはゴメンね……」

後藤と一緒のベッドに入った吉澤の耳に小さな声が聞こえた。
もちろん怒ってなどいない。吉澤も小さく返事をするとそのまま眠りに落ちた。

「どうするベ?」
「みんなさっぱりして寝ようや、ウチもクタクタやねん」
「じゃ、かおりからお風呂入って来るね」

ジェンキンの点滅は止んでいた。後藤達と合流してから、
ジェンキンはしばらく二体のまま漂っていたが、
三人が動き出す頃には、磁石が引き寄せられるように接近を始めていた。
そのまま眺めていると、やがてその体は一つに合体した。
細胞分裂の逆回しを見ているような光景だった。

「くっついちゃったベ」
「せやね……、ウチらこの子に導かれてるみたいやな……」

この世界に迷い込んでから自分達に起こる出来事には、
必ずと言っていいほどジェンキンが絡んでいるということを思い返した時、
少なくともそれが偶然だけでは無いことを、三人は薄々自覚し始めていた。
75  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 07:05
中澤は天井を見つめている。
疲れている筈だが、まだ興奮しているのだろうか。
上からは微かに音が聞こえる。ポルターガイストは依然続いているのだろう。
照明の落ちた中、やけに明るい月光に照らされたジェンキンが、
流されるように宙を漂っている。
静かに眠る後藤と吉澤、そして豪快に眠る飯田が羨ましく思えた。

「……裕ちゃん」
「なんや、なっちも起きとったんかい」
「……うぅん、今起きたんだけどサ……、眠れないべか?」
「……なぁなっち、ウチらは元の世界へ戻る。異論あらへんよな?」
「もちろんだべ、……でも、ウチら以外の五人は……?」
「一緒に連れて帰る!」

眉間にマジックペンで描いたような疑問を浮かべている安倍に、
中澤は力強く言った。一緒に連れて帰る……。
言ってはみたものの、これといったあてがある訳では無い。
矢口……、はもちろんのこと、他の皆も何処に居るのだろう?

ナビゲートがジェンキン任せと言うのもどこか不安ではあるが、
ろくな手掛かりの無い現状では、他に打つ手も無い。

……中澤は窓の外を見つめている、
月は下弦……、それはまるで、笑う夜空の口元のようだった。

                                  < To be continued >
76  920ch@居酒屋  2001/01/08(Mon) 07:07
中澤「>>44さん、>>45さん、>>46さんおおきにな、
   平家みちよはさっきから、
   涙と鼻水でパックしたみたいになってますねん、
   みっちゃんの分まで重ねて御礼いたします(グスッ……)」
平家「誰が涙と鼻水でパックやねん! 自分のことやろ!
   せやけど正直、やっぱり嬉しいよね」
中澤「(グスッ……)
   これでな、いよいよ来週はみっちゃんが……」
平家「(!)
   何!? なに、何!? 今なんて言うたん?」
中澤「いや、登場して来たらおもろいな……っと」
平家「思わせ振りかい!」
中澤「それはそうやん!
   みっちゃんには重要な役割があるんやで」
平家「重要な役割?」
中澤「オープニングとエンディングのウチとのトーク
   (ワッハッハッハッハッハ……)」
平家「なんやねん、泣いてた思たら笑とるやん!
   人のことおちょくっとるのかい! (キイィィィィィ!)」
中澤「ほなみなさん、次回は『2001,1/15未明』予定です。
   所謂三文小説ですねん、何かのついでで待っとってな。
   ……なぁ矢口、最近みっちゃん怒りっぽいねん、なんでやろ?」
矢口「それみんな裕ちゃんのせいだと思うよ……」
77  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/08(Mon) 07:14
まってました!
78  名無しさん@超超超超いい感じ  2001/01/08(Mon) 15:52
いま、纏めて読んだ。今後の展開に超期待ですわ!
79  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/08(Mon) 23:45
なっちとガネーシャ、ナイスコンビ。それにしてもなっちは
食べてばっかりですな。そこがまたいいっすね。
80  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/15(Mon) 00:44
今日は更新日ですね。うおお〜楽しみだ〜
81  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:27
中澤「召喚とか書いてるとな、つい人の頭の上を見てしまうねん。
   ……みっちゃんには『疫病神』が見えるね」
平家「えっ!? なんやねん、それ!
   来月には久々に新曲も出るねんで、アホなこと言わんといてや」
中澤「せやけどな、みっちゃんの道のりはまだまだ遠いやん」
平家「……せやったら、あっちゃんみたいにメンバー募集はどうやろ?
   新ユニットとして怒涛の新展開やねん、
   『平家みちよ新ユニットメンバー募集!
   侍ニッポンプロジェクト』……」
中澤「アカン、アカン、どこから予算が出るねん?」
平家「せやね……、無理やね……、
   別にええねん……、言うてみただけやねん(シクシク……)」
中澤「なにも泣くことあらへんがな!
   みっちゃんかて一等賞取ってデビューしてるんやで、
   人生なんてまだまだいくらでもやり直せるやん、
   『とんかつ屋でアルバイト』とかな、『福引所の姉さん』とかな、
   ジャイアンツの『ファイヤーガールズ』とかな……」
平家「しのちゃんかい!!
   ……って言うより『やり直せる』ってなんやねん!
   まだまだ終わった訳とちゃうわ!」
82  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:28
< 4th Affair >

眼前の奇岩群、それはまるで宙を漂よっているようだった。
奇岩の頂上、遥かな高みには修道院が浮かぶように見えている。
石川は中空を頼り無げに進む自分の、その不思議な感覚に戸惑いを覚えていた。

修道院の前には泉があり、そこには一人の女性がいる。
それは薄衣を身に纏った美しい女性であった。
石川と目が合うと、その女性は静かな微笑みを浮かべ石川に語り掛けた。

「私の名はナイアド。泉の精と呼ばれることもあります。
 ある事情により、私の力を貴方に授けましょう。
 どうぞ有効に使って下さい。
 ですが、この力は無限ではありません。私は貴方、貴方は私、
 無闇に使ってしまえば、その反動は自分に返って来ます。
 けれども、何度でも使い鍛えて行かなければ
 それを使いこなすことはままならないでしょう。使いどころを良く考え、
 後々困らないようにしておくことが肝要なのです。
 貴方は私、私は貴方なのですから……」

おぞましい屍鬼達との出来事を指して言っているのだろうか?
石川はあの時、自分に何かが起こっていること以上は、
あまりにも懸命だった為か、一切覚えていない。
気がついた時には、保田とそして不思議なあの人形がいるだけだった。

つかの間その事を考えていると、女性はいつの間にか消えていた。
尚も、フワフワとした感覚に違和感を覚えていた石川は、
やがて目覚めると、そこが保田の背中の上であることを知った。
いつの間に保田に背負われていたのだろう?
83  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:30
「よく眠れた?」
「あ……、はい、……降ろして下さい、もう大丈夫です」

保田も疲れている筈だ。
寝入ってしまった自分がなんだか申し訳無いような気がした。
保田は前を向いたままだが、怒っている様子は無い。

「保田さん、あの……」
「何?」
「夢……、見たんですね……、
 あの、無闇に力を使ってしまうと自分に返って来るとか……」

話を聞いている保田は妙に優しかった。
石川はまだ自分に起きたことに確証を持てないでいるようだったが、
間近に見ていた保田としては、石川の今の状態は納得出来るものである。

「……うん、分かった、
 石川すごく疲れてるからさ、まず体を休めようよ、それからなんか食べよう、
 ウチら、昼間からまだ何も食べて無いんだよ」

石川は小さく頷いた。街灯だけに照らされた闇の世界は、
全く寒さを感じさせない。或いは小春日和かとさえ思えて来る。

「ちょっと、アンタ! どこかこの辺に休めて食べれるとことか無いの?」

保田は強い口調で自分達に付いて来る人形に言った。
ぶしつけに言われたら、誰でも腹が立つほどの言い回しであったが、
人形は待ってましたと言わんばかりに二人を先導し始めた。
しばらく歩き続けると、外の景色とは余りに対照的な、
目も眩むほど明るく照らし出されたコンビニエンスストアにたどり着いた。
もちろん、店の正面には黒い縁取りが付いている。
84  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:32
店内は静かだった。空の本棚や見あたらない時計など、
所々におかしな箇所が散見されたが、そこまで気は回らなかった。
自分の言った通り、座って食事の出来るスペースが店内に
設けられていることが妙に嬉しかった。
保田は腰を下ろすと、食事とは別に、そのまま目を閉じて
目の前のテーブルに突っ伏したいという衝動がにわかに頭をもたげた。

「保田さん、何食べます?」

食べるべきか、眠るべきか、自分の行動を天秤にかけていると、
弁当の棚の前から石川が問いかけた。

「なんでもいいや、任せる」

保田は結局食べる方に決めると、
自分も席を立ち、ペットボトルの棚へ向かった。

「石川、何飲む?」
「なんでもいいです」

保田は買物カゴを手に取ると、無造作に飲み物を放り込み始めた。
石川は電子レンジで弁当を温めている。

「それで、アタシのは何?」
「中華丼です」

保田は今だったら何を食べても美味いだろうと思った。
85  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:34
二人はデザートには小さなケーキを食べた。石川は既に三つ食べている。
いくら好きとは言え、又、食べ盛りの年頃とは言っても、
少々食べ過ぎではないだろうか? 保田は一瞬、安倍の姿を思い出した。

「ちょっと食べ過ぎじゃない?」
「え? あ、はい。じゃぁもう一つだけ」

数えていた訳では無かったのか、石川は改めて自分の食べた数を数えると、
少し照れたように笑った。

「ところで、これからなんだけどさぁ」

一応の空腹は満たしたが、問題はそれから先のことだった。
石川と二人でこうしているものの、これからどうすればいいのだろう?
あの人形は少し離れたところに座っている。遠慮しているのだろうか
その距離はいつも一定に保たれているように思えた。
仕草を見ていると、保田のポーズと同じ動きをしている。
真似されているのだろうか? 今は頬杖をついた考える人のポーズだ。

「保田さん、色が……」

石川に言われて気付いたが、人形の体色がさっき迄と違っている。
初めに見た時は安い金色だった筈が、明らかに高そうな金色に見える。

「本当は純金なのかな?」

これが全部純金だったら時価にしていくらだろう?
ボーっと眺めていると、突然人形が席の上に立ちあがった。
いつも距離を保っている筈が、すごい勢いで保田に詰め寄って来る。
時価などと考えていることを見透かされて怒ったのだろうか。
86  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:36
人形は指の無い手で保田の袖を引っ張ると、
もう片方の腕は店の外を指している。

「私達に行けと言ってるんでしょうかね」

人形の突然の行動に、保田よりも驚いていた石川が、
その動作を見て言った。およそ、その通りだろう。
人形は自分の腕を振ったり、保田の腕を引っ張ったり、
何故だか急かしているように見える。

「行ってみようか?」
「そうですね」

このままここにじっとしていても、先々の方向が見出せないので、
人形が促す行動に乗ってみることにした。

「大丈夫? 今度は眠らない?」
「眠りません、さっきはスイマセンでした……」

石川が赤面しながら言うと、二人は立ち上がった。
人形は保田から離れ席から飛び降りると、小走りに出口へ向かう。

「ちょっと、アンタ! そんなに急がないで!」

人形の行動に乗るとはいえ、ペースまで巻き込まれるつもりは無かった。
どちらかと言えば仕方が無いから行くというニュアンスに近い。
保田の声に釘を刺されたのか、相変わらず全身は急いでいるものの、
人形は小走りを止めた。
87  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:38
矢口が目を覚ますと肩がやけに重い、
なんだろう? このズッシリと来る感じは……、
目を開くと、加護と辻が自分の両肩にそれぞれ頭を乗せるようにして寝ている。
三人はコンビニのレジカウンターに背をもたれ、
ショーケースの中の人形のような形で眠っていた。

「今日はこんなのばっかりじゃん」

矢口は自分の両肩を担がれたり、走り回る二人を追いかけたり、
ほぼ加護と辻のペースでここまで来たことを振り返った。
二人は遊び疲れた子供のように眠っている、
……と言うより子供そのものである。
二人の真中にはスペースが出来ていて、加護と辻の手は
まるでその空間と手を繋ぐように伸ばされている。

「これだけどさぁ……」

矢口には依然何も見えなかった。自分の手をそこに伸ばしてみても、
ただの空間に、むなしく手刀を繰り出しているだけに過ぎなかった。
しかし、加護も辻もここに来る迄の間、泣き事は言っていない。
むしろ楽しんでいるようにさえ感じられたのは、
矢口に見えないソレのおかげなのだろう。
二人は眠りながら、その手を握り直している。

「それはそれで助かるんだけどね……」

矢口は独り言を続けた。
別に悔しいということは無く、結果的には自分も救われていると考えると、
矢口にはそれで良かった。
88  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:40
「よいしょっ……」

矢口は起こさないように、静かに自分の肩から二人の頭を外し立ち上がった。
コンビニだ……。勝手気ままに走り回る加護と辻を見失わないように、
懸命に追いかけていた矢口であるが、この店に入る直前のことは覚えていない。
とにかく疲れたので休みたかった……、そのまま飛び込んだのがこの店だった。
結局そのまま三人で眠ってしまったらしい。

店の外は既に日が暮れている。
矢口は真っ直ぐに食べ物のあるコーナーへ向かった。
考えてみれば、自分達はあれからまだ食事をしていない。
ずっと、おかしくなったのかと思えるほど楽し気な、
加護と辻を追い続けていたのだ。

「……矢……口さん?」
「う、う〜ん……」
「待ってて、今何か食べる物持ってくから」

二人は背伸びをしている。矢口以上に疲れている筈だが、
起き抜けの印象は、矢口よりも疲れていない。
若さ! ……と言うより子供! ……と言うことだろうか。

「えへへへ、これがいいです」

加護が抱き着いて来た。二人はジッとしていられないらしい。
辻はしばらく矢口に見えないモノとジャレていたが、
しばらくするとコンビニの袋を物色し始めた。
やがて一番大きな袋を確認すると、それを二つ持ち飴玉のコーナーへ向かった。
89  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:42
辻は次々に飴玉の封を開けると、
コンビニの大きな袋の中に、その中身を移し始めた。

「ちょっと辻! 何やってるのよ」
「てへへへへへへ……」

しばらくすると二つの袋は満杯になった。
辻は袋の口に左右の腕を肩まで通すと、満足そうな笑みを浮かべた。
重ねて言っておくが、これは世間の日常ならあくまで犯罪である。
犯罪であるが、異常事態と言うことで納得していただきたい、
……と言うより彼女らは既に、自然と納得している。

矢口と加護は弁当を選ぶと、飲み物と一緒に買物カゴに入れ、
レジカウンターの前へ運んだ。店内には座って食べるスペースは無かったので、
温めた後は、直接床に置き、直に座って食べた。
遠足、或いはピクニック……、そんな気分である。

三人で向かい合って座っているが、相変わらず加護と辻の間には
一人分の空間が設けられている。二人は時々そのスペースに向けて
何かを語りかけている。

「ねぇ、今どうなってるの?」

矢口は単純な興味で自分に見えないソレの事を二人に聞いた。
しばらく空間を見つめてから辻が口を開いた。

「いろがきれいになってるのれす」

加護の手は空間の途中で止められている。
矢口に見えないソレのどこかに手を置いているのだろう。
二人には手応えまであるらしい。
90  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:44
「なんだよ、お前ら」

人形の後を追う保田と石川の行く手に何者かが現れた。
体を持たない頭だけが、その大きな耳を翼のようにはためかせ滞空している。

「アンタ達こそ何よ……」

現れたのは総勢五体、どうやらこちらに因縁をつける気らしい。
因縁だけならまだしも、攻撃の姿勢まで見せているのは性質が悪い。
妙に強気な保田に、石川は内心ハラハラしていた。
当の保田自身にも何も確証は無い。言い返してはみたものの、
自分に何が出来るだろう?
保田は厳しい表情で前方の相手と睨み合いを続けた。

すると、石川の上半身が淡く輝き出し、女精が出現した。
あの時と同じだ……、保田が横目に石川を見ると石川自身も驚いている。
そうだ、石川にとってはこれが初見になるのだ。

夢で見た女精の出現に石川は言葉を無くしていた。
石川の女精は、何やら呪文を唱え始めている。あの時の魔法だろうか?
しかし、目の前の相手には全く通用しないようだった。
魔法には、効果相性が厳然と存在しているらしい。
効果が無いことを悟った女精は、違う魔法を試み始めた。

「へっへっへっ! こりゃいい、俺達を回復してくれてるぜ」

空飛ぶ頭は弱まるどころか、ますます元気になっている。
それに反比例するように、石川の顔はどんどん弱気になっていた。
嫌な兆候が増している。保田は石川から不意に人形の方へ目線を移した。
顔のパーツの無い人形は、確かに自分に向けて頷いたように見えた。
91  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:46
すると、保田の上半身が輝いた。
頭上には黄色いペンタグラムが現れ、その中から獣が姿を現した。
大きい……、召喚された獣は保田の二倍以上の大きさに見える。
それもただの獣では無い、ライオンの体に、コウモリの翼、
そして、蠍の尾を持っている。
血の色の体色に、光るような群青色の目は、人間の顔のようにも見える。
見た目のインパクトは誰よりも凄まじい。

石川は目を丸くしてそれを見ているが、
保田自身は驚くと言うより、その、木の節を無理矢理継ぎ足したような外観に、
勝手にアートを感じていた。現代美術のような魔獣……、
今の状況とはまるで無関係な楽しさを覚えていた。

それを見た頭達は、矢庭に氷の礫を飛ばした。
魔獣は頭達の攻撃を巧みにかわすと、
素早い動きから、鋭い牙と強靭な前足で瞬く間に三体を葬り去った。
その桁違いの攻撃力に観念したのか、残りの二体は、
自爆に近い形で魔獣のもとに散った。

「くっ……」

特攻とは予想外だった。
召喚することによって、人外の力が顕在化しているものの、
保田は想像以上にダメージを受けてしまった。

「待ってて下さい」

石川の女精が今度こそ本来の意味での癒しを行った。
保田は自分が回復していることに感激しながら、石川が癒し系なら自分は、
『癒され圭』などと考え、一人ほくそ笑んでいた。余裕も回復しているらしい。
92  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:48
石川は自分の頭上の女精と、保田の頭上の魔獣を交互に見ながら、
ディズニーの映画を思い出していた。魔獣は姿こそゾッとしなかったが、
保田が呼び出しているということで、むしろ頼もしくもある。
しかし、さすがにそれを面と向かっては口に出せず、
こみ上げる笑いと遠慮の間で、くすぐったい思いに駆られていると、
存外、保田が口を開いた。

「石川とアタシの、『美女と野獣』だね」

保田は笑っている。
その笑顔を見て石川も安心して笑うことが出来た。
気兼ね無く笑い続けていると、脇腹を軽く突つかれてしまった。

「ちょっと笑い過ぎ」

ちょっとどころでは無く、相当笑っていた筈だ。
石川はハッとして笑いを止めたが、保田の口元もまだ緩んでいるのを見ると、
またしばらく笑ってしまった。
初めての召喚にも関わらず、思いの外戦闘をこなした保田は、
本人が思う以上に疲れているように見える。石川は自分に何かが起こったあの時、
何故気を失ってしまったのかが分かった気がした。

「行きましょう……」

今度は自分がお返しする番だと感じたのか、
多少よろけてしまう保田を肩で支えながら、石川は人形の後を追った。
93  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:50
三人は食事を終え、矢口がゴミをまとめていると、
加護と辻が、また騒がしくなり始めた。
決して広いとは言えない店内を走り回っている。

「もう……、またかよ……」

ムッとしたが放っておくことにする。ゴミをまとめた袋の口を結んでいると、
二人はそのまま出入口に向かっていた。

「お、おい!? 加護〜! 辻〜!」

二人はそのまま店の外へ飛び出して行ってしまった。
一瞬呆気にとられた矢口は、すぐに我に返り二人の後を追った。
本当に世話が焼けると言うか、目が離せないと言うか……。

「うわ……、参ったなぁ、どうするんだよ」

矢口が外に出た時には、既に二人の姿は見当たらない……。
遂に、はぐれてしまったのか?
矢口はなるべく通りの見通しの良い所から、四方八方を探した。

「お〜い、加護〜、辻〜!
 勘弁してよ、お子様二人は本当にもう……」

見つからない……、これで本当にはぐれてしまったら事だ、
少しキツく怒っておくべきだったのか?
あれこれ考えながら辺りを見回していると、矢口の向いている反対方向から、
うなるような音がした。
94  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:52
「あっち!?」

矢口は音のした方角へ向けて走り出した。
ビルの角の向こうから何やら音がする。
見つけたと思いその角を曲がると、途端に腰が抜けてしまった。

二人の前方には六体の小鬼がいる、
そして加護の頭上には雪だるま、辻の頭上にはハロウィンのカボチャが
浮かんでいた。既に戦闘状態らしい。

辻のカボチャが火を噴いた。さっきの音はこれだ。
続いて加護の雪だるまが吹雪を放つ。小鬼の一体が凍り付いた。
小鬼も負けている訳では無かった。
衝撃波だろうか、外れた攻撃は二人の後方の街灯を破壊し、
命中した加護の雪だるまは痛そうな顔をしている。ダメージを受けたのだろう。

矢口は座り込んだままその光景を見ていたが、
小鬼をニ体倒したところで、二人は急に元気が無くなってきた。
放つ火炎も吹雪もさっきほどの勢いが無い。
どうやら疲れが出始めているようだ。
改めて、無闇に走り回る二人を怒っておけば良かったと思う矢口であったが、
その時、ハッキリと見えた。

加護と辻の横に金色の人形がいる。その様子はひどく慌てていて、
大きなアクションで矢口を手招きしている。

「オイラに来いって言ったって……」

しかし、このまま放っておく訳にもいかない。
小鬼達は、怒っているのかますます熱くなっているように見える。
95  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:54
二人の許に駆け付けると、人形は加護と辻の間に立つように矢口を押した。
なるほど、確かに触られている。
真中に立ったものの、どうすればいいのだろう。
眼前の鬼は小さいとは言え、凄まじい形相になっている。

「それで、オイラはどうすればいいんだよ〜!」

人形に向けて矢口が言ったその時、上半身が淡く光り始めた。
頭上に青い五忙星が現れると、続いて狐が出現した。
カップ麺の景品にでもありそうな、どこかユーモラスな姿だ。

「わっ!? 何だコレ! 狐じゃん!」

矢口の狐は何やら舞いを始めた。
その滑稽な踊りに、矢口は吹き出してしまったが、
正面の小鬼達も爆笑している。人形が矢口の足元を突っついた。

「今のうちに逃げるよ!」

それが何の合図か悟った矢口は、加護と辻に大声で言った。
しかし二人は動かない。怪訝に思った矢口が二人の顔を覗き込むと、
目がもうろうとしている。そこまで疲れているのか?

「とにかく逃げるんだってば……」

仕方が無く、矢口は立ったままフラフラしている二人を、
力づくで動かすことにした。小鬼は笑い続けている。
そのままズルズルと加護と辻を引きずり、ようやくビルの角を曲がった。
96  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:56
「せめてさっきのコンビニまで戻ろう……」

半分寝ている二人を引きずりながら進んでいると、
突如、前方から激しい風が吹き付けた。
余りの強風に思わず目をつぶってしまったが、目を開くとそこには何も無い。

「今度は何だよ……?」

いぶかしむ矢口は、自分の周囲に影が出来ていることに気付いた。
気が進まなかったが、ゆっくり上空を見上げると、そこには龍が滞空している。

「ホウ……、ココニモニンゲンカ……」

龍がゆっくりと降下して来る。
矢口は後ずさりしたが、逃げて来た小鬼達のことも気になっていた。
その動きを読んでいるのか、龍はゆっくりだが確実に矢口達をビルの壁際に
追い込むように動いて来る。

結局、そのまま壁を背に三人は追い詰められてしまった。
絶体絶命だ、大体、自分の前にいるこれは何だ? 人語まで話している。
矢口は再度狐を召喚すると、狐は再び舞いを始めた。

「……バカニシテイルノカ……?」

龍は笑わない……。
それどころか口調に怒気を含んでいる。
まずい! 却って怒らせてしまったようだ……。
97  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 05:58
「この野郎! さっきはよくも笑わせてくれたな!」

舞いの効果が解けたのか、さっきの小鬼達が追いかけて来るのが見える。
加護と辻は矢口の後ろで実質眠っている状態だ。
矢口の頭上の狐は恐縮したようにおとなしくなっている。

(ガシャン! ガラガラガラッ……!)
「わあぁぁぁぁ!!」

龍の足が伸び、その爪は矢口の上方の壁をえぐり掴んだ。

「チイサスギテネライガクルッタナ……」
「(馬鹿にするなぁぁ!)」

龍は不敵な笑みを浮かべているように思えた。
小さいことはミニモニ。の売りだが、化物に嘲笑される筋合いは無い。
龍は狙いを修正しているようだ。今度こそ駄目かも知れない。
だとしたら、まず自分から食べられよう、その間に加護と辻を逃がそう、
矢口は自分にも見えるようになった人形に、必死でゼスチャーをした。
しかし、無常にも全部を伝え切らないうちに、龍の爪が再び矢口を襲った。

(ガキイィィィィィン!)

凄まじい衝撃と音が辺りに響き渡る。
矢口の眼前に踊り出た魔獣の爪が、龍の爪を弾いた。

「矢口、大丈夫!!」
「圭ちゃん! りかちゃん!」

二人共、自分と同じように頭上にペンタグラムを描いている。
魔獣は龍と格闘を始めた。
98  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 06:00
「痛たっ!」

龍に気を取られていた矢口は、突然痛みを感じるとさっきの小鬼達が、
すぐそばまで迫って来ていた。次々に衝撃波が繰り出される。
基本的に相手の攻撃は自分の召喚者が受けてくれるが、
ダメージはしっかり自分にも伝わって来る。

「石川、矢口達を頼む!」

ダメージを受けているのは矢口だけでは無かった。
眠っていて動かない加護と辻も同様に衝撃波にさらされている。
石川の女精は三人に癒しを開始した。矢口の狐は小鬼に向けて舞ったが、
今度はかわされたのか、効果が見えるのは四体のうちの一体だけだった。
矢口達にはダメージと回復が交互に繰り返されている状況だ。

「矢口! こっちを何とかするまで頑張って」

魔獣と龍の格闘は壮絶だった。その噛みつき合い、引っ掻き合いは
魔獣が虎でこそ無いものの、まさに龍虎の戦いと言えるものだろう。
双方のダメージもかなりのものになって来ている、保田本人も辛そうだ。

加護と辻が突然目を開いた。衝撃波に堪りかねて起きたのだろうか。
加護の頭には白、辻の頭には青の五忙星が現れると、
頭上には雪だるまとカボチャが出現した。
矢口の狐と三つが揃った姿は、とても戦う者の姿では無い。

「か、かわいい……」

石川は思わず呟いたが、雪だるまとカボチャは龍を見ているようだった。
保田の魔獣と龍が組解かれたその刹那、龍の胴体と頭を目掛けて、
それぞれ鋭い氷柱と強力な火炎が放たれた。
99  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 06:02
「グッ、グウゥゥゥ……」

龍は苦悶の声を残しその場から消滅した。
保田のダメージも相当なものであったが、
そのまま小鬼達に魔獣を差し向けると小鬼達は一目散に逃げて行った。
矢口達はすっかり回復したようなので、石川は続いて保田の癒しに努める。
このダメージでは少しかかるかも知れない。

「大丈夫ですか?」
「ありがとう……」

保田は脂汗をかき、肩で息をしている。
癒しを続ける石川とて、決して楽な訳では無い。
保田がある程度回復すると、石川も召喚を終了した。

「圭ちゃん、りかちゃんありがとう、……助かっちゃったよ」

明るく言う矢口もやはり相当疲れている様子だ。
一行は取り合えず、矢口のいたコンビニで夜を明かすことにした。
再び眠ってしまった加護を保田が、辻を矢口と石川が二人で運ぶことにする。
移動しようとすると、一行の前に全く同じに見える二体の人形が立っていた。
そのまま見ていると、二体は後ずさりを始め、
お互いを目掛けて勢い良く走り出した。

「危ないっ!」

保田が叫び、石川が思わず目をつぶったその瞬間、人形は一体にまとまった。
どちらに吸収されたのでも無く、計ったように均一な結合だった。
人形は照れたように頭を掻いている。その体色は安い金色に戻っていた。

                                  < To be continued >
100  920ch@居酒屋  2001/01/15(Mon) 06:04
中澤「>>77さん、>>78さん、>>79さん、>>80さんおおきにな、
   この物語、割と地道に書いてますねんけど、
   ここに来て作者の本業が修羅場になる可能性が大ですねん、
   万一の時は、そのまんま見守ってやって下さい」
平家「修羅場って何?」
中澤「ウチの同僚が大病になってしもてな、
   その分の仕事がこっちに押し寄せて来てるねん……、
   まぁ、いよいよになったらその旨は書くつもりやねんけど……」
平家「大病って何?」
中澤「ネタに絡めるのもどうか思うんで、いよいよになったらな……、
   連載は出来るだけ中断せえへんように心掛けるつもりやねんから、
   この話は取り合えずここまで……」
平家「大事にならへんとええね……」
中澤「>79さん、なっちとガネーシャ、
   『あとがき』とか書ける時になったら、ウチらとその召喚者達について
   少し書いてみたいと思うてますねん、
   よかったら、そこまでこの物語に付き合うてやって下さい、
   ……せやけど、みっちゃんの頭上にはアレやね『貧乏神』が見えるね」
平家「なんでやねん! 『疫病神』の次は『貧乏神』かい!!」
中澤「(ハッハッハッハッ……) 次回は『2001,1/22未明』予定です。
   まぁまぁ、そない怒らんと……、『貧乏神』は丁重にもてなされるとな、
   『福の神』に変わるねんで。みなさん、みっちゃんも是非応援したってな。
   ……ほな今日はこの辺で、バイバイなぁ〜〜」
101  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/15(Mon) 06:11
更新おつかれさまです。本業に差し障りのない程度に頑張って
ください。
『あとがき』を読むのが楽しみのような、その時が来るのが
淋しいような…そんな感じです。
102  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/15(Mon) 07:09
召還者たちも出そろってきて、話も佳境に入ってきましたね。
続くのが分かっていれば、不定期の連載でも全然構わないので。
無理せずにどうぞ。
103  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:30
中澤「みっちゃんの新曲もいよいよ来月発売やん、
   良かったなぁ〜、これで又、ガンガン人気投票やね」
平家「おかげさまで首の皮一枚の所でつながりました。
   ゆきどんの曲も上位に入ってますし、
   ここは鬼のような組織票で、平家みちよも再びド〜ン、とひとつ、
   ……って何を言わすねん!」
中澤「自分で言うとるだけやん、
   せやけどな、ウチも物書きの真似事とかしてるやん、
   こういうの『日曜○○』って言うんかな?」
平家「『日曜小説家』とかやろね、
   自分で言うのも恥ずかしいけど」
中澤「みっちゃんはアレやね『日曜歌手』」
平家「なんで『日曜歌手』やねん!
   ロック・ヴォーカリストやっちゅうねん!」
中澤「せやった! 『日曜ロック・ヴォーカリスト』!
   で、みっちゃんの本業は何?」
平家「……それが本業やっちゅうねん!!
   ホンマどついたろか!」
104  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:32
< 5th Affair >

口寂しさから目を開くと、そこは漆黒の闇であった。
星一つ無い、聖なる闇……。その空間に中澤は立っている。
立っている? 確かに足の裏には感触がある、浮かんでいる訳では無かった。

アルコールが切れてからどれ位になるだろう、
中澤はこの世界に来てからというもの、中毒の禁断症状にも似た気持ちになる時、
決まってこんな夢を見るようになっていた。

ただ、今日の夢がいつもと違うのは、
そこに自分以外の気配が感じられることだった。

「誰? 誰か居るんかい?」

夢はいつものこととしても、他者の気配がするのは初めてである。
周囲を見渡しても、そこは何も無い闇。中澤は自然と警戒し身構えていた。

「ハ〜イ!」
「わあぁぁぁぁぁ! 出たあぁぁぁ〜!」

背後から何者かが腕を絡めて来た。
驚いた中澤は自分でも信じられない程の力でその者を突き飛ばすと、
慌ててその場を離れ、後ろを振り返った。

「失礼しちゃうわね、そんなに驚かなくたっていいじゃない」
105  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:34
そこには、自分の召喚者が立っていた。
コウモリの翼を持つ小柄な女魔、その見事なプロポーションは、
中澤の理想の具現化とも言えるものである。
中澤はいつも見とれてしまうのだが、
その際どいコスチュームは、いつ見ても恥ずかしいものであった。
女魔の顔をまじまじと見つめるのはこれが初めてであったが、
そのプロポーションにたがわず、美人であった。
上唇からは小さな二本の牙がのぞいている。

「は、はじめまして……」

とっさに、中澤は挨拶をしていた。自分でも何を言っているのかと思ったが、
元来極度の上がり症だ、増して眼前に居るのは、女性の目から見ても
相当エッチな姿の美人である。中澤の顔は真っ赤になっていた。

「アタシはサキュバス。貴方の分身……。
 アタシには昔からいろいろ誤解も多くてね、性的欲求不満の幻覚だとか、
 大きなお世話よね、あんまりいろいろ言われてるんで、
 少しお話しておこうと思って。
 アタシは格闘は苦手よ、痛いのは嫌いなの。
 その代わりアタシに対する魔法は全て無効だわ、
 神聖系のモノを除いてね……」

格闘は苦手、どこかの対戦格闘ゲームに対する当て付けだろうか。

「ダメージを回復する時は、他から癒されないでね、
 アタシは他からエナジーを吸い取るの、フフフフフフ……」
106  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:36
女魔は不気味に笑う。その姿は魅惑的ではあるが、同時に恐ろしくもあった。

「そうそう、貴方口寂しくて困っていたわね、
 目が覚めたらスタンドの下を見てみるといいわ、
 それじゃぁね、アタシの分身……」

女魔は中澤に軽く口付けをして消えた。
周囲の闇は消えていた。閉じたままのまぶたから部屋の中が見えている。

そのまま目を覚ました中澤は、何気無く脇のスタンドに目をやった。
そこには小さな瓶が置かれている。
闇の色の黒い小瓶は、光にかざしてみると、
わずかながら不透明では無いことが分かった。
中澤は怪訝な表情のまま栓を外し、中の匂いを確認してみた。

「(!) こ、これ……」

感激すると少量を口に含んでみた、美味い……。
これは、今まで口にしたどれよりも美味い酒かも知れない……。

「あっ! 裕ちゃんそれ何だべ?」

思わず含み笑いをしている中澤の手元を、安倍は目ざとく見つめている。
その目は獲物に狙いを定めた鷹の目だ。

「えっ!? な、何でも無いねん、ウチの薬や、く・す・り」

危ない危ない……、中澤は大っぴらに飲むのは芳しくないと思った。
特に安倍には要注意だ。万一その手に渡ったなら、
一気に飲み干されてしまうかも知れない。中澤は小瓶をそっと手で覆い隠した。
107  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:38
このホテルに入ってからもう何日が経過しただろう。
確かに休息場所としては申し分無かったが、一行は次第に不安を感じていた。
残る五人と合流し、この世界を離れようとする中澤達五人は、
昼間はホテルを出て、自分達の今いる世界を把握するため探索を続けている。
しかし、気味の悪いことにどこへ行くにも必ず一行の視界には宿泊している
このホテルが入っていた。部屋へ帰る時なら近くて良いかも知れないが、
付け回されているという、嫌な感覚が絶えず付きまとっている。

悲しく変化してはいるものの、東京タワーが見えると言うことは、
一応ここは東京なのだろう。しかし、常に目の前を付きまとうホテルの存在は
一行の地理感覚を惑わせ、その把握は一向にままならなかった。
今、自分達が探索している場所は、東京とは名ばかりの迷路、
或いはランダムに繋ぎ替えられたパッチワークのようだった。

「みんな、用意はええか? ほな行くで」

それでも探索を止める訳には行かない。何らかの手掛かりが欲しい、
それはあたかも毎日の仕事のようになっていた。

ホテル内も様々なことが分かった。あれ以来13階には行っていなかったが、
ポルターガイストは日によりその活動に差があること。
ホテル内で自分達の動ける範囲が、実は限定されていること、
それは自分達の部屋と入口までを結ぶエレベーター、
そして13階までを結ぶ階段だけであった。

空間に見える場所は見えない壁があるのか、それ以上進むことは出来ず、
自分達が焼いた壁以外の箇所は、毎日の探索による召喚で
確実にレベルを上げている安倍の象の火炎でも、
飯田の甲冑による物理的な打撃を持ってしても決して破ることが出来なかった。
108  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:40
このホテルそのものに囚われている……、
口には出さずとも皆そう感じている筈だ。
違うとすれば各人の事態に対する捉え方だけだろう。

後藤と吉澤はそれほど深刻には捉えていないようだった。
自分達を惑わすホテルとは言え、その行動範囲内には必ず、
あの黒い縁取りをしたコンビニがあるので、食と住は確保されている。

衣も下着類までなら決して在庫を切らせることの無い、
不思議なコンビニで調達出来る。
それ以外のものは、いよいよ必要になったら
無理矢理探し出して調達すれば良い。
それよりも、あくせくと時間に追われない今の状況の方に、
まだまだ捨てがたい魅力を感じていた。

安倍もそれほど深刻そうな素振りは見せない。
ポケットにはいつでも何らかの食べ物が常備され、
コンビニに行けば、それがいつでも調達出来る。
補給が行われる度に、安倍はこの上なく幸せそうな顔をした。

そうなると、深刻な捉え方をしているのは
中澤と飯田だけということになるが、
飯田は、それがいつもの交信である場合も多々あるので、
実質的に一番顕著に杞憂を描くのは、中澤だけなのかも知れない。
中澤は他のメンバーにどうこう言うつもりはなかったが、
自分だけでもしっかりしていなくてはと、
存外、柄でも無いことを常々考えていた。
109  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:42
街は昼間であるにもかかわらず、水を打ったような静寂だ。
繁華街であっても、日曜日のビジネス街より更に静かな世界である。

道行く一行の頭上に、大きな三羽の鳥がクルクルと旋回を始めた。
中澤は立ち止まると、ジッと上空を見上げている。
程無く一同の前に降り立った三体の人型のモノはそのまま中澤と対峙した。

「知り合いだべ?」

安倍は軽く言ったつもりだったが、
どうやら、そう穏やかな事態では無いらしい。

「ほほぅ、あなたはいつぞやの人の子ですね……」
「……はて? おかしいですね、あなたの心の中が読めない」
「あったり前やないかい! この間の事、倍にして返したろか!」

中澤は気色ばんでいた。あの時のことは、正直まだ根に持っている。
召喚直前の状態のまま臨む中澤に、三体の天使は冷たい面持ちで言った。

「魔の者に魂を売られたのですか……、
 汚らわしき者は葬り去らねばなりません」

ゆっくり上昇を始めた天使達は、前傾姿勢に入ろうとしている。
電撃に備えて、中澤も即座に女魔を召喚した。

(ピシャッ!)

果たして電撃は放たれ、それは的確に中澤と女魔を撃った。
しかし中澤自身、自分でも拍子抜けするほどダメージが無かった。
110  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:44
(ピシャッ! バリバリ!)

幾度となく放たれる電撃は、
ついぞ中澤にダメージを与えることが出来無い。
夢で言われた通り、女魔が魔法を無効にしているらしかった。
天使が魔法を止めた。しばしの沈黙を挟むと、
女魔は何やら人語では解せない呪文を唱え始め、軽く印を結んだその刹那、
三体の天使は恐怖と苦悶の表情に、次々と悲鳴を挙げながら消滅した。

「すごいね、裕ちゃんには魔法効かないんだ」

呪殺だったのだろう、後藤の声は関心有り気に弾んで聞こえたが、
安倍と飯田の目は非難気味に見えた。

「裕ちゃん酷過ぎ!」
「せやね……」

飯田の口調は怒っているようだったが、
中澤とて決して後味の良いものでは無かった。
ここまで劇的に魔法が効いてしまうとは予想だにしなかったのだ。

「今のは……、嫌やな……」

そのなんとも言えない幕切れに、
中澤は呪殺だけは控えて行きたいと思った。
もっとも自分の中の召喚者は、どう思っているのか定かでは無いが……。
111  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:46
一行の道中には昼夜を問わず、様々なモノが出現した。
そこでの召喚は、結果的に実地を兼ねたトレーニングとなっているが、
時には思わぬプレゼントを受けることもある。

「ガルルルル……」

一同の前に骨いっぱいの魔犬が現れた。
全部で六体。今の各人のレベルなら造作も無い相手だ。

「どないしよか?」
「裕ちゃんやっちゃってよ」

後藤が気の抜けた声で言う。
眠らせるのにもそろそろ飽きて来た相手である、
女魔を呼び出そうとすると、魔犬の方から下手に出て来た。

「マ、マッテクレ、アラソウツモリハナイ……」
「せやったらなんのつもりやねん?」
「ヒトクチデイイカラ、カジラセテクレ……」

思わず笑ってしまった。
かじらせてくれ? 争うつもりと同義だぞ、それは……。
112  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:48
「アホなこと言わんと、とっととどっか行きや」
「……ダメナノカ?
 ……ソレナラオマエタチマルカジリ!」

……短絡的な相手だ。
中澤が女魔を召喚すると、
女魔は中澤の予想外の、実に悩まし気な舞いをした。
いつもと違うその振る舞いに、一同が赤面していると、
魔犬達が同士討ちを始めた。魅惑の魔法が決まったらしい。
その間に、この場を立ち去ろうとする一行に、
魔犬の一体が言った。

「アンタステキダナ……、コレヲヤルゼ……」

魔犬の体から抜け出たのは、濁った煙のように見えたが、
それを受けた中澤の気力は、ホンの気持ち分だけ回復した。

救いようの無い同士討ちを続ける魔犬達を後に、
一行はその場を離れたが、
中澤は呪殺は嫌なので、出来るだけ催眠や魅惑を使いたい、
……そう思った。
しかし魅惑は、魔法をかける時の女魔の仕草が相当恥ずかしいので、
改めて、出来ることなら極力催眠を使いたいと思った。
113  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:50
散々歩き回った挙句、今日もまた期待した収穫は無かった。
ジェンキンにもこの所目立った変化は見られない。
収穫と言えば毎日のコンビニからの調達品位のものだった。
安倍にとってはそれが何よりの収穫だろうと思えることも
度々あったが、いつしかそれ自体も、
この世界での一風景として流れて行くようになっていた。

「これ誰のサ?」
「さぁ? かおりは知らないよ」
「誰の物でも無い? したらそれはなっちの物っしょ」

夕食前の一時、
テーブルの上には未開封の棒状チョコレート菓子が置かれていた。
10箱以上はあるだろうか、無造作に置かれたソレは
放置してあるようにも見える。
誰かがコンビニから持ち帰ったものには違い無かったが、
安倍の目はターゲットを捉えると解析を始めた。
……なんだ、自分達がCMしている商品ではないか。

安倍はバリバリと箱を開け始めると、
草木を貪り食う象のように、束にして口に運び始めた。
ブルドーザーを凌駕するその光景に、飯田も久々に絶句している。
全部食べてしまうのかと思っていると、
残り四分の一はしっかりポケットに収めた。
114  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:52
トイレにでも行っていたのだろうか、
少しして戻って来た後藤はテーブルの前に立ち止まると、
そのままキョロキョロと辺りを見回している。

「ごっちん、どうしたべ?」
「うん……、
 さっきここにいっぱい置いておいたアタシのお菓子……」
「あぁ、あれごっちんのだったべか、
 なっちがみんな食っちまったべ」
「えぇ〜……、ひど〜い」
「食っちまったもんは仕方ないベサ、
 代わりにこれを食べるといいっしょ」

そう言うと安倍は、自分のポケットから別の菓子を差し出した。
その数は尽きる様子が無い……。
一体そのポケットにはどれ程の菓子が内蔵されているのだろう?
後藤はその姿に『未来の世界の猫型ロボット』をだぶらせていた。

その後も安倍は、三個の弁当を完食した。
いつでも平然としていた安倍だが、
やはり周囲の視線を無視する訳にも行かなくなって来たのか、
最近は、自分の象が食べたいと言っているから、
という理由を付け始めている。

そう言われてしまえば、妙な説得力もあるのだが、
果たして安倍の中の召喚者はそれをどう思うだろう。
喜んで快食快眠に勤しむ安倍は、
自分の象に奇妙な愛着を持ち始めていた。
115  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:54
相変わらず四つのベッドを融通しながら、五人は睡眠を取っている。
その夜は安倍と飯田が一緒のベッドで眠る番だった。
縦長体型と横長体型、しかも頑固者同士と来ている。
どうなるのか見物と言うべきか、ほどほどにと言うべきか、
一同はとにかく眠りについた。

初めて召喚した時から比べれば、各人のレベルは確実に上がっている。
召喚回数や時間にも余裕が出て来ているし、新たな魔法を身に付けてもいる。
しかし、昼間の探索で曖昧模糊とした街をさまよい歩き、
様々な人外のモノと遭遇もしていれば、やはり疲れない筈は無かった。

現実世界の日常と違う点は、
その疲れが過密スケジュールから来るモノでは無いということだった。
心労の質の違いからか、メンバーの顔は心なしか丸くなっているようにも見える。
安倍にとってはその丸さが要注意だった。

(バタン!!)

凄まじい音に中澤は思わず目を覚ました。
音の主はすぐに分かった。案の定、安倍と飯田がスペースの奪い合いをしている。
今ベッドから落ちたのは飯田だった。
飯田は、しばらくブツブツ言うとゴソゴソとベッドに戻った。

(ドタン!!)
「(クスクスクス……)」

今度は安倍が落下した。
安倍はしばらくボーっとしていたが、そのままゆっくりとベッドに戻った。
どうやら二人とも寝ぼけたままのようだ。
その光景はとても滑稽で、中澤は思わず笑ってしまった。
116  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:56
(ガタン! ガタン!)

今度は誰だ?
見ると安倍と飯田は落ちてはいない。
もちろん後藤と吉澤が落ちた訳でも無い。中澤は嫌な予感がした。

「うわっ! やっぱり!」

上目遣いに上を見ると、音がする度に天井が落ちそうにたわむ。
ポルターガイストの動きは日によってバラツキがあったが、
今日のそれはかつて無い状態だ。ジェンキンを見ると点滅が始まっている。

「中澤さん……」
「う、う〜ん……、何、どしたの?」

やはり13階を無視し続けることは叶わなかったようだ。
吉澤は既に体を起こしている。後藤も続いて目を覚ました。

(ガタン! ガタン!)
(ドタン!!)

天井の音と共に、安倍が再び落下した。
相変わらず寝ぼけ眼でいる横っ面を、中澤は軽く張った。

「んん……、なっち、お腹いっぱい……」
「なっち、上や、ウチら13階へ行かなアカン、目え覚ましや」

飯田は微動だにしない、完璧な鉄の眠りに入っている。
張り倒してもビクともしない飯田に、中澤は自分の小瓶を試してみることを
思い付いた。ホンの少量を口に注ぎ込む……。
117  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 04:58
「(!!?) 何これっ!? 口の中が熱〜い!!」

飯田は飛び起きた。目はパニックだったが、既に着替えを済ませ
身支度を整えた四人と、点滅を繰り返すジェンキンを見て事態を悟ったのか、
すぐに落ち着くと、そそくさと着替えを始めた。

「裕ちゃん、上?」
「せや、とうとうお呼びや……」

一同が階段を上がると、その風景はこの間のままだった。
海底を思わせるブルーの空間に無数の水風船が飛び交っている。
そして、広大なフロアの中央に巨大な人型の上半身が形作られている。
この前の退却の時に垣間見たモノだろうか?
13階の主、敷いてはこの奇妙なホテルの主なのかも知れない。

「キタカ……」

人語を発している。やはりそうらしい。
無数に飛び交う水風船はまだこちらには向かって来ない。
まるで、その主に動きを制御されているかのようだった。

「来たくて来たのとちゃうで、
 ウチらの後を建物ごと付け回しとったのは、アンタの仕業かい!」

中澤は啖呵を切った。いずれにせよ、決着の時が来ているようだ、
下手に出るつもりは無かった。

「イカニモ……」
「なんで、そんな乙女の敵みたいなことするのさ!」
118  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:00
飯田の目が険しくなっている。ジェンキンの点滅はピークを迎えていた。

「オマエタチノヨウナモノヲ、シマツスルタメダ、
 コレデサイゴダ、サラバライホウシャヨ……」

お前達のような者とはご挨拶だと思った。
こっちだって此処にこうして居るのは災難のようなものだ。

「みんな、行っくでぇぇぇ!」
「ディアァァァァァ!」

水風船の群れが津波のように押し寄せて来た。量も勢いも前回の比では無い。
それは自然現象の津波を遥かに超えるものだった。

後衛に立つ後藤の人魚がすかさず水の壁を張り、
前衛の飯田の甲冑がその結界の外で水風船を薙ぎ払いながら、
中央の主へ近づいて行こうとするが、今度ばかりは飯田の甲冑でも
ダメージを受けながらの行軍となっている。

「後藤! 回復頼む!」

後藤の人魚は結界を張ったまま、飯田に癒しを開始した。
同時に行うことはかなりの負担になってしまうが、
飯田を潰す訳には行かない。後藤は懸命に気力を集中した。

「ごっちん、がんばれ!」

吉澤の言葉は後藤に力を与えてくれる。吉澤の鳥は、
前回袋叩きに遭っているので、後藤と共に後衛に立ち、疾風の魔法を
繰り出しているが、水風船の大群の前には効果はいまいちのようだった。
119  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:02
「かおり、気張るっしょ! なっちも加勢するべ」

飯田と結界の後ろ、中衛に位置する安倍の象が衝撃波を放った。
火炎の他に身に付けた魔法は、対水風船にかなりの効果を発揮した。
水風船を吹き飛ばすことによって、飯田の体力の消耗を軽減している。

中澤の女魔も安倍と同じ中衛に立っていたが、一人浮き足立っていた。
物理攻撃の相手では魔法無効化も無意味である。
女魔の持つ催眠、魅惑、そして呪殺はどれ一つとして効果が無かった。

「ウチのは出番無しやな……」

苦笑いの中澤に、何処で結界を破ったのだろうか、
突如紛れ込んで来た一群の水風船が襲い掛かった。

「アタタタタタタタタ……」
「裕ちゃん! 待ってろ、今助けるべ!」

安倍の衝撃波は一群の水風船を粉砕したが、
中澤の受けたダメージは想像以上に大きかった。

「ごっちん、裕ちゃんも頼むべ!」
「ふえぇぇ〜、分かった」

かなり疲れて来ている後藤だったが、中澤にも癒しを開始した。

「(!) わっ! アカン! ごっちん、ウチにはせんでええ!」
「えっ!? 何で?」
120  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:04
中澤は女魔の言葉を思い出した。
神聖魔法の回復は中澤にとってはダメージに等しいらしい。
ますます弱ってしまった中澤はフラフラと結界を抜けると飯田の後ろに付いた。

「ちょっと、裕ちゃん危ないからこっち来ちゃだめ!」

飯田の口調は怒っていたが、中澤はお構い無しだった。
女魔は飯田の甲冑の付近で動きの鈍くなった水風船を捕まえると、
次々に口付けを始めた。

「中澤さん何してるのかな?」
「えへへへぇ〜、裕ちゃんエッチだもんね」

後ろの三人が呆気に取られていると、中澤が見る見る元気を取り戻して行く。
どうやら水風船の体力を吸い取っているらしかった。
水風船単体の体力はそれほど多いものでは無いらしく、
女魔に口付けされた水風船はしぼむようにして消滅した。

「(ワッハッハッハッハッハッ……)
 なんやねん、ウチめっちゃ元気やん!」

異常に元気になっている中澤と女魔は、
やがて、逆にこちらから襲うように水風船に口付けをしまくると、
とうとう全ての水風船を消滅させてしまった。

「ナルホド……、ナラバコレデドウダ」

水風船亡き後に浮かび上がったその巨大な上半身は、
人型の器に水を注いだだけのように見えるが、圧倒的な威圧感がある。
水の上半身は無数の、槍のように鋭く尖らせた水流を一同に向けて放った。
121  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:06
「やっとウチの本領やね」

飯田と入れ替わりに中澤が最前列に立った。
中澤の女魔には無効であったが、フロア全体から放たれる水の槍は
女魔だけで無効化出来る量を遥かに超え、
受け切れない分は他のメンバーへと向かった。

「大丈夫、まだ何とかなるよ」

後藤の人魚は、依然、水の結界を張っている為、槍は水の壁に吸収された。
しかし、張り続けられるタイムリミットがもういくらも無いことは
誰もが周知だった。一同はジリジリと水の上半身との間合いを詰めて行く。

「なっちが火炎を放つべ、したらよっすぃが風で切り裂いて、
 かおりが突入するべ」

召喚を続けるにもそろそろ限界が近づいている、一向に衰える様子の無い相手に、
一同は作戦を練った。後藤の結界がそろそろ消え始めてきている。
中澤も体力こそ異常に元気だが、気力は失せ始めている。

安倍の象が火炎を放った。レベルアップの賜物だろうか以前より数段強力だ。
凄まじい水蒸気の発生、そこへ吉澤の鳥が繰り出す疾風が切り込む。
水の上半身の真中に、かまいたちのような空間が開いた、

「かおり! 今だべ!」
「ゴルアァァァァ!」

飛び込んだ飯田の甲冑は、
見る者を震撼させる勢いで水の上半身を中から切り刻んだ。
122  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:08
「ググ……、ソウカ……、ソウイウコトカ……」

声が聞こえた気がする……、
バラバラになった水片は象の火炎により全て水蒸気と化した。

「終わり……やろか?」
「……んだべナ」
「疲れったぁ〜……」

後藤は尻から先にへたり込んだ。
シュウシュウと音を立て続ける水蒸気は、涙雨のように一同を濡らしている。
それを除いては、悲し気な静寂が辺り一帯を包み込んでいた。
飯田は自分の足元に何かが落ちているのを見つけた。
拾い上げてみると、古びた釣針である。しばらく見つめていると、
近づいて来たジェンキンが、身振りでそれを収めろと言っている。
飯田は黙ってそれを握りしめた。

(ゴゴゴゴッ、ピシッ! ガガガガガガ……)
「わあぁぁぁぁ! 今度はなんやねん!」

13階の天井にヒビが入り、ゆっくりと崩れ始めている。
このままでは、周囲の窓が潰れるように砕け散るのも時間の問題だろう。
当たり前だ、そもそもこんな構造の建物が成立する筈が無い。

「みんな! 逃げるべ!」

一同は一目散に階段へ向かった。最後になった飯田が間一髪で階段を降り切ると、
上方の階の潰れる凄まじい音がした。
しかし、自分達の泊まっている12階のフロアも愕然とする状態だった。
見渡す限りの廃ホテルである。
さっきまで寝ていた部屋もボロボロの廃墟と化していた。
123  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:10
「ねぇ、エレベーターも死んでるよ」
「うっそ〜っ! ウチらどうするよ」

廊下から後藤の声がした。
飯田は情けない顔で事の成り行きを嘆いた。

「せやけど、窓の外……」

外は明るくなり始めている。窓からの眺望がやけに低い。
一同が窓の外を見ると、十分飛び降りることの出来る高さに地面があった。

「良かったべ、助かったべ」
「ほな、誰がやる?」
「じゃぁ、アタシが」

吉澤は鳥を呼び出すと、はめ込み式の強化ガラスを、
目で見ることさえ出来るような風の塊で突き破った。

「また泊まる所、探さなくちゃね」
「……今度は付け回されない所にしよな」

伸び伸びしたのか、クルクルと路上で回転している後藤に中澤は言った。

一同は、ようやくおかしな建物から解放されたようだ。
もう建物を離れても、
その視界に常にホテルが入って来ることは無かった。
124  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:12
一行は、朝焼けにならない朝の街を歩いている。
道路は手術中に放置された患者のように、仰々しく囲われていた。

「ウチ、思うんやけどな、
 なんでいつも道ほじくり返しとるねん」

工事現場を横目に一行は先を行く。
かつて、作業中の現場から土砂が吹き上がる事故があった。
今ここが吹き上がったら、何者が出現するだろう。
どこかにキナ臭さを感じながら道行くその時であった。

(ガラガラガラ……!)
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「わあぁぁぁぁ、ホンマにもうかんべんしいや!」

崩落!? 横目に見ていた工事現場より深い位置に一同は落ち込んだ。

「イタタタタタ……、お尻痛〜い、よっすぃ大丈夫?」
「うん。ごっちんつかまって」
「なっち、やっぱりアカンて重過ぎやねん」
「なっち、重た〜い」
「なしてサ! なっちのせいじゃ無いっしょ!」

吉澤はうまくバランスを取って着地し、
そのまま、尻餅をついた後藤に手を差し伸べた。
中澤と飯田の顔は心なしか笑っているように見えた。
安倍はそのことに珍しく憤慨している。或いは半分図星なのかも知れないが、
面と向かって重過ぎは無いだろう。安倍はムッとしたまま、
ポケットからアーモンドぎっしりのチョコレートスティックを取り出すと、
口一杯にほおばった。

                                  < To be continued >
125  920ch@居酒屋  2001/01/22(Mon) 05:14
中澤「>>101さん、>>102さんおおきにな、
   そない言うてもらえると、ホンマ嬉しい限りです。
   みっちゃんは感激のあまり失神して、今だそのままですねん……」
平家「誰が失神中やねん!
   この通りピンピンしとるやないけ!!」
中澤「>101さん、ウチも早く『あとがき』を書きたいような、
   書きとうないような、複雑な気持ちになる事が時々あります。
   みっちゃんの生き様、とくと見たって下さい」
平家「誰の生き様やねん!
   話が逸れとるやないかい!」
中澤「>102さん、ウチも書くつもりで建てたスレです、
   例え平家みちよが前のめりに倒れても、最後まで行きまっせ、
   みっちゃんの最期、是非看取ったって下さい」
平家「なんで看取られなアカンねん!
   『前のめり』って坂本龍馬かい!」
中澤「……せやけど、近頃寒いね……(ズズ……)」
平家「なんで突然呆けるねん! しみじみ茶すすってる場合か!
   アンタのおかげで、こっちは毎回毎回頭から湯気が出とるわ!」
中澤「まぁまぁ、みっちゃんピリピリし過ぎは体に悪いで。
   次回は『2001,1/29未明』予定です。
   最近めっちゃ寒いですね、みなさんも体に気い付けてな。
   ほな、ダ〜イバ〜イ」
平家「締め方まで間違うとるがな!」
126  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/22(Mon) 05:17
やはり書き込み途中でしたか。レスつけなくてよかった。
続きをたのしみにしてます。
127  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/28(Sun) 10:47
なっちが微笑ましい。
楽屋トークにほかのメンバーは出ないんですかね?
128  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/29(Mon) 00:43
なっちと飯田の強力コンビがいいですね。
色っぽい召喚者に照れる姐さんが可愛いです。
129  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:06
中澤「みっちゃん、タクシーの方はどないや?」
平家「聴いてくれてはるの、
   『平家みちよのどちらまで?』」
中澤「先週まで、二回続けて圭坊乗せてたやん、
   せやけど先週のはアカンで、
   圭坊の服をくれとか、電気屋でDVDプレーヤーと睨み合ったまま
   結局買われへんかったとか、リアル過ぎて泣けてきたわ」
平家「(うっ!) DVDは……、
   ……圭ちゃんの服は、処分するならっちゅうことやろ」
中澤「せやけどな、JOQRのサイト行っても、
   みっちゃんの番組告知、何処にもあらへんし、
   ASAYANに到っては晒し者やん、ホンマ、ウチのANNは更新の鑑やね」
平家「確かに、ASAYANはあんまりやね……、
   あの半端な載せ方は嫌がらせかいっちゅうねん!」
中澤「それだけとちゃうで、『一の谷の合戦』とか『壇ノ浦の合戦』とか、
   いつの時代の話やねん、好きに書かれ放題やん、
   みっちゃん、ここはビシッと怒ったらなアカンで」
平家「『源平合戦』かい!
   そんなん、何をどう怒れっちゅうねん!」
130  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:08
< 6th Affair >

群衆の声が聞こえる。興奮と悲鳴の入り混じる声。
人々の出で立ちから見て取れるのは、中世の日本だろうか?
それぞれが意匠を凝らした鎧を身に纏っている。
合戦?
矢口はその光景を空中から眺めている。
その光景が不可思議なら、宙に浮かぶ自分自身もまた不可思議だった。

落ち着かないというよりも、
いつ落下してしまうのかが不安になった矢口は、
辺りを見回していると、
眼前に一匹の狐が、緩やかに人魂がその形を成すように姿を現した。

それは紛うこと無く自分の呼び出している召喚者であったが、
日頃イメージしているよりずっと若い狐だった。
卵の黄身の色をした体は、思わず撫でてみたい気分にさせる。

「オイラ、源九郎。
 オイラはアンタ、アンタはオイラさ!
 何の因果か、アンタに加勢することになったんだ、
 よろしく頼むよ!」

快活な狐の言葉に、矢口はどこか自分と通じるものを感じた。

「オイラ、矢口。
 エヘヘヘヘ、君かわいいね」
131  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:10
狐の細い目は微笑んでいるように見える。
……気が合うようだ、
宙に浮いていることの違和感は、いつの間にか忘れてしまった。

眼下の戦は終盤にさしかかっているようだ。
戦場の空気は死に行く者の悲壮感で覆われ始めている。
狐の細い目は、いつしか悲し気なカーブを描いていた。

「義経公は敵にやられて重傷を負っちまった。
 義経公はオイラと自分が似てるって言うんだ。
 忌の際に、これから自分の身代わりとして生きろって……、
 オイラにそう言った……」

狐は泣いている。
死硝の香りが漂う辺り一面は、悲しくそして虚しい光景と化していた。
義経公……、源義経のことだろうか?

その涙を見た時、
狐は見かけとは裏腹な、様々なモノを背負っているように思えた。
矢口も狐の話にもらい泣きしたのか、いつしかじんわりと涙ぐんでいる。

(ドンッ!)
「痛っ!!」

上半身に鈍痛が走った。
飛び起きると、あの人形を先頭に加護と辻が走り回っている。
矢口は背中を蹴られていた。その隣で石川が痛そうに左腕を抱えている。
どうやら石川も、踏まれた痛さで起きてしまったらしい。
132  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:12
矢口達五人は、合流を果たした後もコンビニを転々としていた。
誰が言った訳では無く、人形が何かをした訳でも無かったが、
当面の間、コンビニが一番安全であるというのが全員一致の判断であった。

一行もこの世界から帰還する術を模索している。
昼間は東京と思われるこの街を探索し、
魍魎の妖気が増す夜はコンビニに泊まる生活を繰り返していた。

しかし、自分達が今居る世界の解明は思った以上に進まず、
何より一同を困惑させていたのは、
不条理に連結された空間の存在であった。

一見何事もない風景が、まるで見えない壁で隔てられているかのように、
ある地点まで行くと途端に別の箇所に飛ばされてしまう。
しかも、そのポイントは不安定であるらしく、常にブレが生じている。
このブレは時に数百メートルにもなってしまい、
手書きで記している地図の実効性を、著しく低いものにしていた。

異なる二つの空間の接合面、即ち裂罅上に留まることは出来ず、
容易に把握出来ない現状と共に、それは先の道のりの困難さを暗示していた。
焦らず行くしかない……、そう腹をくくった時、
布団でもベッドでも、とにかく心地よく眠りたいという欲求が、
一行をこうして寺に泊まる気にさせた。

その寺もこの世界の他所と同様、人の気配は全く無い。
一同は風呂を借り、作務衣を借り、ついでに洗濯までしてしまった。
食料、日用品等はコンビニで調達し、
その夜は、本尊の前に修学旅行のように布団を並べて就寝していた。
133  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:14
そこには、石川達三人が経験したオーディション合宿の緊張感は無く、
あるのは、ひたすら安眠の欲求……、
……であった筈なのだが、
気が付けば、歩きながらでも睡眠を取っているような辻と加護は、
昼寝、……と言うより歩寝の睡眠が効いたのか、
ここに来て、俄然目が冴えている。
しかも、二人にちょっかいを出しているのは人形の方らしい。

「(クスクスクスクス……)」
「(キャッキャッ……)」

二人は人形を追い回している。
声こそ押し殺しているが、やはり静かである訳が無い。

(ドタドタドタドタ……)

とうとう本格的に運動会が始まってしまった。
勢いが付くにつれて、他に寝ている者への被害は拡大し始める。

(ボスッ!)
「(痛ったぁ〜!) ……アンタ達、いい加減にしなさいよ!」

頭を蹴られた保田が遂に吠えた!
しかし、その一喝も聞こえていないのか、
或いは、聞こえた上で逃げ回っているのか、
人形と辻、そして加護は一向に走りを止める気配が無い。
激怒した保田は、やがて『お魚くわえたドラ猫』を追い掛けるように、
自らその後を追い掛け始めていた。
134  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:16
「……、りかちゃん、あっちで寝よ」

呆れ返った矢口は、石川と共に布団ごと部屋の一番角に避難した。
矢口は、そのままふて寝に近い状態で再び眠りについてしまったが、
依然うるさくて眠れない石川の頭の中には、
いつまでも『ハバネラ』が鳴り響いていた……。

夜が明ける頃、ようやく疲れ果てて眠った加護と辻だったが、
その反動はもろに日中に現れた。加護と辻はいつものこととしても、
他の三人でさえ普通に歩くのが困難な程に眠い。
途中で立ち止まることもしばしばだった。

特に夜通し運動会に付き合ってしまった保田と睡魔との戦いは、
熾烈なものだった。こればかりは魔獣の手も借りられない。

「(ほわぁぁ〜) 圭ちゃんまで何やってたんだよ……」

大欠伸をしながら、矢口が非難めいた口ぶりで言うが、
言葉は返さなかった。自分でも何をしていたのかと思ったからだ。
あの場は加護と辻を組み伏せてでも、キチンと寝ておくべきだった。
せっかく確保した安眠場所が無駄になってしまう。

この先、何日間もあの寺に泊まるとして、毎晩これでは堪らない。
この異様に眠い状態のままで、まともに召喚など出来るのだろうか?
気を抜くと寝てしまいそうな意識の中、保田はボンヤリと考えていた。
135  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:18
「よぅ〜! 姉ちゃん達〜!」

スッキリと冴えない一同の頭の中に声が聞こえる。
どこからだろう?
その声は、まるで耳元に囁かれたような馴れ馴れしさを感じた。

「保田さん、あれ!」

石川が矢を射るように、指を差した。
その方向を見ると、高架上に一体の人影がある。
前屈みにしゃがんだその姿は、体格の倍はあろうかというコウモリの翼、
裸の上半身と毛むくじゃらの下半身、
そして、先が銛のように尖った尻尾を付けている。
顔は人と山羊の中間と言ったところだろうか。
どちらかと言えば、話をする前から不愉快になってしまう外見だ。
堕天使……、それは所謂悪魔と云ったモノの典型的イメージに相違無かった。

一同は身構えた。悪魔は飛んでいるというよりは、
翼のところから吊り下げられているといった、
最大限にやる気の無い姿勢で一同の目の前、電話ボックスの上に降り立った。
相変わらずしゃがんで話すその姿は、
何やら人を馬鹿にしているようにも見える。

「そんなに警戒するなよ……、
 別にアンタらと遣り合うつもりは無いんだ、
 ただな、そいつ、その小っこいのには関わらない方が身の為だぜ、
 ってことを忠告してやりたくってよ……」
136  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:20
どうやら人形のことを指して言っているらしい。
この人形に関わるな? どういうことだろう?
矢口がその言葉の意味を反芻していると、
辻と加護が今にも召喚しそうになっている。

「あっちへいってくらさい!」
「ウチらが許さへんでぇ!」

人形のことを悪く言われたのが気に入らなかったのだろう、
気色ばむ二人を、石川が懸命になだめている。

「お〜コワッ!
 お嬢ちゃん達に嫌われちゃったねぇ〜、
 フフン! まぁ、気い付けるこったな、その小っこい奴にはよぉ〜」

そう言い残すと悪魔は飛び去って行った。
表情が無い人形のリアクションでは、今の会話の真意は計りかねたが、
心なしか凹んでいるようにも見える。

「あ、あんなふうにいわなくてもいいじゃないれすか!」

余程悔しかったのか、辻が号泣している。
フルボリュームの子供泣きだ。
矢口が慰めているが一向に泣き止む気配が無い……、
辻はしばらくの間、そのまま泣き続けた。
137  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:22
街は本当に静かだ……。
人外のモノにこそ遭遇するが、自分達以外の人間には未だに遭遇しない。
優し過ぎる気候は、仮に自分が一人きりだったとしたら、
きっと、穏やかな永遠の眠りの世界にいざなわれてしまったと
錯覚してしまうことだろう。

根拠の無い手掛かりを求め、
あても無く探索を続ける一行の行く手に、
ビルの谷間から、突如巨大な影が現れた。
その身長は、ビルの二階を優に超えるだろうか……、
それは静かな、そして柔和な顔をした巨人であった。

「……めずらしいな、人間かい?」

巨人は、五人に向き直ると静かに言う。
一行にしても珍しいのはお互い様だ。巨人は風貌こそ人間に近いが、
何よりそのサイズ自体、本来の自分達の世界ではあり得ないモノだった。

「どこへ行くんだい?」
「もとのせかいへかえるのれす」
「何か知りまへんか?」

巨人は穏やかだ。殺伐とした空気はそこには無く、
誰一人として召喚しようとはしない。
巨人の体には、細かな白い結晶が静かに降り注いでいるように見えた。
……雪だろうか?
138  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:24
「妖精か……、私に出来るのはこれ位だが、
 気を付けて行くといい……」

巨人は加護と辻を見て言った。
妖精とは、二人の雪だるまとカボチャを悟っての言葉だろうか?
巨人から淡い光が、オーロラのベールのように放たれると、
一行から寝不足のモヤモヤがすっきりと解消されて行く。

巨人はそのまま無言で、別のビルの谷間に進むと音も無く消えた。
その通り道に、降雪で濡れた跡だけが残っている。

あまりにも穏やかな出来事に一行は沈黙していた。
静かで優しく、どこか牧歌的な余韻に浸る一同の中で、
加護がポツリと呟いた。

「今頃、雪なんかなぁ……」

自分の雪だるまが放つ吹雪では、ついぞ思わなかったことだが、
気候の移ろいが全く感じられないこの世界で、
巨人に降る雪は、現実の世界を急に懐かしくさせたのだろうか……、

普段は頭に来る程やかましい加護と辻が、下を向いてしんみりしている。
保田はそんな二人の頭を黙って撫でていた。
139  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:26
結局今日も、手掛かりと呼べるモノは何も無い……。

一行はコンビニへ寄った後、真っ直ぐ寺へ戻った。
矢口と石川が、調達した食料を準備していると、
辻と加護の笑い声が聞こえる。
まったく、泣いたり笑ったり忙しい子供達だ。

二人は相変わらず人形とじゃれている。
不意に、辻が聴き慣れない名前を口にした。
誰だ、それ?
一同の中で『名無し』なのはあの人形だけだ。思わず矢口が尋ねた、

「ねぇ辻、今何言ってたの?」

二人は人形に『アイ〜ン・ダンス』を教えているようだった。
間違える人形の仕草を見る度に笑い転げている。

「このこのなまえれす」

いつの間に知ったのだろう?
矢口はたまらなくそれを聞きたくなり、手を止めて身を乗り出した。

「で、なんて名前なのさ?」
「てへへへへへ、……『ぶらうん』れす」
140  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:28
辻は、やや勿体付けて言った。
屈託無く笑う二人の姿は、矢口の知る限り、
『モーニング娘。』のメンバーになって以来、
最高に楽しそうに見える。

「でもさぁ、この子しゃべらないじゃない、
 どうやって分かったの?」
「てへへへへへ、それはひみつれす」

顔を見合わせている辻と加護を見た矢口は、
それ以上尋ねなかったが、その口元は自然と緩んでいた。

「なんて、ベタな名前なのよ」

そう言いながら保田が戻って来た。
肩をグルグルと回している。
何かのトレーニングでもしていたのだろうか?
額にはうっすらと汗をかいている。

保田の顔は笑っていた。
食事の準備を再開した石川も微笑んでいる。
不思議に朗らかな一体感がその場を包み込んでいた。
141  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:30
何日かした新月の晩のことだった。全員は寝床に居る。
拳骨を加える代わりに、魔獣を呼び出して叱る保田の効果か、
最近は加護も辻も、そしてブラウンも素直に眠るようになった。
最も、ブラウンの場合は本当に寝ているのかは定かで無いが……。

その効果の最大の要因は、そんな時に召喚される魔獣の顔が、
決まって保田自身の顔だったからかも知れない……。
寺での生活にも、すっかり馴染んでいた。
それなりに落ち着ける余裕も出て来ている。

一行の現在の最重要課題は、一向に捉え所の無い現状の把握、
そして、もし自分達と同じくこの世界に居るのなら……、
いや、自分達の経緯を考えればきっと居る筈に違いない中澤を始め、
他のメンバーと合流して元の世界へ戻ること……。
保田と矢口は特にその思いが強く、時にそれが責任感として表出していた。

「保田さん……、矢口さん……」

二人は石川に揺り起こされた。
何かあると真っ先に知らせるのが、近頃の石川の役割となっていたが、
石川本人は、特にその意識は無いようである。

眠い目をこすっていた二人は、すぐに頭の中を切り替えた。
本尊の脇から光が発っせられている。
引き戸だろうか、戸の合わせ目から光が漏れていた。

「圭ちゃん、あんなとこあるって知ってた?」
「全然、矢口は?」
142  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:32
矢口もかぶりを振った。
部屋に灯りを燈しても、漏れて来る光は室内の照明より強い。
ブラウンの体色はいつの間にか、高価な金色に変化していた。

「わっ! ゴールド・ブラウン」
「(クスクスクスクス……)」

三人は顔を見合わせて笑った。
石川が察知し、ブラウンの色が変わっている。お膳立ては整っていた。

「辻、加護、起きて」
「……あい〜ん」

寝ぼけている二人の目をはっきりさせると、
一同は着替えを始めた。作務衣のままでも構わなかったが、
街で人外の者と遭遇するのとは違うその状況に、
自然、身を引き締める意味も込められているようだった。

光の漏れる引き戸を開くと、
一体どこにそんなスペースがあるのか、延々と洞窟が続いている。
地盤を繰り抜いただけのトンネルだ、崩れて来ないだろうか。

一行は用心深く足を踏み入れた。
部屋まで漏れていた光は、どうやらそのズッと奥から来ているようだ。

「キャッ!」

最後尾を歩く石川が悲鳴を挙げた。
一同が振り向くと、入口は初めから無かったように行き止まりになっている。
後戻りは出来なくなった……。
143  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:34
奥に進むにつれ、一行は顔が火照るように熱くなるのを感じた。
焚き火だろうか、何かを燃やした時に出る熱さだ。
この世界の穏やかな気候に慣れつつある一同には、妙に新鮮に思える。

奥まで辿り着くと、間口にして通路の三つ分、
おおよそ正方形の部屋があった。
その最も奥まった中央に小さな祠がある。
そして、その前に何者かが福助人形のように正座していた。

それは幼児であったが、性別までは定かで無い。
その風貌は確かに幼児に見える……、
……が、見方によっては老人にも見える。
幼児は微笑むように目を細め、無言のまま一同を見ていた。

通路は一行を追うように塞がれ続け、
この部屋へ到着した時には背後に通路は無く、
ただ一面の壁になっていた。

「いずれにしろ、戦うしか無いようね……」

保田の言葉に、その幼児は小さく頷いた。
どこにも火を熾している様子は無かったが、
部屋の中は無闇やたらに明るく、そして不思議と眩しくは無かった。
一行は、それとは別に全身に照りつけるような熱さを覚えている。
144  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:36
「アイ〜ン!」

加護と辻が『アイ〜ン・ダンス』を踊ると、
それぞれの頭上に召喚者が現れた。
残る三人も次々と自分の頭上に、各々召喚者を呼び出している。

前衛は保田の魔獣を中央に、左右に加護の雪だるまと、辻のカボチャ、
後衛に石川の女精、矢口の狐というフォーメーションだ。
五体揃い踏みは、さしづめ怪し気な雑技団とでもいうところだろうか。

幼児は細目でこちらを見つめたままだ。
攻撃をして来る様子は無い。

「だったら、こっちから行くわよ!」

魔獣が幼児に飛び掛かった。
しかし、幻惑されているのだろうか、
その前足は一向に幼児を捉えることが出来無い。

「おかしいわね……」

保田の魔獣が一旦退くと、替わって辻のカボチャが火炎を放った。
レベルアップを続けるカボチャの火炎は、以前より強力になっている。
しかし、これは逆効果だった。
火炎はそのまま反射され、一同を襲った。

「う〜……」

むきになっているのか、辻はますます火力を上げている。
カボチャ自身は火炎を無効にしていたが、他の者にはそうは行かない。
145  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:38
「キャッ!」
「ちょっと辻! 落ち着けよ!」

石川の小さな悲鳴が繰り返される。矢口は堪らず声を挙げたが、
辻の耳には届いていないようだった。

(ゴチン!)
「あいたっ!」

保田の拳骨でようやく我に返った辻は、
痛かったのか、半分べそをかきながら火炎放射を止めた。

「ほな、ウチが!」

今度は加護の雪だるまが氷柱を放った。
しかし、これは一切が無効だった。幼児は依然攻撃を仕掛けてこない。
しばしの沈黙を挟むと、微笑むように細めていた幼児の目が見開かれた。
それは、燐光を帯びた瞳孔の無い真っ赤な目だった。

「(?)」

攻撃なのだろうか?
特に目立った変化が無いまま、一同が首をかしげていると、
魔獣の様子がおかしい……。
向き合う方向を、幼児からゆっくり加護の方へ移した。
146  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:40
(ビュンッ!)
「わっ! なんですねん!」

加護と雪だるまは、際どいタイミングで魔獣の前足をかわしたが、
それは極めて危険な瞬間だった。

「わあぁぁ〜、アタシがやってるんじゃないからね!」

幼児は、また元のように目を細めると、ジッとこちらを見ている。
さっき見開かれた目は魅惑の魔法だったようだ。
それが保田の魔獣に決まってしまった。

「やすらさん、やめてくらさい!」
「キャッ! 保田さんダメです!」

保田の意思を離れ、魔獣は仲間を襲った。
行き掛かり上、カボチャと雪だるまも火炎と吹雪で応戦しているが、
魔獣は器用にその攻撃をかわすと、尚も四人に迫っている。
ブラウンも一緒に逃げ惑っていたが、動きだけなら鬼ごっこのように見えた。

「圭ちゃん!」
「いい加減にしなさいよ! アタシ!」

保田とは関係無く身内を襲い続ける魔獣は、いつもより凶暴であった。
それだけに、いちいち自分の名前を呼ばれるのは極めて不愉快であったが、
保田自身魔獣を止める術の無い以上、ただ分身に向けて声を荒げるしか無かった。

石川、加護、辻の三人は、矢口を頼ってその後方に回り込んでいる。
壁際に追い詰められた四人と一体に、もう余分なスペースは残されていない。
このまま同士討ちで壊滅してしまうのだろうか……。
147  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:42
狐が矢口の頭上で土をほじくる仕草をした。
程無く、魔獣を目掛けて大量の土砂が雪崩れを打つ。
まともに食らえば、そこそこのダメージも期待出来るが、
魔獣は難なくそれをかわした。

飛び切り奇怪なライオンに睨まれた狐は、
とうとう動きを止めてしまった。

「矢口さ〜ん……」
「矢口〜! どうしよう!」

後方からは、三人の不安な声が聞こえる。
保田も、最早矢口頼みとなっている。
幼児は微動だにせず、ただこちらを見ている。

すると、矢口の狐は三回転して飛び上がり、
そのまま態勢を上下に180度反転させ、頭から真下に飛び込む姿勢になった。
次の瞬間、軽く靄がかかった中から現れたのは、
軽装の鎧に身を固めた若武者であった。

涼しい表情をしているが、
その目は毅然と保田の魔獣を見据えている。
矢口の後方の三人は、狐が化身した若武者を凝視していた。

「義……経?」

呟く矢口の頭上で、
若武者と魔獣が対峙している……。

                                  < To be continued >
148  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:44
中澤「>>126さん、>>127さん、>>128さんおおきにな、
   >126さん、これUPするの二分間隔としても結構時間かかりますねん、
   機械的に作業してると、エンディング・トークまでsageたままで、
   最後の最後に大脱力ですねん」
平家「先々週やってもうたよね」
中澤「>128さん、なっちとかおりに比べたら、
   ウチなんて、ホンマにかわいいもんですねんで、
   なっちとかおりもみっちゃんに比べたら……(赤面)」
平家「なんで顔を赤らめとるねん!
   誤解を招くようなこと言うなあぁぁぁぁ!」
中澤「>127さん、以前の回で一度矢口が出ましたやん、
   ウチとみっちゃん以外に、トークにメンバー出したのは
   どないやろ思てたんですけど、分かりました!
   みっちゃんの分を削ってでも、ウチらのメンバーも絡めてみます」
平家「こらあぁぁぁぁ!!
   こっちは本編絡んでへんねんで、
   頼むからここの出番は削らんといてや」
中澤「(ワッハッハッハッハッ……) 冗談やて、冗〜談!
   メンバーが絡む分、トークのレスが増えるかも知れへんけどな」
平家「……思わず泣きそうになってもうたわ、
   ホンマ頼むで、裕ちゃん時々本気でボケ倒すこととかあるからな、
   そこんとこメッチャ恐いねん」
中澤「心配あらへんて!
   ウチは圭坊に服くれなんて言われへんもん」
平家「その話しはもうええねん!」
149  920ch@居酒屋  2001/01/29(Mon) 03:46
中澤「おかげさまでこの物語、次回が丁度折返し点ですねんけど……、
   ……いつかチラッとお話しした同僚が近く入院します」
平家「入院って……、どれ位かかるん?」
中澤「さぁな、最低一ヶ月は固いやろな……、
   もう最近は本業の方が、相当聴牌ってますねん。
   ウチはモーニング娘。の中の特定の誰かのファンでは無いです、
   中澤裕子のペルソナを使とるのは、単に書き易いからだけですねん、
   あっ! あと、オマケでみっちゃんのペルソナもな」
平家「誰が『オマケ』やねん!」
中澤「せやけど一人で残業とかしてますやん、BGMにウォークマンから音出して、
   中澤ゆうこ版『つぐない』とか流れて来ると、思わず手が止まりますね、
   涙の一人カラオケ状態……、
   単に、昭和歌謡の名曲いうだけのことかも知れへんのですけど……。
   ちなみに、みっちゃんの歌やったら……」
平家「歌やったら?」
中澤「う〜〜〜〜ん……????」
平家「何も浮かばんのかい!!」
中澤「そないな訳で、リザーブの札をここで切らしてもらいます。
   一回休みで、次回は『2001,2/12未明』予定、
   本業の方煮詰めさせてもらいます、みなさんもホンマ、体に気い付けてな、
   オマケのみっちゃんも、ついでに気い付けてな」
平家「『オマケ』とか『ついで』とか言うなあぁぁぁぁ!!」
150  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/29(Mon) 04:09
ちょうど折り返し地点ですか。続きが気になりますが
無理せずに頑張ってください。
矢口の召喚者が何気に強そうですね。
151  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/01/30(Tue) 01:44
今さらながらまとめて一気に読みました、おもろい!
作者さんも大変みたいですが、ゆっくり書いてください
保田顔の魔獣は想像するだに笑える
152  127  2001/02/02(Fri) 21:52
>148
そうだっけ。一瞬だったから忘れてた。
でもほかのメンバー出すなら人選は平家さんお願いします。
中澤さんにやらせると、ねぇ?

153  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/05(Mon) 00:34
来週のために期待age
154  920ch@居酒屋  2001/02/12(Mon) 02:10
中澤「これ読んでくれてはるみなさんへ、
   大変な事態が発生しました……、
   平家みちよが『椎間板ヘルニア』で……(シクシク……)」
平家「こらあぁぁぁぁ!
   誰が『椎間板ヘルニア』やねん!
   『ロケット・ボーイ』かい!」
中澤「……余りの動揺に間違うてしまいました、
   実はみっちゃんが『三日酔い』で……(シクシク……)」
平家「誰が『三日酔い』やねん! 『小出監督』かい!
   素直に言うたったらええやろ」
中澤「……先週一回お休みさせてもろたんですけど、
   本業はそれ以上に修羅場でしたん、せやねんで現在まとめ中です、
   第七回は『2001,2/13未明』頃の見通しですねん、
   みなさん、そないな平家みちよのこと、許したって下さい」
平家「何でもかんでも人のせいなんかい!」
中澤「それはそうやで、
   このウチもみっちゃんも作者のペルソナやん、ここは納得せな」
平家「う〜ん……、不快諾……」
中澤「ホンマすんまへん、もう少し待っとって下さい」
155  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/12(Mon) 02:50
お仕事大変そうですね。おとなしく待ってますから無理はしないで下さい。
156  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/12(Mon) 12:34
仕事が大変ならそれをがんばって。
途中で投げ出さなければいくら休んでもいいんじゃない?
157  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:21
吉澤「…………」
中澤「(わっ! なんでウチと吉澤しか居らへんの)」
吉澤「……中澤さん」
中澤「(な、なんやねん、なんでいつもそないに冷静やねん、
   どないしよ、二人きりって何を話したらええねん……?)」
矢口「お〜い、裕子〜!
   あっ、よっすぃも居る!」
中澤「(助かった、矢口ええとこ来てくれたなぁ、
   これで間が持つやん)」
矢口「よっすぃかわいい〜、よっすぃ大好き〜」
吉澤「(クスクス!)
   矢口さんもかわいいですよ〜」
中澤「(な、なんやねん、なんで二人でジャレとるねん、
   矢口はウチより吉澤の方がええのんか?
   ウチのこと嫌いなんか)」
吉澤「駄目ですよ、中澤さんに怒られますよ」
矢口「気にしない気にしない、
   よっすぃが怒られそうになったらオイラが守ってあげるから」
中澤「(なんやて? いつからそないなことになっとるねん、
   ウチは認めへん、そんなんウチが許さへん……)」

                                  < Continued on Ed >
158  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:23
< 7th Affair >

両のまぶたに眩しい光が射す……。太陽など久方ぶりだ。
彼方には水平線が見える。ここはどこの海だろう?

気が付くと後藤は海に浮かんでいた。
それも体がまるごと海面上に乗っている、
まるで無限大のウォーター・ベッドの上のような状態だ。
これで陽射しさえ優しければ、至福の心地だろう、
後藤はただその果てしないうねりに身を任せていた。

不意に傍らに目をやると、
海面から目より上だけを覗かせた顔が、ジッとこちらを見つめている。
後藤もただ無心にその目を見つめ返した。
するとその目の持ち主はゆっくりと海面上に全身を現した。
それは馴染みのある人魚の姿である。

「……私の名前はメロー……」
「知ってるよ、いつもアタシが呼んだら来てくれるもん、
 ……そうかぁ、メローって言うんだ」

後藤は人魚を見て感心している。自分の召喚者に関心があるようだ。

「……アタシね、頼まれちゃったの、
 貴方に私の力を分けてあげろって……」
「ふ〜ん……」
159  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:25
人魚の態度は、どちらかといえば引き気味で、
自分の言いたいことを率先して話す風では無い。
いつしか会話は後藤主導になっていた。

「あのさぁ、質問があるんだけど……、
 この世界に来てからいろんなお化けとか生物が出るでしょ、あれは何?」
「……う〜ん、広い意味で言うところの『デーモン』なのね、
 所謂悪魔だけじゃなくて『神』って呼ばれてても、『妖精』って呼ばれてても、
 要は人外の超常の者の総称……、だと思ったけど……」
「じゃぁ、メローもデーモンなんだ?」
「……まぁ、広義に言えばね」

人魚は、ところどころ考えながら説明をする。
堂々と言い切れないその様は、それ自体誰かからの受け売りなのかも知れない。

「それじゃさぁ、なんでアタシたちに『食わせろ』とか言うのがいるの?」
「……う〜ん、一概に言えないけどね、そう言うのは人間から発生している
 『生体マグネタイト』が欲しいからなのよ」
「『生体マグネタイト』?」
「……デーモンの活動源、って言うより生命源かな?
 時々『スライム』って見るでしょ?」
「あぁ、あの緑色のプルプルしたやつ」
「……あれはね、マグネタイトが尽きて実体を保てなくなったデーモンの姿なの、
 そのままだと消滅しちゃうから、一刻も早くマグネタイトが欲しい訳ね」
「メローは欲しくないの?」
「……だってアタシは貴方だもの」

後藤は目を輝かせて質問を続ける。いつしか波のうねりは止んでいた。
160  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:27
「面白いねぇ〜、他に何か無いの?」
「……う〜ん、例えばね鳥類は龍類に強くて、
 龍類は獣類に強いのね、それで獣類は鳥類に強いっていう、
 所謂三竦みとか……、
 ……貴方本当に何も知らないのね、
 ……まぁ、無理もないか、だって貴方達は……」

突然、強い波のうねりが後藤を体ごと転がした。

「ごっちん、ごっちん」
「う、う〜ん……、あ、あれ? よしこ……」
「そろそろ出掛けるよ、起きて」

吉澤に強く体を揺すられ、後藤は目を覚ました。
肝心のところを聞きそびれてしまった気もするが、
そのこと自体、後藤は目を覚ますと同時に忘れてしまった。

「ひど〜い! ジェンキン絶対かおりのこと嫌いでしょ!」

飯田が大声で立腹していた。
その顔を見ると鼻の下に黒々とヒゲが描かれている。

「この前だって、
 目の回りパンダみたいにされたんだよ!」

激昂しているのか、
飯田の声が上ずっている。このままでは泣き出すのも時間の問題だ。
161  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:29
「まぁまぁかおり、そないに怒らんと、
 ウチらみんなジェンキンに悪戯されとるやん」
「かおりなんかまだマシだべ、
 なっちなんか、ほっぺに渦巻き描かれたサ……、
 ……バカボンなっち(プッ!)」

安倍は自分で言うと吹き出した。思い出し笑いらしい。
地下に落ちてからの五人は、地上への階段を求め探索を続けていた。
しかし、上へ通じる道はどこにも無く、
却って深みにハマって行くようであった。

そもそも、落下した時点で一同の上方に地上の光は既に無く、
眼前には地下街、或いは地下通路……が延々と続いている。
照明までキッチリ点灯している様は、まるで一行を呼んでいるかのようだった。

どうもこの世界に迷い込んでからの自分達はこの方、現実世界に帰る以前に、
もう一段階余計に脱出を迫られているように感じられる……。
地下に落ちて以来、ここまで一体どれ程の時間が経過しているのだろうか……。

地下世界は、所謂都市の地下街そのままの様相ではあったが、
一つ大きな違いは、それが余りにも広大なことであった。
行けども行けども、行き止まりが存在しない。
気が付いた時には、更に深度を下げていることも度々である。
それは、地上とは独立した果てしないトンネルの世界のようであった。

時たま、地下鉄のホームに出くわすこともあったが、
そこには決まって駅名等の手掛かりは無く、
場合によってはトンネルの両端が埋められていることもあった。
162  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:31
ホテル住まいの快適さを失った一行は、自分達の生命線、
……そう、ここにもお約束のように存在する、
あの黒い縁取りのコンビニエンスストアを泊まり歩いていた。
道に迷った時も、行き倒れになりそうな絶妙のタイミングでコンビニが出現する。
助かると同時に、それは却って地下世界の把握を困難にさせていた。
五人の中では、自分達が現在地下のどの辺りにいるのかという概念さえ、
とうに喪失していた。

「ジェンキンって、魔女だよね」

後藤の言葉に、ジェンキンが大きくうなづいて見せる。
一同の見解は、普段の行動や仕草から察するに、
ジェンキンは女の子ということで一致していた。

風呂やベッド……、それらは確かに無ければ無いものとして、
人間ある程度は慣れてしまうものなのかも知れないが、
風呂の無い不快さ、不潔さはジェンキンの魔法……、
……そう、それは魔法としか言い様の無い力で取り除かれる。
地上以上に時間の分からない日常に於いて、
五人はその魔法のタイミングを以て、一日とすることに決めていた。

ジェンキンの魔法は各人にメイクまでしてくれるのだが、
毎回誰か一人がジェンキンの悪戯の被害に遭っている。
ジェンキンは、いたずら好きの魔女らしい……。

そんなジェンキンを見ていると、都合良く見つかるコンビニや、
途切れることの無い食料等、それは全て彼女が操っているようにも思える。
いつしか中澤は、ジェンキンの存在が指し示すおおよその意味を、
非常に曖昧かつ漠然としてはいたが、
おぼろげながらに実感するようになっていた……。
163  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:33
「吉澤も後藤も準備はええか? ほな行くで」
「あのね、よっすぃ、……三竦み」
「何? それ」

二人は中澤達の後を追って店を出た。
あても無く歩き回る行動パターンだけは地上と共通だった。

(どっかぁぁぁぁあ〜ん!!)
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「わあぁぁぁぁっ!
 ……なんまら驚いたっしょ、危うくなっち直撃だべ」

コンビニを出てからそう遠くない場所でのことであった。
一同が通り過ぎた直後を、突如出現した巨大なミミズが通過している。
通路の壁から壁へ、全速力で通過する特急のように、
大きな穴を明けて突き進んでいる。

その巨大なミミズは、直径からして飯田の身長より遥かに大きく、
やや青みがかった蛇腹の体表は、超特大サイズの洗濯機のホースのようだ。

「すごいなぁ〜! 下から上がって来たんだ」
「ほんでまた、下へ潜ったんかい……」

後藤と吉澤が顔を付け合わせて、ミミズの残した穴を覗き込んでいる。
中澤と安倍も反対側の穴を覗き込んでいたが、
飯田は一人、ジェンキンに悪戯で描かれたヒゲを気にしていた。

「どこでぇ! どこでぇ!」
「全く今日も元気なワームじゃわい!」
164  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:35
通路の双方から、各々六体の年寄りと獣人がやって来た。
この地下世界にも様々なデーモンが出現していたが、
一行が最も頻繁に出会うのは、身の丈が自分達の半分程のサイズの年寄りと、
長身で犬の顔を持つ獣人の一団である。
共に穴埋め職人らしく、ミミズが壁を突き破って去った場所に、
どこからともなく駆け付けては、その穴を埋めているのだった。

「さて! そんじゃいっちょやるか!」
「待たんか! 若いの、ここはワシらのシマじゃ」

駆け付けたデーモンは、
五人を挟んで何やら険悪な雰囲気になっている……。

「てやんでぇ、クソジジイ! 年寄りはすっこんでな!」
「なんじゃと若造が! この『ドワーフ岩窟組』の前には、
 貴様等など百万年早いわ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! こちとら『コボルト参番隊』でぃ!
 ジジイはとっとと家帰ぇって茶ぁでも飲んでな!」

喧嘩は収まりそうにない。
このまま実力行使に及べば、自分達も巻き込まれるのは必至だ。
中澤と飯田は召喚の準備をしたまま成り行きを見守った。

「もう、やめ〜〜!!」

後藤の大声で喧噪が鎮まった。
その声に、年寄りと獣人は初めて一行の存在に気付いたようだった。
165  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:37
「穴は二つあるサ、仲良く片方づつ埋めればいいっしょ?」
「ところが姉ちゃん、そういう訳には行かねぇんだ」
「一つの仕事は、一つの班がきっちりこなす。
 これがこの世界のしきたりなんじゃ」
「せやったら、喧嘩とちゃう何か別の勝負で決めたったらええやん」

さほど広くもない空間に大勢でいることは、
少なくとも人間である五人にとっては、決して居心地の良いものでは無い。
この場を早く収拾させたい気持ちから出た提案であった。

「(ヒュ〜!) オークの旦那じゃん!」

一体の獣人が、口笛を吹いた。
T字になった通路の先を、豚の頭にコック帽を被り、
何やら荷物を引いているデーモンが、ゆっくり通り過ぎようとしている。

「(プッ!) なっちじゃん……」
「かおり! なっち違う!」

それは失礼にも程があるというものだろう……、
誰もが思っても口には出さないことを、飯田がつい言ってしまった。

「旦那ぁ〜! 今日はどうでぃ!」
「おぅ! コボルトの……」

獣人の呼び掛けに気付いたコックが、こちらへ向きを変えた。

「アンタらの好きなもの、バッチリあるぞ……」
「よし、大食い勝負だ、誰か一人代表を立てる! どうでぇジジイ!」
「臨むところじゃ!」
166  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:39
「決まりだな……」

そう言うとコックは配膳を始めた。
後ろに引いている荷物には、食べ物らしきものが満載されていた。
さっきから安倍がソワソワしている。大食いと聞いたその目は輝いていた。

「あ、あのサ……、なっちも参加しちゃ駄目かい?」
「こら! アンタ何言うとるねん」
「あぁん? 姉ちゃんたちは関係無ぇだろ?」
「固いこと言うな若造! お嬢ちゃんも参加すればいい」
「わぁ〜、おじいちゃんありがとう!」

いつの間にか、折り畳みの平机と椅子が用意され、
参加者の目の前にはカラフルな固形物が置かれていた。

「いいか? とにかく数食った奴の勝ち、そんじゃ行くぜ!」

リーダーらしい獣人の一声で勝負が始まった。
しかし威勢のいい掛け声とは裏腹に、食べる姿は皆たんたんとしている。

「ねぇ、これ何かな?」
「まぁ、最高級とは言えないけどな、これだって結構いい味だぞ、
 お姉ちゃん達も食べてみるか?」

飯田の問いに、コックは目の前で安倍が食している固形物を分けてくれた。
四人の手にしたモノはかけらであったが、
勝負中の安倍の目の前にあるモノは、
アイスホッケーのパックのような形をした、雛祭りの菱餅のように見える。
パステルカラーの色合いは余計にそうイメージさせた。
眺め透かしている後藤と吉澤をよそに、飯田はかけらを口の中に放り込んだ。
167  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:41
「(……!) ペッ、ペッ! ……何これ〜!」
「なんやろ、薄甘いねんけど……、これ土やな……」

顔をしかめて吐き出す飯田を見て、
ほんの少しだけそのかけらをかじった中澤は言った。

「(フォッフォッフォッフォッ……)
 お嬢ちゃん達の口には合わなかったようじゃな」

年寄り達は笑って言ったが、安倍は黙々と食べ続けている。
食べ続けているだけではない、勝負はどうやら安倍の圧勝のようであった。
苦しそうな両脇の獣人と年寄りをよそに、安倍はまだおかわりをしている。
世界のどこかには食材としての土も確かに存在するが、
ここまで来れば、安倍はプロの食いしん坊として立派に成功出来るかも知れない。

「なんまら美味くねえっしょ、なっち水が欲しいべサ……」

……恐るべし安倍なつみ、言葉を無くしている一同の中で、
何故か飯田だけが密かな闘志を燃やしていた。それって、一体何の闘志だ?

「せやけど、ウチらの勝ちとしても、この穴は埋められへんよ」
「このままにしとくべ!」

安倍の言葉に獣人と年寄りは愕然としたが、
勝利者の宣言に返す言葉は無かった。

「まぁ、しょうがねぇか……、姉ちゃん達の勝ちだもんな……」
「悔しいが仕方ないのう、帰って茶でもすするか……」

デーモン達は落胆の色を隠せないまま、その場を立ち去って行く。
壁には問面に二つの大きな穴が残されたままになった……。
168  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:43
笑みを浮かべていた筈の幼児の顔は、明らかに驚愕していた。
若武者は襲い掛かる魔獣の爪を小太刀で受けながら、
流れるようにいなしていたが、やがて体をかわすと、
そのまま八双飛びさながらに幼児の正面に躍り出、大上段から切り付けた。

「ウッ……」

幼児のものだろうか? 開かない口から動揺の声が漏れた。
致命傷こそ負ってはいないものの、幼児は明らかに恐慌状態に陥っている。

「矢口! やったよ、元に戻ったよ!」

魅惑が解け、保田が歓声を挙げた。幼児は若武者の太刀をかわしているが、
その動きは鈍い。若武者は片手にもう一本の太刀を抜き、
両の腕から十字に切り付けたその刹那、ついに幼児の動きを見切った。

「圭ちゃん、今だ!」

魔獣が疾風の速さで幼児に迫ると、その体は魔獣の牙に捕らえられた。
捕捉された幼児の実体は、片手で持てる程の焼物の人形に見える。

「ソウダ……、ソレデイイ……」

幼児は依然口を開きはしなかったが、その言葉を確かに全員が聞いた。
いつの間にか幼児の目は、元の細い笑みを浮かべている。
魔獣が幼児の型をした人形を噛み砕き、その口を閉じると同時に、
密室をゆらゆらと照らしていた炎の明るさは消え、
室内に充満していた熱気も消え失せた。
そしてゆっくりと、
祠のある正面に、自分達が進んで来たのと同程度の大きさの通路が開いた。
169  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:45
「矢口〜!」
「矢口さ〜ん!」
「わあぁぁ! なんだよ、いいよ、やめろよ!」

四人は矢口の許へ駆け寄ると、嬉しそうに矢口をもみくちゃにしている。
自分も嬉しいことに変わりは無いが、
全員から抱き付かれた矢口の足は地面から浮いてしまい、
今度という今度は、本気で厚底が恋しくなった。

一行はすっかり暗くなった祠の跡を去ろうとしていたが、
保田は自分の足下に小さな切り絵の駒形が転がっているのを見付けた。

「……馬?」

その切り絵は焼物で出来ているのだろうか、小さく固かった。
見つめている保田の足下をブラウンがトントンと叩く。
持って行けと言うその仕草に、保田は黙ってポケットにしまい込んだ。

祠からの通路を抜けると元の寺に戻ったが、そこにあるのは、
今まで何かに化かされていたとしか思えない、すっかり寂れた寺であった。

「狐につままれてたみたいですね……」

言った後で、矢口の召喚者が狐であることを思い出した石川は、
慌ててすまなそうな顔をしたが、矢口に気を悪くしている様子は無い。

「りかちゃん、気にしなくていいよ」
「またこんびにれすか?」

辻の問いかけに、一同はしばし沈黙している。
矢口は狐と若武者のことについて、あれこれ考えていた……。
170  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:47
その日のジェンキンの犠牲者は安倍であった。
鼻の頭は赤く、そしてほっぺたには左右三本の線が引かれている。

「よっすぃ、何か食うべ?」

そう言いながらお菓子が取り出されるポケットは、
四次元ポケットさながらだ。

口を開いたままの大きな穴が目印となっているのか、
あれから数日の間、五人はこの穴の近くのコンビニを拠点としていた。
一日の探索を終えると、穴の中を覗くのが何故か日課となっている。

「ねぇ、この穴段々大きくなってない?」
「そうかなぁ〜、後藤の勘違いだと思うよ」

飯田はいつもの怪訝な表情で言う。

「何か音も聞こえるんですよね……」
「そうかなぁ〜、吉澤の勘違いだと思うよ」

安倍が棒付きのキャンディーをポケットから五本取り出した。
みんなで分けるのかと思っていると、
全部の包装紙を剥き、そのまま一気に一人で舐め出した。
コンビニまですぐそこの距離での、この安倍の行動に、
中澤はガッカリするやら、可笑しいやら、
何とも言えない複雑な気分になった。
171  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:49
(ガラガラガラ……!)
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「わあぁぁぁぁ、なっちが欲張るからや!」

突然、壁の両穴を結ぶように通路が崩れ落ちた。
一同は更に途方もない深さにまで落下してしまったようだ。

「イタタタタタ……、お尻痛〜い、よっすぃ大丈夫?」
「うん。ごっちんつかまって」
「なっち、やっぱりみんなで分けなバチが当たるで」
「なっち、バチ当たり〜」
「……悪かったサ、なっち反省するべ」

吉澤は相変わらず上手くバランスを保った。
綺麗に着地すると、尻餅をついた後藤に手を差し伸べる。
安倍の飴玉五本一気食いは、ほぼ無意識の行動だったようで、
殊勝にも本人は反省している様子だ。自分の食の行動を省みることも、
或いはプロの食いしん坊の必要条件なのかも知れない。
土塊を食べてからの安倍は、食能に関して以前と違う進歩が見て取れた。
反省点を改める心構えも成長した証なのだろう……って本当か?

一行が落ち込んだ一帯にも通路が広がっている。
もっとも、それはより原始的な洞穴を想起させた。
穴の外周は固められてはいるものの、
上層の地下道のように人工的な意匠は施されていない。

照明は一切無く、どこにも灯りが無いにもかかわらず、
視界は夜目を利かすこと無く、ごく普通に見渡すことが出来た。
この明るさの所以はどこからだ?
172  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:51
「ジェンキン光ってる!」

素っ頓狂な声で飯田が言った。
点滅は緩やかだが、それは久しく見られなかった反応だ。
ほぼ時を同じくして、前方から微かな風圧を感じた。
それは次第に強さを増したが、しばらくするとピタリと止んだ。

「なんやねん?」

前方に何か巨大なモノがある。それは正面から見ただけでは、
何であるか見当が付かないモノであったが、少し横に回ると、
どこかで見覚えのある蛇腹のような体表を確認することが出来た。

「巨大ミミズ!!」

飯田が又しても大声を挙げる。
どうやらテンションが上がっているらしい。
高さ的にはほぼ空間一杯の大きさを持つそのミミズの正面は、
口であろうか、八つに切れ目の入った黒いウレタンを思わせる。
丁度、抽選などに使う中身の見えない箱の、手を入れる口のようであった。

「ミミズ!? ……それは失礼だな、地龍だぞ……」

ミミズから人語が発せられた。
その風体に似合わず、やけにしっかりとした口調だ。

「へぇ〜、地龍なんだぁ〜。すごいなぁ〜、大きいねぇ〜」
173  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:53
このまま飯田に喋らせて事態がこじれるのを危惧した中澤が、
フォローの言葉を繋ごうとしたその矢先、
中澤よりも早く後藤が言葉を切り出した。
やがて物怖じせずミミズに近付いた後藤は、その体表を手で触れた。

「へぇ〜、柔らかくて固いんだね、ホースみたい。
 みんなもおいでよ、面白〜い」

無邪気にミミズに戯れる後藤に、一同も恐る恐る近付いてきた。
ミミズは微動だにしなかったが、
青みがかった体色が妙に赤味を帯びているように見える。
照れているのだろうか?

「……お、お前達はこの前の人間か?」
「そうだよ……、じゃぁ貴方がこの前、壁に穴を明けて行った地龍なんだ、
 アタシ達ね、あの穴から又落ちちゃったんだよ」

後藤はミミズの体を撫で、叩き、そして寄り掛かっていたが、
やがてポケットからマジックペンを取り出すと何やら一筆書き出した。

「『ゴ・ト・ウ・マ・キ』……、
 エヘヘヘヘ〜、アタシのサイン、特別版だよ!」
「……お前達、これからあの場所へ行くのか……、
 気を付けて行け……」

ミミズは静かに言い残すと、
反転する列車のように180度逆の方向にゆっくりと進み出した。
やがて壁面に新たな穴を明けると、そのまま一行の視界から消え去った。
174  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:55
「……あの場所ってどこだべ?」
「どこやろなぁ……、せや!
 ジェンキン、ウチの周りをゆっくり回ってみてくれへんか?」

突然の中澤の要求に、ジェンキンは少々驚いた様子だったが、
言われる通り、中澤の顔の周りを一回りした。
すると、ジェンキンの点滅がある地点になると、
一瞬強くなることを一同は確認した。

「分かった! こっちだべ!」

方向を割り出した一行は、すぐさまその場から歩き出した。
それが本当の終わりなのかは定かで無いが、
一応、一同の間では一日の終わりにここへ落ちてしまった……、
探索を終えた五人は、体力も気力もそこそこ落ちている。
出来ればそれが完全に落ち切る前に決着を付けてしまいたい。
そして、何よりジェンキンが点滅しているということは、
その先に存在するモノを倒せば、
再び地上に戻ることが出来るかも知れない……。
そんな思いが一行に瞬発的なエネルギーを呼び起こしていたが、
中澤だけはやや冷静だった。

「みんなあんまり飛ばしたらアカン、本番はこれからやで」

ジェンキンの点滅を頼りに、深層の界隈を歩き回った五人の前で、
その点滅はやがてピークを迎えようとしていた。

「どこっ! どこだっ!」
175  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:57
中澤の言葉など頭のどこにも無いのか、
一人ハイテンションの飯田は、盛んに辺りを見回している。
その動きの滑稽さは既に本人の意中には無いようだ。
そんな飯田を見ていると、他の四人はリアクションが引けてしまう分、
却って落ち着きを増したが、戦力としての飯田の召喚者を考えると、
本人にも、もう少し落ち着いて欲しいところであった。

「あったぁ!」

叫ぶ飯田の顔は、嬉しそうに上気している。
その声の先には、土で固められた周囲とはおよそ相応しく無い、
両開きの扉があった。

「どうしてここだけ扉が付いてるのかしら?」
「アタシ達を呼んでるからじゃない」

五人の中では最も冷静に見える吉澤の言葉に、
確信なのか適当なのか、後藤は躊躇無くその扉を開いた。

「わぁ〜!」

一行は息を飲んだ。そこにはとても地下とは思えない、
白く薄明るく、そしてうっすらと霧の掛かった空間が広がっている。

このところ何かと感激屋の後藤を先頭に、
続いて、ハイパーテンションの飯田が扉の向こうに降り立った。
白い空間と対を成すように、その下には淡い緑色の水面が広がっている。
176  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 04:59
地底湖?
よもや東京の地下深くにこんな空間があるとは誰も思うまい。
その広さは東京ドームにして何個分あるだろう。
高さも相当なものがあり、ホームランの飛球程度では到底届きそうに無い。

一行の足下にはただ一本の道が、
湖面の途中で行き止まりになるまで伸びている。
まるで、長いファッションショーのステージのようだ。
そしてこの湖の中央になるのだろうか、
中空に巨大な何かがトグロを巻いている。

それは極めて東洋的な正真正銘の龍であった。
ミミズに地龍と言われて釈然としなくても、
この姿を前にすれば誰でも龍ということで納得するだろう。
もしも、七つの珠を全て集めることが出来たなら、
どんな願い事でも叶えてくれそうな気もするが、
どうやらそれは無理そうであった……。龍は長い体を中空でうねらせている。

「ヨクキタナ……」

歓迎の言葉だろうか? 間も無く空間内には雨が降り出し、
それはあっと言う間に豪雨となって五人を打ち付けた。

「なんやねん! ウチらいっつも濡れてるやん……、
 ……あ、あのなっ! やらしい意味とちゃうねんで……」

赤面しながら慌てて四人に否定する中澤の頭上で、
女魔が妖しくウィンクをしている……。

                                  < To be continued >
177  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 05:01
< Continued from Op >

(キャッキャッ……)
矢口「なっちからお菓子取ってきちゃった、
   よっすぃどれ食べる?」
吉澤「どれでもいいです、矢口さんが要らないの下さい」
矢口「よっすぃは優しいね」
(キャッキャッ……)
中澤「(な、なんやねん、その和やかな雰囲気は……、
   ……この気持ちは何? これってジェラスィ?
   矢口、ウチのこと見捨てんといて、ウチにも好きと言うてや……)」
平家「(ゴチン!) 痛っ!」
中澤「人が寝とる思てさっきから、
   何勝手なモノローグ付けとるねん」
矢口「あっ、裕ちゃん起きた」
平家「(アタタタ……) い、いや、そのな……、
   ……こう悲しい女の性(サガ)を代弁したろ思てな」
中澤「何がやねん、
   ウチはな、メンバーが仲良ければそれが一番やねん……、
   (ピキピキッ!) ……ゴルァ! 吉澤と矢口もっと離れんかい!」
平家「……どこが仲良しやねん、
   自分でぶち壊しとるやないかい……」
178  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 05:03
中澤「>>150さん、>>151さん、>>152さん、
   >>153さん、>>155さん、>>156さんおおきにな、
   現在、洒落にならん鬼に追われまくりの状況ですねん、
   なんとかやりくりして行くつもりですさかい、宜しく頼んます」
平家「えらい忙しいよね」
中澤「見通しとして、来月一杯までは山場やね、
   ……ウチはこの物語に関しては、
   書くこと自体に無理しとるつもりは決して無いです。
   一応プロットは最後まで出来てますんで、
   後は読物として仕上げる段階の物理的時間が足らへんのですね。
   無理が生じとるのはここのとこですわ……」
平家「せやね、仕事終わって電車の中では今日こそ絶対書いたる思うねんけど、
   自宅戻ると横になりたいちゅう強烈な誘惑が……、
   寝っ転がったらそこで終わりやねん……、終わりやねんけど、
   気が付くと既に朝ちゅう具合が幾年月……」
中澤「ウチがなんで週一回の連載にこだわるのか……、
   これ、いずれ明かさんとね、他にも同僚はホンマの所どうなんかとか……
   忘れへんかったら、『あとがき』で触れさせてもらいます」
平家「本編以外にも伏線張る気かい!」
中澤「まだまだようさんあるねんで、
   作者はなんでそないなHN使てるのか、
   みっちゃんはなんでウチにビール代の釣り銭よこさへんのか、
   タモリさんの髪の毛は何種類用意されとるのか、
   物体は何故下に落下するのか……」
平家「話がそれ放題やんか! そんなん明かさんでええわ!」
179  920ch@居酒屋  2001/02/13(Tue) 05:05
平家「ところでな、メンバー絡める言うていきなり矢口なん?」
中澤「当たり前やないかい、
   矢口が居れば飯ナンボでもいけるねんで」
平家「……やっぱりかい、せやから>152さんも、
   裕ちゃんの人選はアレや言うてはるんやないの」
中澤「ほな、みっちゃんやったらどないやねん」
平家「まあ聞いてや……、
   セ○の湯川元専務やろ、ファ○通の浜村編集長やろ、
   ほんでこの際やし、豪華に高橋名人・毛利名人も招いて……」
中澤「なんで『DCの明日はどっちだ』大討論会やねん……、
   ……みっちゃんもアホなことばかり言うてます、
   誰が出るかは成り行きですねん、気楽に付き合うてやって下さい。
   わっ! アカン、トーク長過ぎやん……、
   ほなみなさん、次回は『2001,2/19未明』予定です。
   ……せやけど、この先はもうホンマ予定は未定の世界ですねん、
   あくまで目安として見といてくれるとありがたいです」
平家「予定より早くなることは無いのん?」
中澤「……それはみっちゃんの新曲のバックオーダーみたいなもんやからね」
平家「なんやねん?」
中澤「せやから、120%無い! ……ってこと」
平家「確かに! 無いねぇ、ホンマ無いよなぁ、
   裕ちゃんたちは売上記録更新中やっちゅうのに……、
   ……って失礼なこと言うなあぁぁぁぁ!」
180  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/13(Tue) 05:14
ネタバレになるんで内容は書きませんが、なっちが本格的に可愛い!
作者さん、がんばってください。しかし、待つ身は長いけど読むのは
アッという間ですね(笑)
181  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/13(Tue) 08:57
塔の次はダンジョンと。ああなんかロープレやりたくなってきたなあ。
次回も楽しみに待ってます。無理せずどうぞ。
182  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/14(Wed) 01:41
おっ、更新されてますね。次は2/19予定ですか。
楽しみに待っておりますので、作者さんもお仕事がんばってくださいね。
183  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 03:50
加護+辻「平家さ〜ん!」
平家「『なぞなぞシスターズ』やん、何?」
加護+辻「『アイーン体操』はじめよおぅ、ハイ!」
(演舞中〜終了)
平家「(パチパチパチ……) ええね〜、可愛いねぇ」
中澤「アカン! みっちゃん、なんで黙って見とるだけやねん!
   ウチらかて『アイさが』で一時代を築いた名物司会、
   『居酒屋姉妹』やで! 仮にも芸人やったら、
   リアクション返してやらな、やってる方かて辛いやろ」
平家「せやなぁ姐さん、あの頃が懐かしい……、
   って誰が『居酒屋姉妹』やねん! 言うてることがよう分からんわ!」
中澤「(チッチッチッ……)
   これ見せられて『芸人魂』が疼かんかったらウソやで、
   『居酒屋姉妹』の相方として、ウチはホンマ悲しいわ」
平家「せやから『居酒屋姉妹』言うのやめんかぁぁ!
   なんで『芸人魂』やねん、アンタは芸人さんかい!」
中澤「ええか、先輩芸人として、芸には芸を全力で返さなアカン、
   ほな加護と辻、どっからでもかかってこんかい!」
平家「何を挑発しとるねん……」

                                  < Continued on Ed >
184  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 03:52
< 8th Affair >

数年前に大流行した、
撮影からシール製造までを一貫して即時に行う機械、
辻と加護は夢中でその撮影に興じている。

(トントン……)
(ポンポン……)
「……なんれすか?」
「そっちこそなんやねん?」

肩をたたかれた辻と、腰をたたかれた加護は互いに顔を見合わせた。
お互い身に覚えは無い……、一体誰の仕業だ?
恐る恐る後ろを見た二人は、そこに見慣れたカボチャと雪だるまを発見した。

カボチャは黒いウィッチ・ハットと、黒いローブにランタンを持ち、
ユラユラと空中に浮かんでいた。くり抜かれた目の中に小さな炎を灯している。
雪だるまは、青い二本の大きな角を持つ先がひしゃげた帽子に、青いビブ、
そして青い長靴を履いており、青と白のコーディネートがなかなか決まっている。
普段召喚しているとは言え、それ以上にどこかで見た気のするその姿……、
それはシール製造機のマスコットに他ならなかった。

「俺はジャック・ランタン、炎の妖精さ」
「僕はジャック・フロスト、雪の妖精だよ」
「俺達は兄弟なんだ」
「義理のだけどね」

辻と加護は愛らしい召喚者に目をパチクリとさせている。
185  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 03:54
「子供だ、子供だってさんざん言われるけど頭に来るよな、
 そんなの気にしないで、もっともっと暴れてやればいいんだよ!」
「馬鹿にするな〜! ってね!」

そう言うと、妖精達は火炎を放ち、氷柱を放ち、
辻と加護が夢中になっていた機械を、あっという間に破壊してしまった。
その奔放さ、無軌道さはどうやら子供の妖精らしい。

「そんなことしたらだめれす!」
「せや! ののの言う通りや!」

よもや、たしなめられるとは思わなかったのか、
二体の妖精の動きがピタリと止まった。
辻と加護はこんこんと説教を始め、妖精はうつむいてそれを聞いている。
しかし、よく聞くと自分たちが中澤から受けたそのままの内容を語っている。
妖精が予めそのことを知っていたなら、
『オマエモナー』とでも言っていることであろう。

「分かったよ、俺達が悪かったよ……」
「そうだね……、僕達もっと大人になるよ……」

素直な妖精の言葉に、加護と辻は満足気な笑みを浮かべた。
本当に分かってくれたのだろうか?

「ギャハハハハハハ……」

二体の妖精は、別の機械に火炎と氷柱を放ち、又しても破壊してしまった。
その場理解という点で、召喚者はまさに辻と加護自身の姿であった……。
186  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 03:56
保田達五人はゲームセンターに居た。
寺を出てからの行動は、コンビニのハシゴに戻っていたが、
相変わらず芳しい手掛かりは無い。

フとしたきっかけで足を踏み入れたゲームセンター。
そこは、静まり返った空間であったが、
大元の電源を入れると全てが順調に動き出した。
自動販売機の飲物は無事、17種類のアイスの販売機でさえ中身は無事である。
しかも、硬貨無用で好きなだけ飲食することが出来た。

ゲームをするのは、仕事としての機会位で、
プライベートで遊ぶ時間は、ほぼ無いに等しいのが最近の日常であった。
気兼ね無く遊べる環境に、一同はすぐにハマッてしまい、
ついでにブラウンも一緒になってハマッている様子であった。

いつぞやの堕天使の言葉、その小っこいのに関わるな……。
しかし、ブラウンもいつしか一行にとって、
欠くことの出来ないメンバーとなっていることは紛れもない事実である。

特に加護と辻のそれは尋常では無く、あやつり人形のような外見とは裏腹の、
糸を否定するようなやたらチャキチャキした動きは、
どこかユーモラスかつ滑稽で、加護と辻はそんなブラウンが大好きであった。

他の三人は、これを猫と猫じゃらしの関係と捉えていたが、
自分達も憎めないブラウンに好感とまでは行かないまでも、
嫌悪感を抱くことは無かった。
何より、ブラウンが居なければ自分達に召喚者が出現しなかったであろう事実は、
それだけでブラウンの存在意義となっていた。
187  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 03:58
こうして一緒に行動している時間が長くなって来ると、
その仕草や行動から見て、
ブラウンは、男の子であろうというのが全員の意見であった。

その顕著な例は、寺に居る間、
一緒に風呂に誘う加護と辻から逃げ回っていた一件である。
さんざん逃げ回った挙げ句、とうとう一緒には入浴はしなかったのだが、
後日一人で、人間の真似をするように、
湯船につかっているところを石川に目撃されている。

決して風呂が嫌いということでは無いとすれば、
照れていたとしか考えられない。
やんちゃでアバウトで、しかも間抜けという、
一見した救いようの無さを救いに見せてしまう、一種の人(?)徳は、
何故か道中を共にする時代劇のうっかり者を彷彿とさせた。
ゲーセンに来てからも、相変わらず加護・辻と共に元気に店内を走り回っている。

そのままこの店を拠点として、幾日かが経過していた。
怠惰と云う言い方も出来ようが、こうも手掛かりが無ければ、
それはほんの微々たる時間にしか感じられなくなることも又事実である。

矢口と石川は、大画面の音ゲーがお気に入りとなっていた。
タンバリン型の青いスケルトンのコントローラーを握り、
自分達の曲を楽しそうにプレイしている。腕前は既にパーフェクトに達していた。

「りかちゃん、上手くなったね」
「矢口さんも」
188  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:00
タンバリンを振り回す二人から少し離れた場所で、
保田はアイスクリームを食べていた。
メープルシロップ風味のワッフルコーン。
飲物も無尽蔵に取り出せる店内の自販機に、
事務所も少しは見習って欲しいと考えていた。

そろそろ暗くなりかけている表通り、入口に不意に目をやった時のことだ。
加護と辻がブラウンを連れ、店外へ出て行こうとしている。

「……、何してるんだ?」

その姿を見て、ゆっくりと入口へ向かう保田であったが、
表へ出てみると、既に二人とブラウンの姿は無い。
保田が小走りに店内に戻ると、矢口と石川はスポーツドリンクを飲んでいた。

「矢口大変、加護と辻がブラウンとどっか行っちゃった」

矢口と石川は顔を見合わせると、不思議そうな表情をした。
別段慌てる様子も無く、ゆっくりと体を向き変える。
その先には加護と辻が眠っていた。
都バスのシミュレーターの二人掛けのシートに、二人は頭を傾け合っている。

「さっきからずっとああだよ」
「本当だ……、でもブラウンは?」

確かに人形の姿だけが見当たらない。
保田が見たモノは果たして現実なのであろうか?
189  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:02
保田、矢口、石川の三人はゲーセン内を見回った。
並のコンビニより遥かに広い店内は、
置かれた筐体の隙間や陰が至る所に存在する。いたずらな人形のことだ、
もしかしたらそこら辺に隠れているのかも知れない。

「居た?」
「居ませんね……」

再度都バスのシミュレーターの前に集合した三人は腕を組んでしまった。
眠っているこの二人を置いたまま、
ブラウンはどこかへ行ってしまうものであろうか。

突然、店内中の筐体の画面が一斉に切り替わった。
ディスプレイの種類や大小を問わず、一切が同じ画像を映し出している。
それは、どこかの通りの一角であった。

「なんだ、なんだ!?」
「どこだ、ここ……?」
「……これ、ここに来る途中にあった交差点だと思います」

石川の指摘が正解であった。
確かにここへ辿り着く途中に通った記憶がよみがえる。

「でもさぁ、ここがどうしたの?」
「これじゃよく分からないわよ……」

画面は何を意味しているのだろう。
疑問を呈した矢口に保田が言葉を繋ぐと、
モニターは、まるでその言葉を聞いているかのようにズームした。
190  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:04
「ブラウン!」

三人が大声で叫んだ。
そこには、見慣れた安い金色の人形が、
タロットの『吊された男』さながらに片足から吊されている。
生きているのか死んでいるのか、
ブラウン自体の動きを見て取ることは出来ない。

「う、う〜ん……?」
「……だから、だめれすってば……」

三人の大声に目が覚めたのか、加護と辻がほぼ同時に目を開いた。

「……壊したら、アカンやろ……」
「……これで五回目なのれす……」

同じ夢を見ていたのだろうか、
寝ぼけている二人の会話は微妙にシンクロしている。

「……ブラウン!?」
「……ぶらうんがいないのれす」

ディスプレイの映像を見た加護が驚いている。
辻はキョロキョロと、自分達と一緒にいた筈のブラウンを探している。
どうやら二人にも全く身に覚えが無いらしい。
191  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:06
「おチビさん二人も驚いてるのか……、誘拐されたかな?」
「ゆーかい?」

呟く保田を見上げて辻が小声で言った。

「じゃぁ、圭ちゃんはブラウンを連れ出す加護と辻を見たんだね」
「……ブラウンを誘拐って、やっぱりあの子は金で出来てるのかな」
「場所は分かってます、みんなで行ってみましょうよ」

ポジティブな石川の提案に一同はうなづいた。

「大丈夫? ちゃんと起きてる?」
「りかちゃんこそ、しっかり頼むで」
「ぶらうん……」

加護と辻が落ち着かない。
連れ去られたブラウンを案じているのか、不安と焦燥が諸に表情に出ている。
五人がブラウンの許へ向かおうとした表通りは、夜の帳に差し掛かっていた。

「あっ、あそこです」

しばらく行くと、モニターに映し出されていた場所が見えて来た。
暗がりに灯っている街灯と、消えている信号機は、
何かしら不安な気持ちを助長させる。
192  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:08
「ぶらうん……、どこれすか?」

そこに人形の姿は無かった。
辻の手は、保田の服の裾を固く掴んで離そうとはしない。

「どこ行ったんだ……」

一同が辺りを見回していると、角のウィンドウに明るい光量で、
又しても片足を吊られたブラウンが映し出された。
その映像はやけに鮮明で、PCの画面さえも凌駕する、
まるで網膜に写る映像に思える。

「今度はどこ?」
「これじゃ分かりません……」

この会話を聞いているのか、ブラウンの映像が消えると、
代わりに建物の一面が映し出された。

「みたことある……」
「のの、あれや!」

それは、直線距離に見えている建物の映像であった。
おびき出されている?
どうにも誘導されているとしか思えない状況に、
少なくとも矢口と保田はそう感じていた……。
193  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:10
湖に伸びた細い陸地部分は、崩れ落ちる桟橋のように、
扉の下から沈み始め、五人を正円を成す行き止まりまで追い立てている。
一同が円の中に収まると、崩れ落ちる終端は綺麗にRを描いて全て水没した。

「ウチらのステージ、狭くねえべか?」

雨に打たれながら、尚ものん気な風情で安倍が言った。
確かにこれが土俵であれば、安倍にとっては狭いかも知れない。
吹きすさぶ風と雨はますます強まり、雷鳴が轟き始めている。
五人はそれぞれの召喚者を頭上に立てた。

一行の全面は、龍の周囲が湖面に至るまで白い霧のベールに包まれている。
その向こうに何があるのかは、様として見ることが出来ない。
やがて、その奥から一群の人影が近付いて来た。

「なんだろう? たくさん来るよ」

心なしか泰然とした後藤の言葉に続いて、
現れたのは剣と盾を持った骸骨であった。
それは、氷の上を滑るように湖面の上をこちらに向かってくる。

「骨だべ! 骨! いっぱい食わねばダメっしょ!」

その数で押し寄せられたら、
自分達など、ひとたまりもなく陸地から押し出されてしまうであろう。
肉の一切れさえ見て取れない骸骨の集団に安倍が興奮していると、
後藤の人魚が先陣を切った。

(ゴゴゴゴゴゴ……)
194  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:12
湖面に渦潮が発生すると、骸骨は次々と飲み込まれ、
二度と浮いては来なかった。水辺の人魚は強力である。

「ごっちん、やるぅ!」
「せやけど、まだまだようさん居るで」

吉澤は嬉しそうな顔をしているが、
中澤の言う通り、骸骨の数は一向に減ってはいない。

中空にトグロを巻く龍とは、既に会話が成立していなかった。
各人の召喚者が放つ攻撃魔法の数々は、
龍の前には大きな効果を示すことが出来ずにいる。

(ピシャ!)
「きゃあぁぁ!」
「わあぁぁぁぁ! なんまらしびれるべ!」

雷鳴は一層の激しさを増し、遂に一同に雷撃が襲い掛かった。
その威力は吉澤を痛撃し、安倍をも震撼させた。
唯一、雷撃に無事なのは中澤であるが、
中澤の女魔も全体攻撃の魔法の前には、全員分を無効にすることは出来ない。
飯田が一歩踏み出して仁王立ちとなった。

「かおり! なんか策でもあるべか!?」
「突撃あるのみ! ディアァァァァ!」

飯田の甲冑が突進を試みるが、凄まじい雷撃の前に手も足も出ない、
それどころか、甲冑の動きはそのまま止まってしまった。
雷撃を受け感電している……。
195  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:14
骸骨は大挙して迫り来る。
人魚の繰り出す渦潮も、既にそれだけで防戦一方であった。
龍の雷撃も激しさを増すばかりだ。

「ごっちんはかおりを頼むべ! 骨はなっちが引き受けたサ」

安倍の象が骸骨に向けて、衝撃波を放つ。
こちらの効果は劇的で、衝撃波を受けた骸骨は粉々に砕け散った。
問題なのは、魔法が効きづらい龍とその雷撃であった。
既にこうしている間にも、全員の気力は刻々と消耗している。

「そうだ! よっすぃ、三竦み!」
「何!?」

雷撃を受け続ける飯田に癒しを行いながら、
後藤は突如思い出したように言った。

「アタシの人魚が言ってたんだ、龍は鳥に弱いって」
「でも、すごい雷だよ」

確かに、龍が鳥に弱いとしても、
全方位に繰り出されている雷撃は、近付くことが困難である。
雷撃のダメージには、吉澤自身も相当堪えている。

「それや! ウチのが吉澤の鳥を雷から守る、
 近付いたら隙を見て、くちばしで突っついたるんや!」
「でも、裕ちゃんまで行っちまったら、全員に雷直撃だべ……」
「せやねんけどな、ウチ気が付いたんよ」
196  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:16
中澤の女魔は、
全員に降り掛かる雷撃の全てを無効にすることは出来なかったが、
ランダムに一同の頭上を飛び回ることによって、
スポット的に雷撃を無効にし、全員に与えるダメージを軽減していた。

ここで女魔が離れてしまうと、確かに雷撃の直撃は免れないところだが、
三人は中澤に促されるまま、撃たれ続ける飯田の後方、拳一個分程の場所へ、
しゃがんで移動した。身を寄せ合っていると、
飯田とその頭上で感電し続ける甲冑が丁度避雷針となり、
四人は上手い具合に雷撃を避けることが出来る。

いつの間にか、ジェンキンが四人の安全地帯に入り込み、
フワフワと滞空している。

「ジェンキンは気楽でいいべサ……」

本当に気楽なのかは安倍にも知る由の無いことであるが、、
直撃の心配の無いことが分かった安倍は、ニコニコしながら言った。

「よっしゃ! 吉澤、行っくでぇぇ!」
「はい! 中澤さん!」
「ほな、ごっちん、吉澤が撃たれたら回復頼むで……、
 ……って、こらあぁぁ、吉澤速過ぎや!」

ラジコンの飛行機か、はたまた洋凧か、
中澤の女魔と吉澤の鳥が上昇して行くが、グングン進んで行く鳥の飛行速度に、
基本的に女魔は追い付けないようであった。
197  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:18
「きゃぁぁ!」
「よっすぃ、しっかり!」

鳥に直撃した! すかさず後藤が、癒しの魔法を吉澤にも施す。
女魔は雷撃無効だが、鳥はそう言う訳には行かない。
光線を避けつつ進んではいたが、やはり撃たれてしまった。

「せやから慌てたらアカン言うたやん、ウチのを前面に進むんや」

鳥は速度を落とし、女魔を前面に龍に接近する。
雷撃の合間に一瞬の隙が出来た!

「今や!」

鳥は鋭い刃のように龍に突きを見舞う。
その威力は相当なもののようで、龍は一撃でグラついた。

「すごい、すごい! よっすぃもっとやっちゃえ!」
「ご、ごっちん、苦しい……」

興奮した後藤は、思わず吉澤にヘッドロックをしていた。
回復させている本人から、直接体力を奪ってどうする後藤……。

鳥の攻撃は、自ずと一撃離脱の戦法となるが、龍も余程堪えるのか、
狂ったように雷撃を増している。
女魔と鳥は態勢を整え、次の攻撃の機会をうかがっていた。
198  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:20
「どうして、まじめにさがしてくれないのれすか!」

辻を泣かせてしまった……。
赤いマスクのチビ忍者のように号泣する辻の傍らでは、
加護が無言で保田の腕を引く。
その顔も、怒った目と泣き出しそうな口元という複雑な表情であった。

別に端から辻を泣かそうとしていた訳では無い。
折々で映し出されるブラウンの画像は、一大事には違い無かったが、
『吊された男』状態から、次第に『恥ずかしい写真』状態になっており、
ふざけている風にも見て取れるその映像は、
石川の行動にはそれ程の変化を与えなかったものの、
保田や矢口からは目に見えて焦りを失わせ、
その行動自体を緩慢なものとさせて行った。

これに対し、辻も加護も気が気では無い。
何故ブラウンのピンチに、保田や矢口はもっと迅速に動いてくれないのか、
憤りは胸一杯にまで膨れ上がっていた。

そんな二人がいじましく見える反面、日頃手を焼かされることも多い反動か、
ついつい、意地悪心が頭をもたげていたのも事実であり、
緩慢な気分の上に、わざと必要以上のゆっくりさを上乗せした行動は、
とうとう辻を爆発させてしまった。

「やすらさんもやぐちさんも、ひろい(ひどい)のれす!」
199  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:22
烈火のごとく泣いている辻に、
連鎖して泣かれるのを防いでいるつもりか、
いつの間にか石川が加護を抱きしめている。
ここまで泣いてしまった辻は手が付けられない……。

「ごめんよ、オイラ達が悪かったよ……」
「ちゃんと探すから、ほら、泣き止んで……、泣き止みなさいったら……、
 泣き止みなさいって言ってるでしょ! つ……」
「ちょいとそこのアンタら!」

保田が逆切れしそうになったその時、一同の背後から声がした。
立て込んでいる最中だ、余計な口出しはしないでもらいたい。
恐い顔で保田が振り向くと、全部で九体の小さなデーモンが立っている。

「アンタらかい、近頃噂の五人組は!」
「何よ、アンタ達……」

小さなデーモンは威勢良く啖呵を切ると、一斉に背中を向けた。
そこには一体に一文字のアルファベットが刻まれている。

「……スプリング、春ですって!」
「アホかいぃぃ! ワシらは泣く子も黙る愚連隊『スプリガン』、
 『Spriggans』やっちゅうねん!」
200  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:24
石川が天然なのか、デーモンが並び順を間違えていたのかは、
この際どうでも良いことであった。
子供泣きで吠えまくる辻を収拾させたい保田にとっては、
それは、とんだ邪魔以外の何者でも無い。

「ワシらと勝負せんかい!」

尚も威勢のいいデーモンに、再び切れそうになった保田は、
その気持ちを低く抑えて、魔獣を呼び出した。

「(ヒッ……) き、今日のところは勘弁したるわ、
 次遭う時は覚悟しとき……(ヒイィィ〜)」

魔獣の顔は、最強に機嫌の悪い保田の顔であった。
因縁を付けたデーモン達は散り散りに逃げて行く。
そして、不満をぶちまけた辻と加護までをも、魔獣は一気に収拾してしまった。

「圭ちゃん……」
「……恐いですよね〜」

クスクス笑う矢口と石川に、
魔獣が自分の顔で現れたことに気付いた保田は、ますます不機嫌になり、
結局、機嫌が直る迄のしばらくの間、
一行の中で保田が一番気を使われることとなった。
201  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:26
象の衝撃波は、水際で骸骨の進入を防いでいたが、
尚も減らないその数に、さすがの安倍にも疲れが見え始めていた。
他のメンバーも、同様である。どしゃ降りの雨に打たれながら、
安倍は五本の棒付きキャンディーを取り出した。
又一人で全部食べてしまうのかと思っていると、
以外にも安倍は一人に一本づつ手渡し始めた。

「これを舐めて、頑張るっしょ!」

改心している……。中澤が感動していると、
一人前方に立ち続ける飯田の恨み節が聞こえて来た。

「ずる〜い! かおりも食べた〜い」

避雷針となり電撃を受け続ける飯田は、
さながら荒行を行う修験者のようである。一撃一撃が相当の苦痛である上、
自分の後ろでは、こともあろうにお菓子を食べている。
飯田は半泣きになりながら腹を立てていた。

「かおりの分もちゃんとあるべ、戦に勝ったら食べればいいサ」

安倍はそう言うと、二本のキャンディーをまとめて舐め始めた。
他の三人は可哀相やら可笑しいやらで、この状況の中、小声で笑ってしまった。

それ程までに鳥の突きを嫌っているのか、あの一撃以降龍に隙が無い。
それどころが、雷撃に加えてその体の動き、
即ち物理的な攻撃力も増しているように見える。

(ガシッ!)
「裕ちゃん!!」
202  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:28
安倍は二本のキャンディーのうち、一本を飲み込みそうになった。
女魔が龍の体に捕まりクルクルと巻き取られて行く。
女魔に無効なのは魔法だけで、物理攻撃には極端に弱い。

「アタタタタタタ!」

秘孔を突く拳法家の声では無かった。
女魔が龍に締め上げられると、同時に中澤も悲鳴を上げる。
それは体がバラバラになる程の強烈な痛みであった。

「どうしよう! 裕ちゃんに回復するとダメージになっちゃうし……」
「(ゼェゼェ……) アタタタタタタ……、せや……、ウチにはせんといて……、
 ……って、……ん!? (ゼェゼェ……)」

女魔が龍の体に唇をあてがった。
その途端、龍は巻いた体を解き、女魔を引き離そうと懸命に体を振り始める。

「(ワッハッハッハッハッハッハ……)、
 めちゃめちゃ元気やで、(ワッハッハッハッハッハッハ……)」

弱まったり、強まったり、忙しいリアクションを見せる中澤が豪快……、
と言うより気が触れたように笑っている。
女魔は龍の体にしがみ付き、容易に離れようとはしない。

「でも中澤さん、このままじゃ……」

吉澤の心配通り、龍の体が地下空間の天井に近付いている。
振り落とせないなら、叩き付けるつもりらしい。
203  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:30
いつしか雷撃が止んでいた。
安倍は一層の気合いを込めて衝撃波を放ち続ける。
飯田の甲冑がようやく感電から解放された。

「よくも今までやってくれたわね!」

動けるようになった甲冑の手には、大きな槍が握られている。
大きなモーションからその槍が龍の元へ放たれた。
一同に見える槍は、上昇しているにも関わらず小さくならない、
加速するごとにその大きさを増しているようであった。

天井に龍がその体を打ち付けると、その間際、女魔は間一髪で離脱した。
下では中澤が酒に酔ったようになっている。体力の奪い過ぎだ。
正面を向き直った龍に、甲冑の放った槍が迫っていた。

(グサッ!!)

哀れなことに、龍の体は巨大な槍に串刺しにされ天井に突き刺さってしまった。
尚も動き続ける龍の頭の正面に、ゆっくりと鳥が滞空している。

「よっすぃ、今だ!」
「うん!」

後藤と肩を組みながら見守る吉澤の鳥は、龍の眉間に強力な突きを見舞った。
龍の頭が仰け反るとまばゆい光を発し、龍は消滅した。
その瞬間、雨は止み、霧のベールも骸骨の群も一瞬にして姿を消した。

各人は相次いで召喚を終了し、槍を収めた甲冑が最後に飯田の中に消える。
後には静かな地底湖だけが残されていた。
204  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:32
「終わりだべ?」
「もう、本っ当いっつも大変だよね……、
 ……あっ! なっち、かおりにもキャンディー頂戴!」

飯田は忘れていなかった。
或いは、疲労困憊の体自身が甘味を求めたのか。

「……なんや、可哀相やった気もするなぁ」
「裕ちゃんの、凄い執念だったもんね」

さんざん龍の体力を奪ったことに気が引けているのか、
遠い目をして呟く中澤に、後藤がいたずらっぽく言った。

「で、ウチらどうなるのサ?」
「お約束とちゃうん? 天井が崩れ落ちて来るとかな……」
「縁起の悪いこと言わないでよ」

飯田が怒り気味に言うが、その縁起でも無いことは間近に迫っていた。

(ゴゴゴゴゴゴ……)
「なんだろう、嫌だなぁ〜」

そう言いながらも、後藤の表情にはそれ程の危機感は浮かんでいない。
天井に気を取られている五人の足下が、そっくり消滅した。

「わあぁぁぁぁ! 下の方かい!」
「みんな! 手を繋ぐべ!」

湖水は、栓を抜いた風呂のように一同の立っていた地点の穴へ流れ込んで行く。
五人も手を握り合ったまま、その中へ飲み込まれて行った……。
205  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:34
「……生きてる……」

潮騒に目を覚ましたのは後藤であった。
全員律儀に手を繋いだまま、浜辺に打ち上げられている。

「よっすぃ、よっすぃ、みんなもねぇねぇ……」
「う、う〜ん……」

後藤に体を揺すられ、一同が次々に目を覚ます。
どうやら全員無事のようだ。

「ここどこや?」
「外だべ、外! 地上だべ、なっち嬉しい〜!」

漂うように中空を行き来するジェンキンを、
ぼんやりと眺めていた中澤に安倍が抱き付く。
その強過ぎる当たりは、横綱でさえ土俵を割っていたかも知れない。

「ねぇ、吉澤が持ってるそれ何?」
「えっ? そう言えば……」

吉澤と飯田が繋いでいた手を離した時、
吉澤の手には櫛程の舟形の道具が握られていた。……梭(ひ)。
織物の横糸を通す道具だ。ジェンキンは身振りでそれを納めろと言う。

「なぁ、みんなに聞くで、地上って超超超超……」
『イイ感じ!!』

最後は合唱になっていた。
206  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:36
ブラウンを追い続け、既に幾日かが経過してしまった。
途中、ヒントとして映し出される画像に迷う場面も幾度と無くあったが、
その間に空間の裂罅に飛ばされることは一度として無く、
それはストレスを招かない変わりに、
あざ笑われているようで、非常に不愉快であった。

ブラウンを追う一行は、その途中途中のコンビニで、
食事と休息を得ていたが、辻の憔悴は目に見えて激しく、
ブラウンの危機は、同時に辻の危機となっていた。

食事もろくに喉を通らず、眠りも極めて不安定な辻は、
時々思い出したように泣き出したり、その有様は同様に思っている筈の、
加護でさえ慰めなければならない程の痛ましさである。

このままでは、辻が先に参ってしまう……。
焦りの色が隠せない一同の前に、その日映し出された画像は、
本当に近くにあるのかと思える森であった。

「これ、どこだろう?」
「都内ですかね?」
「とにかく行こう、行こう!」

矢口と保田が、既に涙目になっている辻を、
両脇から支えるように歩き出すと、その後をミニポポの二人が続いた。

「(ヒック……、エッ、エッ……)」
「大丈夫、今日こそ助け出せるよ……」

道中も泣き続ける辻を慰めながら歩き続ける一同の前に、
まるで、この数日間がウソのようにあっさりと映像と同じ場所が現れた。
207  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:38
「ここかな?」
「そうみたいですね」
「もうちょっとの辛抱じゃない……、辻行くわよ!」
「……へい」

保田が辻に言うと、辻の表情に少しだけ明るさが戻ったように見えた。
一行はようやくブラウンが捕らえられているとおぼしき場所へ辿り着いたようだ。
それは、公園であるのだが植物の生え方が尋常では無く、
外から中をうかがい知ることが出来ない、
まるで都市の中に忽然と出現したジャングルのようである。
唯一の入口と見て取れる場所には、白い半透明の物体が浮遊していた。

「なんかヤだなぁ……」
「こんなの、無視して突っ込めばいいのよ」

顔に出るたちの矢口の表情は、露骨に嫌がっている。
保田は造作も無いと言った風情で、サッサと入口に向かったが、
意に反して、体ごと弾かれてしまった。

「なんで!?」

ムッとした保田は魔獣を召喚したが、
その力を持ってしてもこの浮遊体を突破することが出来ない。

「ほな、ウチらが……」

続いて、加護と辻が相次いで召喚するが、
吹雪も火炎もやはり効果は無かった。

「みんなダメなら、オイラのだってダメじゃん」

呼び出された狐は化身しない。土砂を仕向けたところで効果は無く、
ましてや舞った所で、何の変化も起こらなかった。
208  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:40
一同が困惑していると、石川がソワソワとしている。
照れているのか何かを言い出し気で、言い出せずにいる。

「りかちゃん、どうしたの?」
「あの……、私のが未だ……」

矢口に振られて、ようやく言葉を出すことが出来た石川の様子は、
期待と確信に満ちている。

「(!) 石川向きの魔法かも知れないわね」

ポン! と両手を叩いて保田が言うと、石川は一同の間から歩み出て、
浮遊体の正面に立ち、何やらクルクルと回る振り付けをした。

「りかちゃん、どないしたん?」
「チャーミー!!」

チャーミー!? 石川のアクションを怪訝に眺めていた四人は、
そのまま石川の口から発せられた掛け声に、背中が痒くなってしまった。
本人の中では、魔法のヒロインを気取っているつもりなのかも知れないが、
それは余りにも寒く、中澤が居れば一蹴されていたであろう。

石川の女精から発せられた破魔の魔法は見事に決まり、
浮遊体は跡形もなく消滅した。

「りかちゃん、すごいれす」

石川は嬉しそうに笑みを浮かべていたが、
四人は石川の仕草と声がしばらく頭の中に残ってしまい、
思い出す度に痒くなる背中が少々困りものであった……。
209  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:42
公園内を走る道は、左右から草木がアーチを作るように伸びており、
園内の上空を覆い隠していた。
それはまさに『薔薇は美しく散る』というイメージそのもので、
昼間にも関わらず、アーチの下は夜を思わせる。

(ガサガサ……)

一同が横隊で歩いてもまだゆとりがある道を進んでいると、
枝葉に分かれた脇道から、一つの影が飛び出した。

「りかちゃんや……」

加護が目を丸くしたが、五人の前には石川が立っている。
しかし、その石川は全身がモノトーンで、肌の色までグレーであった。

『ドッペルゲンガー』……、仮に自分達の召喚者を正の分身とするならば、
眼前に現れたのは負の分身、自身の裏面の本意であった。

一同と影法師の石川はしばらく見つめ合っていたが、
一行がにわかに足を踏み出すと、影法師は尻餅を付き、
そそくさと今来た道を引き返して行ってしまった。
その姿は、石川本人をさらに滑稽にした様子で、
四人はおろか石川自身でさえ思わず笑ってしまった。

「……がっかり」

女精の破魔が見事に決まり、せっかくポジティブに決めたつもりだった石川は、
その影法師の情けない姿に、笑ってしまった後で憮然としている。
公園内を走る道は、アーチの中を無限に続いているようであった……。

                                  < To be continued >
210  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:44
< Continued from Op >

加護+辻「『アイーン体操』はじめよおぅ、ハイ!」
中澤「おぃっス!」
加護+辻「まえ〜にアイーン!」
中澤「いっくしッ!」
加護+辻「みぎ〜にアイーン!」
中澤「なんだ、バカヤロー」
加護+辻「ひだりにアイーン!」
中澤「歯磨けよ!」
加護+辻「うしろにアイーン!」
中澤「ちょっとだけヨン」
加護+辻「じぶんにアイーン!」
中澤「スンズレイしました」
加護+辻「アイーン! アイーン! アイーン! アイーン!」
中澤「ヂス・イズ・アッ・ペン!」
加護+辻「た〜の〜し〜い〜な〜」
中澤「加トちゃんぺ!」
加護+辻「アイーン!」
中澤「だみだコリャ!
   ……どや! 先輩の芸、よう見てしっかり盗むんやで!」
平家「なんでドリフの応酬やねん! 荒井注さんまで居るやないかい、
   そもそも盗めって、アンタが一番盗んどるわ!」
211  920ch@居酒屋  2001/02/19(Mon) 04:46
中澤「>>180さん、>>181さん、>>182さんおおきにな、
   ようやく後半戦突入です、一遍自分でも通して読んでみました。
   もう、粗だらけ穴だらけで、昔のみっちゃん見とるような……(赤面)」
平家「なんでいつも人のこと引き合いに出すねん!!」
中澤「>180さん、ホンマですね、
   ウチが矢口の為に作った真心の手料理、
   それが一瞬目を離した隙に、なっちに全部食われた時の空しさ……、
   ……おのれぇぇ、今度こそ一服盛ったろか!」
平家「なんで毒を盛るねん!
   いくらなっちかて、一瞬で全部食べれる訳無いやろ!」
中澤「>181さん、この物語のベースのRPG、
   これは書き出すと切りが無いです、是非、又の機会に触れたいですね」
平家「せやな……、ここまで書いて来たら触れない訳にはいかんやろね」
中澤「>182さん、なんとか予定通りにUP出来ました、
   薄氷と言うか綱渡りと言うか……、みっちゃんやったらどっちがええ?」
平家「どっちも嫌や! アホなこと聞くなあぁぁ!」
中澤「ほなみなさん、次回は『2001,2/26未明』予定です。
   新世紀もぼちぼち二ヶ月経過、早いですねぇ……、
   ……ところで、みっちゃんの新曲って発売されたん?」
平家「なんでやねん! PVの出来、褒めてくれたやないかい!
   ……この間、中古屋さんで『GET』が3枚100円のコーナーにありましてん、
   わぁ〜、メッチャええ値段や思いまして、思わず5人組ココナッツ娘。の
   『ハレーション サマー』と一緒に買うてしまいました……。
   ……中古で発見する『平家みちよ』は余りに似合い過ぎて……、
   みなさんは手放さんと持っといてな……(シクシク……)」
212  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/19(Mon) 05:54
今回はかなりのボリュームで読み応えがありました。
ああ続きが気になる。忙しいとは思いますが頑張ってください。
応援しています。
213  語り娘。後藤  2001/02/19(Mon) 08:36
頑張ってください。このお話毎週たのしみです。
214  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/19(Mon) 22:17
全員均等に出番があるものってのは珍しい気がするし、
かといって詰め込みすぎにもなってないのは素晴らしいです。
責任感ある作者さんにも好感。

215  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:19
中澤「『ミニモニ。』のCM見た?」
平家「あの犬のヤツやろ、ええね、可愛いなぁ」
中澤「デヴィ夫人なんて目じゃないね……」
平家「また暴言吐いとる……、直接本人の前で言うたらんかい」
中澤「……って平家みちよが言うてました」
平家「なんでやねん! 人のせいにするなあぁぁ!」
(バタン!)
平家「わっ!
   ……りかちゃんやん。突然驚かさんといてや」
石川「(ゼェゼェ……)」
中澤「どないしたん? 恐い顔しとるで……、
   ……って、なんやねんその髪型!」
平家「格好もそうやで! 80年代のスケ番かい!」
石川「(ゼェゼェ……)」
中澤「わあぁぁぁぁ! ウチらの中の唯一の乙女、石川がグレてしもた!
   その『ゼェゼェ』はなんやねん、
   トロか? アンパンか? (シクシク……)」
平家「ウチら二人で良ければ何でも言うてや、
   悩みがあるなら相談にも乗るで……」

                                  < Continued on Ed >
216  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:21
< 9th Affair >

「落下してる……」

不思議なことに、吉澤は頭からではなく、
仰向けの状態で落ち続けている。
凄まじい勢いで落下しているにも関わらず、
体に受ける抵抗も、心中の有様もまるで達観したように穏やかであった。

「このまま地面に激突するのかな……」

一向に焦りが表出しないまま、その目を大空に泳がせていると、
一羽の褐色の大鴉がこちらに向かって来る。
それは知らぬ筈の無い、吉澤の召喚者であった。

大鴉は吉澤と並ぶ位置にまで飛来すると、今度は吉澤の落下に合わせて、
垂直に降下を始める。その様子は、まるでVTOL機を思わせるが、
その速度はとても航空機に真似の出来るモノでは無い。

そのまま大鴉を見つめていると、
驚いたことにその体はメカニカルに変型を始めた。
かつて一世を風靡した人型に変型する可変戦闘機のように、
落下しながら形を変え続ける大鴉は、ついに女性の姿になった。
鳥に見えていた部分は、全てその体に纏う鎧と化している。
大鴉が両の腕で吉澤を抱えると、吉澤の落下が止まった。

「アタシはモリーアン。
 鳥だと思ってたろうけど、本当は女神なのさ」
217  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:23
言葉の端々がやけに尖っている。
それはこの女神の気性の荒さを物語っていた。

「オマエ卵が好きなんだろ?
 でも残念だな、アタシは卵なんか生まない」

別に生んでもらわなくても結構である……。
それより吉澤はその女神の顔が気になっていた。
確かに美人ではあるのだが、見る角度を変える度に、
乙女、年配の女、そして老婆に見える。一体どれが本当の顔なのであろうか。

「アタシはかの者を追い続けているのさ。
 言い寄ったこともあるけど、見事に拒絶された……。
 だからお返しに死の呪いをかけてやったのさ……」

物騒な女神様だ、呪いだけは勘弁して欲しい。

「でもな、その後命を助けられた……、
 結局和解してそれ以来、ひたすらかの者を追い続けている……」
「かの者って……?」

吉澤が素直に疑問を呈すると、何か気に障ったのであろうか、
女神は再び大鴉の姿に変型を始めた。

「オマエも良く知っているあの者だ!」

大鴉は腕を引っ込める間際、吉澤に言い放つとそれきり飛び去ってしまった。
吉澤の体は再度、落下を始める。

「あの者って……?」
218  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:25
目を開いた吉澤は、とある学校の屋上に居た。
永遠に続くとも思える穏やかな気候に、
目を閉じたつかの間、突発的に眠りに落ちてしまったらしい。

地下世界から脱出し、浜辺に打ち上げられた中澤達五人は、
とにかく体を洗える場所を探した。ジェンキンの魔法も、
さすがに海水にまでさらされた体と心をスッキリさせる迄には至らず、
一同はシャワーを求めさまよい歩いた。

そんな時、偶然足を踏み入れた学校の宿直室に風呂があった。
それどころかその室内の様子は、問題無く人が暮らせるほどに充実しており、
一行はそのまま学校に居着いてしまった。
コンビニで食料を調達する以外は、もう何日間も校外を探索していない。

メンバーが顔を合わせる機会もメッキリと減り、
一同が会するのは、布団を敷いた宿直室に寝に来る時位のモノで、
中澤に至っては、宿直室に眠りに来ることさえ無くなっていた。

ともすればバラバラになってしまう五人の間を、
糸の細さでかろうじて繋ぎ止めて居るのが、
毎日一度は全員に顔出ししている吉澤であったが、
その吉澤も、中澤と直接顔を合わせることだけはしなかった。

中澤が校長室に居ることは知っている。
知ってはいるが、その扉をわざわざ開けることが出来ない。
別に中澤を嫌っている訳では無い。ただ、一対一になってしまうと、
何を話して良いのか分からなくなってしまい、気詰まりしてしまうだけの話だ。
それは、恐らく中澤とて同じことであろう。
吉澤は、中澤については校長室に人の気配を確認することでOKとしていた。
219  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:27
飯田は圧倒的に体育館に居ることが多かった。
行けば、まず間違いなくバスケをしている。
ただ、飯田以外に人の姿は見えないにも関わらず、
飯田の手を離れたボールは、透明人間に操られているようにドリブルを続けた。

「飯田さん……」
「……吉澤か、一緒にやる?」
「いえ……、いいです」

やりたくても、
飯田以外の人の姿が確認出来ない以上、一緒にプレーする自信は無い。

「じゃっ、ちょっと休憩ね〜」

飯田が吉澤の方へ歩いて来る。
飯田がコートに入っていた時には一個だけであったボールが、
すぐに無数に増え、それぞれがドリブルを始めた。
その音は、放課後のクラブ活動を思わせる。

「あの……」
「何?」
「飯田さんは誰とバスケしてるんですか?」

いい機会なので聞いてみることにした。
飯田は目をパチクリとさせ、いつもの怪訝な顔をしている。

「誰って……、吉澤には見えないの?」

見える筈が無い……。交信が特技の飯田だからこそ見えるのであろうか。
飯田はどう表現したものか困っている様子で、やがて吉澤に背を向けた。
220  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:29
「はい! じゃぁ、再開〜」

答えを出さないまま飯田がコートに戻ると、
無数のバスケットボールは再び一つだけになり、試合が再開された。
飯田の周りに居るのがデーモンであることは明白であったが、
その姿は結局分からない。吉澤は体育館を後にした。

校舎内にも様々なデーモンが出現したが、
すでに五人の敵では無く、一人でも十分にあしらうことが出来る。
それが、五人をバラバラに行動させている一因でもあるのだが、
その気持ちは奇妙な安定感となり、現状を居心地の良いモノにさせていた。

トイレに入ると、いつかの奇妙なホテルで出会った女の子が姿を現す。
女の子は自分の名前を『花子さん』と名乗った。
気楽に話せる友達となっていたが、
もし自分が取り憑かれているとしたら、それは嫌だと吉澤は思う。

「ねぇ、お姉ちゃん達はズッとここに居るの?」
「う〜ん、分からないわ」
「でもね、花子さんはこんなに強いお姉ちゃん達は初めてだよ、
 ズ〜ッとここに居れば」

そう言うと花子さんは姿を消した。
こんなに強いお姉ちゃん達は初めて……?
花子さんの言葉が耳に残った。
以前にも誰かがこの世界を訪れているのであろうか?
221  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:31
公園を貫く道は果てしなく続いている。
もう相当歩いている筈であるが、一向に先の見当が付かない。
後ろを見ると、入口も全く見当が付かなくなっている。
行くことも、戻ることも叶わない状況は、
前進することを強要していた。

タイミングは全く読めないが、
道中の折々に、実況中継の如くブラウンの姿が映し出される。
突如空間に出現する液晶大画面、
しかし、その鮮明さは網膜に直接映写されているに等しかった。
画面の上には、ご丁寧に上向きの矢印が必ず付く。
脇道に逸れずに、とにかく直進しろと言うことか。
実に不愉快な矢印であった。

ブラウンはいつしか首、両手、両足にロープを張られ、
五肢に渡って引っ張られている格好になっている。
このまま力が加わり続ければ、バラバラになってしまうであろう。
ブラウンの映像を見る度に、辻に涙がこみ上げた。
辻を泣かせたくないことは勿論だが、ブラウンも本気で危ない。

「みんな急ごう」

自然と矢口を先頭にした一行はペースを上げる。
足早に歩き続けていると、五人の前に一体の人影が見え始めた。

「……げっ! オイラじゃん」
222  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:33
その影法師は矢口であった。
無表情なグレーの矢口が、ジッとこちらを見つめている。
五人は足取りを止め、影法師を見つめ返した。
石川の時と同じだ……、このままでは埒が明かない。
一同が足を踏み出すと、影法師の目が冷たく光った。

(ビュン!)
「わあぁぁぁぁ!」

突如として飛び掛かる影法師に、五人は散り散りになった。

(ビュン!)
「キャッ!」
「え、枝が切れてしもた……」

襲い掛かる影法師の手は、手刀を形作っている。
手刀をかわした石川と加護の間で、生い茂る木の枝が切り刻まれた。

「矢口、これ……」
「うん、格好はオイラだけど、中身は……」

外見は矢口であるが、それは召喚者以外の何者でも無かった。
徐々に影法師の攻撃の精度が上がって来ている。
空間には、又ブラウンが映し出された。
状況はどんどん悪くなっているように思える……。
223  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:35
「辻! よけろ!」

ブラウンの映像に、泣きながら動きの止まってしまった辻を、
影法師の手刀が襲う。矢口の体当たりでかろうじて避けたが、
全員がこのままここで足止めされるのもまずい。

「みんな! ここはオイラが引き受けた!
 早くブラウンの所へ! 圭ちゃん、みんなを頼むよ!」
「でも、矢口!」
「大丈夫、すぐ追い付くから」
「……分かった、矢口、絶対追い付けよ!」
「ガッテン!」

狐を呼び出し、影法師を引き付ける矢口を後に四人は先を急いだ。

最後までブラウンの姿を見ることが出来なかった矢口も、
今では近くにブラウン無しで、こうして召喚を行っている。
そんな自分に妙な感慨を持つ矢口であったが、
それ以上に参ったのは、矢口の影法師、いや正確には若武者の影法師であった。

それは、今や明確に矢口本人を狙っている。
矢口は辛うじてその刃をかわしているが、徐々に余裕が無くなり始めていた。

(ビュン!)
「わあぁぁぁぁ! 危ないだろ! 死んじゃうだろ!」

手刀の威力は、凄みを増している。既に何本かの木が切り倒されている。
これが自分の分身だとすれば、
自分の召喚者もとんでも無い化物ということになるではないか。
224  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:37
狐は一向に化身する様子が無い。
既に矢口だけでは影法師の刃をかわすことはままならなくなっており、
その攻撃は、矢口本人に狐が繰り出す蹴りや払いで避けている状況だ。
おかげで、矢口はあざだらけの泥だらけになっている。

「変身してくれよ〜」

狐のままでは勝ち目などある筈が無い、
矢口は突き飛ばされながら、懸命に念じ続けていた。

……すっかり矢口の姿は見えなくなった。
しかし、ブラウンの姿も一向に見えて来ない。

「……矢口さん、大丈夫でしょうか」
「……平気だよ、矢口だもん。
 ……って言うか大丈夫じゃないと困る」
「や、やすらさん!」
「ホンマや、保田さんや!」

先を急ぐ四人の前に再び影が現れた。
影法師の保田が一同の正面に立ちはだかり、ジッとこちらを見つめている。
その目は、赤く輝いていた。

(ビュン!)
「わっ! 思った通り!」

自分の影法師にその動きを予測した保田は、横っ飛びに襲撃をかわしたが、
他の三人は散開し切れず、石川はその場に尻餅を付いた。
その尻餅が幸いしたのか、影法師は石川の上を通過すると勢い余って草木の
アーチに突っ込み、そのまま軽く数本の木を薙ぎ倒した。
225  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:39
矢口の影法師が実質その召喚者であったとすれば、この保田は魔獣だ。
しかも、そのパワーを見る限り、
本家を遥かに凌駕しているようにさえ思える。
一行が保田の影法師に向き直ると、影法師は自分達が今来た道を走って行った。

「しまった!」

狙いは矢口か!
いくら矢口と言えども、若武者と魔獣が相手では分が悪過ぎる。
このまま影法師を追うべきなのか……、どこまでが罠なのか……、
悪い予感を片隅に、保田が一瞬考えていると、
再び前方を向いた三人が硬直している。

「やっぱり出たわね!」

果たして、嫌な予感は的中した……。
辻と加護のドッペルゲンガーが横並びで立っている。
その口元は不気味な笑みを浮かべていた。

影法師は辻、加護本人と交互に相対している。
一瞬の沈黙を挟み、ドッペルゲンガーは笑いながら強烈な火炎と吹雪を放った。

『きゃんっ!』

辻と加護も各々の召喚者を立て、火炎と吹雪を放ったが、
影法師の放つタイミングの方が早かったことに加え、
ここでも影法師の放つ魔法のパワーの方が本家の数段上を行っている。
相反属性の魔法の威力で押し負けた辻、加護両者は、
そのまま後方に吹き飛ばされた。
226  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:41
「ふ、二人共しっかりして……」

この一撃で、辻も加護もさらなるダメージを受けている。
石川はオロオロしながらも、懸命に二人の回復を計っていた。
しかし、石川とて無限に気力が続く訳では無い。

「ケケケケケケケ……」

非常事態に焦る保田は、ギョッとして気付いた。
影法師が石川を狙っている。ここで石川まで潰されたら自分達は壊滅だ。
加護の影法師が石川に目がけ、鋭利な氷柱を放つ。

「石川ぁぁ!」
「キャッ!」

天然を発揮しているのか、
さっきから尻餅を付くことで事無きを得ている石川であったが、
この尻餅で逃げ場が無くなった。
辻の影法師が石川目がけ、豪火を放つ。
石川は最早身動きさえ取れなくなっていた……。

「石川あぁぁぁ!」

召喚よりも先に体が動いた。
魔獣を呼び出す半歩手前のタイミングで、保田の体が火炎に飛び込んだ。
その体が青白い炎に包まれ炎上する。

「保田さあぁぁぁぁん!!」
227  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:43
食堂にはいつでも安倍が居た。
校内の菜園から調達して来るのであろうか、
吉澤が顔を出す度に、必ず何種類かの新しい野菜を目にする。

「なぁ、頼むべ……、
 これに火を噴いてくれるだけでいいんだべ」

安倍は象を呼び出し何かを語り掛けている。
その手には生のトウモロコシが握られていた。

「安倍さん……」
「あっ! よっすぃ、いいところに来たんでないかい、
 今、『焼トウモロコシ』が出来るべ、待っててな」

象はいい顔をしていない。
むしろ怒っているようにも見える。
大体自分の召喚者を調理道具に使おうと言う発想自体、
吉澤には思いも付かないことであった。
恐るべし安倍なつみ……、やはり並みの食いしん坊では無いようだ。

象は一向に火を噴こうとはしない。

「そっか……、噴いてくれないべか……、
 したらなっちはこれを一気飲みするっしょ」

安倍はそう言うと、まだ口の開いていない醤油の瓶を取り出した。
228  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:45
象の顔が急に慌て出した。
1.8リットル……、それだけの量の醤油を一気に飲み干されたら、
いくら安倍と言えども、どうなってしまうか保証は出来ない。
安倍本人の具合が悪くなれば、
それはすなわち象の具合が悪くなるということである。

「あ、安倍さん、それって脅迫……」

凄い、凄過ぎる……。
召喚者相手に、堂々と捨て身の脅迫を言ってのける安倍はやはりただ者では無い。
ついに象が承諾したが、その顔は苦り切っている。

「やった! よっすぃ、待っててな」

そう言いながら次から次へと取り出されるトウモロコシの数は、
一本や二本では無かった。
弱火で焼かれるトウモロコシの香ばしい匂いは鼻をくすぐる。

「よっすぃは何本食う? 十本位でいいかい?」
「い、いえ……、一本でいいです……」

その味は、とても校内菜園で収穫されたものとは思えない程の美味であるが、
一本で十分であった。象はやれやれという表情で吉澤の方を見る。

「ごちそうさまでした」

安倍は残り数十本を一人で平らげてしまうのであろうか。
その光景を想像すると、何だか恐くなり吉澤は食堂を後にした。
229  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:47
石川が絶叫すると、
保田自身が石川の壁になるという予想外の展開に驚いたのか、
二体の影法師の動きが鈍った。

「ア、アンタ達みたいなのが存在してたら困るのよ……」

炎上しながらうわごとのように呟く保田から、
苦痛に顔を歪ませた魔獣が現れる。
魂が燃える程の怒りを表情ににじませた魔獣は、
燃え上がりながら辻の影法師を一瞬で八つ裂きにした。

加護の影法師が恐怖に顔を歪ませ、その場から逃げようとしている。
魔獣は蠍の尻尾から無数の針を放つと、
針にあてられた影法師の動きが止まった。
そのまま、今度はゆっくりと魔獣に八つ裂きにされる加護の影法師は、
流血などの生々しさこそ無いものの、
充分過ぎる程に凄惨な場面であり、その光景に石川は目を覆い、
辻と加護は、ただ硬直したまま凝視するだけであった。

「や……、保田さん……?
 ……保田さあぁぁぁぁん!!」

二体の影法師の始末を終えると、
魔獣は消え、保田の体からも炎が消えた。
そして、保田はうつ伏せに倒れ込んだまま動かなくなった。
230  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:49
(ビュン!)
「わあぁぁ! 誰!? 圭ちゃん!?」

苦戦を続ける矢口の前に新たな影が現れた。
保田の影法師だ。……と言うことはこれは魔獣か?

メンバー中最高の体力を持つ矢口と言えども、
無限の体力を持つ訳では無い。
現にここまで若武者の影法師をかわして来れたのは奇跡に等しい。
そこに魔獣の影法師……。狐がようやく若武者に化身した。

「遅いよぉぉ!!」

矢口は怒りを込めて自分の召喚者に怒鳴った。
若武者は二本の太刀を抜くと、二体の影法師の手刀と爪を受けるが、
矢口が突き飛ばされることが減った訳では無い。

影法師が本体である自分を狙って来る以上、矢口本人と召喚者は、
離れ過ぎる訳には行かず、かといって近づき過ぎても危険という、
非常に難しい状況が続いている。

若武者も二対一という数のハンデに加え、
影法師のパワーの方が勝っているようで、かなりの苦戦を強いられていた。
それは夕陽を背に、二体の敵と戦う光の巨人の悲壮感を思わせる。

(ドンッ!)
「痛っ!」

又しても蹴られた。蹴りの威力は狐の時より、今の姿の方が強い。
どう転んでも一長一短になってしまう状況は皮肉なものであった。
231  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:51
矢口本人に攻撃が及ばぬよう、
懸命に応戦する若武者の両手の太刀が、矢口の影法師の両手を受ける。
その結果反対側が、がら空きの体勢になってしまった。

「危ない!!」

矢口本人が、起き上がりながら叫んだ。
保田の影法師も同様に思ったことであろう、
ギラギラと目を光らせながら、手刀を受けたまま拮抗している若武者に両腕、
すなわち魔獣で言うところの前足を振り下ろした。

「ダメだあぁぁぁぁ!!」

絶叫する矢口の眼前で、若武者は化身を解き狐の姿に戻った。
若武者の上半身を空振りした保田の影法師の手は、
その勢いのまま矢口の影法師の上半身を吹き飛ばした。

保田の影法師の後方に回り込んだ狐は再び化身すると、
拮抗する相手を失い、そのまま落下した太刀を素早く拾い上げ、
残る影法師を頭のてっぺんから真っ二つに両断した。……決着は一瞬であった。

……無惨に吹き飛ばされた自分の形と、切断された保田の形、
それは、矢口自身をこの上なく嫌な気分にさせた……。
両手を付いたままへたり込む矢口は、しかし、ようやく緊張を解くことが出来た。

「……ありがとう」

こうして生きていることが信じられないといった表情の矢口が、
思わず若武者に礼を言うと、若武者は太刀を鞘に収めながら、
涼しい笑顔を見せ、狐に戻ること無く矢口の中へ消えた。
232  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:53
「お〜い、みんな〜!」

思ったよりも早く四人に追い付くことが出来た。
体はガタガタ、気力の消費も激しい筈の矢口であったが、
努めて明るく声を上げ、合流しようとするが一同の様子がおかしい。

立ち尽くしたままの辻と加護に、泣きじゃくる石川、
そして、うつ伏せに倒れたままの保田……。

「圭ちゃん……?」
「矢口さん……、保田さんが、保田さんが……」

辺りには肉の焦げる、この場合は嫌な臭いが立ち込めている。
保田自身に火傷や外傷は見られない。服装も焦げたり破れたりはしていないが、
その臭いと三人の様子から察するに、どうやら保田は焼かれたようであった。
外見だけが無事なのは、魔獣の力によるものなのかも知れない。
保田はかすかに呼吸だけはしているものの、
一向に動く気配は無く、その姿は深刻なダメージを物語っていた。

「(ヒック……、ヒック……)
 矢口さん……、保田さんが、保田さんが……」
「りかちゃん、泣いてるままでいいから、
 落ち着いて全部話して……」

泣きながら一部始終を話す石川の頭上に、ブラウンの映像が現れた。
放心したように立ち尽くしていた辻が、
画像に呼応するように膝を抱えて泣き出す。
二人につられたのか、とうとう加護までが泣き出してしまった。

「……分かった、オイラが圭ちゃんを担ぐから、
 みんなも元気出して行こう、圭ちゃんもブラウンも助けなくちゃ」
233  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:55
担ぐと言っても上背の無い矢口のことだ、
保田の体は、必然的に矢口にしなだれかかるようになり、
つま先はズルズルと引きずられている。

快活に言ってはみたものの、
ここまで悪状況になるとは、誰もが想定出来なかった。
ブラウンと保田を助けるどころか、全員ここで壊滅してしまうかも知れない。

「圭ちゃん、重たいなぁ……」

矢口が不意に呟いた。普段なら噛み付かれるかも知れない危険な台詞も、
今の保田からは、かすかに呼吸が感じられるだけであった。

責任を感じているのであろうか、
嗚咽を繰り返しながら歩き続ける石川は、いつの間にか保田に癒しを行っている。
保田の状態では、石川の全気力を使い果たしても回復には足りないであろう。
本当なら、石川にこれ以上の気力を消耗して欲しくは無かったが、
矢口にそれを止める言葉は無かった。

「りかちゃんは、わるくないのれす……」

そう言った辻の声は泣き声だ。
加護もしきりに鼻をすすっている。

「泣くなぁぁ! みんな泣くなぁぁ!」

矢口は溜まらず言った。自分だって泣きたい、
しかし、ここで自分までが泣いてしまう訳には行かない……。辛い立場であった。
234  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:57
(ガサッ!)
「(!)」

一行は戦慄した。石川の影法師が再び姿を現している。
これ以上の気力を消耗する余裕は、もう誰にも残っていない。
重い空気で歩み続ける一同の横を、
伴走するように影法師が歩いている……。

石川の影法師は帯同したまま、攻撃を仕掛けてくる様子が無い。
それどころか、大ダメージの保田に癒しを行い始めた。

その魔法は他の影法師の例にたがわず、石川本人の癒しより数段強力で、
これなら保田は助かるかも知れないという、淡い期待を矢口に抱かせた。

その姿は六人目の同行者であり、
石川とその影法師は保田に集中治療を施しているが、
それでも保田の目は開かない。

いつしか石川の影法師は、体の密度が失われて行くように透け始め、
石川本人が召喚の気力を使い果たす頃には、
一行の前から消滅してしまった。

「りかちゃん、きえちゃったれす……」
「……優しいねんな、りかちゃんの影法師」

加護の言葉は、自分のことを言っているようで、
石川は加護に、泣きながら力の無い笑顔を見せた……。
235  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 06:59
後藤はプールに居ることが多い。
後藤の召喚者は真水でも海水でも関係無いようで、
時々、後藤と一緒に水の中に居るところを散見する。

「ごっちん、水着!」
「いいじゃん、どうせウチらだけだもん、
 デーモンだったらもっと恥ずかしいのも居るしね」

中澤の召喚者のことを言っているのであろうか?
後藤は裸で泳ぎ回っている。そのあまりに奔放過ぎる姿は、
時折、吉澤の方が赤面してしまう程であった。

「よっすぃも泳がない?」
「うん? いいよ、ここに居る」

吉澤はプールサイドに腰を下ろし、
温水プールの水をかき混ぜるように触った。

「ねぇ、ごっちん、そこに何か居ない?」
「えっ! これ? これ半魚人。
 エヘヘヘェ〜、大人しいんだよ〜、一緒に競争したりとかさ、友達なんだ!」

後藤は屈託無く言い放つ。アンタは大物だ……。

「ねぇ、ごっちん、ウチらいつまでこの世界に居るのかなぁ……」
「何? よしこホームシック?」
『……みんなに話があるねん、校長室に集まってや……』

校内中にアナウンスが流れた。
突然何だろう? そそくさと着衣した後藤は吉澤と共にプールを後にした。
236  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 07:01
校長室の扉を開けると、既に飯田と安倍が揃っている。
そして、吉澤と後藤の視線は中澤の顔に釘付けになった。
ジェンキンに悪戯されたのか、
それはピカソを思わせる芸術品に仕上げられている。

「(アッハッハッハッハッハ……)
 裕ちゃん何それ、変な顔〜!」

後藤がハイ・トーンで腹を抱えながら笑い出した。
吉澤も吹き出してしまうと、
中澤は怒るのでは無く、一緒になって笑い転げている。
その光景は、笑い終えていた筈の飯田と安倍からも、
再び笑いを誘い出してしまい、
部屋の中には、しばらく賑やかな笑い声がこだました。

「みんな揃うの久しぶりやなぁ〜」
「裕ちゃんだけ寝に来ないからだべ」
「裕ちゃん、いっつも一人で何してるのさ!」

中澤がしみじみという面持ちで感慨を述べると、
すかさず安倍と飯田が言葉を返した。
少し前まで笑っていた飯田の口は尖っているように見える。

「……ウチなベッド派やん、布団はアカンねん、
 ほんでな、この部屋のソファがメッチャ気持ちええねん……」
「それで、校長室でズーッと寝てたの?」
237  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 07:03
後藤の問いに、中澤は大きくうなずいた。
一同が呆れ顔で視線を送ると、中澤は慌てて言葉を繋いだ。

「もちろんそれだけとちゃうで、
 ウチもな一人でいろいろ考えたんよ……、
 ウチらこの学校に来てから、表に出えへんようになってるよな、
 みんなバラバラに行動するようになってるよな……」

中澤は大きく息を吸い込んで続ける。

「なぁ、みんな……、
 この世界、なんや知らんうちに居心地良くなって来てるやろ?
 ウチもな正味な話、居心地良過ぎて困ってるねん……、
 ……せやけどな、ウチらはやっぱり帰らなアカン、
 どんだけ辛い、厳しい現実が待っとっても、
 現実の世界に戻らなアカンねん、
 ……ここで今一度みんなの意志を確認したくてな、
 こうして集まってもらった訳や……」

しばらくの沈黙が続いた。

「ウチも強要は出来へんよ、多数決でも構へんねん……、
 みんなの気持ちを聞かせてや」
「……かおりは、……かおりはどっちでもいいよ、
 みんなと一緒の成り行きに任せる……」
「なっちは、いっぱい食えればどこでもいいっしょ……」
238  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 07:05
「アタシは……、アタシは此処がいいな……、この世界に来る時みたいに、
 又突然、現実に呼び戻されるかも知れないじゃん、
 だったら、無理に手掛かりなんか探さないでこのまま居る方がいい……」

無効票が二票発生し、決定票は吉澤の気持ちに委ねられた。
吉澤の言葉が無効票なら結果はイーブン、この議題は白紙に戻る。

「……ねぇ、ごっちん、みんなで一緒に帰ろうよ」

吉澤は後藤を見ずに言った。
再び沈黙が続いたが、吉澤の横で後藤が小さく肩を震わせている。
気付いた吉澤が目をやると、
後藤は下を向いたままポロポロと涙をこぼしていた。

「そうか……、よしこも帰りたいのか……」

そう言うと、後藤は吉澤の二の腕に額を押しあて、静かに泣きじゃくった。
飯田も安倍も言葉を発しようとはしない。

「……ほな、二対一でウチらはあくまでも戻る。
 ごっちんもそれでええな……」

後藤は泣きながら、無言でうなずいた……。

                                  < To be continued >
239  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 07:07
< Continued from Op >

石川「(ゼェゼェ……)
   ……い、石川は優等生かも知れないですけど、
   お馬鹿さんじゃないです……」
平家「なんや、先週の『全開』と『満開』のことかい」
中澤「アホとちゃうで、石川は天然やもん」
平家「(コラッ!)
   せやけど、グレた格好全体が着ぐるみっちゅうのはなんで?」
石川「『ミニモニ。』が犬の格好してたから、
   石川は不良の格好にしようかなと……」
中澤「(ワッハッハッハッハ……)
   そんで、アフロの着ぐるみかい!
   ゼェゼェ言うとったのは、着ぐるみ重過ぎなんとちゃうか?」
石川「……そうです」
中澤「(ワッハッハッハッハ……)」
平家「裕ちゃん、笑い過ぎや!
   なぁりかちゃん、それ番組内の話やん、そこまで思い詰めること無いで」
中澤「みっちゃんの言う通りや、石川は天然やからこそ石川やねんで、
   ……ここにはな、グランプリの栄冠を最後に、
   今は、副業で流しのタクシー・ドライバー、
   しかも副業と本業が逆転間近ちゅう、しょっぱい人生の人間も居るねん、
   ラジオのことなんて、な〜んも気にすることあらへんよ」
平家「せやで……、
   セクハラ客を特殊警棒でタコ殴りにし、黙々と深夜の街を流す毎日……、
   あぁ、あの栄光は今いずこ……、
   ……って、誰が『タクシー・ドライバー』やねん!
   番組の中でだけやろ! ば・ん・ぐ・み!!」
240  920ch@居酒屋  2001/02/26(Mon) 07:09
中澤「>>212さん、>>213さん、>>214さんおおきにな、
   相変わらずのタイトロープ状態で書いてます……、
   ホンマ綱渡りやで、みっちゃん、『サルティンバンコ』へ行って来て」
平家「なんで『行って来て』やねん! 『連れてって』やろ!」
中澤「>212さん、いつも付き合うてくれてありがとうございます。
   みっちゃんにも、そないな方がようさん居れば……」
平家「今頃はミリオン連発……、
   ……って、アカン、高望みし過ぎや…… (トホホホ……)」
中澤「>語り娘。後藤さん、『西遊記』楽しく読ませてもろてます。
   ウチらがこのペルソナ着けたまま、レス付けるかは一考ですねんけど、
   頑張って下さい」
平家「トーク・フォーマットでレス付けた場合、スレの内容次第では、
   ネタ同士でハレーション起こす場合があるねんな……」
中澤「>214さん、
   ウチもなるべく均等になるよう気配りしてますねんけど……、
   ……みっちゃん出過ぎや」
平家「なんでやねん! アンタが一番出とるやろ!」
中澤「ほなみなさん、次回は『2001,3/5未明』目標です。
   この先、いよいよ本業が修羅場の連続になりそうな気配ですねん。
   月曜日がアカンかったらその週中……、それもアカンかったら……」
平家「えらい弱気やん」
中澤「この連載中に作者が迎える最大のピンチが迫っとるねん、
   ……せやけど、世の中オーディションのグランプリを最後に、
   逆境続きの『平家みちよ』っちゅう流しのタクシー屋も居てはります、
   ウチもみっちゃんを励みに何とか間に合わせたいと思てますねん」
平家「せやねぇ……、思えばあの時が人生の絶頂期……、
   ……って、何を言わせるねん!!
   タクシー・ドライバーは番組やって、なんべんも言わせるなあぁぁ!!」
241  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/26(Mon) 23:09
いよいよクライマックスに向けて話が走り始めましたね。
残り四回で、僕らもこの居心地のいい世界からお別れかと思うと(泣)
最後まで応援してますから頑張ってください。
242  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/02/27(Tue) 00:18
本編ももちろん好きなんですが、OPとEDの居酒屋トークが最高です。
いつみても突っ込みのみっちぃは素晴らしい。歌手としてよりも(w
243  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 04:50
平家「ごっちんソロデビューか……、
   (ボソッ)また、強力なライバルが増えるなぁ……」
(…………)
平家「わあぁぁ、言うてみただけや……、
   ……って、いつもの『失礼ビーム』発射や思たら、
   ……なっちやん」
安倍「(ハムハム、ガツガツ……)」
平家「なぁ、ごっちんのことショックなのは分かるけど、
   あんまり食べ過ぎん方がええで」
安倍「(?) なっちは別にショックじゃないべ、
   ごっちんにはけっぱって欲しいべサ。
   なっちに出来ることは食うことだけっしょ!
   (ハムハム、ガツガツ、ゴリゴリ! バキバキ!)」
平家「うわっ! これが噂の『ブルドーザー食い』かい」
中澤「(みっちゃん、みっちゃん……)」
平家「なんや、裕ちゃん居ったんかい」
中澤「(シッ! みっちゃん、声大き過ぎや、
   そのままゆっくり床に……)」
平家「(なんで小声やねん?
   そもそも床に寝そべるってなんでやねん?)」
中澤「(ええから、ウチの言う通りにしいや……)」

                                  < Continued on Ed >
244  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 04:52
< 10th Affair >

遥かな大平原が四方を囲む……、潤いも皆無な乾いた青空……。
ヒリヒリする体の痛みに、保田は重いまぶたを開いた。
自分はどうなったのか……、痛む体はおまけに熱い。

「……どこよ、ここ」
(ドサッ!)

全く見覚えの無い風景に困惑している保田の眼前に、
突然、何かが土埃を巻き起こして降り立った。
大きなコウモリの翼を持つ赤いライオン。
蠍の尻尾をくねらせながら、群青色の目が保田を見つめている……。
切っても切り離せない、自分の召喚者がそこに居る。

「……アンタね、アタシの顔で出て来ないでよね」
「それなら俺に子守をさせるなよ……」

決して険しい空気が流れている訳では無い。
言葉を交わすと、両者は互いの目を見て笑った。
それは、今や戦友と呼べる間柄が醸し出す旧知の笑みなのかも知れない。

「ところで、アンタは何者?」
「俺か……、
 俺はマンティコア、人間共の作り出した幻獣だな」
「人間が作った?」
「どんな他愛の無いモノ、或いは実体さえ無いモノであっても、
 そこに意味付けが成されれば、そいつはいつか実体として動き出す……、
 それがどんなに勝手な想像の産物であったとしてもな……」
245  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 04:54
いつの間にか魔獣は翼を閉じ、巨大な猫のように脚をたたんでいる。
蠍になっている尻尾だけが、ハタキのように動いていた。
保田もそんな魔獣に合わせているのか、いつしかあぐらをかいて座っている。

「オマエ、あんまり無茶するなよ。
 俺が居なければ、本当に死んでるところだぞ……」
「……感謝してるわよ」

そうだ……、
自分は辻の影法師の放った火炎をまともに食らっていた。
召喚よりも体が先に出た結果、火だるまになって倒れ込んだのである。
魔獣の言う通り、もし素の人間のままであれば、
今頃どうなっていたかは想像出来ない……、
……と言うよりしたくはない。
ヒリヒリする体に違和感を覚えながら保田は思った。

「くれぐれも無茶はするな!
 何かあったら被害は俺にも及ぶんだからな……、
 ……ま、こうなってしまった以上、最後まで付き合ってやるけどよ」
「ちょ、ちょっと、『最後まで』って……、
 ……あっ! またアタシの顔!」

保田が問い返そうとしたその刹那、
今一度正面を向いた魔獣の顔は、保田自身の顔であった。
魔獣は現れた時のように、突然翼をはためかせそのまま飛び去ってしまった。
四方には見渡す限り、延々と地平線が続いている……。
保田はムッとしたまま、ゆっくりと目を開いた。
246  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 04:56
保田は、随分と不自然な格好の自分に気付いた。
体は斜め前方に傾き、ズルズルとつま先が引きずられている。

「う、うぅ……ん」
「……圭ちゃん!」
「(!) 保田さん!!」

矢口が気付くと、石川も大声を上げた。さっき以上に複雑な泣き笑い顔だ。

「よ、よかったれす……」
「……さすが、魔獣の主や」

言い方こそ失礼であるが、加護もやはり嬉し泣きをしている。
それまでの重苦しい空気が一気に振り払われる気がした。
それにしても、おかしな体勢だ……、保田が今の自分の体勢を確かめると、
腕が矢口の首と肩に絡められたまま運ばれている。
矢口の身長では、引きずられて当然か。

「矢口、もういいよ……、大丈夫……、ありがとう、みんな……」

保田はもたれ掛かっていた矢口から離れたが、
そのまますぐに歩くことは出来ず、その場にへたり込んでしまった。

「みんなもちょっと休もう」

安堵の色を浮かべた矢口が言うと、全員はその場に腰を下ろした。
矢口自身、二体の影法師を相手にし、
その後はここまでズッと保田を運んで来ている。
躊躇無く座れることは嬉しかった。
247  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 04:58
石川はここ迄で、ほぼ全ての気力を保田の回復に使い切ってしまっている。
体力こそ、そこそこ残っているものの、女精の召喚は事実上不可能であろう。

辻と加護は召喚の余地は残されているが、
体力は自身の影法師との戦闘から、想像以上のダメージを受けている。
恐らく通常時の半分以下になっている筈だ。

そして、保田も意識は取り戻したものの、焼けるようにヒリヒリする全身は、
おまけにだるい。召喚しても充分な戦闘力は見込めない状況であった。

「保田さん……」
「イタタタタ……、でも、石川が無事で良かったよ……」

石川は保田の腕を掴むと、思い出したように小さく泣いている。
保田は触られると痛いので、出来れば誰との接触も避けたかったが、
敢えて怒ることはせず、そっと石川の掌に自分の掌を重ねた。

結果的には石川の気力を使い切ってしまった分、
保田はやられ損とも考えられるが、石川が同様の状態に陥ったなら、
誰も回復を計れない分、保田はそれしか道が無かったと思う。

石川の癒しをあてに出来無くなった状況は致命的であるが、
ブラウンはピンチのままだ。一同は尚も前進しなければならなかった。

「……で、それからブラウンはどうなってるの?」
「時々画面が出るんだけど、相変わらず……」

矢口はそこまでで言葉を遮った。せっかく保田の復活で明るくなった空気を、
またここで重くしてしまうのは、とっさに気が引けた。
248  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:00
「みんな全開? 圭ちゃんも満開?」

もちろん全開な訳も、満開な訳も無かったが、
明るく言う矢口の声に促されて、再び全員が立ち上がった。

前方も後方も、最早どうなっているのかさえ分からない。
脇道など恐くてとても入れない。
ただただ、無限に続く一本道に取り残されてしまったような五人であったが、
道は前進あるのみ……。引き返そうとして退路で襲われるのも痛恨であったし、
何よりブラウンを救わねばならない。
満身創痍の一行は、半ば玉砕覚悟で道を進んだ。
もっとも、辻と加護はどこまで覚悟しているのか定かでは無いが……。

「やすらさん……」

歩くペースが落ち、直進しようにも微妙にふらついてしまう保田に、
辻と加護が絡み付いてくる。
気遣っているのであろうが、触られると痛むので正直迷惑であった。
石川はそのことを察しているようで、寄り添いたい気持ちを抑えて、
保田との距離を保っている。この二人にも察せられるだけの大人になって欲しい、
保田は度々思ったが、それは無理な注文のようであった。

「(痛!)」

加護に手を握られてしまい、一瞬恐い顔になった保田であったが、
二人の気持ちは伝わって来るだけに、強引に口元だけをスマイルに変え、
なんとか気持ちを鎮めた。

前を行く矢口は時々こちらを振り返る。
その顔はやはり心配気味で、決して一同の歩くペースを早めることはしない。
249  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:02
「(痛!)」

よろける保田に辻がタックルをする。
正確には体全体で保田の転倒を防いでいるのだが、
こうも度々続くと、嫌がらせにさえ思えてくる。

しばらくすると、辻も加護も保田と距離を保つようになった。
それは苦痛に堪えかねた保田が、とうとう我慢し切れず、
頭上に魔獣を召喚したからであった。その顔はもちろん保田本人である。

途中、随所に囚われのブラウンの画像が映し出されたが、
刻々と五肢に絡み付いたロープのテンションが強まっているように見え、
注意の先が保田から再びブラウンに移った辻が、その度に泣き出す。
接触が出来無くなった保田に代わり、
石川と加護が代わる代わる辻を慰めながら前進していた。

「あっ! あれやっ!」

やがて夢の中をさすらっていたような一行の前に、何かが見えて来た。
草木のアーチの外から、首と両手足に計五本のロープが張られている人形……。

「ぶらうん!」
「ちょっと待って!」

ブラウンの許へ駆け寄ろうとする辻を矢口が制止した。
ブラウンの体は金色に輝いている。戦闘の目印だ。

「りかちゃんは下がってて! 圭ちゃんも無理しないで!
 『ミニモニ。』行くよ!」
250  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:04
矢口が狐を呼び出す。続いてカボチャと雪だるまも現れた。
矢口の気力は辻、加護と比べて明らかに残りわずかであったが、
二人だけでは心許ない状況は、矢口に無理を承知で召喚させている。

輝くブラウンの前に、人型をした影が現れ始めた。
臨戦態勢の一同の前に、影が完全な人型となった時、
その影にはモノトーンに統一された矢口達五人の顔が映し出されていた。

「なんだよ! 一回倒したじゃん!」

矢口の言い方には、悲鳴に近い響きが含まれていた。
ここで再度影法師が出現したなら、間違いなく全滅だ。
ブラウンを目前にしながら、ここで終わってしまうのか……。

「ワタシハ……、イツデモココニイタワ……」

聞き覚えの無い声がする。一行は辺りを見回したが、
どこにもそれらしき姿は見えない。

「……ダカラ、……ダレデモヨカッタノ」

それは、悲し気な女性の声であった。どこからともなく聞こえるその声は、
しかし、年老いた風にも聞こえる不思議な響きを持っていた。

(ドサッ!)

その声の響きが消えた時、五人の前から影が消滅し、
同時にブラウンを捕らえていたロープも消滅した。

「ぶらうん!」
251  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:06
辻が、そして加護が急いで地面へ落下した人形の許へ駆け寄る。
……助かった。どうやら目的を達成出来たようだ。
矢口は召喚を終了し、保田、石川と目を合わせたが、
辻と加護はブラウンに気持ちが行っているのか、召喚したままだ。

「ぶらうん?」

間近で見つめる二人の前で、人形はそのまま一向に動かない。
辻がじわじわと涙を溜め始めていると、
息継ぎの為に水面に現れたダイバーのように、突如人形が跳ね起きた。

「ぶらうん〜!!」

号泣しながら辻と加護に抱き付かれたブラウンは、
保田達三人に向かって、いつもの人懐こい頭を掻く仕草をした。
辻と加護の頭上では、カボチャと雪だるまも揃って人形と同じ仕草をしている。

矢口達も辻と加護の周りに歩み寄って来たが、
本当にここは公園の中央なのであろうか? 円形の行き止まりになった空間は、
その真上だけ、くり抜かれたように草木のアーチが無く、
ドーナツの中央のように空に通じていた。

「……何かしら?」

石川が足下に光を見付けると、それは小さな銅鏡であった。
古いモノに違い無かったが、綺麗に磨かれている。
銅鏡に気付いた石川に、ブラウンは辻、加護に抱き付かれたまま、
それを納めろと言う仕草をした。

ぽっかりと開いたアーチの穴から見える空は、既に夜になっている。
ブラウンは元の安い金色に戻っていたが、
鏡に映し出された月は黄金の月であった……。
252  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:08
中澤が目を覚ました時、ガラス越しの風景は既に白んでいた。
どうやら、とっくに夜明けを迎えていたらしい。
再び探索を再開した五人は、ここ数日というもの、
コンビニをハシゴする生活を続けている。

手掛かりが無い以上、
自分達の側から取っ掛かりをつかもうと考えた一同は、
中澤の提案で、東京タワーに目を付けた。
燃えかすの炭木で組まれた矢倉のような、悲しい姿の東京タワーは、
ある種、異界の象徴のように一行の視界に入って来る。

しかし、肝心の電波塔そのものは、
追いかけても、追いかけても、逃げて行く月のように、
一向に辿り着くことが出来ない。
それはまるで、いつでも自分達をつけ回していた、
あのホテルの逆を行く姿のようであった。

妙な居心地の良さを感じ始めているこの世界は、
自分達が初めて迷い込んだ時より、確実に何かが変化している。
各人の召喚の力が上がっていることはもちろんなのであるが、
それ以外の、何かもっと大きなうねりのようなものを、
五人は時々感じるようになっていた。

学校を後にした一行は、そのまま住宅地の一角へ迷い込み今日を迎えている。
元々、いびつな区画の寄せ集めのような東京の街である……、
増して、そのいびつさを更にパッチワークにしたようなこの世界の中、
いつでも変わらないように見えるのは、乳白色の空と黒い縁取りのコンビニ、
そして、遠景に臨む黒焦げの東京タワーの姿だけであった。
253  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:10
「わっ、なんやねん、これ……」

顔面のいつもと違う感覚に、目覚めた中澤は鏡の前へ向かった。
近頃のジェンキンのメイクは、只の悪戯を超えている。
既に、五人の誰もが被害に遭っているが、
心持ち後藤の回数が少ないように思われた。

「(プッ!) ようやるわ……」

鏡の中の自分を見て、中澤は思わず吹き出した。
ジェンキンは中空を泳ぐように漂っている。
仮にこの人魂の表情を見ることが出来たとしたら、
こっちを見て笑っているのであろうか。

「あっ! なんだべ、これ!」

やはり、違和感のある顔面に、次いで目を覚ました安倍が大声を上げた。
先に鏡を見ていた中澤と目が合う……。
中澤の顔は白く塗られ、
隈取られた目の周りからは、鼻筋にかけてラインが伸びている。
両頬はグレーに塗られ、唇は黒く塗られていた。

「デーモン中澤、10万27歳……(プッ!)」

中澤は自分で言いながら笑い出した。
中澤のまんざらでも無さそうな表情に、安倍もつられて笑った。
254  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:12
「う、う〜ん……、何?」

後藤がのそのそと起き出した。その顔も白塗りだ。
それだけでは無い、
吉澤も飯田も全員の顔が白塗りに隈取りであった。

「(ワッハッハッハッハッハ……)
 ウチが閣下やろ、ほんでゼノン安倍和尚、ライデン後藤殿下、
 Sgt.ルーク吉澤参謀、エース飯田長官……、揃い踏みやね」
「なっちはゼノンだったら、ゾッドが良かったべ……」

安倍の言葉に、口には出さなかったが、
その重量感ではゼノンが妥当であると中澤は思う。
例えばこの中の誰か一人が被害者であったなら、
怒るか、或いは凹んでしまうかも知れない状況も、
全員が揃った姿はそれなりに壮観で、
日常となっているジェンキンの悪戯に、
一同はそれを半ばあきらめ、そして半ば楽しんでいた。

「ゾッドはあやっぺ、ジェイルはさやか……、
 ……ダミアンがあすかやね」

中澤はヘヴィメタ・バンドのデビュー曲を思い浮かべながら、
東京タワーの蝋人形館はどうなっているのか頭の片隅に考えていた……。
255  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:14
「ふぅ……、すごいね、静か過ぎて気持ちいいじゃん、
 ここで横になったらすぐ寝れるよ……」

静寂に慣れた一行は、元の喧騒の世界をどう感じるであろうか。

校長室で泣きじゃくった後藤は、
その後、悪びれる様子もなく皆と行動を共にしている。
本当の気持ちは、誰一人知る由も無いことであったが、
自分の腕で泣いた後藤に、
後藤と自分の距離は、思う程遠くは無いのではないかと吉澤は思う。

「もう、裕ちゃんのせいで、
 また変なところに迷い込んじゃったじゃない」

飯田の怒り口調は、生来の気性の現れであろうか。
まともに取り合えば喧嘩になるところであるが、
そこは誰もが心得ているのか、今では直接ぶつかり合うこともそうは無い。
特に中澤のあしらい方は大人のそれで、
吉澤はそんな中澤をやっぱりリーダーだと思う。

自分達が他と一線を画しているのは、上下で親子程も年齢の違うメンバーが、
アイドルとして、同じグループで一緒に活動していることなのであろう。
その中にあって、特に中澤の存在は異色中の異色だ。

「中澤さん、体だけは大事にして下さい……」

本人が聞いたら、それこそ優しいが故に、
凹んでしまうような台詞を吉澤は時々考える。
決してリーダーと仲が悪い訳では無い。
256  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:16
電波塔を目指す五人の前に、その住宅街は手強い迷路と化していた。
切り立った崖のように、垂直に近い階段……、
登るのが一苦労な坂道……、そして一行を最も手こずらせていたのは、
随所に存在しているらしいワープ・ポイントであった。

「ここ、さっきも来たべ! ムカツクっしょ!」

それは、無闇と飛ばされる裂罅とは違い、
きっちりと飛ぶ先が決まっているようであったが、
それだけに、何度も同じ地点に戻されてしまうことは、
強烈なストレスとなっている。

それでも、見た目はのん気な安倍の怒りのさなか、
一同の頭上に三羽の鳥が飛来した。
縦帯となったその飛影は、中澤の真上でクルクルと旋回を始める。

「また来たんかい……」

中澤が召喚の準備をして身構えた。
眼前に音もなく降り立った飛来者は、紛れもなく天使の翼を持つ者であったが、
以前、中澤が呪殺してしまった天使より、より荘厳で高位の階級に思える。

「そなたか、我らの下位隊の者を葬り去ったのは……」

尋ねている訳では無い。
その口調は、確信した上での冷たい言い回しであった。

「せや! アンタらも消されとう無かったら、
 とっとと、どっかへ行き!」
257  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:18
余程天使と折り合いが悪いのか、単なる感情的なモノであるのか、
喧嘩腰の中澤は、女魔を召喚した。
呪殺を嫌うなどという気持ちは、すでにどこかへ消え失せている。

居合い抜きか、早撃ちか、
女魔が呪を唱えようとする鼻先一瞬のタイミングで、
天使から囁きが発せられた。

「(!) クッ……」

中澤が片膝を付き、辛そうな息づかいをしている。
天使の囁きは破魔であろう。女魔は一瞬でかなりのダメージを受けた。

「裕ちゃん!」

全員が一斉に召喚する。
安倍が火炎、衝撃、そして新たに修得した電撃を、
そして、吉澤が疾風の魔法を放つが天使に対する魔法攻撃は、
呪殺以外は無効であった。

呪殺を持つ中澤は、執拗に放たれる天使の破魔の前に、
女魔と共に見る見る弱って行く。
天使から体力を奪おうにも、そもそも近付くことさえ出来ない。

「ダメだあぁぁぁ! アタシの回復じゃ裕ちゃん死んじゃう!」
「なっちの体力をやるべ! 裕ちゃん早く!」
258  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:20
安倍は太っ腹だ。自分の体力を分け与えるという行動は、
お菓子を分け与える行動と、どこかで通底しているのかも知れない。
しかし、容赦なく破魔にさらされ続けている現状では、
結局、安倍も巻き添えにするだけである。

「じゃ、なっちの方だけ回復する!」

後藤の人魚は、安倍の象に向けてのみ癒しを始めた。
バケツリレーのような体力の融通は、
しかし、倒される時間を引き延ばしているだけに過ぎない。

「ディアァァァァ!」

会話は端から決裂し、魔法も効かない甚だ不利な状況である以上、
飯田も自分の甲冑を差し向けない訳には行かなかった。
大きく振り下ろしたブレードは、一体の天使に斬り付けたが、
致命傷には至らない。一体の天使がダメージを受けた同士に癒しを始め、
もう一体の天使は魔法を切り替え、その矛先を飯田の甲冑に向けた。

「ご、後藤! ……こ、こっちも頼む!」
「もう〜っ! いっつもこのパターン!」

裁きにも似た光の矢は、飯田と甲冑の体力を急激に奪い始めている。
後藤の気力も確実にレベルアップしているが、癒しを複数掛けする時の、
対象者のダメージ量もそれに比例して増大しているようで、
毎回の気力の消費は、決して余裕がある訳では無かった。
259  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:22
戦いが予想外に長引く兆候を見せ始めた時、
いつの間にか人型に変型した吉澤の鳥が、
これも最近修得したらしい、何やら人語では解せない言葉を唱え始めた。

「飯田さん、頼みます!」

鳥に促されるように吉澤が声を上げると、
飯田の甲冑は癒しを受けながら、納得したように天使に斬り掛かった。

(バサッ!)

一撃であった……。
しぶとく応戦する天使が、嫌な音と共に両断されその場から消滅した。
驚愕する残り二体の天使に猶予の間を与えず、
甲冑の太刀は次々と天使を葬り去って行く。
鳥の唱えていた言葉は、直接攻撃の威力をアップさせる効果があるらしい。

戦闘が終了すると、一同は脱力するようにその場にへたり込んだ。
体力を吸われていた安倍は、失敗したダイエットのように、
不自然に痩せてしまったように見える。

「まだまだ、油断出来ない相手がいっぱい居るってことだべ!」

空元気のように語気を強める安倍に、中澤はこれでまた、
凄絶な強食が約束されたと思ったが、その横で飯田が凹んでいる。
悪魔メイクの顔では今一伝わりにくいが、その目には涙が浮かんでいた。

「……かおりは、かおりは天使をやっつける気は無かったの……、
 ……これじゃ、裕ちゃんのこと悪く言うことなんて出来ない……」
「気にすること無いで……、おかげで助かったがな……」

涙が頬を伝う飯田の肩に、中澤がそっと手を置いた……。
260  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:24
あの大ダメージからも、ようやく回復することが叶った。
苦戦を強いられた公園の一件は、
しかし、保田達五人を確実にレベルアップさせている。

それ程のデーモンで無ければ、
一人一人でも軽くあしらうことさえ出来るようになっていたが、
影法師に分断された戦いが肝に銘じさせているのか、
或いは、目を離せないお子様達が一緒であるからなのか、
一同はそれ以後も、バラバラに行動することはしなかった。

保田の魔獣が加護と辻に及ぼす牽制力は、
あの一件以降むしろ以前より強くなっていたが、時にその怯え方は尋常では無く、
その時、明確な意識を持っていたか定かでは無い当の保田の目にも、
二人の姿はやはり心が痛む光景に映った。
保田は叱る為に魔獣を呼び出すことは、極力控えるようにしている。

自分の影法師の凄惨な最期が一種のトラウマになってしまったのか、
魔獣を見て、時々、涙目で固まってしまう加護と辻には、
いつしか石川が二人を抱きしめるようになっていた。
それは、石川をつかの間のお姉さん気分にさせたが、
もしあの時、石川も目を覆わずその光景を目の当たりにしていたなら、
今頃は涙目で固まるのは三人であったかも知れない……。

すっかりくたびれてしまった一同の服装は、
さすがにコンビニでまかなうこともままならず、
五人は新しい服を求め、東京であり、東京でないこの街を歩き回っていた。
特に、矢口の服のくたびれ具合は群を抜いてひどい。

「オイラ、厚底履きたいな」
「ダメですよ、動きづらくなっちゃうじゃないですか」
261  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:26
厚底靴を履きたいのは本心であったが、石川の言うことも尤もである。
一同は跳ね回る加護・辻とブラウンを先頭に、一路洋品店を目指していた。

「ここで会ったが運の尽き!」

突然バラバラと、九体の小さなデーモンが現れ、
五人の行く手を遮った。

「今日こそ勝負してもらうで!」
「何だよ、またかよ……」

自分より小さなデーモンに、矢口がうんざりという表情をした。
小さなデーモンが一斉に背中を向けると、
その背中には一体に一文字のアルファベットが刻まれている。

「……スプリング、春ですって!」
「アホかいぃぃ! ワシらは泣く子も黙る愚連隊『スプリガン』、
 『Spriggans』や言うとるやろ!」

デーモン達がお約束なら、石川もお約束だ。
すっかり空気が白けてしまった……。
矢口がやれやれといった顔で、狐を呼び出す。

「なんやねん、それ! ナメとんのかゴルァ!」

矢口から現れた召喚者を見たデーモン達は、
その可愛らしい外見にすっかり増長したのか、かつて無く気色ばんでいる。
そんな相手を気にも留めず、狐が淡々と舞を披露すると、
九体のデーモンは爆笑を始めた。ある者は背中から仰向けに笑い転げ、
ある者は地面を叩きながら涙を流している。
262  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:28
「(ワッハッハッハッハッハ……)
 やい、コラ! 待たんかい! (ワ〜ハッハッハッハッハッハ……)
 ワシらと勝負せんかい! (イ〜ヒッヒッヒ……ヒクヒク……)」

五人はそそくさとその場を立ち去って行く。
全くしつこいデーモンだ、いつまでまとわり付けば気が済むのであろう……。

やがて一行は、今までと違う表情を持つ街に出くわした。
大きな店構えの建物が集まる一角……、百貨店街らしい。

「デパートだね、ここなら何でも揃うじゃん」

一同の顔が賑わいだ。これは良いところに出くわした。
少なくとも、コンビニよりも充実した品揃えが期待出来る。
どうせ拠点にするなら、初めからこの街を拠点にすれば良かった。

「どこに入る?」
「あそこがいいれす!」
「あの保田さんが居るところ!」

辻と加護が指さす店の入口には、狛犬のようなライオンの置物が鎮座している。
思わずムッとした保田は魔獣を召喚しそうになったが、
無用に二人を怯えさせるのも忍び無く、葛藤の末ギリギリで理性が勝利した。

「……そ、そうね、あそこでいいわね」

引きつった笑みを浮かべながら、何とか言葉を発した保田を見て、
矢口と石川はクスクスと小声で笑った……。

                                  < To be continued >
263  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:30
< Continued from Op >

安倍「(ハムハム! ガツガツ!
   ゴリンゴリン! バキンバキン!)」
平家「なっち、壮絶やな……」
中澤「(シッ! 声大き過ぎや言うてるやろ)」
平家「(……なぁ裕ちゃん、なんでさっきからヒソヒソ話やねん?)」
中澤「(みっちゃん危ないとこやったで、
   危機管理はもっとしっかりせな、自分自身のことやん)」
安倍「(ハムハム! ガツンガツン!
   ゴリンゴリン!! バキンバキン!!)」
平家「(……せやから、なんのことやねん?)」
中澤「(上野動物園には連絡したで……、
   マタギのみなさんにも連絡した、
   ついでに、ムツゴロウさんのとこにも連絡取った……)」
平家「(あ、あのなぁ……)」
中澤「(みっちゃんな、冬眠明けは空腹で気が立っとる分危険やねん、
   間一髪、襲われるとこやで……、
   ええか、連絡したみなさんが到着するまで何とかやり過ごさな、
   死んだフリもアカンようになったら、
   最後は気合いの入った巴投げで応戦や)」
平家「なんで死んだフリやねん! なっちは熊かい!」
264  920ch@居酒屋  2001/03/05(Mon) 05:32
中澤「>>241さん、>>242さんおおきにな、
   一週間がホンマ早いです……、
   早過ぎやでみっちゃん……、人はこうして老いて行くねんなぁ……」
平家「なんで自分から歳の話に持って行くねん」
中澤「年齢ネタ言うけどアレやで、みっちゃんの場合、
   ウチと二人で並んでるとこ遠くから見たら、みっちゃんの方が年上やで」
平家「遅生まれやしな……、
   この人並み外れた老け顔は、小学生で既にオバちゃんと言われ……、
   ……って、失礼なこと言わすなあぁぁ!」
中澤「>241さん、とうとう残り一ヶ月ですね。
   まだ、終わりやないですけど早いなぁ……」
平家「三ヶ月……、あっという間やねぇ……」
中澤「>242さん、平家みちよは嬉しそうにVサインを出してます……、
   あっ、その指を鼻の穴に……、うわっ、抜いた指を口の中に……」
平家「するかぁぁぁぁ!! しょーもないこと言うなあぁぁぁぁ!!
   (ゼェゼェ……) 大体『居酒屋』の方はどないやねん!
   全然書かれへんやないかい!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハ……)
   そないに息切らせて怒らんでもええやん、
   これ始める時はな、『居酒屋』の方に書く余裕もある筈やってん、
   せやけど、本業の関係で一気に余裕無くなってしもてな……、
   (ワッハッハッハッハッハ……)」
平家「ハッハッハ……やあれへんて、なんで笑い飛ばしとるねん」
中澤「この物語も大詰めやしな、
   これ終わったら、また『居酒屋』にもボチボチ書かせてもらおうや……、
   ……ほなみなさん、次回は『2001,3/12未明』目標です。
   まだまだ修羅場が続いてます、ウチは『リ○ビタン』飲んで頑張るさかい、
   みっちゃんも『青汁』飲んで頑張ってな」
平家「なんで『青汁』やねん!」
265  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/05(Mon) 05:42
戦闘中でもどこかマターリしてる姐さんチームと、ただ歩いてるだけなのにピリピリ
している保チームの緩急がいい感じ。
あっ、それとスプリングさん達のファンです(笑)
266  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/06(Tue) 00:43
閣下、和尚、殿下、参謀、長官
まさかこの板で、この尊称の羅列をみられるとはおもわなんだ。

異界へ飛ばされた娘。達も、最後には
EL・DO・RA・DOに着けるということでしょうか。

267  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:11
平家「珍しいね、雑談の方に書いとったやん」
中澤「あれな……、
   あれは今考えると恥ずかしいで、雑談の場にあの長文は無いよな、
   気が動転してて思わず指が先に動いてしまってんけど、
   アカンね冷静にならな……」
平家「結局ハロプロには残るんやろ」
中澤「みたいやね、ANNSでもMUSIXでも、
   卒業云々はあくまで自分の意志ちゅうことで語っとったし、
   仮にモーニング娘。が本人にとって呪縛に変化しとったんなら、
   ……しとったんなら、それでええねんけどな」
平家「『ええねんけど』って?」
中澤「『恋の記憶』はその旨のメッセージちゅうことで納得しよ、
   せやけどな『悔し涙 ぽろり』……、
   これな……、このタイトル、これがホンマの気持ちに思えてならへんねん、
   そこは大人やしな、バーター条件+会見迄の時間の経過が、
   今のさばけた気持ちちゅう風にも考えられへんやろか」
平家「……なんや言うたかて邪推やねんけどな」
中澤「なぁ、いつかウチがみっちゃんのタクシーに乗せてもろたやん」
平家「『〜どちらまで?』な」
中澤「ウチが10年後『女社長になりたい』言うて、
   みっちゃんが『自分も雇ってや』言うた時あったやん」
平家「裕ちゃん『寂しいこと言うなや』言うてね」
中澤「あの時、みっちゃんは卒業のこと知っとったんか?」
平家「……どないやったろなぁ、もう忘れてしもたわ……」

                                  < Continued on Ed >
268  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:13
< 11th Affair >

大地にもたらされた大いなる春は、一面にタンポポを咲かせている。
黄色い花びらと吹き抜ける風の中に大きな白銀の影が一つ。
その足下だけは血の色に赤く、
それは生贄となって地に豊饒をもたらす英雄の姿であった。

「その仮面の下は見せてくれないの……」

飯田は自分の召喚者に誇りを持っている。
その並外れた攻撃力は、今まで一行の危機を何度救ったことであろう。
そして、その甲冑の下の素顔もおぼろげながら垣間見ていた。

「どうしても見たいと……」

甲冑を纏った騎士、即ち飯田の召喚者はそう言うと静かに向き直った。
長身である……。飯田を抱きかかえたなら、
飯田の身長であっても、可憐な少女に見えるかも知れない。

痩身にもよらず、見るからに重そうな甲冑をモノともせず、
その動きは俊敏であった。
武器とする太刀と槍は、適宜状況に応じて使い分けている。

しかし、飯田が一番に知りたかったのはその素顔であった。
たなびく黒髪、そして仮面の下に時折見ることの出来る涼しい目元……。
飯田は盲目の恋に胸を焦がす乙女のようであった。

「……分かった、お見せしよう」
269  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:15
甲冑の騎士は静かに言うと、ゆっくりと鉄仮面を外し脇に抱える。
現れた素顔は想像通り……、いや想像以上の端正な顔立ちをしていた。

「私は、クー・フーリン。太陽神ルーグの子として生まれ、
 女神スカアハの許で戦の術を修得した、今は妖精の騎士……」

飯田は既に感極まっている。想像を超えた自分の召喚者……。
しかし、その攻撃力でも打ち勝てない相手が居た。

「アナタの力でも駄目なの……?」

グループ内で見せる物言いとは明らかに違うその言い回しは、
期せずして表出した乙女心であろうか。

「私とて万能では無い。
 相対する敵を良く考え、その手だてを見極める。
 ……見境を無くしてはならない。幸い貴方には仲間も居る」
「仲間……」

飯田はその気性のせいか、
戦闘において、しばし独善的に甲冑の騎士を呼び出すことがある。
しかし、いつの頃からそれが召喚の為の口実と化していることは、
本人も全く自覚が無い訳では無かった。

「また、いずれ……」

手を差し出したなら、触れることの出来そうな距離に立つ召喚者に、
飯田が躊躇しながら手を伸ばすと、甲冑の騎士はその手をかわすかの如く、
彼方へと吸い込まれるように姿を消した。
飯田は召喚者に触れることは出来なかった……。
270  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:17
「……かおり、しっかりするべ」

気が付くと、安倍の顔が間近にあった。
今日のジェンキンの犠牲者、
その顔には、左目にまたがり盛大なひび割れが描かれている。

最近の悪戯の傾向からすれば、随分大人しいようにも見えるが、
シンプルな分、妙な凄みを持っている。
もっとも、焼いている餅の表面が割れて中身が膨らむように、
安倍の場合は、食べ過ぎで顔面にひびが入ったようにも見えた。

「(プッ!) ……なっち、食べ過ぎ」
「突然なんだべ!」

急に可笑しくなり吹き出した飯田に、一同はホッとしたが、
安倍だけはムッとしたのか、ポケットからクッキーを取り出し、
英語で喋る青いモンスターのように貪り食べ始めた。

「せやけど、相変わらずやね……」

ワープ・ポイントに悩まされる住宅街からは、一向に抜け出すことが出来ない。
しかもこの界隈のデーモンは高レベルなのであろうか、
中澤達五人は、予想外の苦戦を強いられることが度々あった。

『物理攻撃反射』のデーモン……。
それは、一つ目の象の姿を持ち、大抵一体で出現した。
まともな会話は成立せず、先に仕掛けては来ないが、
中澤の女魔の持つ間接系の魔法は通用しない。
ならばと繰り出した甲冑の攻撃が、そのまま飯田の身に跳ね返った。
271  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:19
自身の攻撃は強力で、
飯田は甲冑の繰り出す攻撃の威力がどれ程のものであるのかを、
身を持って実感したが、
こともあろうに最強を自負する自分の召喚者の直接攻撃が効かないことに
納得出来ないのか、この一つ目の象が出現する度に、
半ばムキになって召喚を繰り返していた。

結局そのデーモンは、自分の象を揶揄されているようで、
これもその度に憤慨している安倍の象の攻撃魔法によって、一撃で倒され、
飯田のダメージは後藤の人魚によって回復されるという図式になっていたが、
今回に至っては、ヤケクソとも思える数度の直撃と、
瞬く間のダメージの反射で、飯田は失神してしまったのであった。

それにしても埒が明かない……。

「もう訳分からないべ、飛ばされるのはいい加減にして欲しいべサ、
 なんまらムカツクっしょ!」
「あのさぁ、それ目印にしたら……」

ミキサーのようにクッキーを口に放り込む安倍を見て、後藤が言った。

「せやね、なんで今まで気付かれへんかったんやろ、
 お菓子をマーカーにすればええやん、
 少年探偵団……、ちゅうかウチらやからモーニング探偵団」

安倍はしばらく黙っていたが、
現在手に持っているクッキーを全部食べ尽くすと、小さくうなづいた。
食べ物を、食以外の目的に使用することに自分を納得させたようであった。
272  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:21
「よう! 姉ちゃん達、元気にしてるか!」

デパートの入口に立った保田達一行の後ろから声がする。
振り返ると、いつぞやの堕天使が大きな翼をたたみ、
街灯の上にしゃがみながらこちらを伺っている。
やる気の無い格好は相変わらず、そもそも元気かなどと大きなお世話であろう。

「関係ないやろ!」
「どっかへいってくらさい!」

加護と辻の毛嫌いは凄まじい。ブラウンを自分達の背後へ隠すと、
街灯の上の主に向かって食ってかかった。

「俺は嫌われたっていいんだぜぇ〜、
 そ〜んな奴助けること無ぇのによ!」

加護と辻がいよいよヒートアップしている。
このままでは、辻に至っては泣き怒りになってしまうことが確実で、
三人は堕天使の言葉を遮るように加護と辻を促し店内へ入った。

「わぁ、電気灯いてるよ」
「それに暖かいですね」

人の居ない店内は、しかしあたかも営業中であるかのように明るい。
おまけに穏やかな気候に慣れた身には、少々暑いと感じられる温もりがあった。

「……何階に行けばいいのかな?」
「とにかく、上に行ってみようよ」
273  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:23
ここにも、自分達をエスコートする情報は何も無い。
時間も知る術は無かったが、それはもうとっくに慣れていた。
少なくとも昼と夜の区別がつけばそれで十分である。

店内には大量の商品がキチンと陳列されている。
手に取ったなら、即座に売子が現れそうにさえ思えたが、
やはり人は居なかった。

エスカレーターが動いている。
エレベーターも稼動しているが、何かあった時の危険度を考えると、
一同の足は、自然と動く階段を選択した。

間も無く服の売場が見えて来る。
しかし、反物が飾られたその階は呉服売場のようであり、
目指す服の売場では無い。

辻と加護は相変わらずブラウンとじゃれ合っている。
公園の一件以来、その絆はますます強まったようにも見え、
それは微笑ましい光景にも見えたが、
調子に乗り出すと手が付けられないこともまた事実であった。

次に見えて来た階には、ファニチャが広がっている。
中間照明の室内はくつろいだロビーのようで、
五人は思わずエスカレーターを離れ、ソファに向った。

「てへへへへへ」
「ふかふかや!」

辻と加護は体当たりするようにソファに飛び乗ると、
クッションの上で、トランポリンのように跳ね始めた。
274  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:25
「あんまり調子に乗っちゃ駄目よ」

そう言いながら保田達三人も手近なソファに腰掛ける。
コンビニをハシゴしていた一行にとって、
それは確かにくつろげる状態であった。

「(キャッキャッ……!)」
「調子に乗っちゃ駄目だって言ってるでしょ!」

少し目を離した隙に、辻、加護、ブラウンが室内を走り始めた。
元気なのは構わないが、もう少し落ち着けないモノであろうか……。

「あっ!?」

矢口達三人が見つめる目の前で、加護の姿が突如として消えた。
辻とブラウンの動きが止まり、保田達もその場所へ慌てて駆け寄る。

「なんだ?」
「確かこの辺……、キャッ!」

加護に続いて石川も消えてしまった。
その消え方は消滅というより、落下したように見える。

「……これって、落とし穴なのかな」
「うん……、でも分かれるのは危険だね、矢口、ウチらも落ちよう、
 辻、ブラウンも行くよ」

保田を先頭に、ブラウンを抱えた辻、そして矢口がピットに落ちた。
275  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:27
「あいぼん、大丈夫?」
「うぅん、お尻が痛い……」

石川は、無事に着地していたようである。
次々に落下してくるメンバーも、心構えが出来ているせいか、
危な気無く着地するが、ぶしつけに落ちてしまった加護だけは、
打ち所が悪かったらしく、少々涙目になっていた。

「でもさぁ、床に穴なんて明いて無いじゃん、
 気を付けないと危ないよ」
「そうだね、……ねぇ、取り合えず何か食べとかない?
 デパートだからさ、地下行って何かつまんでから上に行こうよ」
「さんせ〜い!」

辻は嬉しそうにブラウンの右腕を掴むと、猫にするように上へ挙手する。
下りる分には、逆にピットを探して落ちれば手っ取り早い気もするが、
一同は足下に気を付けながら階を下った。

「あ、あの……、入口が……」
「ホンマや!」
「……りかちゃん、大丈夫だよ、五人ちゃんと揃ってるんだから」

入口が消滅している。
しかし、力ずくでショーウィンドウを破れば、
外に出ることはたやすいと思われた。
いつでも脱出可能という余裕がそうさせているのであろうか、
不安気であった石川も、結局地下食品売場で好きな食べ物を手にすると、
五人はファニチャのある階まで戻り、
食後はそのまましばしの眠りに落ちてしまった……。
276  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:29
「少しずつ範囲が狭まってる気がするな……」
「あっ! 裕ちゃん、それなんだべ!」

中澤は無意識に女魔からプレゼントされた小瓶を口に含む。
その中身は不思議なことに尽きることが無い。
飲み干してしまったなら、即座に補充はされないものの、
どんなに中身が減っていても、忘れた頃には目一杯の量に戻っていた。

安倍の目は鷹の目だ。
じっと中澤の手元を見つめるその視線は、ハッキリ言って恐い。
飯田が飛び上がった一件など、既に頭に無いのであろうか。

「えっ……、薬や、ウチのく・す・り、
 ……あ、あのな、なっち、別にマーカー食べるのは構へんけど、
 一応ここを出てからにしよな」
「あっ! なっちのお菓子が無いべ!
 食っちまったのは誰サ!」

無意識に小瓶を取り出してしまったことを反省しつつ、
やや苦し紛れに中澤は言った。
さすがに、ここまでワープさせられ続けていると、
飛ばされた場所の風景も徐々に覚え始めている。
それにはマーカーとして置いた安倍の菓子も一役買っていたが、
その菓子がいつの間にか忽然と消えていた。
安倍が本気で怒っているところを見ると、本人も知らなかったらしい。
知らなかったことは悲劇であるが、
やはり最終的には食べるつもりであったのか……。
277  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:31
「なっちとちゃうの?」
「……ソレハ、ボクダヨ」
「わあぁぁぁぁ!!」

突然自分の背後から聞こえた声に驚いた中澤は、
慌てて飯田の後ろに回り込んだ。見ると、歳の頃小学生低学年位、
この住宅街に住む子供であろうか、一人の少年が立っている。
しかし、うっすらと燐光を放つその姿は既に人間のモノでは無い。

「あなたはだぁれ?」

一歩下がって抱き合っている一同の中、
物怖じと言うより、興味が先と言った風情の後藤が、
一歩踏み出し躊躇無く少年に尋ねる。

「ココジャナンダシ……、ツイテキテ」
「……みんな、行ってみようよ」

抱き合う四人は何気無くジェンキンに目を遣った、
その体はゆっくりと点滅している……。
どうやら、対戦相手に決闘場まで案内されるらしい。

物言わず歩き出す少年の後を続くと、五人の体はいきなり飛ばされた。
ただ、それが今までと違うように思われるのは、
確実な順序の元に、明確に目的地へ向かっていることであった。
278  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:33
「オネエチャンゴチソウサマ……、
 トッテモオイシカッタヨ……」
「欲しければ言ってくれればよかったべサ」

安倍の口調から黙って食べられてしまったことへの怒りは消えている。
それに代わり、召喚直前の緊張感が伝わって来た。
後藤のテンションだけは若干低目にも思えたが、
一行は徐々に緊張を高めている。

数えることを途中で放棄せざるを得ない程に、
ワープを繰り返した五人は、やがて水辺に辿り着いた。
それは大きな池であったが、どこかうら寂しい佇まいを醸し出しており、
その周囲を傍観者のように無表情な軒先が囲んでいる。

少年の体はフワリと宙に浮くと池の中央まで進み、
その場で一同に向き直った。

「ヨウコソミナサン……、オカシノオレイニ……」
「お礼ってなんだべ!」
「(コラッ!) なっち!」

緊張よりも嬉しさが前面に出てしまった安倍を中澤がたしなめる。

「……オレイニ、オマエタチヲヤスラカニホウムッテヤロウ!」
「やっぱりかい! みんな、行っくでえぇぇ!」

全員一斉に召喚したが、安倍の象の出現だけがワンテンポ遅れた。
279  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:35
「てへへへへ……」

ブラウンと一緒にいる加護と辻はいつでも楽しそうである。
この二人が相手だ、ブラウンもさぞ苦労しているのかと思えば、
実際はそうでも無さそうで、
端から見れば加護と辻がもう一人増えたようにさえ見える時がある。

「キャハハハハ……(キャッキャッ!)」

いつにも増して声が弾んでいた。
何やら小さく寄り添っている加護、辻とブラウンを、
石川はそっと上から覗き込んだ。

「(プッ!) クスクスクス……」

石川は思わず笑ってしまった。
どちらが持っていたのであろうか、マジックペンを取り出した二人は、
のっぺらぼうのブラウンの顔に落書きをしている。

ブラウンの顔は、油性インクが定着しないようで、
何度でも書き直しが出来たが、その顔はその度に間抜けで、
加護と辻は声を上げて笑い転げている。
ブラウンも決して嫌がっている素振りでは無く、
時には注文を付けるようなポーズをしてみたり、
時には驚いたような、おどけた仕草を見せていた。

無邪気なモノだ……。
そう思いながら保田も覗き込んだが、自分が描いたなら、
加護と辻を超える顔が出来上がりそうで素直には笑えなかった。
280  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:37
「そろそろ行こうか」

矢口の言葉は、特に加護と辻に向けられている。
当初の想定は甘かった。一見普通の床にしか見えないピットの存在は、
思った以上に一同を悩ませている。
しかも、その落下地点は必ずしも真下では無いことが曲者であった。
考えずに落ちていると本気でバラバラにはぐれてしまうので、
誰かが落ちると、皆必ずその後を追う。
大したことの無いように見えた外壁も、雪だるま、カボチャの魔法はもとより、
魔獣の体当たりでも決して破ることは出来なかった。

立体の迷路に囚われてしまったことを悟った一行は、
当初の目的を離れ、未だ辿り着くことの出来ない上階に活路を求め、
とにかく上を目指しながら館内をさまよっている。

渡り廊下を過ぎると、柱の影からバラバラと九体の小さなデーモンが現れ、
五人の行く手を遮った。

「(フッフッフッフッ……) 待っとったで、
 今度こそ勝負や!」

待っていた……、
……と言うことは、ひたすらこの場所で一行を待ち続けていたのであろうか?
小さなデーモンはお約束通り自分達の背中を向けたが、
今回は石川のお約束が無い。

「どや! ワシらは泣く子も黙る愚連隊『スプリガン』、『Spriggans』や!
 ……ようやっとワシらの名前を覚えてくれたようやな」
「……『i』まではええねんけど、『Springgas』……、
 『スプリング・ガス』……、春のオナラ?」
281  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:39
現役中学生にスペルをチェックされたデーモンは、
確かに並び順を間違えていた。九体の顔が見る見る赤面して行く。

「……な、なんじゃい! 名前なんて関係あらへん!
 世の中実力や、実力で勝負や!」

逆切れしてみたものの、真っ赤になった顔は相当苦しい。
加護はニコニコしながら雪だるまを呼び出すと、
九体のデーモンにブリザードを浴びせた。
程無く、傘地蔵のような九体の雪だるまが出来上がると、
一同は気にも留めずにその場を去って行く。

「こらあぁぁ! 待たんかい!
 卑怯やぞ! 身動き出来へんやないかい! (ヘックション!)」

(ドサッ!)
「キャッ!」
「りかちゃん、大丈夫かい」
「ハイ! (クスクスクス……)」

五人は時々デーモンの目の前に落ちて来たが、
その姿を一瞥すると、皆クスクスと笑った。

「(ブルブル……)
 ええなぁ……、楽しそうやなぁ……、ワシらもアレやりたいなぁ……」

横並びの九体の雪だるまは、ガチガチと歯を鳴らしながら、
口々に溜め息をついていた。
282  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:41
少年の姿は一変していた。
それは、忍び泣く大きな顔だけの女性に変貌している。
長く伸びた髪は鉄柵のように一同を覆い、
池はおろか周囲の住宅までを結界の中に封じ込めていた。

「なんで海やねん?」
「幻覚だべ、きっと幻覚っしょ」

五人が前にしていた池は、いつしか波の打ち寄せる海岸線へと変わり、
水平線が果てしなく続いている。

確かに、自分達の居る場所がこれだけ広い訳は無かった。
それとも、更にどこかへ飛ばされたのであろうか。

顔だけの女性は、直接攻撃を仕掛けては来ない。
ただ、忍び泣く時間が経過するにつれ、
霧雨のようなミスト状の水分の濃度が増して行くように思える。

「あ、あのね……、アタシなんだか体の力が抜けて……」

真っ先に体調の変化を訴えたのは後藤であった。
頭上の人魚も力無く弱っているように見え、
ついには後藤の中に消えてしまった。
水辺を前にした戦いなら、人魚の独壇場とも思えるがどうしたことであろう。

「な、なんだろう……、目の前がフラフラ……」
「ゴ、ゴメン……、なっちも駄目だべ……」
283  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:43
平時と変わらないのは、最早中澤とジェンキンだけであった。
やがて吉澤の鳥も、安倍の象も姿を消してしまい、
飯田の甲冑もガックリと片膝を付いている……。

「(!) これ毒霧とちゃうか!?」

ますます霧が濃くなって行くのを感じた時、
不意に中澤は悟った。自分にだけ被害が及ばないのは、
女魔が毒を無効にしているからに他ならない。

すでに三人の召喚者が姿を消した。このままでは壊滅である。
特に回復役の人魚が姿を消したのは痛い。
甲冑が消えてしまうのも時間の問題である。

「かおり、頑張ってな!
 取り合えずウチがあの顔の体力を奪ったる!」

中澤は女魔を差し向け、泣き続ける大きな顔から体力を奪おうとした。

(ピシイィィ!)
「あ痛ぁっっ!」
「くっ……、ゆ、裕ちゃん……」

泣き顔に向かった女魔は、幻覚の結界を形作る髪の一束から、
強烈な鞭のような一撃を受けた。
284  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:45
(ピシイィィ!)

次の一撃で女魔は海中に落下した。
中澤は尻餅を付き、その顔色も青ざめている。
このまま女魔が消滅すれば、中澤とてすぐに毒にあてられてしまう筈だ。

「お願い……、かおり達を助けて……」

飯田が召喚者に懇親の願いを込めた時、
甲冑は長い槍を杖の代わりにしながらヨロヨロと立ち上がり、
泣き続ける顔を見据えた。

魔槍『ゲイボルグ』……。
持つ者を不幸にするとまで言われるその槍は、
『影の国のスカアハ』、即ち甲冑の師匠が宿っているとも言われる。

槍自身も、召喚者と一緒に苦しんでいるように見えた。
その姿は甲冑とはまた別の、それ自体が一つの確固たる存在にさえ思えた。
飯田の召喚者が大きなモーションから槍を投じると、
それは、とても弱った体から打ち出されたものとは信じ難い勢いで、
忍び泣く顔に迫って行く。

女魔を叩き落とした髪の束が、幾重にもその行く手を阻もうとするが、
槍はそれらをモノともせず、泣き続ける顔へ突き進む。
やがてその軌跡は、ついに泣き顔の額を貫いた。

「(!!!!)
 ……オ、オマエタチハ、……ジ、ジブンガ……ナニヲシテイルカ、
 ……ワカッテ……イル……ノカ? コ、ココデ……ワタシヲ……」
285  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:47
切れ切れの声を最期に泣き顔が消滅した。
同時に幻覚も結界も消滅すると、そこは住宅街の中の空き地であった。
空き地とは言っても、そう遠く無いうちに新しい家が建つのであろう。
海と思わせた場所は、随分と小さな一角であった。

「ありが……とう……、かおり……の……」

甲冑が消滅すると、飯田はその場に丸くうずくまった。
他の三人もその場に倒れている。

「アタタタタ、まだ痛むわ……」

戦いは終えたものの、戦闘のダメージまでが帳消しになる訳では無かった。
唯一毒気にあてられていない中澤がなんとか立ち上がると、
空き地の真ん中に何かが光っている。

「……なんやろ?
 ……みんな、大丈夫か? しっかりしいや」

何事も無かったかのように漂うジェンキンと一緒に近付いてみると、
何かの結晶であろうか、石のような塊状の物体が光源不明の光を発している。

「岩……塩?」

直感的に言葉を口にした中澤は、何も躊躇すること無く、
簡単に砕くことの出来る結晶のかけらを口に含んだ。

「しょっぱぁ……」
286  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:49
確かに塩である。ジェンキンが持って行けという仕草をするが、
ポケットに入る大きさでは無い。捨ててしまおうか迷っていると、
安倍のうなされるような声がした。

毒はジワジワと四人の体力を奪っているらしい。
嫌な追加ダメージである。女魔も解毒の魔法は持っていない。
このままでは四人の生命も危ないのでは無いか。

ヨロヨロと安倍の横まで戻った中澤は、以前、自分の小瓶の液体が、
眠ったまま起きようとしない飯田を飛び起こしたことを思い出し、
安倍にも試してみることにした。

「なぁなっち、これがアンタの気になるウチの薬や……」

口の中に少量を注ぎ込むと、安倍の体は激しく痙攣したが、
依然起き上がることは無かった……。
中澤は青くなった。これは本気でマズい。
不安と悲しみが体中を駆け巡り、思わず手に持つ結晶を握ると、
パラパラと砕けたその一片が、安倍の口の中にこぼれ落ちた。

「……う、う〜ん……、こ、ここどこ……だべ?」
「な、なっち!!」

中澤は泣きながら安倍を抱きしめていた。

「(グスッ……) さよか、これが薬か……、
 みんな大丈夫やで、絶対助かる……、しばらくここで休んでこな……」

中澤は後藤、吉澤、飯田の口にも次々と結晶のかけらを入れると、
自分も一かけら口に入れ、黒い小瓶を口に含んだ……。
287  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:51
「あの……、ここに来てから時々変な鳴き声聞こえません?」
「りかちゃんも?
 オイラも気になるんだよね……、圭ちゃんは?」
「え? アタシはどうかなぁ、あんまり気にならないけど、
 辻と加護はどう?」
「ときどき、なきごえがおおきいれす」
「ぱおぉぉぉぉん……って、鳴き声の真似……」

加護の物真似は、その声の主が何なのか分からない以上、
似ているともいないとも言い切れない。
ただ五人は、この建物のどこかから聞こえるその声が気になり始めていた。
動物に聞こえなくも無いが、やはりどこか違うその鳴き声……。

その日の一行は順調であった。
ようやく未踏の地であった上階に辿り着くことが出来た。
しかし、そこは階下とは一変し、シャッターが降り照明も消えている。

「ウチらの目的ってなんだっけ?」
「服だよ! オイラの服! すっかり忘れてたね」
「でもシャッター降りてますよ」
「もっとうえへゆくのれす」

エスカレーターだけは動き続けている。
せっかく到達出来た上階から、早々に落とされてしまうのも腹立たしいので、
五人はそのまま続けて、さらに上へ行くことにした。

次の階も照明は消えている。しかしシャッターは降りていない……。
288  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:53
「どうする?」
「次のエスカレーターはここから回り込まなきゃダメだね、
 シャッターは上がってるんだし、
 すぐに目も慣れるでしょ、……行こう」

矢口が言うと五人は足を踏み出した。……静かである。
静かであるが先に進むにつれ、何か大きな気配が強まって行くのを感じる。

「キャッ!」
「りかちゃん! どうしたの!?」
「てへへへへ」
「コラッ! 二人共!」

辻と加護が石川を脅かしたらしい。
魔獣は呼び出されないまでも、怒り口調の保田に二人は神妙になったが、
まだ、小声で笑っているようだ。

「アンタたち、ふざけてちゃ駄目よ……、分かっ…! わあぁぁ!!」

一瞬、保田の体から重力が消えた。
気が付くと目の前には全員が揃っている。どうやら一緒に落下したようだ。

「イタタタタ……」

矢口の打ち所が悪かったらしい。
痛そうにさするその背中を、石川も一緒にさすっている。

「どこよ、ここ……」
289  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:55
おかしな場所に出てしまった。
ここはデパートの中であろうか、背伸びをすれば届きそうな低い天井と、
照明が無い為見渡すことが出来ないが、そう広く無さそうな室内……。
何より、ここに来る直前まで感じていたあの大きな気配が、
より一層強まっていることに、さすがの保田も不安を隠せない。

(ガタガタ……)
「……揺れてますやん?」

地震であろうか、一同は確かに小刻みな揺れを体に感じている。
保田は、その室内に建て付けられた半円状の突起物に腰掛けていた。

「みんな、とにかく一ヶ所に集まろう」

おかしな出っ張りである、何かのオブジェであろうか……。
特にそれが何であるかを気にすることは無かったが、
一向に収まらない揺れに、保田は全員を集めて固まることにした。

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォオォォォォ……)
「な、なんだっ!?」
(パオオォォォォォォン!!)
「や、保田さん、何かが光って……」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォオォォォォ……)
「圭ちゃん、床! 床がせり上がってる!」

このままでは床と天井に挟まれて全員潰されてしまう!
光っているのは目、せり上がっているのは体、この正体は怪物!
とっさに悟った保田は、魔獣を召喚すると固まった一同をさらに小さく集め、
覆い被さる魔獣をクッションにして、潰されるのを必死に防ごうとした。
290  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:57
(バリバリバリバリバリ!! バキバキバキバキバキ!!)
「わあぁぁぁぁぁぁ!!」
「みんな大丈夫!! アタシの魔獣でなんとか凌げる!!」
(パオオォォォォォォン!!)

怪物は地下の食品階へ浮上すると、尚も上へ浮上し続ける。
正直に言えば、全員の盾になっている魔獣は確実にダメージを受けているが、
このまま一階へ出てしまえば、それもそこまでの辛抱だ。

果たして、怪物が一階に躍り出ると五人は素早く散開した。
売場はすでに瓦礫の山と化している。

(パオオォォォォォォン!!)

怪物は雄叫びを上げると、体の両側に付いている砲塔から弾丸を発射した。
そして、どう見ても鼻であるのだが、顔の正面に二つ並んだ穴から、
強力な炎を放ち始めた。

「う〜〜」
「辻! 何やってるのよ、一旦離脱!」

金色に輝くブラウンを抱きかかえたまま、辻がカボチャを召喚している。
火炎放射を無効にするつもりらしかったが、砲弾も飛んで来る状況では危険だ。

五人がどうしても破れなかった外壁は、いともたやすく破壊され、
一同はなんとか表へ出ることが出来たが、砲弾と火炎の雨霰は、
既にデパートの近辺までを瓦礫の山と炎の海にしており、
その場から逃げ失せることは不可能となっていた……。
291  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 06:59
その日は珍しくジェンキンの悪戯が無かった。
悪戯に慣れてしまうと、逆に拍子抜けしてしまう気もしたが、
たまのナチュラル・メイクは嬉しいものである。

ワープ・ポイントに悩まされ続けた迷路から解放され、
解毒の塩の効能で体調を回復した中澤達一行は、数日をコンビニに泊まった後、
ようやく行動を再開したが、いかんせん坂の街が骨であることに変わりは無い。

その大きくキツイ勾配の坂を登り切ると、
高台からはミニチュアのような東京を見下ろすことが出来る。
見晴らしの良過ぎる眺望、ここはどこかの展望台並みの高さなのであろうか。

「(!) 煙!?」
「……焚き火なら芋は忘れちゃならないべ」

空を覆う『白』に、突き立てるような『黒』の東京タワー、
そしてその鉄塔を遥か右手に、黒煙が立ち上り始めていた。
身を乗り出して凝視する五人の上方で、ジェンキンが鈍い点滅を始めている。

「矢口達やっ! 見付けたで! 逃がさへんで!」
「何を焼いてるんだべ?」
「違うでしょ! なっちの食いしん坊!」
「煙ってことは火事じゃないのかな?」
「急がなくちゃ!」

吉澤の一言で一同は我に返った。煙からこの距離でジェンキンが点滅している。
矢口や保田が戦闘になっていることは明白であった。

「ここから走って間に合うべか?」
「アカン、無理や! みんな自転車でもなんでもええから探すで、せいてや!」
292  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 07:01
全員は住宅街を雑多に奔走する。
間も無く、あまり速そうには見えない三台の奥様自転車が集まった。

「でもさぁ、鍵掛かってるまんまだよね」
「かおりがぶった切る! ディアァァァァ!」

内容はどうであれ、合理的な理由で甲冑を召喚出来ることに、
飯田は嬉しそうであった。甲冑が造作も無く施錠を断ち切ると、
五人は自転車に分乗した。

「かおりとウチ、吉澤と後藤、なっちは一人で行くで」

飯田であれば、恐らく触れていたであろうことを中澤は口にしない。
……大人である。安倍の自転車のタイヤは、空気が少ないだけかも知れないが、
二人乗りの他の二台と比べて、遥かに大きくひしゃげていた。

「本当に間に合うべ?」
「踏み出さんかったら、何も始まらへん! みんな行くで!」

漕ぎ手の飯田の後ろで、中澤は景気付けに小瓶を一口含んだ。
後藤は吉澤の体にしっかりと腕を回している。
そして、安倍の目は鷹のように中澤の小瓶を見つめていた。

目指すは、今戦っている仲間の居る場所。
点滅が少しずつ早くなり始めているジェンキンが、
いつの間にか一同を先導する形になっている。
五人は坂道をブレーキ無しで下り始めた……。

                                  < To be continued >
293  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 07:03
< Continued from Op >

平家「ハロプロに残るっちゅうことは、正味な話どないなるんやろな」
中澤「モー娘。だけに牛のメイクして、こうソファに座って……」
平家「『ミル姉さん』かい!!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハ……)
   選手兼監督ちゅう感じとちゃう?
   南海時代の野村監督みたいな、鶴岡監督でも可」
平家「いつの時代の話やねん、鶴岡監督って誰やねん!」
中澤「ごっちんが『ひまわり』なら、ウチは『月見草』、
   ほんで加護と辻は『宇宙人』」
平家「ごっちんが長嶋監督で、加護ちゃん、辻ちゃんはプリンス新庄かい!」
中澤「番組は新たに決まっとるようやし、
   一応ネタ元は確保されたように見えるねんけどな……」
平家「なんやねん『見える』って?」
中澤「いやな、作者のネタのスタンスも今回の一件で確実に変わるんかな……と。
   おかげさんでな、今後は少し距離を置いて捉えることになりそうやわ」
平家「スタンスが変わる言うのは?」
中澤「せやなぁ……、歌える芸人『居酒屋姉妹』復活!
   まだあるで、ハロプロの姑、小姑として他のメンバーをいびりまくり……,
   あっ! もちろんウチの相方はみっちゃんで決まりやで、
   出戻り小姑あっちゃんを加えて、
   『渡るハロプロは鬼ばかり』っちゅうのもええね」
平家「せやな、『居酒屋姉妹』復活……、
   ……って、そもそも結成しとらんわ!
   大体、小姑ってなんやねん! 姑は自分だけにしいや!
   …………あのなぁ、どこが今までと違うスタンスやねん」
294  920ch@居酒屋  2001/03/12(Mon) 07:05
中澤「>>265さん、>>266さんおおきにな、
   激動の一週間でした……、
   平家みちよのお見苦しい所為、ウチからもお詫びします……」
平家「取り乱した長文は裕ちゃんやろ!」
中澤「まぁまぁ、このトークのウチもみっちゃんも作者の召喚者やし」
平家「誰が『召喚者』やねん!
   アンタ過労とショックで、本編とゴッチャになっとるやろ!」
中澤「>266さん、EL・DO・RA・DO……、
   なぁ、みっちゃんこの物語のラストってどないなるねん?
   勿体付けんとウチにだけコッソリ教えてや」
平家「アンタが書いとるんやろ!」
中澤「>265さん、出したいデーモンは他にも結構居りますねん、
   せやけどタイトに1クールちゅうことで、全般的に少な目でしたね」
平家「またこの手の話で良ければ、
   いつか書かせてもらうかも知れへんね」
中澤「作者も今回の一件、一応落ち着きました、
   ウチがテンション下げとる間も、ネタUPしてはる職人さん見てると、
   ウチも『……ど、どうしてこんなに血が騒ぐんだあぁぁ!』
   (ガラガラガッシャン!)」
平家「藤岡弘さんかい!」
中澤「劇中で魔獣に語らせたように、一介のネタ書きとして、
   結局はこのグループの終焉までを見届けたろか思てます。
   ……ほなみなさん、次回は『2001,3/19未明』予定、
   アカンかったら『3/21未明』予定です」
平家「なんで飛び石やねん?」
中澤「19日に有給休暇を充てれるか未確定やねん、
   取りたいなぁ四連休、本業ここまで頑張っとるねんで、ええやん……」
平家「ホンマの裕ちゃんも、日頃そないな気持ちやったんやろね……」
295  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/12(Mon) 13:51
次はようやっと全員が合流するのかな。
そろそろ大詰め、10人揃っての活躍、期待してます。
296  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/12(Mon) 22:42
鶴岡さんかあ…裕ちゃんも御堂筋でパレードできるくらいに出世してほしいね
297  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/12(Mon) 23:05
飯田と召喚者の関係を「なっちと象さんだったら・・・」と思いながら読んだ
自分は顰蹙ですか?
298  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:32
平家「ごっちん最近イグアナ連れて来るやん。
   せやけど、まだ寒い日もあるし、
   ごっちんって結構手荒やから大丈夫かいな」
後藤「辻ちゃん、侍〜〜!」
 辻「てへへへへ、しがみついてるのれす」
後藤「なっち、関取〜〜!」
安倍「イグアナって、ワニみたいな味かい?」
平家「人の頭の上に乗せて遊んどるで……」
中澤「ごっちんな、一応生き物やし、
   おもちゃにしてたら可哀相やで」
後藤「大丈夫だよ、ほらね可愛いんだよぉ、
   えへへへぇ、圭ちゃんニャ○マゲ〜〜!」
保田「なにやってんのよ! 早く降ろしなさいよ!」
後藤「圭ちゃん恐〜〜い!
   ……あ、あれ? どっちが圭ちゃん?」
平家「なんでやねん。
   上に乗ってる緑色が圭ちゃんに決まってるやん」
中澤「二人ともアホやな。
   尻尾が付いとるのが圭坊やろ」
保田「三人とも、ム〜カ〜ツ〜ク〜〜!!」

                                  < Continued on Ed >
299  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:34
< 12th Affair >

荒れ狂う怪物は留まるところを知らない。
その半獣半機械のモンスターは、一戸建住宅程の大きさであろうか、
間近に迫る姿は遠目に見るより遥かに大きい。

戦車のような体の上部には、鋭く光る目と狐狸を思わせる三角形の耳、
そして、火炎を吐き続ける鼻を持った顔と、
アルマジロのような表皮を持つ、ヤドカリの貝殻のような形状の背中、
体の側面には、各一門づつの砲塔を持ち、スピードこそ速くはないものの、
火炎放射と砲撃は確実に矢口達五人を追い込んでいる。

砲撃はただ闇雲に打たれている訳では無く、
直撃弾と迫撃弾が計算されているようにも感じられ、
電子的な音にも聞こえるその雄叫びとともに、
意図的なカラクリの元に動いている風にも思える。

崩れ落ちる瓦礫と炎の海は、徐々に一同の行動範囲を狭め、
辻のカボチャが怪物の火炎放射を相殺し、
攻撃魔法としては、唯一効果が確認出来た加護の雪だるまの
ブリザードで反撃をするが、それさえも砲撃の前には押されてしまい、
十分なダメージを与える迄には至っていない。

保田の魔獣は果敢に怪物へのアタックを試みるが、
怪物の表皮……、装甲は頑強で食らいつくことすら出来ず、
弾き飛ばされる度にダメージを受けている。
300  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:36
矢口の狐は若武者に化身する様子は無く、
怪物に対する囮として、その攻撃目標をはぐらかすことが精一杯で、
それでも時折ダメージを受けている。
石川の女精の回復は事実上フル稼働であった。

(パオオォォォォォォン!!)
「ダメだね、オイラのが一番役に立って無いみたい……」
「そんなこと無いですよ」

瓦礫の塹壕に身を寄せながら言う矢口に、石川が言葉を返す。
怪物の放つ火炎は、一向に弱まる気配を見せず、
火の手はますます強くなっている。
辻のカボチャは直接受ける火炎こそ無効に出来るが、
延焼してしまってはどうすることも出来無い。

ここまでの規模の市街戦は、人間のスケールをとうに超え、
巨大なスケールの者同士の戦いの場にさえ思えてしまう。
瓦礫の焦土と化した一帯は、確実に五人にプレッシャーを与え、
カボチャが無効にする火炎の間隙を縫う、雪だるまのブリザードも、
尚も繰り出される火炎放射の前に、ジリジリと押され始めている。

(パオオォォォォォォン!!)
「(ハァハァ……) ちょっと休もう……」

保田が辻と加護の背を押して、塹壕に合流した。
怪物の動きが緩慢なことだけがせめてもの救いであったが、
新たな行動を起こそうとすると間違いなく襲ってくる砲撃と、
執拗に放たれる火炎は、かつて無い手強さであった……。
301  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:38
風を切る一行の前をジェンキンが進む。
その速度は自転車のスピードに負けること無く、
むしろ、それより速く進むことさえ可能に思えたが、
人魂は、一同のその時点での最高速度に合わせて先導を努めている。

その道案内は的確で、
五人は曖昧な確信の元、確実に戦闘の現場に近付いていた。

「裕ちゃん、さっきから……」
「せやな、飛んでるな……、
 かおりは気にせんと進んでや」

三体の翼を持つ者が、一行を追尾している。
中澤を乗せている以上、破魔系以外の魔法攻撃は無効になるとは言え、
正直、天使と相対することに飯田は気が進まない。

「この世界の秩序を乱す者、許すまじ……」

天使の言葉が耳に入ったその刹那、
始まったと思った飯田は、何事も起こらないことに悲しく納得した。

「裕ちゃん、終わったの……?」
「ウチらに時間の猶予は無いねん……、
 ……かおりは気にせんと進んでや」

二人は、先を急ぐことに気持ちを振り向けた。
302  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:40
例えば足で走るより、
自転車で走る方が当然のことながら体への負担は軽い。
これに無理のない負荷を付け加えてやれば、
余分なカロリーの燃焼には理想的であるが、
休み無く先を急ぎながら漕ぐペダルは、やはり相当な運動である。

「(ゼェゼェ……) みんなはいいべサ……」

軋む車体に、ゴムチューブを歪ませながら安倍が進む。
穏やかな気候の中を、玉の汗を光らせて進むその姿には、
かつてのイヤーワッフルを首からかけた華奢な少女の面影はどこにも無く、
突き押し一本の雲龍型を響かせる貫禄がにじみ出ている。

「なっちな、二人乗りかて大変なんやで……、頑張ってこな」

安倍と二人乗りになった場合の、相方の負担を考えれば即却下であろう。
そもそもママチャリがその重量に堪えられるのか……。中澤は、
安倍と二人乗りになったら、自転車が壊れるとでも言い出しそうな飯田に、
内心ハラハラしていたが、その時の飯田は、
漕ぎ手一方の自分は本当に大変であると考えていた。

「よっすぃ、代わろうか?」
「うん? もう少し大丈夫だよ」

こちらの二人はチームワークが良い。後藤の鼻歌が聞こえて来る。
思わず吉澤の口元が緩んだ。

「ゴー・ゴー・レッツ・ゴー・ごとうまき……」

週一ダイバーのテーマ……、吉澤は後藤に合わせて自分も口ずさんだ。
303  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:42
「裕ちゃんアレ!」
「アカン! 魔法効かへんわ、かおりに任せた!」

突然通りを這うように、前方に一体のデーモンが現れた。
高さは無いのであるが、体全体は道をふさぐ程に大きい。

五人の間ではセオリーとなっている気力の消耗を抑える公式、
女魔の間接魔法>甲冑の物理攻撃>象の攻撃魔法が適用されたが、
女魔の魔法は通用しなかった。

ちなみに、人魚と鳥はなるべく温存するのが、
大きな戦に向かう前の定石である。

「ディアァァァァァ!」
「あいな、待たれい!」
「わあぁぁぁぁ! よっすぃぃぃぃ!」
「何だべサ! なっち急ブレーキぃ!!」

呼び出した甲冑を前面に、そのまま突破を計る一行に、
デーモンが言葉を発した。
道を完全にふさいでしまったその体筐は、
全身が黒い布で覆われているように見えるだけで、
それ以外はよく分からない。
その塊中から腕だけが伸び、一同を制止した。

飯田と吉澤の自転車は、
車輪を進行上から真横に向けることでストップしたが、
安倍の自転車は後輪が大きく浮き上がってしまった。
304  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:44
「あれへ向かわれるのか?」

突き出された腕が、煙の立ち上る方向を指差す。
その口調に敵意の無いことを悟った飯田は、
やや名残惜しげに、しかし気力の消費や他の四人に対する
気恥ずかしさも手伝ってゆっくりと甲冑を自分に戻した。

「そうだよ、すっごく急いでるの」
「邪魔せんと、道明けてくれへんか?」

ともすれば自転車を降りてしまいそうな後藤に、
牽制の意味も含めて中澤が言葉を繋いだ。

「あい分かった。しかし、その気力……、そして体力……」

突き出された腕が、再び制止の形の掌に変わると、
淡い、靄のような光が一同を包み込んだ。
五人はされるままである。

「うわぁ! ありがとう!」
「なっちやったべ!
 元気ハツラツ、これで明日はホームランっしょ!」
「気を付けて行かれよ……」

気力、体力ともフルに回復してしまった。
思わぬ贈り物に素直に感激する後藤や、いつかの時代の清涼飲料と牛丼のCMを、
チャンポンにして感激する安倍の目の前で、
黒いデーモンは腕を突き出したまま、霞のように消滅した。
もう急激な勾配は無い。目印の黒煙は、尚一層強くなっている。
305  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:46
ブラウンが大人しい。
金色に輝く体は、辻に抱きかかえられたまま、
自分から動く様子が見られない。

公園の一件は例外であったが、
普段なら戦闘中でも悪ふざけをしているようなこの人形が、
今回に限っては辻に身を任せている。

辻は離さないことにのみ神経が行っているようで、
ブラウンの元気の無さを気にしている様子は伺えないが、
加護はブリザードで応戦しながら、
気になるのか、チラチラとブラウンを見ていた。

「ねぇ、それ力入れ過ぎじゃない?
 ……どうしたのよ、ブラウンもやけに大人しいじゃない」

保田の問いに辻からの答えは無い。物理的に聞こえていないのか、
意識が別の方向に集中しているのか、辻の抱え方には力がこもっている。
そこまで強く抱き締めてしまっては、
さすがのブラウンでも壊れてしまうのではないかとさえ思えた。

(パオオォォォォォォン!!)
「アチチチチ……、カチカチ山は狸だぞ!」
「矢口さん、待ってて下さい」

狐の姿のままの召喚者が、火炎を受けてしまった。
矢口自身が燃え上がることは無いが、ダメージが加わる。
石川は回復だけに専念しているが、そろそろ気力の消耗も考え時か。
306  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:48
保田が辻と加護を連れて後退して来る。

「どうしよう、少し召喚休もうか?」
「そうですね、休憩入れた方がいいと思います」

バッテリーが休憩を挟むと長持ちするように、
或いは人間が休息を取ると回復するように、
それは召喚時の気力にも同様のことが言えた。
この状況での保田にとっては、本当に疲れてしまっての提案かも知れないが、
確かに全員の考えは同じであった。

「じゃぁ、オイラがもう一回攪乱するから、
 みんなはあそこの瓦礫に隠れて」
「へい!」
「せやけど、矢口さんは……」
「しばらくアイツをおちょくってやるからさ、
 少し回復したらブリザードで攻撃してやってよ。
 オイラ反対側に向かうから、怪物がそっち向いたら、
 一斉に行くんだよ。……じゃぁ、始めるからね!」

矢口の頭の良さとは勘の良さであろう。
そのバランス感覚に秀でた要領は、一同の中でも確実なポイントとなっている。
まして、増員により年長組になった今では、
ある種の責任感も自覚しているようであった。

(パオオォォォォォォン!!)

飛び出した狐が怪物の鼻先をかすめる。
火炎放射がこちらに向いた。そのまま四人と反対向きに進むと、
怪物の体もゆっくりと狐を追って動き出す。
307  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:50
「やったじゃん!」

一人だけ召喚者を残している矢口ではあったが、
まんまと誘導される怪物に、つかの間、疲労が吹き飛んだ。
いつもより大きな動きで跳ね回る狐に、火炎と砲撃が加えられるが、
間一髪、ギリギリのところを避けて行く。

「矢口さん、すごい、すごい!」
「今のうちにみんな早く」
「へい!」
「ホンマに大丈夫やろか……」

四人が目的の場所に辿り着くと、斜め後方からの姿が見える怪物が、
その場でゆっくりと体の方向だけを回転させ始めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ……」

怪物の動きに嫌な予感がした矢口は、
次の瞬間、発射された砲弾と一斉に飛び出した四人の召喚者を見て、
顔面を真っ赤にして憤りの表情を見せた。

完全に向き直ってしまった怪物は矢口を後にし、
その攻撃は、却って四人の状況をまずくしてしまった。
勘が良いとはいえ、それが全て期待通りに結び付かないのも、
また世の道理ではある……。
結果が見事裏目に出てしまった矢口の狐は、
怪物の背中で空しく舞っていた。
308  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:52
走る一行の周囲を、カクカク……という音が付いて回っている。
その音は徐々に大きくなり、やがて不快なやかましさに変わった。

「……待ちなよ」
「わあぁぁ!
 骨だべ骨! いっぱい食わねばダメっしょ!」

安倍のリアクションは過剰反応とも思えるが、
不快な物音が止むと、アスファルトから浮上して来るように、
自転車と同じ速度で赤い骸骨が姿を現し、一同を取り囲んだ。
その数は10体を下らないであろう。

「何よ! アンタたち!」
「オマエら、どうせこの先行ったっていいことなんか無いからよ、
 俺達がここでカタを付けてやるぜ」

飯田の怒号をものともしない真っ赤な骸骨は、
手に手に錆び付いた日本刀を持っている。切れそうには見えないが、
何にしてもその体色は見る者を不愉快にさせた。

再びカタカタ、カクカクという音が始まった。
骸骨達がこちらとの間合いを計っている。

進行を止められ、中央に固まった三台の自転車の上には、
吉澤と後藤を除く、三人の召喚者が呼び出されている。
既に女魔の魔法は空振りに終わっていた。
この赤い骸骨達は魔法の攻撃を仕掛けてくるであろうか。

「ホンマにな、自分らええ加減にしいや!
 なんでウチらの邪魔するねん! そこどかんかい!」
309  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:54
中澤が語気を荒げて怒っている。
行く手を阻まれるのもしゃくにさわるが、
折角の気力・体力フル充填という贈り物を、
無駄に浪費させられることが、何よりも腹立たしかった。

「(吉澤、後藤、……かおりが斬り掛かったら、
 なっちが魔法を続けて正面の骸骨を倒すから、
 一気に突破して矢口達のところへ急いで)」
「(でも、飯田さん達は?)」
「(大丈夫サ、すぐに追い付くべ。
 向こうに着いたら回復してやってな)」
「(うん、わかった)」

ヒステリックに啖呵を切る中澤をよそに、
四人が小声で打ち合わせを終えた。

「ディアァァァァァ!」
「わっ! 突然なんやねん!?」

喧嘩言葉の応酬になっている中澤と骸骨達に、突然甲冑が仕掛けた!
一撃は正面の骸骨の左半身を砕いたが、完全に葬り去ってはいない。

「今度はなっちの番だべ! よっすぃ、ごっちん位置に着くべ!」
「ごっちん、つかまって」
「アイ・アイ・サー!」

オリンピックであったなら、完全にフライングのスタートから、
象の衝撃波が半身の骸骨を吹き飛ばすと、
骸骨の壁に明いた穴を突き抜けて、吉澤と後藤が飛び出して行く。
現場まではもう近い。黒煙は一向に弱まらない……。
310  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:56
(パオオォォォォォォン!!)

拡大する一方の焦土と瓦礫の山に、
逃げ場を狭められている保田達五人は、
このままでは終焉が近いことを自覚していた。
延焼を食い止める術も無く、怪物に追い詰められる状況は、
万事休すを意味している。

カボチャと魔獣の相手は既に怪物では無く、
迫り来る炎と崩れ落ちる瓦礫から、自分達を守ることに向けられている。
鼻先を攪乱し、出来る限りの時間稼ぎをする狐と、
唯一ダメージを与えることの出来る雪だるまの攻撃も、
刻々と気力の限界へ向かっており、
女精の気力に至っては深刻なカウントダウンであった。

「もうダメなのかなぁ……」
「そんなこと無いです! まだみんな気力残ってます」

思わず呟いた矢口に、やけにポジティブな石川が声を張った。
懸命なのであろう。

「そうだね、りかちゃんの言う通りだね」

返す言葉で全員を鼓舞するかのように矢口が言う。
しかし、状況は悪いままであった。
辻はブラウンをしっかりと抱きかかえ、片時も離そうとはしない。

(パオオォォォォォォン!!)
(ガラッ!)
「あっ!?」
311  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 05:58
保田の魔獣が炎にまみれながら一同を瓦礫から守っている一瞬の隙であった。
炎に包まれた瓦礫が、辻とブラウン目掛けて崩れ落ちる。
炎だけならカボチャで何とか出来るとしても、瓦礫までは防げない。

「辻ぃぃ!!」
「ぶらうん!!」
「キャッ!」

矢口の叫びに、辻はブラウンを庇うようにうずくまり、
石川は両手で顔を覆った。

(ザバアァァァァン!)
「カボチャは辻ちゃん? 雪だるまがかごちんだ。
 えへへへへ、かわいいね」
「ごろう(ごとう)さん!!」

人魚の放った大波が炎を消すと、同時にその水流で瓦礫をも吹き飛ばした。

「良かった、間に合った!」
「よっすぃや!」
「えっ!? 後藤と吉澤!?」

いつもの困り顔で、目を丸くする加護の声に、
保田が振り向いた。矢口と石川の顔も驚きと感激に満ちている。

「わぁ! 圭ちゃんの何それ! すごいなぁ、ただのライオンじゃないねぇ」
「ごっちん! 関心するのは後!
 中澤さん達もすぐに来ます、みんな頑張って!」

どこか緊張感の乏しい後藤に対して、吉澤はどこか凛々しい。
312  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:00
「どうしようか……、みんなのダメージを回復すればいいのかな?」
「ダメージは私が回復するから、ごっちんは火を消して」
「そっか、りかちゃんのが癒し系なんだ、へぇ、美人だねぇ」

(ザバアァァァァン!)

後藤ののんびりした態度とは裏腹に、人魚は津波のように水流を放つ。
怪物の火炎放射に負けない水流は、見る間に周囲を鎮火して行く。

(パオオォォォォォォン!!)
「圭ちゃん!」
「うん! 動きが止まった」

矢口と保田がうなずき合う。怪物の動きが止まった。

「水を浴びてからだね」
「……水に弱いとしたら、
 ごっちん! あの化け物にもっと水を浴びせて!
 加護もブリザード頼むよ!」

保田の声に、人魚と雪だるまから螺旋状に水流と吹雪が放たれる。

(パオオォォォォォォン!!)
「わあぁぁぁぁ!」
「ヤバッ! これって逆切れ!?」

弱点を突いたつもりであったが、動きの止まった怪物が、
再び火炎放射と砲撃を再開した。その勢いは前にも増して強まっている。
313  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:02
「失敗したかな」
(ピシャッ! バリバリバリバリバリ!)

矢口が一瞬後悔した矢先、目の前を強烈な閃光が走った。

「水に弱いんなら、雷にも弱いっしょ!」
「なっち!」

駆け付けた安倍と、やけに恰幅の良い象から雷が放たれる。
再び怪物の動きが止まると、人魚と雪だるまの攻撃も再開された。
その上空から静かに女魔が近付く。

「あれは!?」
「(シッ!) 圭坊、声が大きいで……。
 それにしても派手にやりよったなぁ、
 ここ来る迄に瓦礫乗り越えるの大変やったで」
「裕ちゃん!」

いつの間にか、中澤と飯田も到着している。
女魔は怪物に取り付くと、その固い背中に唇をあてた。

(パオオォォォォォォン!!)

突然、怪物が背中に取り付いた女魔を振り払おうとして、
無茶な回転を与えているターンテーブルのように、
狂った勢いで回り始めた。
通常の攻撃魔法は無効な女魔であるが故、
そのまま象・人魚・雪だるまの攻撃も継続されている。
314  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:04
(パオオォォォォォォン!!)

怪物の雄叫びが断末魔の様相を呈し始めた。
吉澤の鳥が滞空したまま、その高みで人型に変型すると何やら唱え始める。
飯田の甲冑は、その呪文に納得したように怪物に斬り掛かると、
あれほど厄介であった両の砲塔が瞬く間に潰された。

威容を誇った怪物に既に生気は乏しく、
光の灯った目も、その明るさは半分以下に成り果てている。

「ウチらの勝ちやな……」

中澤が女魔を引き離すと、それに習うかのように、
相次いで攻撃の手を止めた一同に、回転の止まった怪物が正面から相対している。
その姿は猛々しい砲塔を失い、最早火炎放射さえも無い、
自分達を脅かしたモノの、余りにも寂しい末路であった。
加護は飯田に抱き付いたまま、辻はブラウンを抱きかかえたまま、
誰もが無言の中に居る。

「誰が止めさす?」
「アタシがやるわ」

一抹の静寂を破る中澤の言葉に、
魔獣はさんざん弾き飛ばされた怪物に飛び乗ると、その頭を一気に噛み砕いた。

割れた照明器具のように、無惨な頭部をさらす怪物は、
わずかに目に光を灯しながら、よろよろと動き出すと全員の見守る中、
人魚の放った水流により、なみなみと水で満たされている、
自分の出現したデパートへ戻って行き、そのまま水の中に沈んで行く。
やがて水面には、小さな横笛が浮かび上がった。
315  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:06
一同は初めて見る召喚者が珍しいのか、そのまま召喚を続けていた。

「矢口〜〜! 元気してたか〜〜! 矢口の狐、可愛いなぁ〜〜」
「裕ちゃんのこそなんだよ、うわぁ……、エッチ……」

女魔は初見となる矢口、保田、石川の三人は、
その際どい姿に赤面すると、すぐに目を反らしたが、
加護と辻は口を開いたまま凝視している。

「わあぁぁぁぁ! 加護と辻は見てたらアカン!」

二人の様子に気付いた中澤は、慌てて二人に駆け寄ると、
そのまま二人を抱きしめて目隠しをした。

「圭ちゃんのはさ、本当に何なの?」

興味の尽きない後藤が、保田の周りを……、
……と言うより、魔獣の周りをシゲシゲと眺めながら行き来している。

「圭ちゃんのはねぇ……」
「わっ! 圭ちゃんの顔!」

後藤の様子を見て、クスクスと笑う矢口と石川が、
思わせぶりに口を開こうとすると、突然後藤がその場から飛び退いた。
驚いたのも無理は無い、魔獣の顔は保田自身の顔に瞬時に変わり、
口を少し開くとウインクまでして見せる。

「何それ〜〜! どっちが圭ちゃん!?」

どちらも保田であるのだが、保田本人はムッとしていた。
316  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:08
飯田は誰の召喚者よりも、自分の召喚者をジッと見つめているが、
人型になった吉澤の鳥が、その飯田に刺すような険しい視線を送っている。
その視線に気付いた飯田は鳥に目線を返し、その間では熾烈な火花が散った。

「矢口好っきやで〜〜!」
「なんだよ! やめろよ!」

狐が女魔に追い回され逃げ惑っている。
中澤に目隠しをされていた辻と加護は、ようやく自力で視界だけを確保し、
その光景を見ているが、視線は中澤の召喚者だけを追っていた。
二人の頭上で、カボチャと雪だるまが何かを話し合っている。

水面に漂う横笛に気付いた後藤は、安倍と石川、
そしてその召喚者の見守る中、人魚を差し向けそれを拾おうとしていた。

「今度は笛かい?」
「私は鏡が……」

石川は、ポケットから公園の一件で収めた鏡を取り出した。
それは未だ一条の曇りも無く、石川を映し出している。

「別に普通の笛みたいだよ……(えっ!? わあぁぁぁぁ!)」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォオォォォォ……)
「な、なんだべ!? 地鳴り?」
(ピシャッ!! バリバリバリバリバリ!!)

後藤が笛を手にしてから程無くのことであった。
突如として大地が揺らぎ始め、その振動は低く腹の底へ響き渡る。
乳白色の空は、透明の水にたらしたインクのように、
闇を含んだ赤黒色に変化し、くぐもった雷鳴が轟き始めている。
317  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:10
「キャッ!」
「な、なんだ!?」

石川はとっさに矢口に抱き付いたが、
傍目には石川に抱きかかえられた矢口である。
矢口と石川の目の前で、怪物が沈んだ水の底から二条の光が発せられた。
垂直に伸びる光は、赤黒い空の中にまで届いて行く。
水平に伸びる光は、途上の如何なる物体をも無視した伸びを見せ、
やがて交叉で結ばれた閃光の壁は、天空に巨大な六忙星を描いた。

「ウチの東京タワーが!?」

六忙星の中央から空に目掛けて、気流が発生しているかのように、
東京タワーの焼けた欄干が、バラバラと吹き上げられている。
それと同時に、一同の目の前にある建物群が、
まるで、賢者の言霊に開かれる海面のように、
一本のラインとなって消滅し、それは深紅の道となった。
行き着く先は、骨組みの吹き上がる東京タワーである。

『裕ちゃん……』
「……これが最後かも知れへんな、
 ……ええか、ウチらはなんとしてでも戻る! みんな行くで」

全員の視線は自然、中澤に向けられていたが、
それとなく悟った中澤の言葉には、毅然とした力がみなぎっている。
……やっぱりアンタはリーダーだ。
召喚者を内に収めた10人は、高ぶる気持ちと不安な気持ちを交互に抑えながら、
誰からとなく円陣を組み、小さくしかし力強い気合を入れた。
ブラウンの体色は安い色のまま……、ジェンキンの体も点滅はしていない。
一同は深紅の道を、姿を変えつつある東京タワーに向けて歩き出した……。

                                  < To be continued >
318  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:12
< Continued from Op >

中澤「(ワッハッハッハッハ……)
   せやけどアレやね、この間の『うたばん』な、
   タカさん、妹にするなら圭坊言うてはったやん、
   いろいろあったけど良かったなぁ……、
   ウチもこれで一安心やわ(ウルウル……)」
保田「裕ちゃんのことも、番組で応援するってあったしね」
後藤「でもさぁ、テロップで『圭ちゃん掲示板』とか出すのはどうなのかなぁ、
   ……あ、あれ? どっちが圭ちゃん?」
保田「アンタねぇ、いい加減にしなさいよ」
平家「なんでやねん。
   上に乗ってる緑色が圭ちゃんに決まってるやん」
中澤「二人ともアホやな。
   尻尾が付いとるのが圭坊やろ」
保田「三人とも、ム〜カ〜ツ〜ク〜〜!!」
平家「……あ、あのな、
   イグアナってホンマに育ったら、メチャメチャ巨大なんやろ?
   そんでも連れて来るの?」
中澤「どないやろ? ごっちん怪力やしな。
   …………それは恐ろしいことやで!
   『魔女ごまイグアナ』誕生やん! 日本の危機や……、
   みっちゃん、インドの山奥で修行してウチらのこと守ってな」
平家「なんでカルト・ヒーローやねん!」
319  920ch@居酒屋  2001/03/21(Wed) 06:14
中澤「>>295さん、>>296さん、>>297さんおおきにな、
   遂にオーラスです。
   辻に代わってハコ下寸前のラス親みっちゃんは、
   頭のてっぺんにツカンポの花が……」
平家「『ヅガン……、明菜ちゃん……』、
   ……って、なんで『ツカンポ』やねん! 『スーパーヅガン』かい!」
中澤「>295さん、この物語で初めて10人が顔合わせましたね。
   後はみっちゃんだけやのに、遅いわ……早よしいや」
平家「ここまで書いといて、今更なんやねん!」
中澤「>296さん、『裏モーニング娘。中澤裕子』は、
   『裏ハロープロジェクト中澤裕子』へ、
   そんで『裏U.F.O.中澤裕子』まで登りつめた暁にはタイソン招聘……、
   『小川ーーー!!』」
平家「なんで『世界格闘技連盟』やねん!」
中澤「>297さん、かおりと召喚者のくだりは、
   これ書く当初から出来てましてん、なっちの方は……」
平家「それは『あとがき』の内容やろ」
中澤「せやった! 残りわずかで話が繋がってもうた。
   ……ほなみなさん、次回最終回は『2001,3/26未明』予定。
   みっちゃん、今までnice突っ込みthank youな」
平家「改まってなんやねん」
中澤「ところで、みっちゃんの召喚者って何やった?」
平家「……アンタわざと言うてるやろ、こっちは本編には絡んでへんわ!」
中澤「せやったか? 裕ちゃんshocky〜〜! (WAHAHAHAHAHAHAHA……)」
平家「なんで怪しい発音の連発やねん」
320  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/21(Wed) 07:36
待っていた瞬間が遂に・・・
いよいよラスト一回、どんなエンディングが待ち構えているのか楽しみにしています。
321  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:40
平家「ANNS、裕ちゃんのバトン引き継ぐの矢口やて?
   それって、えこ贔屓とか言われへんかった?」
中澤「誰にも文句は言わせへん!
   矢口はウチの愛弟子やで『猪木イズム継承』ダァーーーッ!!」
平家「なんで『闘魂伝承』やねん」
飯田「『モーニング娘。矢口真里のall night nippon SUPER!』……、
   (ハァ……)『チャレモニ。』リーダーって言ったっていつもあんなだし、
   『アイさが』の司会も終了だし……」
中澤「かおりはリーダー大好きやもんな……、
   『満開』もリニューアルすることやし構へんやん」
飯田「……やっぱり運だと思うんだよね、
   かおりは運が無いからダメなんだと思うの」
平家「問題がすり替わっとるのとちゃう?
   かおりの場合は別の事情が……」
飯田「(ザザザザ……)
   『えぇ、吉村作治に似てると良く言われる太田です……、えぇ……』」
平家「せやから、どっから混信するねん!」

                                  < Continued on Ed >
322  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:42
< Final affair >

低い雷鳴が轟く天空と、突き上げるような地の響きの狭間、
深紅に敷き詰められた一本の道を一同は進む。

ほぼ骨組みを剥ぎ取られつつある電波塔に変わって姿を現したのは、
城……、或いは宮殿であろうか、
今も昔も、そして洋の東西にも類を見ない奇怪な様式は、
熱に変形したガラス細工のように、
ぬめるような赤色に、身をよじるような螺旋を描いて建っている。

この道を歩む10人の前に、最早デーモンは出現せず、
ブラウンもジェンキンも、いつもの戦闘のシグナルは発していない。
上下の空間の干渉によって引き起こされる、ビリビリとした空気だけが、
一行に重くのしかかっていた……。

高まる緊張は、深紅の長い道をアッと言う間に通過させ、
むしろ、永遠にその先には辿り着きたく無いという衝動を、
一同に駆り立たせる程であった。

ブラウンは辻に抱きかかえられたまま一向に動かないが、
全員の一歩先を浮遊しながら進むジェンキンが、
宮殿の入口に到着すると大きな扉が音も無く開いた。

一行は、無言のまま吸い込まれるようにその中へ入って行くと、
扉は音も無く閉じた。

「わぁ……」

感嘆の声を上げたのは後藤だけでは無い。
宮殿の中は、うなりを上げる表とは一転した静寂の世界であった。
323  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:44
不思議な温もりで満たされたその空間は、
一面が赤一色の壁で、上へ行くほど先細りになっている。
天井は閉じられておらず、まるでどこか違う世界へでも続いているかのように、
赤黒色の空へ繋がっている。誰も口にこそ出さないが、
その内部は明らかに何らかの器官の様相を呈していた。

高さにすればビル何十階分にもなりそうな、
ひたすら高い空間が階層の区切り無しに、
上へ上へと無限大に続いている。
そして、そこからであろうか僅かな風が密やかに吹き込んでいた。

『ご苦労じゃった……』
「なんやねん? 誰がご苦労さんやねん?」
「裕ちゃん、ジェンキンがまとわり付いて来るべサ」

一同の耳に聞き覚えの無い声が響いた。
それは決して若い声では無く、どちらかと言えば老婆の声に聞こえる。
その声を聞くと、ジェンキンが中澤達五人の周囲を飛び交い始めた。

実体を持たない人魂である。中澤達に感触は無かったが、
その動きは人に体をなすり付ける猫のようであり、
困惑する五人をよそに、スキンシップ……もどきを終えたジェンキンは、
一行と相対する中央からやや奥まった場所に進み、中空で制止した。
顔が無いので体の表裏は分からないが、恐らく一同と向き合っている筈だ。

辻が人形を抱き締める力を強める。
その時が近いことを悟っているのであろう、
決して離さないつもりであった。
324  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:46
「あっ!?」

体の具合でも悪いかのように、
怪物との一件以来、その独特の動きの止まっていたブラウンが、
辻の力など無きに等しいかの如く、その腕をすり抜けた。

「ぶらうん!」

辻と相対した人形は一瞬の制止の後、
素早く保田、矢口、石川の手にタッチをして回った。
そして、加護と再び辻の手にタッチをした時、二人の手が人形の両手を掴んだ。

「行ったらアカン! 行ったらイヤや……」

ブラウンは、またしてもその手を掴んだ筈の加護と辻からすり抜けた。
そのまま小走りにジェンキンの浮かぶ場所へ向かおうとしている。

「ぶらうん!!」

泣き叫ぶ辻の声に人形の動きが止まり、
そのままゆっくりと二人の方へ体が向いた。
もしブラウンに顔があったなら、やはり泣いているのであろうか。

『早くせんか!』

怒鳴り声がした。その怒号に驚いたかのように、
一世を風靡したコメディアンのようなジャンプを見せた人形は、
やがて人魂の下に辿り着くと、ジェンキンと同じく10人と向き合った。

「お別れやね……」
「えへへへへ、みんないっぱい落書きされたもんね」
325  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:48
「今まで食べ物とかいろいろありがとうな……、
 ……達者でな、なっちはジェンキンのこと忘れないべ」

ジェンキンは小さく頭を下げたように見えた。

「オイラ達も、いろいろありがとう」
「随分面倒掛けてくれたけど、最後だから全部チャラにしてあげるわよ!」

保田は憎まれ口を叩いているが、やはりどこか寂し気である。
加護と辻は飯田にしがみつくと号泣を始めた。
ステレオで迫るフルボリュームの子供泣きは強烈であったが、
飯田も怒ることはしない。
きっと自分達とジェンキンの間にあったこと以上の出来事が、
この二人の間にはあったのであろう。

ブラウンとジェンキンの体が、二体の丁度中間の距離で結合し始める。
粘土の塊を引き延ばす動作の逆回しという表現が妥当であろうか。
コーヒーに注ぐミルクのように、ゆっくり回りながら混ざり合う
人形と人魂は、やがて中空で丸い動物の姿になった。

「うさぎ!?」

石川にそう見えたのであればそれで構わないが、
両の前脚が小さな人間の手のように見えることと、
鋭い黄色の牙をのぞかせた顔が人のように見えること以外は、
大型のネズミを思わせる。

『もう行ってよいぞ』

老婆の声がすると、ネズミは制止した空間の真後ろに、
螺旋状に吸い込まれるように消滅した。
326  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:50
ネズミが消滅すると宮殿内のどこからともなく、
ヒラヒラと振袖が舞い降りて来た。
その紫縮緬の振袖は、畝織に荒磯と菊の模様を染め、
桔梗の縫紋は、人を虜にする魔性の魅力を放っている。

娘達の斜め上方で降下を止めた振袖は、
着姿の中にムクムクと人の影を見せ始めたが、
そこに実体は無く、あるのは人の姿をした闇だけであった。
目鼻立ちから指の先まで、確かに人の形をしているが、
その奥行きには、どこか引きずり込まれそうな不気味な闇をたたえている。

『よくぞ為し得てくれた。
 礼を言うぞ、娘達……、いや、我が召喚者達よ』
「なんやて!?」

中澤は振袖のその言葉に耳を疑った。
召喚者……、今まで自分達が呼び出していた者も、
勿論召喚者ではあるが、自分達こそが召喚者そのものであったとは……。

「なしてウチらが呼ばれたんだべ?」
『封印を解く力を持つ者の手が必要じゃったからじゃ』
「封印を解く?」

この期に及んで、俄然のどかな風情を漂わす安倍の質問に、
怪訝な表情の飯田が言葉を繰り返す。

「アンタ何者やねん? ここはホンマにどこやねん?」
327  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:52
『ワシか? ワシはその昔、江戸の街を業火で焼き尽くした振袖の魔……、
 ここは、おまえ達が『現実』と言っている世界と髪の毛一本の隔たりも無い、
 並行する『現実』、時と場合によっては互いに入り組んでさえおる世界じゃ』

今を溯ること三百年を越えた江戸の昔、
俗に『振袖火事』と呼ばれる天災とも人災ともおぼつかない、
しかし、未曾有の被害をもたらした大火事が発生している……。

『悔しきことに、時の陰陽師共によりワシは封印された……、
 ワシは何度もその封印を破ろうとして、おまえ達の言う現実、
 ワシの元居った世界から、幾度となく召喚を試みた……、
 じゃが、誰もが六つの封印を解くことは出来なんだ……、
 それがどうじゃ、新世紀の頭にこうして念願が叶った』

闇に浮かぶ顔は、背筋が寒くなるような笑みを浮かべている。

「六つの封印やて?」
『ワシはおまえ達を召喚し、各々二手に分けた、
 使い魔が反応を示したのは何回じゃった?』
「矢口達のを入れへんかったら……、ウチらが三回……」
「オイラ達も三回……って、アッ!?」
『左様……、おまえ達はかつて類を見ない、目を見張る強さでな、
 おかげでワシはこうして自分を解き放つことが出来たのじゃ』
「別にウチらはアンタの為に戦ってたんとちゃうで!」

中澤の言葉に憤りがにじみ出る。
現実の世界へ帰るというその意志が、振袖の思惑と一致していたとは……。
328  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:54
「でもさぁ、ウチらおかしな目にばかり遭ってたじゃん、
 変なホテルとかさ、地下の世界とかさ、何で冒険させられてたの?」
『それはな、昨日を省みない江戸の開発で封印がねじれたのじゃ、
 おかげでワシは徐々に本来の力を復活させることが出来た……、
 あれは封印のありかを合わせるために、ワシが仕組んでいたこと……』
「ややこしいことせえへんと、全部自分でやればええだけのことやん」
『魔力が復活したと言っても、封印を解くことだけは出来なんだ……、
 そこで条件の揃った娘を召喚しては、
 使い魔を充て、その娘達に降魔までさせておったのじゃ』

どこか力の抜けたような後藤の声に対し、中澤の声は険しくなっている。
ピリピリする緊迫感が高まる中、保田が意図的に質問の矛先を変えた。

「……条件?
 でもさ、目的を達成したんならウチらも帰れるんでしょ」
『勿論、後はおまえ達の世界へ一緒に帰るだけじゃ……、
 (フッフッフッフッ……) おまえ達の中に十七歳の娘が居るじゃろう、
 そこの一番小さな娘!』
「なんだよ! オイラ一番小っちゃいけど、これでもお姉さんだぞ!
 それに、もう十八歳になっちゃったもん!」
『この世界に時間など無い!
 ここに呼び込んだ時点で十七歳、さればおまえは永遠に十七歳なのじゃ!
 ワシは齢十七の娘に取り憑く、そして世界に災いの炎をもたらすのじゃ!
 そして、おまえ以外の娘に最早用は無い!』

10人が一斉に召喚した。

「……不要になればクズ同然ちゅうことかい、
 あんまり都合良過ぎなんとちゃうか?
 ウチの愛しの、大好きな、大切な矢口には指一本触れさせへんで!」
『小賢しいことを、ならば力尽くでその体を奪うまでよ!』
329  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:56
振袖が見る見る巨大化して行く。
既にデパート街での怪物の大きさをゆうに超えてしまった。
ビルにして何階分であろうか。
今度という今度は、光の国から僕らのためにやって来た巨人に、
是非戦いをお任せしたいものである。

連戦で一同の気力の消耗は激しい。
特に保田達五人のそれは、余裕など無い筈である。
悠長に戦っている訳には行かなかった。

巨大な振袖は、その両の手から業火を浴びせる。
その威力は怪物の火炎放射を遥かに凌駕するものであったが、
前衛に立った中澤と辻の召喚者は、横並びに少し距離を置いて出現すると、
その業火を無効にした。女魔とカボチャは間に距離を設けることで、
全員をカバー出来る放射状のファイヤーウォールを形成しているようである。

「大丈夫か辻? ウチらで炎を食い止めるんやで」
「へい!」

召喚者は距離を置いているが、中澤と辻はしっかりと手を繋いでいた。
ここまでに、女魔とカボチャの魔法は振袖には効かないことが確認されている。

「したらウチらが行くっしょ!」
「親方、了解っス!」

口調はふざけているが加護の目も真剣である……。
中澤と辻の両翼に位置した安倍と加護の召喚者から魔法が放たれた。

「なして? なして効かないのサ!」
「効かなかったら温存しててよ! 消耗は避けなくちゃ!」
330  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 04:58
加護の魔法も、安倍のどの魔法も振袖には通用しない。
ムキになりかけた安倍を矢口が制止した。
しかし矢口の頭上の狐は狐のまま、
戦いたくても今の相手では無理な状況である。

「どうしよう、何に弱いのかな!?
 とにかくアタシも攻撃してみるね」
「じゃぁ、チャーミーも一応……」

後藤の魔法も、石川の唯一の攻撃魔法である破魔も一向に効果は確認出来ない。

「後藤も石川も無理しないで、ウチらの回復を頼む!
 行くわよ『ディアァァァァァ!』」
「かおりだけじゃ無いわよ!」

甲冑と魔獣が振袖に襲い掛かった。
槍はいつもの数倍の大きさに、魔獣もいつもより大きな体格で打って出る。
上方では、人型に変型した鳥が攻撃力を増す呪文を唱えていた。

(ズザアァァァァ!!)

マタドールと闘う牛のように、振袖に動きをかわされた魔獣は、
そのまま振袖の、裾まで届く袖の一撃で払い飛ばされた。
槍をかわされた甲冑も、同様に魔獣と反対方向に弾き飛ばされた。

「イタタタタタタ……」
「保田さん!」

すかさず石川が回復を計る。飯田も後藤から癒しを受けた。
331  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:00
一見拮抗しているように思える戦いも、明らかに一同が劣勢であった。
攻撃魔法が効かない以上、頼みは直接攻撃となるが、
有効打が決まらないまま、甲冑と魔獣は払い飛ばされ続けている。
これだけでも刻々と気力の消耗は進行していることに加え、
回復係の石川と後藤の消耗も忘れてはならない。

防火壁の二人の気力も、特に辻の残りが心配だ。
ディフェンスの二人の気力が尽きれば、
全員が炎にさらされることになってしまう。

(ドサッ!)

膠着状態が続く中、巨大な振袖の口から何かが吐き出される。
召喚者の防火壁の上から降って来たそれは小さな蜘蛛であった。
小さいと言っても巨大な振袖と比べてのことである、
少なくとも普通の人間の顔程度の大きさはあった。

「わあぁぁぁぁ、虫!? 八本足!? 蜘蛛!?
 オイラやだ〜〜!!」
「矢口待ってろ! 今なんとかするべ!」

再び呼び出された象の衝撃波によって、蜘蛛は粉々に砕け散った。
この一匹を手始めとして、前面の炎とは別に振袖の口から次々と蜘蛛が
吐き出され始める。狙いは矢口に向けられているようであった。

「なんだよ! やめろよ! 気持ち悪いだろ!」
「なっち! 加護! 矢口を守ってや!」
「任せるべ! 矢口には触れさせねえべ!」
「親方、了解っス!」
332  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:02
象と雪だるまの魔法で、何とか蜘蛛の群れを凌いではいるが、
吐き出される数は減る気配を見せず、むしろ増えているようであった。

「あっ!?」
「まずった! 矢口!!」

弾幕のように放たれる衝撃波と氷柱をかいくぐった一匹の蜘蛛が、
矢口を目掛けて迫る。

「わあぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
「矢口ぃぃ!!」

思わず矢口の方へ向き直ってしまった中澤の目の前で、
矢口を襲った蜘蛛が両断された。
矢口の前にはいつの間にか目元の涼しい若武者が立っている。

「サンキュー! 助かった!」
「さっきまで狐でなかったかい……?」
「親方、上! 上〜〜!」

若武者を見て動きの止まってしまった安倍に、加護が慌てて攻撃を促す。
弾幕が弱まった隙に、矢口に取り付こうと押し寄せた蜘蛛の群れは、
全て若武者によって切り刻まれた。

「矢口……、可愛いだけや思てたら、メッチャ凛々しいやん……、
 わあぁぁぁぁ!!」

油断であったろうか、振袖に背中を向けてしまった中澤の頭上で、
集中の緩んだ女魔が振袖が放つ袖の直撃を受けて払い飛ばされた。
防火壁の半分が崩れてしまった。
333  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:04
「裕ちゃん!! 辻! カボチャを真ん中に立てて!」
「う〜〜」

飯田が苦戦を続けながら辻に指示を飛ばす。
辻も気力の限界が見え始めているのか、かなり辛そうであるが、
なんとか自分の召喚者の位置をセンターに移動した。

「後藤、炎が回り込んだら水流で相殺して!」
「分かった! でもそれって大変なんだよ!」

回復と消火の両立。いつものことながら事態は厳しくなって来た。

「圭ちゃんは化け物の注意を引き付けて!
 裕ちゃんはかおりが救援に向かう!」
「OっK(圭)!!」

保田も肩で息をしながら飯田に答えた。
飯田の指示は人……、召喚者使いが荒いものの、的確である。
甲冑は猫に弄ばれる鼠のように、打たれ続ける女魔を救うべく援護に向かった。

「中澤さん、しっかりして下さい!」
「あっ!? りかちゃんダメ!!」
「わあぁぁぁぁ! アカン、ウチのはアカンのやて!
 石川、日頃の仕返ししとるやろ!」

後藤が気付くより石川の癒しが一瞬早かった。中澤は思わず怒鳴ってしまったが、
すぐに真っ青になってその場にへたり込んでしまった。

「ゴメンナサィ……」
「いいよ、それより石川は圭ちゃんの方をしっかり頼む!」
334  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:06
消え入りそうな声で小さくなってしまった石川に、
飯田は檄を飛ばすと、魔獣に注意が行って比較的手薄になった反対側から、
甲冑を盾にして女魔をいざなう。

「裕ちゃん、今のうちにアイツの体力を」
「(ゼェゼェ……) せやな……、かおり恩に着るで……」

うまく振袖の足下に取り付くことに成功した女魔は、
その唇を巨大な振袖の足に押し充てた。
しかし、振袖には何の変化も現れない。驚いて振り解こうともせず、
中澤の体力も一向に回復されない。

「(ゼェゼェ……) かおり……、おかしいで……、
 この化け物、空っぽや……」
「空っぽ?」

飯田と吉澤の目が合った。その会話を瞬時に悟ったのか、
吉澤の鳥は素早く飛行形態に変型すると、宮殿の中を旋回し始めた。

「か、かおり……、タッチ!」
「了解、圭ちゃんお疲れ!」

余程しんどいのであろう、保田が飯田に交代を求めると、
飯田はアッサリとそれを受諾した。
そのハードさは、一日三ステージのライブという無謀さをさらに超えている。

辻は防火壁として、一人踏み止まっているが、
限界は間近と見た。顔を真っ赤にして相当苦しそうである。
矢口を襲い続ける蜘蛛に応戦する三人も、その形相は必死で、
気力の内情は辻と同様であろう。
335  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:08
中澤はこの有様、辻の分をカバーしていたことまで含めて考えると、
気力の残りも、やはりそう多くない筈である。
後藤は見るからにギリギリ、石川も気丈に振る舞ってはいるが、
時々ふらつく足下を見る限り、既にレッドゾーンに突入していた。

保田も飯田に交代を求めた程である、崖っぷちであった。
吉澤の消耗が一番少ないようにも思えるが、大きな戦闘時の切り札、
攻撃力UPの魔法を唱え過ぎてしまった……。
直接攻撃が実を結んでいなかった現状では、
それは気力の無駄な消耗となっていたことであろう。

かく言う飯田にも余力はほとんど残っていない。
最早誰の召喚者が消滅してもおかしくない状況に迄戦闘は進行していた。

「(ハァハァ……) どう、よっすぃ、何か分かった?」
「あの辺り……、ここから見て少し右よりの曲がったところ、
 あそこに何かが居るみたいな……」

保田も見上げたが、気味の悪い壁にはそれらしいモノを見付けられない。

「牽制してみましょうか?」
「そうだね」

鳥がここと思われる場所に、急降下でくちばしの一撃を見舞う。

「あっ!?」
「やっぱり!」

何かが動いた! 何かが壁に張り付いている。鳥は更に一撃を加えたが、
離脱する際にそのモノから発せられた網に絡め取られてしまった。
336  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:10
「吉澤ぁぁ!」
「うっ!! (ハァハァ……)」

吉澤が苦しそうにその場にうずくまる。
網に絡め取られた鳥は、その何者か……蜘蛛であった、
大きな蜘蛛に噛み付かれている。
襲われている吉澤の鳥に、保田は急いで魔獣を呼び出すと、
その高みへ向け、一気に飛翔させた。

「よっすぃ!!」

炎を無効にしていた辻の力が弱まって来ている。
それを水流でカバーする後藤は、飯田の体力もカバーしていた。
吉澤の体力までカバーするのは正直無茶な話であったが、
バラバラになりそうな頭の中を省みず、後藤は吉澤の癒しまでを敢行する。

蜘蛛に取り付いた魔獣は、その体に牙を食い込ませたが、
蜘蛛の牙も鳥を離れ、魔獣に食らい付き返す。
そのまま空中で格闘していた蜘蛛と魔獣は、
強烈な勢いで一同の目の前に落下した。

その地面への激突と同時に、あれだけの猛威を振るっていた巨大な振袖も、
口から吐き出され続けた蜘蛛の大群も一気に消滅してしまった。
ダメージを負った吉澤の鳥が、木の葉のようにヒラヒラと舞い降りて来る。

蜘蛛と魔獣の凄まじい格闘は、落下してからも続いていたが、
しばらくすると、魔獣の動きが鈍り始めた。
いよいよ限界らしい……。
337  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:12
「圭坊、あと少し頑張ってな……」

女魔がヨロヨロと近付きながら、取り付く隙を伺う。
組み合ったまま反転し、蜘蛛の腹が上を向いた刹那に女魔が取り付いた。
魔獣はその瞬間に消滅する。
既に召喚者を残しているのは、直接攻撃に秀でた矢口と飯田、
そして、今体力を奪っている最中の中澤だけであった。

女魔に突き立てられた蜘蛛の鋭い足先は、
その肌を切り裂き、蜘蛛が暴れる度に女魔から血しぶきが飛ぶ。
あまりの光景に見かねた若武者が、華麗な太刀裁きでその足を切断して行く。

やがて、蜘蛛の動きが鈍くなり始めた。
何かのスイッチ類のように並んだ目からは、徐々に光が失われている。

『見るな……、見るでない!
 そうよ……、振袖とは怨念よ……、
 慰み者にされた名も無き女郎の恨みの念、女郎蜘蛛の怨念よ、
 じゃからワシは鬼となった、
 鬼となりて忌まわしき世界に復讐してやったのじゃ……』

体力を回復した中澤から、女魔が消滅した。
矢口もホッとしたのか、女魔を追うように若武者が消滅する。
最後に残った甲冑が魔槍を蜘蛛に突き立てると、
蜘蛛の目から完全に光が失われ、
飯田がガックリと片膝を付くと、甲冑も消滅した。
338  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:14
「悲しい話やな……」
『……お、おまえ達とて、もう戻ることなど出来ぬわ……』

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォオォォォォ……)
「な、なんやねん!? まだ何かあるのかい!」

女郎蜘蛛が忌まわの際に言葉を残すと、
バリバリと肉を裂く音とともに、宮殿の壁が引き裂かれ消滅して行く。
再び表と繋がった空間は、くぐもる雷鳴と腹の底に響く地鳴りの干渉で、
体中に重い圧力と、五感に突き付けられるような緊張を一同に強いたが、
やがて赤黒色の天空が漆黒の闇に変化すると、雷鳴も地鳴も止み、
辺りは死を暗示させる静寂と、見渡す限り無に等しい闇の空間に変わった。

「もう戻れないって言ってたべ……」
「……みんな揃ってるか?」

目はすぐに慣れ、メンバーの姿を確認することが出来た。
幸いなことに全員揃っているが、自分達以外には一切の物体が存在しない。

「いいらさん……」
「ウチら、これから……」
「どうなるんだろ……、かおりにも分からないよ」

辻と加護にしがみつかれた飯田も、力無く言葉を返すことしか出来なかった。
この戦いが現実へ戻れる唯一の鍵であった筈だ。
絶望に等しい闇……、確かに自分達は勝利した、しかし、それは同時に、
自分自身の手でその道を閉ざしてしまったということらしい……。

「なんだか疲れちゃったね……」
「ごっちん?」
339  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:16
後藤は闇の地面に大の字に寝そべると、吉澤の手を握った。

「最初からこうなる運命だったのかな……」
「ごっちん、かんにんな……、
 校長室のこと恨んでるんやろ」
「……ね、ねぇ、ごっちん、変なこと言うのよそうよ」

中澤の言葉は弱気になっている。吉澤が慌ててフォローに入った。

「そんなこと無いよ、誰も恨んでなんかいない……、
 あのままここに居ることにしたって、結局同じだったのかなって……」
「そうだべ、裕ちゃんは何も悪くないべ、
 したっけ、ウチら本当にこのまま終わっちまうのかな……」
「終わるなんてダメですよ、みんなポジティブ! ポジティブ!」

空気は変わらない……。
石川の言葉は逆に一層空気を重くしてしまった。

「りかちゃんの言う通りだよ、オイラたちまだピンピンしてるじゃん」
「頭の中は真っ白だけどさ……」

健気な石川を見かねたのか、矢口が石川の言葉をフォローした。
とは云え、女郎蜘蛛との一戦で気力が底を尽いてしまった一同は、
満足に立ち上がることさえおぼつかない。
それに反して、今だ高ぶる気持ちは持続しており、
疲れと矛盾する負のフィードバックは、
落ち着いた休息も10人に与えてはくれない。
しかし、もし睡魔に襲われたならば、それは黄泉の国へいざなわれるようで、
その恐怖も誰もが肌で感じていた。
340  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:18
「な、なっち!?」

ガックリと頭を垂れる一同の重い空気の中で、
最初に気付いたのは飯田であった。

「なんだべかおり……、わっ!?」

安倍の体から何か靄のような塊が抜け出そうとしている。
エクトプラズム? 或いはそのままお迎えが来てしまったのであろうか。

「安倍さん、逝っちゃイヤや!」
「なっちは遅刻ばっかりなのに、なんでこんな時ばっかり早いのよ!」

泣き叫ぶ加護と、号泣で言葉にならない辻を抱き締めながら、
飯田も涙ながらに憎まれ口を叩いた。

「(フォッフォッフォッフォッフォ……)
 快眠快食じゃ、暴飲暴食とは違うぞよ……、
 よいか、これからも調味料の一気飲みなどと言って相手を脅すではないぞ」
「な、なっちの象さん……」

召喚の気力等、誰にも残されていない筈であった。
その召喚者は本人の意志とは無関係に出現した。

バランスの取れた魔法攻撃で堅実な力を発揮した『妖魔ガネーシャ』。
含み笑いをたたえながら、驚いて涙の出る間も無かった安倍を後にすると、
そのまま一同の頭上へ登って行き、その姿は静かに消えた。
341  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:20
「キャッ!」

石川からも何かが抜け出して来た。
パーティの貴重な回復係、
そして対アンデッドには抜群の働きを見せた『精霊ナイアド』。

「随分成長しましたね。あなたは強い娘です。
 これからもその優しさを忘れずに、前向きに進んで行くのですよ」
「……はい」

そう言い残すと、ナイアドはガネーシャの消えた場所まで進み、
やはり静かに消えた。

「今度はウチの番かい」

中澤から召喚者が抜け出す。
他の召喚者とは徹底的に異質であった『夜魔サキュバス』。
時に執念とも思えた悪魔の口づけは、結果的に戦闘に大いに貢献していた。
その容姿は相変わらず妖艶で、辻と加護は泣きながら凝視している。

「さようならアタシの分身、いろいろ楽しかったわ。
 その小瓶は貴方にプレゼントするわ、私のこと忘れないでね……」
「……おおきにな、この中身、ウチが今まで飲んだ中で最高の味やったで」

空になった黒い小瓶は、その後二度と満たされることは無かった。
サキュバスが先の召喚者と同じ場所で消えると漆黒の闇の中に、
そのポイントと周辺だけが少し明るくなった。
342  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:22
「お別れなんだ……」

心の準備が出来たのか、目に一杯の涙を溜めて堪えている矢口から、
召喚者が現れた。『幻獣源九郎』。
思い通りに化身してくれない狐の姿に何度も困惑させられたが、
化身後の華麗な若武者の太刀は勿論、
戦闘回避の狐の舞いは、実は大いに重宝されていた。

「お別れだよ…… (コ〜ン!)」

源九郎は小さく一鳴きすると、若武者に姿を変えた。
一瞬だけ矢口を振り返ると、そのままぼんやりとした灯りの中に消えた。

「アタシだ……」

大の字のままの後藤から召喚者が抜け出す。『妖精メロー』。
回復役はもとより、水辺や水に関する魔法では抜きん出た働きを見せた。

「もっと一緒に泳ぎたかったわね……、じゃぁね、元気でね……」
「うん……、メローもね」

案外涙もろい後藤は、真上にメローの姿を見つめながら泣いている。
メローが消えると、灯りの強さがまた少し増した。

「いかないでくらさい……」
「せや! 行ったらイヤや!」

涙が涸れる程泣いている辻と加護から召喚者が出現する。
シンプルではあるが、それ故に個々の魔法のポテンシャルは高かった、
『妖精ジャック・ランタン』&『妖精ジャック・フロスト』。
343  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:24
「こういう時は思い切り泣いていいんだよ」
「『泣くな』って言われたら、
 『オマエモナー』って言ってやればいいんだぜ……、
 それじゃな! 行くぞ弟ジャック・フロスト、進め俺達ジャック兄弟!」
「……義理の兄弟だけどね」

ランタンとフロストの可愛い姿が光の中へ消えて行く。
辻と加護は一層強く飯田にしがみついて泣いた。

「あの……、かの者っていうのは?」

出現を待っていたかのように、吉澤が質問をする。
最後までにどうしても聞いておきたかったのであろう。
鳥型と人型に自在に変型するその実体は女神であった『妖鳥モリーアン』。
対龍における抜群の相性と、攻撃威力を高める間接魔法の呪文は、
今や欠くことの出来ない存在となっていた。

「かの者か……、(フッ……) それはな……」

モリーアンは飯田に目線を向けると、その間には激しい火花が散った。
そのまま言葉少なに大鴉の姿になったモリーアンは、
フワリと舞い上がると、光の中へ姿を消した。

「アタシの顔で出て来るのはやめなさいよね……」

腕組みをして待っている保田に召喚者が現れる。
パーティの主力として終始活躍した『魔獣マンティコア』。
間接系の魔法攻撃に陥りやすいという弱点も今となっては懐かしい。
344  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:26
「俺のこともさんざんコキ使ってくれたけどな、まぁ勘弁してやるよ、
 ……チビ助達の面倒、よく見てやるんだぞ」

最後まで保田本人の顔は現れなかった。
マンティコアが飛び込むように消えると、灯りは輝きに近いモノへと変わった。

「……本当にお別れなの? もう二度と会えないの?」

飯田が辻、加護を上回る程に泣いている。
泣き濡れる瞳の中、震える腕を伸ばすと現れた召喚者はその手を軽く握った。
強力な攻撃力は確実にパーティの戦闘を支えていた『妖精クー・フーリン』。

「私達は、貴方達の世界では同義に存在することは出来無い……、
 私が光に消えた時、この世界と貴方達の世界が再び結ばれる。
 しかし、それはつかの間のこと……。
 その瞬間に皆の心を一つに合わせる……、さぁ、準備はよろしいか?」

クー・フーリンは鉄仮面を外すと、飯田の掌に軽く唇を重ね、
一呼吸置くと、身をひるがえして輝きの中へ消えた。

間もなく一同の頭上に見覚えのある光景が映し出された。
懐かしい喧噪と混沌の現実の世界。
しかし、映し出されたビジョンは微妙に揺らいでいる。
この接点がつかの間の邂逅であるのなら、グズグズしてはいられない。

「みんな! 手を繋ぐべ!」

安倍の言葉に、10人は互いに近い手を取り合い大きな輪を形作った。
輝きが全員を包んで行く。
闇の中に浮かび上がる光球に包み込まれた10人の意識の中には、
様々な思い出がフラッシュバックして行く……。
345  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:28
寺で合宿をしたあの日……。
……オーディションに敗れたあの日。
再び召集されたあの日……。

……デビューの念願が叶ったあの日。
新たなメンバーが加わったあの日……。
……苦楽を共にした仲間が去ったあの日。

数々の試練に打ち勝ったあの日……。
……その姿をブラウン管越しに見ていたあの日。
そして、これから訪れるであろうその日……。

何一つ存在しない闇の中に、一条の閃光が走った……。
346  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:30
ベスト盤の売上げが、遂に200万枚の大台を突破した。

「安倍さん、飯田さんお願いしまーす」
「行こっか」
「そうすべ」

ADの呼ぶ声がする。安倍は食べ過ぎてはいない。
……二人は楽屋を後にした。

「オイラ腹減ったよ、ここの弁当はどんなんだろうね」
「てへへへへ」
「お弁当っ、お弁当っ♪」

シングル初登場1位を記録したミニモニ。が休憩に入る。
ミカも一緒だ。安倍達と入れ代わりに矢口達が楽屋へハケて行く。

「ごっちん、急がなきゃ」
「慌てること無いって」

自身のソロ収録が迫っているトイレの中、
言葉の端々に緊張をにじませながら、精一杯の強がりであろうか、
後藤の口調はかろうじて余裕を見せた。
その様子を見た吉澤は小さく笑った。

「だからね、石川はここで……」
「ハイ!」

保田と息を合わせる石川は、カントリー娘。としての収録も控えている。
347  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:32
ふと目を上げるとそこには平家の姿があった。
当たり前だ、ここは自分達の世界ではないか。
中澤はつい口元が緩んだ。

「裕ちゃん、なにがおかしいねん?」
「えっ? ……うぅん、なんでもあらへんよ」
「ところでな、さっきから気になってんけど、
 その衣装と関係無い切れ端は何?」

どこから紛れ込んだのであろうか、
中澤のポケットから振袖の切れ端がのぞいている。

「あっ、これか……、これみっちゃんにやるわ」

渡された端切れは、平家の掌で砂時計の砂のようにサラサラと崩れ落ちた。
怪訝な表情の平家を後にして、中澤はその場を離れて行く。

「どこ行くねん? 本番まですぐやで」
「ウチあがり性やん、挨拶の前に気合入れ直してくるわ……」

既に様々な場面で口にした言葉……、
今日の収録でも画面の上から卒業についての挨拶が行われる。

その背中をジッと見つめる平家に中澤が振り返った。
その顔は笑っている……。
それは、穏やかな優しい笑顔であった……。

                                  < Be over >
348  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:34
< Continued from Op >

飯田「(ハァ……)」
中澤「かおり凹んどるなぁ、何か悪いモンでも食べた?」
平家「アホかぃ!
   アンタにはデリカシーってモンも無いんかい!」
中澤「しゃーないな、
   ここは景気付けに『平家みちよゲーム』でもしよ、罰ゲームは青汁」
石川「『平家みちよゲーム』?」
中澤「『平家! みちよ! なんでやねん!!』で誰かを指差す」
平家「一年前の『へそ』のゲームやん」
後藤「アハハハハ、アタシもやるぅ」
中澤「じゃ、ごっちんからな」
後藤「せんだ!」
一同『(ワッハッハッハッハッハ……)』
飯田「懐かしいね、一年前と同じ展開だね…… (ウルウル……)」
中澤「(ウルウル……) かおり泣くなや、
   こっちまで寂しくなるやんか……、
   ウチかてまだまだみんなと一緒やで……
   (グスッ……) ほな罰ゲームはみっちゃん! ハイ、青汁飲んで」
平家「いきなり、なんでやねん!!」
349  920ch@居酒屋  2001/03/26(Mon) 05:36
中澤「>>320さん、最後までお付き合いいただいたみなさん、
   ホンマおおきに、ありがとうございます。
   いろいろありましたが、ここに一応の完結を見ることが出来ました」
平家「現実の方もいろいろと小説を超えた展開やったけどね」
中澤「平成13年4月15日……、
   中澤裕子は栄光のモーニング娘。を卒業いたしますが……、
   ……我がモーニング娘。は永久に不滅です! (ウルウル……)」
平家「(ウルウル……) なんで長嶋監督やねん……、
   この連載はあと一回書くんやろ」
中澤「……せやった。リザーブの札を切った関係で、
   本編以外にオマケであと一回、『あとがき:2001,4/15未明』予定。
   結局分けましたさかい、コソっとsageで書かせてもらおか思てます」
平家「わざわざ『4/15』かい……」
中澤「この物語に対するささやかなアニバーサリーとしてな、
   4/15の日付で無理矢理一回分の追加やねん。
   せやけど>参拾弐さん、本編の方はホンマに終了です、
   こっちは気にせんと、いつでもUPしたって下さい。
   楽しみやなぁ……(ワクワク)」
平家「プレッシャーかけてたらアカンやろ!」
350  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/26(Mon) 05:51
一気に読みました。ネタバレになるんで感想を言えないのが辛い所ですね(笑)
三ヶ月間、本当に楽しませてもらいました。
本編の更新だけでなく、感想のひとつひとつに丁寧な返事をつけて下さった
居酒屋さんの誠実な姿は感謝。
あと一本あるんですね。コソッと楽しみにしています。
351  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/26(Mon) 05:59
全く元ネタを知らないというか実はこの手の話が苦手なんですが、
完璧にやられました。
ありがとうはあとがきまでとっておきますね。
352  351  2001/03/26(Mon) 06:11
元ネタというとなんか語弊があるや。下敷きとなってる世界観のことです。
たびたびすみません。心地よい読後感に包まれてボーッとして打ってました。

353  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/03/28(Wed) 20:34
普段小説は読まん人間なんですが、惹きつけられました
いやはや感動ッス
あとがきも楽しみにしてます
354  参拾弐   2001/04/05(Thu) 01:00
お疲れ様でした。。。
sageで言うのもナニですが、近日中にアプするデス。
題名は。。。「漂う者達(仮)」。。。
355  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/04/06(Fri) 01:50
( `.∀´)<ちょっとしばらく見ないうちに終わっちゃてるじゃないの!
        きー!、いしかわ〜、あんた責任とんなさいよね!!
从~∀~从<作者さん、ほんまおおきに。最期に女郎蜘蛛役でうちの平家を
  だしてくれて。
(  ` ◇´)<ほんま、お疲れさま。うちも女郎蜘蛛の様にしぶとく
生き残っていきますう、ってもう突っ込む気にもならんへんなあ。
\(^▽^)/ <ちゃーみーもポジティブに頑張ります!

从~∀~从<作者さん、ほんまよかったでー。気が向いたらまた書いてや〜。
356  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/04/15(Sun) 08:40
いよいよ今日ですね。
最高のエピローグ、待ってます。
357  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:18
< A postscript >

平家「裕ちゃん……、長い間お疲れさん」
中澤「みっちゃん、おおきに。
   せやけどな、既に『ANNSS』始まっとるねん」
平家「滑り出し上々やん」
中澤「おかげさんでな、
   みっちゃんは滑りまくりやねんけどな」
平家「ホンマやで、もうラ〜リラリのフ〜ラフラ……、
   ……ってなんでやねん!」
中澤「(ワッハッハッハッハ……)
   未明の予定がズレてもうたね。……もう夜?
   ほな、トークの棚卸しと召喚者とか諸々の話、
   4/15中に上げるで。
   (ワッハッハッハッハ……)」
平家「『ハッハッハ……』やあれへんて……」
358  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:20
中澤「まず、ネタに持ち込むの躊躇してた同僚の件な、
   アレはズバリ『眼』やねん」
平家「が、が、が、が……、『岩』!?」
中澤「去年、会社で健康診断があってな、その結果が年末に出たら、
   ……ズバリ『大腸雁』」
平家「アチャー……、予定が狂った云うのは……」
中澤「せやねん、急増してるんやて『大腸丸』。幸い早期発見やさかい、
   本人は無事やねんけど、結局連載期間中は職場復帰は無理でな、
   その分の仕事が一挙に作者に来た訳やね」
平家「只事とちゃうやん」
中澤「ホンマやで、取り敢えず社長に呼ばれて『含』て聞いた時は、
   やっぱり人間絶句するで、言葉なんか出えへんかったもんな」
平家「裕ちゃんもアルコールには気い付けや、
   『肝臓願』なんて言うたら洒落にならんで」
中澤「みっちゃんもハロプロの『岸』言われんように気い付けんとな」
平家「ホンマやわ……、
   みんなの足引っ張らんよう気い付けな……、
   ……ってなんでやねん!! 裕ちゃんヒド過ぎやわ!!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハ……)
   ダンスのことやて、ダ・ン・ス。……お互い体には気い付けような」
359  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:22
中澤「続けるで、ウチが週一回の連載にこだわった理由、
   これは『中澤裕子卒業宣言』事件の時に
   思わず雑談の方に書いてもうたけどな」
平家「あぁ、あの雑談の場で異様に浮いた長文」
中澤「かいつまんで言えば、現在の10人とオマケのみっちゃんが、
   活動してたこの時期を作品として焼き付けておきたかったと……」
平家「せやね、いつメンバーに変動があってもおかしくない状況やったし……、
   ……って、誰が『オマケ』やねん!」
中澤「最大要因はこれやねんけど、副次的にはまだ他にもあるねん」
平家「何?」
中澤「物語の風呂敷き広げた以上、キチンとたたまなアカンやん、
   せやけどな、間延びするとどんどんモチベーションが下がるねん、
   その好例が、『ロックヴォーカリストオーディション』で、
   グランプリを獲得しながら、今ではタクシー流したり運動会出たり……」
平家「ホンマやね、新曲は延期の上でようやっと発売やし……、
   ……って誰のことやねん!」
中澤「期限切らんと動かれへんのは作者の気性やけどな、
   言うたからには三月完結! ……絶対守りたかってん」
平家「結果的に裕ちゃんの代の『モーニング娘。』の
   ノベライズには間に合うたんやね」
中澤「ホンマに中澤裕子が抜けるとは思われへんかったけどな……」
360  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:24
中澤「あとな……」
平家「まだあるんかい!」
中澤「単純に作者の現在のライフスタイルで、週一回の連載を始めたら、
   どないなるやろか試してみたくてな」
平家「ほんでどないやったの?」
中澤「『試してガッテン』!」
平家「なんやねん? 立川志の輔さんかい!」
中澤「『ガッテン! ガッテン!』」
平家「もうええわ! おちょくっとるのかい!」
中澤「ハプニングとして同僚の件もあったけどな、
   やっぱり地道な作業やん、結構いっぱいいっぱいやったね。
   >>参拾弐さん、ホンマにプレッシャーかけてたら気にせんといて下さい、
   全部平家みちよの世迷言ですねん」
平家「アンタのせいやろ!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハ……)
   みっちゃんハッピーバースデー!
   二十九歳やて? 三十路目前、女盛りやね」
平家「今更なんやねん!
   ……って、裕ちゃんより年上になってるやんか!」
中澤「遠目に見たら、絶対みっちゃんのが年上やって、
   十歳位離れてても問題あらへんで」
平家「なんでやねん! アホなこと言わんとき!」
中澤「……って、あっちゃんが言うてました」
平家「人のせいにするなあぁぁ!」
361  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:26
中澤「次はネタ関係な。
   >>351さん、ウチも『元ネタ』ちゅう認識でええと思います。
   ……割と気兼ね無くいろんなネタ使てる分、
   みっちゃん、ウチらも軽くネタを割っとこうな」
平家「『気兼ね無く』言うより、
   『節操無く』言う気がするけどな……」
中澤「トーク中で言明したRPG、この物語の根幹の設定な、
   これは『女神転生』の一連のシリーズやねん」
平家「カルトRPGやね」
中澤「『メガテン』言うたかて、所ジョージさんの番組とちゃうで、
   ウチにとってのRPGは、『DQ』でも『FF』でもなくこれやねん」
平家「せやけど、このシリーズはいろいろ出とるやん」
中澤「具体的には、全体の世界観は『デビルサマナー』、
   召喚者部分が『ペルソナ』、
   ほんで作品のスピリッツが『真・女神転生』、
   ……言うても作者がプレーしたシリーズ最新作自体、
   『ペルソナ』止まりやねんけどな」
平家「なんで? 遊んだったらええやん」
中澤「辛いとこやねん……、以降の作品も買うてはある、
   ……買うたきり封は切られてへんけどな」
平家「……大人の事情かい」
362  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:28
平家「大体、『モー娘。』で『女神転生』なんちゅう物好きは、
   圧倒的に少数派とちゃう?」
中澤「ホンマやね、昔2chで『邪教の館へようこそ』とかあったやん、
   あの時期の2chにあってレス伸びんかったもんな。
   (ワッハッハッハッハッハ……)
   せやけど、まだまだこれだけとちゃうで、さらに絞り込まれるねん。
   この物語のタイトルな、これは『キング・クリムゾン』」
平家「……クリムゾン?」
中澤「クリムゾン言うのは所謂プログレッシブ・ロックの代名詞のバンドでな、
   『風に語りて』は、20世紀の超名盤『クリムゾン・キングの宮殿』
   中の一曲やねん。他にもこの中のタイトルから膨らませた、
   イメージなり、エピソードなりが作品中に散りばめてあるさかい、
   その辺りも念頭に読んでみると、また少し違うかもね」
平家「ますます狭く深くなって行くやん……」
中澤「せやねん、これをその筋の人向けに濃ゆくするか、
   設定に留めるかは作者の選択肢やん。で、結局後者に決定したけどな」
平家「せやけど、やっぱりその筋の人向けになってへん?」
中澤「そこは素人モノ書きの悲しさやね、表現が追い付かれへんとことかあるし、
   結構イージーに書いてるとことかもあるけどな、せやからこそ、
   >>351さん、>>353さんにあぁ言うてもらえると、素直に嬉しいねん」
平家「ホンマありがとうございます」
中澤「ほんで、メイン・キャストの『モーニング娘。』に、
   オマケの『平家みちよ』、
   その他のネタ諸々は、気兼ねも節操も無くいろいろ使わせてもろて、
   凡庸やねんけど、ストーリーは作者のオリジナルちゅうことで、
   組み上がったのがこの物語やねん」
平家「はぁ、なるほどなぁ……、って『オマケ』言うなぁぁ!!」
363  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:30
中澤「ほな、召喚者とデーモンに行こか」
平家「実際、書いてて一番楽しかった部分やしね」
中澤「『ブラウン』と『ジェンキン』、
   これは『H・P・ラヴクラフト』やねん」
平家「稀代の『暗黒怪奇作家』やん」
中澤「ウチが『ラヴクラフト』の中で割と好きな作品に、
   『魔女の家の夢』ってあるねん。
   そこに出て来る使い魔の名前が、『ブラウン・ジェンキン』」
平家「せやけど、劇中のは全然ちゃうやん」
中澤「ウチらと別れるシーンあるやろ、あの合体した姿が原作の描写。
   本編ではそのままでは使われへんから加工してるねん。
   『ブラウン』と『ジェンキン』に分離させた二体は、
   『物質』と『精神』、つまりは『肉体』と『魂』
   としての意味合いを具現化させた結果やねん」
平家「理屈っぽいな」
中澤「ホンマやね、時々自分でも『どうでもええやん』て思うわ」
364  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:32
中澤「次に『女郎蜘蛛』な、これはいかにもな要素の組合せやねん」
平家「具体的に言うてや」
中澤「『振袖火事』、これ史実な、掛け合わせて巨大な『蜘蛛』、
   これだけでもラスボスのキャラクターやん」
平家「確かにらしい気はするね」
中澤「せやけど、そこにはさらに深い意味を潜ませてるねん」
平家「何?」
中澤「劇中『慰み者にされた名も無き女郎の恨みの念』の一節、
   これは巨大に成り過ぎた今の『モーニング娘。』に対するアナロジー、
   『蜘蛛』ちゅうのは『蜘蛛の巣』、
   つまり『www(ワールド・ワイド・ウェブ)』。
   『髪の毛一本の隔たりも無い、並行する『現実』』の一節は、
   今アクセスしてるこの世界のメタファーやねん」
平家「裕ちゃん大丈夫か? 『知恵熱』とか出てへん?」
中澤「なんでやねん、みっちゃんとちゃうわ。
   で、『女郎蜘蛛』を抑える為の封印。
   作者はこれをコードネーム『カッパーマイン』と呼んでたけどな」
平家「なんでPCやねん。そのまま『封印神』とかでええやん」
中澤「これは、民間信仰のイメージの寄せ集めやねん。
   ウチらのパーティの相手は全て『水絡み』、
   矢口達のパーティは全て『水以外』、その意味合いの違いは、
   戦闘時の相手の態度の違いで表したつもりやねん。民間に散った陰陽師の、
   自助による封印ちゅう設定でな、宮廷陰陽師とちゃう分、
   より市井(しせい)に身近な『職能神』に封印を託しとるねん」
平家「せやから封印が解けると生活に即したアイテムが出現したんやね」
中澤「やや例外なんも一つだけあるねんけど、それは後述な。
   いろいろややこしい要素もあるんで、民間信仰云々はここ迄」
365  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:34
平家「……裕ちゃん、
   普段何も考えてへんようでも、ホンマはちゃうねんな」
中澤「当ったり前やがな、あと少しで10万28歳やで。
   みっちゃんも、飲み過ぎて記憶飛ばしまくってる場合とちゃうで」
平家「ホンマやわ、トイレに急行した後の記憶が真っ白……、
   ……って、アンタやろ!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハ……)
   ほんで、その他エキストラで出て来るデーモンのみなさんは割愛」
平家「なんでやねん、書いたったらええやん」
中澤「勿論、是非出したかったデーモンも居るけどな、
   反対に『やっつけ』で出してもうたデーモンも居ってな……、
   思い出すと嫌な汗が出るさかい、忘却の彼方に封印してもうた」
平家「なんでやねん?
   裕ちゃんから改めて『封印』なんて出る方がよっぽど嫌な汗やで。
   ほな一体だけでもええわ、どれやねん?」
中澤「ヒントは『平○み○よ』」
平家「あぁ! 『○家○ち○』!
   ……って失礼なこと言うなあぁぁ!!」
366  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:36
中澤「さて、いよいよウチらの召喚者の話な。まずはなっち」
平家「『ガネーシャ』って、ご当地ではえらい人気者なんやろ?」
中澤「外見の描写は一般的に流布されてる通りやね。
   なっちに割り振ったのは、啓示的に浮かんで来てな」
安倍「なっちはインド料理が好きだべ」
中澤「せやねん、それ気付いたのも後からやねん。
   ……なっち言うたら食わな始まらんやん、
   食と結び付いたエピソードも自然発生やね」
平家「せやけどその辺の描写、失礼極まり無いんとちゃう?」
安倍「そうだべ、なっちも土は食えないっしょ」
中澤「なっちを『コメディ・リリーフ』とした場合、
   これが思惑以上に書き易くてな、書いててメチャメチャおもろいねん。
   『暴食なっち』は完全に作者が面白がってる結果やね」
安倍「あんまりだべ……(モグモグ)」
平家「食べながら言うてたら説得力無いやん……」
中澤「勿論やり過ぎはアカンし、途中で抑えたけどな、
   作者の中でのなっちは、まさに『食いしん坊』やねん、
   『フードファイター』ちゃうで、『食いしん坊』。
   それも元気な頃の『友竹正則』さん」
平家「……『くいしん坊! 万才』やん、今時『友竹正則』さんは無いやろ」
中澤「なっちの出番は、結構おいしい思うねんけどな」
安倍「んだべ、なっちは美食家だべ」
平家「アンタはそればっかやん!」
367  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:38
中澤「次は石川。これはイメージより筋書きが先行しててな、
   第四回の冒頭を書くにあたって、無理矢理決定してるねん」
平家「なっちとはえらい違いやん」
中澤「それはな、ウチが好きなんは石川を除く全員やから……」
石川「そんなこと言わないで下さい…… (ウルウル……)」
平家「ホンマにな、りかちゃんいじめるのはやめとき」
中澤「……冗談やて、ウチの愛する『モーニング娘。』やで、
   石川とウチは『寛一・お宮』の世界やねん」
石川「そうですよね、ポジティブ、ポジティブ!
   (あっ! また言っちゃった……)」
平家「アンタも単純やな……」
中澤「石川ならなっちの対極やん。華奢ではかなく、
   ウチらの中で唯一の『乙女』。そこで『精霊』を割り振って、
   回復係にして、筋書き上『破魔』も持たせたちゅう訳や」
平家「『ナイアド』にしたのは?」
中澤「この物語の設定の段階で、
   全員の生年月日から各自のエレメントを割り出してな、
   石川は『土』やさかい、最初は山の精霊『オレアド』やってんけど、
   回復係やし、いつの間にか泉の精霊『ナイアド』になってたわ……」
平家「『なってたわ……』ってアンタが書いたんやろ」
中澤「それはな、ウチが好きなんは……」
石川「そんなこと言わないで……」
平家「いつまでやっとるねん!」
368  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:40
中澤「次はウチ。中澤裕子を書くなら『酒』か『歳』やん。
   『酒』絡み言うたら『バッカス』?
   『ウワバミ』? 『ショウジョウ』? ……いまいちやねん」
平家「どれも書きにくそうやね」
中澤「『歳』ちゅう要素は、劇中でも書いてるけど、
   ウチのレゾンデートルやん。せやったら『酒』はエピソードに回して、
   召喚者は異質の極北を行ったろ考えてな、
   みんなが『ライト・デーモン』か『ニュートラル・デーモン』の中、
   ウチだけ『ダーク・デーモン』で『サキュバス』やねん」
平家「いつやったか、『居酒屋』のネタでも書いてるんやな」
中澤「やっぱり作者の嗜好なんやろか、
   ウチのイコンは=『大人』ちゅうことやん」
平家「対極は加護ちゃんと辻ちゃんやね」
中澤「今考えると、物語のバランス上、
   必要不可欠やったと思えてな、今後の『モーニング娘。』
   に対する不安もここにリンクするねん」
平家「今更あれこれ言うても、せんないことやん……」
中澤「せやね……。
   ……『サキュバス』は召喚者の中では『マンティコア』と並んで、
   メッチャ書き易くてな、決定は正解やったね」
平家「裕ちゃんエッチやもんな」
中澤「せやで、ウチは『紫色』大好きやで! 文句あるかい!」
平家「開き直りかい!」
369  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:42
中澤「ほんで、矢口。これは第六回書く直前まで未定でな、
   正味な話、冷や汗モンやったわ」
平家「矢口が最初に決まった思てたら、ちゃうんや」
中澤「矢口を一言で表現すれば、勘の良さ、機転が利く、
   可愛い、大好き、抱き締めたい……(チュッ! チュッ!)」
矢口「なんだよ! みっちゃん呆れてるだろ! (真っ赤)」
中澤「(……ハッ!)
   ……そこんとこを念頭に、いろいろ紐解いてたらな、
   偶然やねん……、偶然は表裏で必然ともいうけどな、
   お稲荷様の『源九郎』」
平家「言われてみれば、妙にはまってるね」
中澤「せやろ。『源九郎』……、『源九郎義経』やね。
   『化身』は、『狐』のままやと戦闘時に役不足なんで、
   当初は無理矢理の設定やってんけど、
   結果的には『トリック・スター』としての矢口を、
   上手く演出出来たと思うねん(チュッ! チュッ!)」
矢口「なんだよ! みっちゃん白けてるだろ! (真っ赤)」
平家「……せやけど源氏言うたら、鎌倉やん。
   矢口が神奈川県出身や考えたら、
   なんや因縁めいてる気もするね」
中澤「特にみっちゃんはな、……中世の記憶がよみがえったやろ」
平家「夜な夜な琵琶の語りを求めて彷徨い歩く……、
   ……って、『耳なし芳一』かい!」
370  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:44
中澤「次、ごっちん。……ごっちんは悩んだね」
平家「悩む?」
中澤「天性のキャラクターちゅうか、加入から今に至る勢いちゅうか、
   パブリック・イメージがメッチャ強いねん。
   強い召喚者割り振ったら、他とバランスが取れなくなりそうでな」
平家「ソロも『オリコン』でアッサリ一位やしね……」
後藤「最近ね、加護がキスして来るんだよ。
   口唇に『チュッ!』って……」
平家「『裕ちゃんism』は加護ちゃんに継承されてたんかい」
中澤「まだまだ脇が甘いねん。
   こう絞り込むようにして『チュ〜!』」
平家「話が逸れとる、逸れとる!」
中澤「……なんやったっけ? あっ! ごっちんの召喚者な。
   結局、諸に戦闘的な召喚者は敢えて避けて、
   代わりに回復係にしたんやけど、石川と比べると一目瞭然、
   やっぱり強力なパワーで、回復係って感じは薄かったね」
後藤「でもね、辻も腕相撲強いんだよ……」
平家「ごっちんな、何の話か聞こえてる?」
後藤「Zzzzzzz……」
平家「寝言かい!」
中澤「『人魚』のイメージは、短絡的にPUFFYさんの番組でのトークからな。
   『マーメイド』と『メロー』は本質的には同じやねんけど、
   『マーメイド』やとありがち過ぎやねんで、
   天邪鬼に『メロー』」
371  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:46
中澤「え〜と、辻と加護。
   実はこの二人が、物語に召喚者を描かせたそもそもの発端やねん」
平家「『カボチャ』と『雪だるま』……、
   これってプリクラのマスコット?」
 辻「てへへへへ、『ヒーホー君』れす」
中澤「辻はプリクラ大好きやん。
   ウチな、何気なく辻が呼び出すのは『ジャック・ランタン』と
   『ジャック・フロスト』ならどっちやろ考えてな、
   辻なら加護は? 加護なら他のメンバーは?
   これがそのままこの話の縦糸として起動した訳やねん」
平家「辻ちゃんが『カボチャ』で、加護ちゃんが『雪だるま』なんは?」
中澤「結局、どっちゃでも構へんかったんやけどな、
   一応、生年月日から辻が『火』のエレメントやさかい『ランタン』、
   加護は『風』のエレメントやねんけど『フロスト』。
   誕生日も辻の方が早いから、
   『ジャック兄弟』の順番もこれでええかな……と」
加護「『雪だるま』って、安倍さんや思いました(クスクス……)」
平家「(プッ!) ええか加護ちゃん、なっちには内緒やで」
中澤「ホンマはエレメントごとに厳密にとも思たんやけど、
   ウチらって、あすか、彩っぺ、さやか含めて『水』の属性が
   居れへんねん、せやからあんまりこだわらんようにしてな、
   ……ごっちんが『人魚』なのもそないな訳やねん」
372  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:48
中澤「次、吉澤。『鳥』ちゅうのは早くから決めてたねん」
平家「『鳥』言うたかて、ようさん居るで」
中澤「せやねん、卵好きから繋げたのと、後述の圭坊が『陸』で、
   ごっちんは『海』やん、ほな吉澤は絶対『空』にしたかってん。
   冒頭の順番が来るまで回数があったんでな、
   しばらく『鳥』のままで書いてたら、アッという間に順番が来たね」
吉澤「かっけーー! ごなつよ……」
平家「わっ! いきなりなんやねん(ドキドキ……)」
中澤「吉澤って、ノリもええしおもろい娘(こ)やん、
   せやけど、佇まいなんかは今もってニュートラルなイメージが、
   世間的にもあると思うねん」
平家「キャラが確立されて無いとかな」
中澤「それはな、むしろ確立されないこと自体がキャラやねん。
   書いてて思たのは、劇中のウチらのパーティって曲者揃いやったやん、
   その中で吉澤のキャラクターは中庸の極でな、
   吉澤の存在に救われたとことか結構あってん、
   作者的には第九回辺りが一番好っきやねんな」
吉澤「ボヨヨン! Hi! トマトマトマトマトマトマト……」
平家「わっ! さっきからなんやねん」
吉澤「Zzzzzzz……」
平家「こっちでも寝言かい!」
中澤「構へんやん、月〜金で『プチモビクス』やで、寝かしといてやりや」
平家「毎朝大変やしな……、
   ……って、毎朝収録の訳無いやろ!」
373  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:50
中澤「土壇場で『モリーアン』に決定したけどな、
   『バトロイド』ばりの変型は完全に後付けやねん。
   これは石川が『鳥』苦手やん、合流後の展開に配慮して、
   先手を打ったのが一つと、後述のかおりの召喚者に神話上で
   言い寄ったんがこの『モリーアン』やねん。
   せやから鳥型のままでは、何かと不都合やってん」
平家「どっちか言うたら、ぎこちない感じはしたもんね」
中澤「その辺は、素の吉澤とシンクロする気がするねん。
   『モリーアン』の気性は『乱暴女』ちゅう吉澤のあだ名からな、
   『かの者』について、かおりと目と目で火花を散らすのは、
   上記の通りやねん。……ほんで圭坊。
   圭坊は初め『ネコマタ』とか『センリ』とかのラインやってん」
平家「『ネコまね』とかしてたしな」
中澤「せやけど、いまいちピンと来いへんねん。
   これは悪口や無いで、作者から見た圭坊は素朴に『獅子舞』やねん。
   『狛犬』でもええねんけど、ダイナミックに動く分『獅子舞』。
   せやから『獅子』繋がりでライオンの顔が浮かんで、これや思たね」
平家「最低限で『ネコ科』やん」
中澤「その線で決めたのが『マンティコア』やねんけど、
   これはどっちか言うたら敵役でな、『FF』辺りは完璧にそうやしね。
   せやけど、ここがウチから『裏モーニング娘。』を継承する圭坊の
   真骨頂やと思うねん」
保田「なんか馬鹿にされてる気がするんですけど……」
中澤「そんなんちゃうって、『マンティコア』は、
   振り返ると召喚者中、一番いろんな要素が詰め込まれてるねんで」
374  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:52
平家「例えば?」
中澤「圭坊がピンチの時あったやん、あれは年始の風邪の劇化な。
   あとな、第十一〜十二回の『怪物』な、これ『タルカス』言うてな、
   説明は割愛するねんけど、『EL&P』ちゅう『キング・クリムゾン』から
   派生したプログレ・バンドの2ndアルバムのタイトル曲やねん」
平家「『タルカス』?」
中澤「『逆進化二破壊』ちゅう想像上の『怪物』でな、この組曲は、
   『タルカス』の誕生から敗北までを描いてるねんけど、
   最後にこれを倒すのが他ならぬ『マンティコア』やねん。
   圭坊を『マンティコア』に決めたと同時に、
   『タルカス』も決定してな、これが『カッパーマイン』の唯一の例外」
平家「……『封印神』のことな」
保田「でもね、アタシの顔で出て来るでしょ。アレは失礼だよね」
中澤「初めはなっちと同じで作者が面白がって書いてたんやけど、途中から、
   なっちのが自重に向かうのに対して、圭坊のは使命感に変わってな、
   機会がある度に、力一杯書いてたわ。
   『マンティコア』はウチのお気に入りやで」
平家「圭ちゃんこれでええか?」
保田「う、……うん。裕ちゃんのお気に入りならそれでいいよ」
中澤「思えばな、矢口と圭坊とさやかをウチが締めたことあったやん。
   その二人が今や『モーニング娘。』の表の顔と裏の顔を担う……、
   あっ、勿論なっちもかおりも居るで…………。
   ……『この道を行けば どうなるものか
      危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
      踏み出せば その一足が道となり その一足が道となる
      迷わず行けよ 行けばわかるさ』」
平家「『闘魂伝承』やん……」
中澤「突っ込まれへんかったやん?」
平家「なんで突っ込むねん……」
中澤「……みっちゃん、おおきにな」
375  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:54
中澤「次はかおり。デカさとメカニカル感で、すぐに浮かんだのが
   『鎧の騎士』。そこから『女神転生』世界屈指の人気者、
   『クー・フーリン』に、迷わず決定!」
飯田「うんうん、確かにかおりにピッタリだと思うの(ウルウル……)」
平家「なんでここでまた涙ぐむねん」
中澤「決めたら、冒頭のシーンもすぐに浮かんでな、
   かおりと召喚者のくだりは、これ書く当初から出来とってん。
   せやけど、『クー・フーリン』は劇中でも『鍵』のキャラやん、
   結局、出待ちのまま最後の登場になったね」
平家「ズーッと思てたんやけど、なんで表記が『甲冑』なん?」
飯田「そうだよ、あんなに格好いいのに!」
中澤「格好良過ぎやねん、仮に『騎士』とかってするとな、
   他とのバランスが悪くなるやん、
   せやから、敢えて野暮ったく『甲冑』……、
   ちなみに矢口の場合は敢えて格好良く『若武者』な」
平家「……確かになっちが『象』やったら、
   『甲冑』の方がバランスはええかもね」
飯田「……だったら、もっとかおりとのロマンスを書いて欲しかったな」
中澤「かおりとはあれが精一杯やで……、
   それ以上書いたら作者の背中が痒くなってしまうやん」
平家「裕ちゃん赤くなってる?」
中澤「(ゴホン、ゴホン……) 最後はみっちゃん」
平家「えっ!? なんでやねん? そんなん聞いてへんわ!」
中澤「ウチは忘れてへんで、『疫病神』と『貧乏神』」
平家「トークの話かい!」
376  920ch@居酒屋  2001/04/15(Sun) 23:56
平家「裕ちゃんあのな……、
   今気付いてんけど『あとがき』長過ぎとちゃう?」
中澤「……アチャー、ホンマやわ、悪い癖やね。
   この話、自分で改めて通読すると、所々おかしなトコがあったり、
   校正不足のトコがあったり、今更に赤面ですねんけど、
   読んでくれはったみなさん、ホンマにありがとうございます。
   >>350さん、丁寧言われると恥ずかしいですけど、
   この板のこの流れやからこそ、ええ感じでレス返せたかなと思います」
平家「途中からは、トークと本編とレスの一組で、
   一話ちゅう気持ちやったもんね」
中澤「やっぱりバランスやと思うねん。
   ここの全般板は長文系の絶対数が少ないやん、
   せやから、ウチは刺身のツマにでもなればと思てな(ウルウル……)、
   ……ホンマありがとうございました。
   平家みちよは涙と鼻水でメイクが落ちて、顔面デロデロになってます」
平家「アンタはそんなんばっか言うてるやん!」
中澤「>>355さん、ウチは気はいつでも向いてますねんけど、
   あとは物理的な時間ですね。プロットは何個でもありますねん、
   このスレにも、まだ書くスペースありそうですし……」
平家「言うたかて長文ばっかやで、ええ加減厚かましいんとちゃう?」
中澤「……取り合えず『居酒屋』でお会いしましょう。
   ……>>356さん、こないな所でよろしゅうおますか?
   (ワッハッハッハッハッハ……)」
平家「なんでいつも泣いた後に笑い飛ばすねん」
中澤「決まってるやん、ソロの中澤裕子は『カラスの女房』……」

   < This tale is offered to Yuko Nakazawa, 2000-2001 by 920ch@IZAKAYA >
377  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/04/16(Mon) 00:08
あとがき楽しく読ませてもらいました。
この作品の続きが気になって、月曜の朝はなるべく起きていて、そして
読み終えたら欠かさず感想を書いていましたよ(笑)

それではネタバレで感想を。
なっちとガネーシャの組み合わせが一番好きでして。
この二人はコメディ担当だと思っていたから、お別れのシーンでは
「あっ!」と思いました。
娘。を題材にした小説でもキャラは成長する。これは、すごい発見でした。

長々とスレ汚してすいません。
居酒屋さん、長い間ご苦労さまでした。
次の作品を首を長くして待っています。
378  参拾弐@カキコミエラー中  2001/04/16(Mon) 00:12
お疲れ様でした。。。

間をつないでおきますので、次回作を楽しみにしています。
379  名無しさん♪保田祭  2001/04/16(Mon) 00:39
私、表現力がないもんで言葉もないんですが
楽しみに読ませていただきました
これからも姐さんとみっちゃんの活躍を期待しております
>>378
あなたのも期待しております
エラー治るのを楽しみに待ってるよ
380  某板亭主  2001/04/17(Tue) 08:37
矢口「みっちゃん、みっちゃん見てよ〜」
平家「ほう…ほんま凄い状況で凄い事してなはったんやな…最近アタシはネタはあるけどカタチにならんから、とんと御無沙汰しとるけどなんか頑張らあかんな〜って思ったわ」
矢口「思うだけじゃ駄目じゃん。行動しなくちゃ。」
平家「あう…ちょこちょことはやってるんやで。まぁいろんなトコで」
矢口「しっかし、いろんなトコからネタひっぱってるねぇ」
平家「そやな、元題で覚えてたからキンクリって言われた時は膝叩いてもうたわ。そやったな〜って。あのアルバムではアタシは『21世紀のいいらさん』が大好きでな〜」
矢口「シャレになってないよ……」
平家「しかし、ほんまこの人はナニモンや!って思うわ、こんだけのとこから引っ張ってきてな。アタシなんかプログレなんて一番最近聞いたのは『タイムレンジャー』の主題歌くらいやで……」
矢口「お前こそナニモンだよ……」
平家「おっと長くなってもうたな、それじゃあ……」
矢口「居酒屋さん!」

二人「どうもお疲れ様でした〜〜!」
381  団長  2001/04/21(Sat) 19:28
最高でした!!
次回作を期待してます!!
382  名無しさん@交信中  2001/04/23(Mon) 00:53
連載中に巡り会えなかったのが残念です
文章力ないんでありがちなコトしか書けないんですけど
次回作、期待してます
383  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/05/01(Tue) 13:37
M-seekの小説あぷろだで紹介されていたので読んでみました。
非常に面白かったです。こういうファンタジー巨編は少ないですから新鮮に感じました。
新作を期待してます。がんばってください。
384  名無しさん♪原宿6:00集合  2001/05/04(Fri) 23:50
期待あげ
385  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:12
< The explanation >

中澤「あのな、みっちゃん、
   『M-seek』の『小説あぷろだ』って誰がUPしてくれはるの?」
平家「え? 誰やろ……、
   ……って、なんで?」
中澤「>>383さんのレス見て、ウチも行ってみたんよ」
平家「おおきに、ありがとうございます」
中澤「でな、『あぷろだ』見てたら、
   『『風に吹かれて』920chより』ってあるやん。
   はぁ……、『ボブ・ディラン』やね思てな、
   開いてみたらこの話やってん(ワッハッハッハッハ……)」
平家「『プログレ』に対する世の中の見方を感じさせるね……」
中澤「洋盤なんか買うて来ると、
   外見(そとみ)と中身のちゃうのってたまにあるやん」
平家「例えば何?」
386  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:14
中澤「有名な所は『ケイト・ブッシュ』と『ビートルズ』の中身取り違いな、
   ウチの場合は、何年も前に渋谷で買うた、
   『ジョン・フォックス』の中身が、誰やったかなぁ……」
平家「……『ジョン・フォックス』って誰やねん?」
中澤「オリジナル『ウルトラヴォックス』のフロントマン……、
   ……なんやろ?
   洋楽ジャンキーやった昔の自分が、瞼を閉じたらグルグルと……」
平家「……あのな、なんで突然『洋楽懐古趣味』の物思いにふけるねん」
中澤「せやった! 『小説あぷろだ』の話な、
   『ボブ・ディラン』の中身が『キング・クリムゾン』……、
   ……これは危険なトラップやで、『モーニング娘。』の中身が、
   『平家みちよ』やった級の大事件、開けた途端に大爆発!」
平家「えらい気の毒にな……、
   ……って『平家みちよ』は『小包爆弾』かい!!」
387  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:16
中澤「(ワッハッハッハッハ……)
   ところで……、この板の『居酒屋』にも先に私信で書いてしまいましたが、
   『風に語りて』、『あとがき』まで読んでくれはったみなさん、
   その後までレスしてくれはったみなさん、
   ……ありがとーーー!!
   それではご唱和下さい、行くぞーーー!! 1・2……」
平家「なんで『燃える闘魂』やねん!」
中澤「あれから本業のパラダイムがシフトしてもうてな、
   ネタも小説もゆっくり書いてる時間がさっぱりやねん……、
   せやけど、人間って無いモノねだりやん、
   『書けない時間が、愛育てる』んやで、『よろしく哀愁』!」
平家「郷ひろみさんかい!」
中澤「こう……、なんちゅうのかな、ムラムラと新たな創作の欲求が……」
平家「裕ちゃん欲求不満やもんな……、
   ……って『創作』? ……また書き始めるつもりかい!?」
388  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:18
中澤「(ワッハッハッハッハ……)
   『あとがき』から2ヶ月半、ボチボチ書こうか思たんやけどな、
   『このスレにも、まだ書くスペース〜』って書いたやん。
   これな、冷静に考えたら今書いてるこの時点で、
   既に『雑談』の打ち止め平均を大幅に超過してるねん」
平家「……長文乱れ打ちやしな」
中澤「これはアカンわ、……ちゅう訳で、新作は別にスレ建てました。

   ttp://920ch.conte.ne.jp/musume/readres.cgi?bo=morning&vi=0301

   御用とお急ぎで無い方は、軽く目ぇでも通したって下さい。
   ついでに、オマケのみっちゃんのことも応援したって下さい」
平家「(ワナワナ……)
   ええ加減、人のこと『ついで』とか『オマケ』とか……、
   ……まぁ今回だけは特別に勘弁したるわ。
   この物語読んでくれはったみなさん、ホンマにありがとうございました」

                                < Thank you for all readers ! >
389  920ch@居酒屋  2001/07/16(Mon) 00:09
中澤「暑いなぁ……、
   ……みっちゃん、冷たいビールとか買うて来て」
平家「ホンマ暑いね、……ほな、小銭預かるで」
中澤「誰の小銭やて?
   そんなんみっちゃんのおごりに決まってるやん」
平家「なんで人に集 (たか) るねん!」
中澤「そもそもウチはこの季節苦手やねん!
   どないなっとるねん今年の 『夏』! (キーーー!!)」
平家「なんで作者のわがままを季節に向けて怒ってるねん、
   ……それより新連載の件な、
   新スレ、エラーばっかやで」
390  920ch@居酒屋  2001/07/16(Mon) 00:11
中澤「ホンマやね、いっこも書かれへんわ。
   (ワッハッハッハッハッ……)」
平家「笑てる場合ちゃうやろ、
   予告してから、そろそろ半月になるやん」
中澤「せやなぁ、ええ感じで沈んで来てるのにな……、
   ……よっしゃ、こっちゃで始めよ!

   http://freebbs.fargaia.com/html/reds.html

   みっちゃんも、こっちゃ来て……」
平家「何? どこやねん……?」
中澤「ここ、ここ…… (ドンッ!)」
平家「(わっ!?) ……どつくなあぁぁ!」


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