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Capricious SeriesMother Of Pearl

1  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:06
★この物語はフィクションであり、
 実在の人物、団体等とは一切の関係が無いことをご了承下さい。

平家「……ホンマにまた始めるの?」
中澤「当たり前やん、故事にもあるで、
   『書けるときは書く! 書けねぇときは書けねぇ!』」
平家「誰の故事やったっけ……?」
中澤「『バーバラ・アキタダ』」
平家「……『元気が出るテレビ』かい!
   そんなん今時誰も知らんわ!」
中澤「『ジン鈴木』っちゅう手もあるしな、
   大物では『ゲイリー』を名乗ってた『YOSHIKI』っちゅう手もあるで」
平家「なんで、『思い出の名物キャラクター:ヘヴィメタ編』やねん!」
02  920ch@居酒屋  2001/07/02(Mon) 03:08
中澤「せやけどな、今回はここまでやねん」
平家「なんで? 新規に始める言うたばかりやん」
中澤「今のこの板は書き込み開始時に癖があるやん、
   せやから、しばらく寝かしとくねん。
   みっちゃんに敬意を表して、ええ感じに沈んだら始めたろ思てな。
   新規でスレ建てた経緯は、

   ttp://920ch.conte.ne.jp/musume/readres.cgi?bo=morning&vi=0226

   に書いたんで、みっちゃんも読んだってな」
平家「せやねぇ、ええ感じで沈まんとねぇ……、
   ……って、どこが『敬意』やねん!!」

                                         【 Coming soon 】
03  920ch@居酒屋  2001/07/21(Sat) 01:17
平家「裕ちゃん、裕ちゃん!
   書ける、書けるで! (ワッハッハッハッハッ……)」
中澤「ホンマやわ」
平家「(ワッハッハッハッハッ……)
   良かったなぁ〜(ワ〜ハッハッハッハッ……)」
飯田「……みっちゃん、ちょっと笑い過ぎなんじゃない?」
平家「(ワ〜ハッハッハッハッ……、
   ワハ、ワハ……、ハヒ、ハヒ、ハヒ……)」
中澤「(コチョコチョコチョ……)」
平家「こらあぁぁ! ……アンタは何をしとるねん!
   (……ゼェゼェ)」
中澤「……ウチに遠慮することあれへん、
   体一杯嬉しさを表現したったらええねん(コチョコチョコチョ……)」
平家「(ワハハハハハハハハ……)
   ええ加減にせんかあぁぁぁぁ!!」
04  920ch@居酒屋  2001/07/21(Sat) 01:19
中澤「……ちゅうわけで、この物語は既に始めてもうたんで、
   最初のエピソードはB面で続けます。
   Capricious SeriesMother Of PearlヾIDE : B

   ttp://freebbs.fargaia.com/html/reds.html

   この先は、エピソード単位で両方の板に交互に書いてく予定です……、
   ……って、みっちゃんなんで涙流しとるねん」
平家「(ハァハァ……) アンタのせいやろ!」
中澤「元気出さんかい (コチョコチョコチョ……)」
平家「やめんかあぁぁぁぁ!! (ワハハハハハハハハ……)
   『元気』 の意味がちゃうやろ!!
   (ワ〜ハッハッハッハッ……、ヒクヒク……)」

                                       【 Already underway 】
05  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 01:54
中澤「みっちゃん、本業修羅場やで!
    穴から血が出るくらい、クソ忙っしいわ!」
平家「なんで 『穴から血』 やねん」
飯田「そうだよ、
    子供が増えちゃったんだから言葉には気を付けてよね」
中澤「せやで 『鼻から血』 やん、
    なんで 『穴』 からやねん、他にも 『クソ』 やて?
    ……みっちゃんって、ホンマ下品やわ」
平家「すんまへん、以後気を付けます……、
    ……って、アンタのことやろ!!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハッ……)
    ところで、なんや前回からえらく時間が経ってもうたねぇ、
    このスレ、あっちゃこっちゃ蜘蛛の巣が張ってるやんか」
平家「そもそも、半端に始めてたらアカンねんで」
中澤「せやから、今回のは始めるに当たって書いてるやろ、
    『書けるときは書く! 書けねぇときは書けねぇ!』
    『猫型ロボット』 も 『先祖の書物』 も有らへんねんで、
    しゃーないやんか!!」
平家「なんで逆切れやねん」

                                       【 Continued on Ed 】
06  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 01:56
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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
            〜 New episodeEnergy Fools The Magician
                                     【 Duty execution : 01 】
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静かな夜であった。
ここまで穏やかであれば、構わず眠りについてもよさそうなものであるが、
ブリッジには保田が一人、当直の任を全うしている。
全うとはいえ、諸事は全て <マザー> が遂行しているのだ、
保田の立場は事実上その監視であった。

別段気のある風では無い……、ぼんやり眺める目の前の画面は、
この世界にあまねく偏在する別の空間へと繋がれている。
物理的に隔絶された惑星を蜘蛛の巣のように覆い尽くすネットワークの巨大な網。

取り留めもなくアクセスするそんな日常も、
初めて繋いだ時から、もうどれ位になるのであろうか。
思えば、端末の先々に形成されている無数のコミュニティにおいて、
自分もかつてはなにかと叩かれる対象であった。
が、結果的にそれが今の自分にとっての力になっていることも否めない。

そして、この艦における現行メンバー中では、
よもや自分が最年長になってしまうなどとは、当初は思いも出来ないことであった。
07  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 01:58
今となっては、リーダーを委譲した中澤の当時の気持ちが良く判る気がする。
不意にパネルに反射した、眼鏡をかけた自分の姿に、
保田は小さく鼻を鳴らした。化粧気のないその顔は、確かに辻、加護をして
『おばちゃん』 と言わしめるだけのことはある。
しかし、せめて 『お姉さん』 にならないものであろうか。

編み物が絵になりそうな佇まいの中、
その表情に目を細めた保田の後方に、何者かが現れた……。

「……何? ちゃんと寝てなさい」
「…………」

闖入者は辻であった。
寝ぼけて徘徊でもしているのか、両目は閉じられたままである。
そのままトコトコと保田の前まで歩み寄って来た辻は、
予想通り保田の膝の上に腰を下ろした。

「アンタねぇ……、アタシはベッドじゃないのよ」

仕方なく抱きかかえてはみたものの、この重さは尋常では無い。
特に厚ぼったい腹の感触は何事だ。

「ちょっと辻……、トイレだったら一緒に行ってあげるから」
「う……ん? (Zzzzzz……)」
08  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:00
甘えているのであろうか?
考えてみれば、<マザー> のメンバーであると言うことは、
実の家族よりもクルー同士の方が、一緒に暮らしている時間ははるかに長い。
かつては一緒のベッドで眠る機会の多かった加護も、
近頃では一人で眠ることが多くなっていた。

<マザー> が新しいメンバーを募集すれば、
この厳しい世界の中にあって、確実に万単位の少女の応募があるという事実。
それは、一見華々しい彼女らの活動がいかに魅力的に映るかの証左であり、
やり切れない日常の向こう側の幻が、羨望の的となっているのであろう。しかし、
晴れて選ばれたなら、それはそれで悩みなど一向に尽きるはずはないのである。

普段はそんな素振りをおくびにも見せない辻ではあったが、
時に異様にさえ見える幼さや、育ち盛りをはるかに超えた食欲など、
やはり深層には、単純には埋めることの出来ない寂しさがあるのかも知れない。
今のこの二人のツーショットは、姉妹と言うより、
親子に見えると言ったら本人、……さすがに保田は気を悪くするであろうか。

「(!)」

辻に気を取られている間に、母艦の哨戒レーダーが光点をキャッチした。
進行方向は <マザー> の進路と同じ、凄まじい速度で進んでいる。
保田はブリッジのメイン・パネルに画像を繋いだ。
09  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:02
夜空を駆ける真っ赤な光球は、ただ一つであったが、
もしそれが青い光球との二つであったなら、
宇宙の追跡者が地球の航空機と衝突、そして 『光の巨人』 の物語が……、
保田は瞬間、かつてライブラリで見た旧時代のドラマの冒頭を思い出した。

「ながれぼし……」
「うん、ちょっとヤな感じだけどね……」

あっという間に、<マザー> の捕捉を通過した光球は、
そのまま見えなくなったと思われたのもつかの間、
漆黒の夜空が、時ならぬ夕焼けの色に変わった。

「落ちた?」
「ながれぼし……」

辻がいつの間にか窓の向こうを見据え、目を見開いている。
さっきから繰り返している言葉は、寝ぼけたうわごとのようにも聞こえるが、
何かに取り憑かれてしまったようで少々恐い。

「ながれぼし……」
「わ、わかった、夜が明けたら一緒に見に行ってみようね」
「……へい (Zzzzzz……)」

光球は目的地から数百q先に落下したことが、母艦からの情報で確認された。
赤い色の不吉な印象は拭えなかったが、辻が眠ったことに安心した保田は、
そのまま自分もうつらうつらと、軽く船を漕いでしまった。
10  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:04
「なんでやねん!」
「……みっちゃん、グラス割れたら危ないやろ」

平家が珍しく荒れている。
カウンターに叩き付けられたグラスは幸い破壊を免れたが、
その中身は三分の一程こぼれてしまった。
中澤はかいがいしく飛び散った液体を拭う。

「大体な、あの艦 (ふね) の艦長は誰やっちゅうねん」
「そんなん、みっちゃんに決まってるやん」
「せやろ? <プレイリー・ローズ> 言うたら、
 『キャプテン・タイラー』 が代名詞やで、他に誰が居るねん」
「ホンマやなぁ、泣く子も黙る 『無責任艦長』 (プッ!)」
「……『無責任』 言うなあぁぁぁぁ!」

頭上に猫を頂いたままくだを巻く平家の姿は、どうにも滑稽であった。
<マザー・オブ・パール> の暴走事件は、その後も幾度となく繰り返されたが、
クルーは次第にその対処にも慣れ、結果的には高度な訓練となっていた。
危機管理能力の向上と言う訳である。

艦内に発生している真珠状の物体は相変わらず謎であったが、
その渦中、平家が退艦に向かう時、決まって暴走することだけが、
次第に明らかになっていた。因果関係は不明であるのだが、平家が <ローズ> に
帰還しようとする時、<マザー> は決まって暴走する。誰もが平家の頭上の
猫を見て、『化け猫』 に取り憑かれてしまったからだと口々に言ったが、
肝心の猫そのものが見えない本人にとっては、何も言うことは出来なかった。
11  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:06
やがて本部からは平家に対し、
『<マザー・オブ・パール> の諸件が究明するまで、無期限転属』 の通達が下った。

無期限とは言っても、この事態の収拾次第である。
自分の肩書きに変動は無く、<マザー> 内の職制による上下関係も、
曖昧とも言えるほど緩い。決して居心地の悪い訳では無かったが、
平家の立場はやはり客員に他ならず、なんとも収まりの悪い状態を甘んじて
強いられることとなる。その人柄から、普段何かと慕われる平家であるが、
こうして中澤と二人で居る空間では愚痴もこぼれてしまうと言うものであった。

「そないにピリピリするなや、みっちゃん来てくれて心強いとこかて結構あるねんで、
 それにな、あっちゃんも張り切ってるやん」
「確かにな……」

<ローズ> は当面、副長稲葉が切り盛りして行くことになる。
中澤は自身のイメージを裏切るように、手際の良い料理の腕を見せながら、
平家の前に次々と皿を並べて行く。

「……確かにな、この仕事自体はあっちゃんのが長いで、長いねんけどな……」
「今度はお通夜かい、
 ……元気出し、居酒屋 『みちよ』 の看板が泣いてまうで」
「……居酒屋 『みちよ』 って、大体、表の暖簾はなんやねん!」

<マザー・オブ・パール> の巨大な艦体は、
時代さえ違えば、数千人が生活を共にすべきほどの規模である。
その広大な空間に現在のメンバーは、平家、ミカを含めて合計12人、
それ故に、各人の部屋も存分なゆとりが設けられている。
12  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:08
割り当てられた部屋は、調度こそ簡素なものであるが、
ごく当たり前の機能として備え付けられているホログラフィー装置により、
データさえ用意出来れば完璧な 3D のもと、
自分の部屋をどんな空間にも変えてくれる。

本部の通達により平家の <マザー> への着任を正式に知らされると、
中澤は平家の部屋に、前もって大量の酒や食材を持ち込み、
入口の前にはいつの間に用意したのか、居酒屋の暖簾をかかげてしまった。
それ以降、中澤が平家の部屋に居る時のホログラフは、
決まってかつての時代を思わせる酒場の映像に勝手に切り替えられている。

「酒は飲んでも呑まれるな……、
 憩いの場って必要やん、心に沁みる極上の酒、みっちゃん飲んどるか?」
「最近、美味い酒にはとんとご無沙汰……、ってなんで此処が居酒屋やねん、
 自分の部屋で飲んでたらええやろ!」

案の定、中澤のペースに乗せられつつあることは十分承知しているが、
肝心の理性はアルコールに飲み込まれる寸前であった。

「みっちゃんつれないなぁ……、そら、圭坊もかおりもなっちも、
 ようやっと飲める歳になったで、
 せやけど、いきなりウチのペースには巻き込まれへんやん」
「せやから此処で吐くまで飲む……、
 ……って、ナメとんのかゴルァ!!」

再び怒気を取り戻した平家は、グラスの残りを一気に飲み干してしまった……。
13  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:10
<マザー> が無事入港を果たし、安堵の元に眠りに入った保田は、
その数時間後に小さな災難に見舞われることになる。
まだ半分ねむけ眼の保田の元には、すっかり身支度を整えた辻と、
辻に誘われ、あるいはせがまれたのであろうか、
こちらも準備 OK となっている吉澤が姿を見せていた。

保田の当直に現れた自分のことをどれだけ覚えているのであろうか。
辻に小一時間問いつめてやりたいところでもあったが、
一緒に現場を見に行こうと約束したことも事実である。
まだ横になればいくらでも眠れる体を重た気に起こすと、
面倒くささは極力出さないように、保田も身支度を始めた。

残りの眠りは操縦をフルオートにしている間に摂れば良い。
幸い吉澤も一緒である。その点では不測の事態にも心強いものがあった。

< MOP-04 Orion : オライオン >。
冥界の神 『オシリス』 と同義の名を頂く保田の機体は、
MOP シリーズ全機中で最も武装比率が高い。実弾兵器やレーザー、ミサイル、
果ては近接格闘兵器の実装は言うに及ばず、これは故意には操作出来ないという
建前付きであるが、機体コアには、戦術核爆弾までもが埋め込まれているという、
まさに冥府の神である。

物騒さだけを取り沙汰すれば、あまりにも際立ってしまうため、
出来るだけ前面に出ないようには努めているが、
機体に対する感情とは別の次元で、保田の心中はいつも複雑であった。
14  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:12
保田は目的地を謎の発光体の落下地点にプロットすると、
操縦をフルオートにセットして、つかの間の眠りに就くことにした。
後続には辻、そしてしんがりには吉澤の <ハルシオン>、
まず一安心のつもりであったが、どうにもコンソールの調子が冴えない。

不調の原因が辻にあることはすぐに察しがついた。
案の定、辻の機体から妨害波が発生している。
直接横付けして怒ってやることも可能であったが、保田はあえて思い止まった。

< MOP-01 Unicorn : ユニコーン >。
辻の専用機は、攪乱、妨害を主とした機体であり、戦闘力そのものは
さほど高くは無い。むしろ陸上タイプとしては、時に <ハルシオン> をも凌ぐ、
機動性により、相手をかき回すことにその威力を発揮するが、
飯田の機体と連携時のみにおいて、異様な戦闘力を発動する。

また、このことは辻自身にも知らされていないが、機体中枢の演算処理能力は
MOP シリーズ中トップであり、その小振りな機体と相まって、
<マザー> の 『息子』 とも、『裏司令塔』 とも呼ばれる。

<ユニコーン> から妨害波が出ていると言うことは、
辻が食に勤しんでいる姿が容易に想像できる。
『頭隠して尻隠さず』 とはまさにこのことを言うが、
あまりに分かり易い行動は、却って怒る気持ちを萎えさせる。
保田は目を閉じると、三機の縦隊はそのまま目的地を目指した。
15  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:14
<マザー・オブ・パール> とは、この世界における
通商船カテゴリ 『Showfolk (ショウフォーク)』 に分類される一隻である。
主用途は芸能活動に置かれているが、
実際の運用は、必ずしもそれだけに限定されてはいない。

各搭載機を含めた総合戦闘力は、並みの軍艦をはるかに上回り、
これだけ力のある船が民間に存在するという事実は、
時折、各方面から羨望の声が上がるほどである。
故に、日常における注目度も、並大抵では済まないことが現状であったが、
暴走の件はさらなる注目を集める結果となってしまった。

<マザー> は、その能力を超えない範疇かつ、
危険の少ない内容であれば、おおよそどんな仕事でも引き受ける。
それは本部からの指令であるのだが、
当世きっての売れっ子である現在でも、時には貨物船、時には旅客船、
そして各搭載機の能力を生かしたレスキューまでも引き受ける、
まさに万能の城であった。

雑多な任務をかいがいしく遂行する彼女達には、
本当に頭の下がるものであるが、いくら商売を優先させるとはいえ、
時に傍目からもオーバー・ワークに見える本部のやり方には、
立場の正逆こそあれ、批判が起こることもしばしばであった。
16  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:16
彼女達の姿は、様々なネットワークを介して伝達されたが、
本人達自身が各都市を訪れ、大衆の面前で公演を行うことも逐次であった。

それはもはや一種の祭典であり、集まる顔ぶれは老若男女を問わない。
内界でのライブを明後日に控え、<プレイリー・ローズ> の合流は明日、
今日は入港後、久々に取ることの出来る貴重なオフであった。

折角のオフではあったが、面倒な雑務のたまっている中澤は、
必然的に留守番となってしまっている。
気乗りのしない顔で、端末とにらめっこをしていると、
ブリッジに、キョロキョロと落ち着かない加護が姿を現した。

「中澤さん、ののは……」
「辻やったら、圭坊たちと先に出掛けとったで」

加護の表情に曇りの色が宿る。
いつでも行動を共にしているように見える二人である、
加護にとっては、置いてきぼりを食ってしまったように感じたのであろうか。

「……居た居た、加護ちゃん、元気出しなよ。
 オイラたちと一緒に行けばいいじゃん」
「…………」
17  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:18
追いかけてきた矢口が、持ち前の明るいトーンで誘っているが、
加護の顔はまだ少し不満そうであった。

「いっぱい食べれば元気も出るっしょ」
「安倍さんのお腹スッポンポン!」

そう言いながら、自分の腹をポンポンと叩いて現れた親方と、
後に続いたミカの、ボケと言うよりは、本気で間違っているような言いぐさは、
どこかの漫才師のやりとりを思わせ、
加護の口許も少しだけ和んだように見えた。

「ねぇ、裕ちゃん、キャプテンは?」
「みっちゃんか? ……酔い覚めがきつくてかなわんのやて。
 今日一日寝とる言うとったけどな、
 ごっちんもみっちゃんみたいな酒飲みになったらアカンで」

自分で潰しておいてよくも言ったものであるが、
中澤自身も少々酒が残っている感覚は否めなかった。
オフという名の目前のゴールが、酒の手綱を緩めてしまったらしい。

飯田と石川も、保田達とは別に、既に出掛けてしまっている。
残された矢口、安倍、後藤、加護、ミカの五人が、
連れ立って出て行ってしまうと、ブリッジは祭りの後のように静かになった。
18  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:20
内界 『Prince Fortress : プリンス・フォートレス』。
『城塞の王子』 と呼ばれるこの都市は、
高緯度に位置し、各種整備の行き届いた大都市である。
かつて 『隻眼の勇士』 がこの地を切り開いた名残であろうか、
『城塞』 などと厳めしい名がついてはいるが、現在では 『杜の都』 などとも呼ばれ、
各所に見られるモニュメントは、落ち着いた佇まいを見せている。

晩秋に差し掛かったこの地の気候は、肌寒くも感じられたが、
ここよりさらに北の出身である飯田にとっては、苦もないことであった。

主に地下に築かれている都市群は、
その壁面が広大な 『結晶膏』 で覆い尽くされている。
結晶膏とは 『評議員』 によりもたらされたテクノロジーで、
安価に、かつ大量生成出来る防護材として、内界各地で広く使用されており、
耐久性こそ、そこそこではあったが、容易に補充が利く点と、
ホログラフとの好相性から人々が生存するための、必須の素材となっている。

<マザー> における各人の部屋がそうであるように、
内界は、より大規模なホログラフィーにより、結晶膏に固められた都市内に、
様々な風景とそれに伴った空間を作り出す。

コストの問題も鑑みれば、全ての都市が常時風景を映し出せる訳では無かったが、
『プリンス・フォートレス』 は風景に彩られていることの方が多い、
恵まれた都市であった。抜けるような青空と乾いた空気が心地よい。
それは、人工的に作り出されていることを忘れさせるほどの迫真感であった。
19  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:22
連れ立って 『プリンス・フォートレス』 に降り立った二人は、
飯田の誘いであった。特に目的など無い。ただ繁忙を日常とすれば、
たまのオフも存外、時間の勝手に困るもので、
なんとなく、……そう、ごく自然に石川に声を掛けていた。

石川には誘いを拒む理由は何も無い。先約がある訳でも無く、
むしろ、自分に声をかけてくれたことが、多少くすぐったいものの嬉しかった。
そもそも、飯田は自分に近い気性の持ち主であり、
張り詰めたように気を使う必要の無い気さくな間柄となっている。

「ちょっと寒くありません?」
「そう? 石川は本当の寒さを知らないんだね」

衆目を避けるための変装越しに、
あまり元気が無いように見える飯田の顔を横目に見ながら、
石川は長身のリーダーの腕に自分の腕を絡めた。

別に飯田が 『鋼鉄の身体』 を持って寒さを跳ね返している訳では無い。
息が凍る日常で育った彼女にとっては、別段堪えるほどでは無いだけだ。

「じゃあ、かおりはちょっと買い物してくるから、石川は何か食べ物買って来て。
 一時間後にここでね」
「え!? 食べ物って……」

言い終わらないうちに腕を解いた飯田は、そのままの直進で石川を後にした。
20  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:24
『なつみ部屋』 御一行様は、明後日に控えたライブ会場をしばらく訪れた後、
その足は焼き肉に向けて直進していた。
焼き肉とは言っても内情は工業製品に近い合成肉である。
肉とはこういったものであるという認識のもとであれば、
それなりに美味いものではあったが、
その製造の段階を直視したなら、矢口と言えども食欲は失せるであろう。

「痛いっスよ」

やはり日頃の疲労の蓄積であろうか、『焼き肉隊長』 矢口は、
歩きながらややもすればもうろうとする気分を、
しげるの頭を叩くことで紛らわせていた。
『デモノイド』 しげるは、体裁上熊のぬいぐるみであるが故、
矢口の腕に抱きかかえられた光景は、一見微笑ましいものであったが、
しげるにとってはとんだ災難である。

「あなた今眠いでしょ!」

ついに頭に来たのか、小さな熊は矢口の顔に向き直ると、
精一杯の背伸びをして、その片頬をつかんだ。
矢口は表情を変えないまま、しげるの片頬をつかむ。
さらに、もう片方の手も頬をつかみ合った両者は、そのまま店内に消えた。
21  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:26
「やだなぁ〜、冗談だってば、冗談!」

憮然としたまま、口に肉を運んでもらっているしげるを後目に、
矢口は頬に熊の足型のあざを残したまま、明るく食べている。
『背中に剛毛が生えている』、『諺も良く知らない矢口はアホである』 等、
ここ最近の風評は、多分にネタ的な要素も含んではいるものの、
今一つマイナスな矢口であったが、矢口の本領は知識の量では無く、
巧みな情報処理によるバランスである。実際は真面目で折り目正しい彼女は、
あくまでも明るく元気に、気にしている素振りは見せようとはしない。

『御一行様』 は、店側が気を遣ってくれたのか個室に通された。
ここには、より豊富なホログラフ・データと装置が完備されており、
『隊長』 矢口とミカの希望のもと、空間は草木の生い茂る無人島に設定された。

「加護も、もっと食うべ?」

コンスタントに食べる安倍の視線には、しげるとともに浮かない顔がもう一人。
自分の相方が居ないことがまだ尾を引いているのか、
ムッツリとしてあまり食が進まないように見える加護が居た。

「加護ちゃん、赤ちゃんみたい」
「ほんとだ〜〜」

ミカと後藤は、両方から加護の頬を指で突っついて笑い合った。
22  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:28
かすかなバイブレーションが保田の全身を揺り動かしている。
目的地が近いことを示す <オライオン> のアラームは、
段階を伴って起こしてくれる。そのまま起きてしまえば、
以降のアラームは解除してしまえば良い。専用機はいつでも快適であった。

「辻ちゃん、どう? お菓子おいしかった?」
「たべてないもん」
「その、あごの所に付けてるクリームは何かなぁ?」
「……い〜〜〜だ!」

吉澤と辻のやり取りが聞こえる。
いつの間にやら、辻は妨害を解除していたらしい。
その隙を突いて、映像込みで交信を入れた機転は吉澤の勝ちであった。
保田も映像を繋いでみると、そこに映し出された辻のあごには、
どこか間抜けに点々とクリームが付いていた。

「<ユニコーン> は小型なんだから、自分で機体に負担かけてちゃだめよ」
「おばちゃんも、い〜〜〜だ! ……てへへへへへ」

加護と一緒の時とは明らかに違う、力の無い照れ臭そうなトーンである。
子供特有の無邪気な意地悪さが薄れている分、
いつもより辻のその言葉はかわいく聞こえた。
23  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:30
辻や加護が保田を 『おばちゃん』 呼ばわりすることは、
一般的な印象では保田が舐められていると取られるらしい。

確かに、同様に 『おばちゃん』 呼ばわりされた飯田は、
これを極度に嫌い、力づくで呼ばせてはいない。
中澤であれば、辻・加護といえども端から言えなかったであろう。

この呼び方は、通称 『四期メンバー』 年少組である辻と加護の、
未だ越えることの出来ない壁の存在を示唆する。

『三期メンバー』 である後藤には同期が居ない。
このことは、本人にとって極端な負荷であった一方、
その行方は見事なハイリターンとして結実した。

この過程を経ているからこそ、
後藤は、旧メンバーを対等に呼ぶことが出来るバックボーンを獲得した。

しかし、同期が四人いる四期メンバー、特に辻と加護の場合は、
その活動の経緯や、思った以上に大きい世代・年齢の関係から、
中澤はもちろん、飯田や保田のことを、
簡単に 『かおり』、『圭ちゃん』 とは呼ぶことが出来ない。
24  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:32
親しくなってもフランクに呼ぶことが出来ない。
その裏返しが、別のニックネームで呼ぶという行為であった。

『おばちゃん』 とは、実際の自分達の客観的な関係、
そして、自分達の番組内での保田のメーキャップ、それら諸々が、
たまたま状況にフィットした呼び名となって表出しているだけのことである。

どこか困ったような顔をしながら、
なんとなくそれを受け入れているように見える保田の態度は、
その分保田が大人になっていることの実証であると同時に、
辻・加護に端で見るほど邪気が無いことの証左でもあった。

……そろそろ現場が近い。
行く手には、何隻もの軍艦が待ち構えていた……。

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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
                        〜 About aEnergy Fools The Magician
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25  920ch@居酒屋  2001/11/28(Wed) 02:34
【 Continued from Op 】

平家「それにしても沈んだなぁ、『次のページ』 にせえへんと見られへんわ」
中澤「これはつまりアレやで、
    ピンク・フロイド : 『Dark Side Of The Moon』、
    直訳したら 『月の裏側』 やねんけど、みっちゃんにちなんで邦題 : 『狂気』」
平家「誰が 『狂気』 やねん!」
中澤「せっかく沈んでるんで、読んでくれはった方、
    『sage』 たままにしたって下さい。作者 『age』 忘れと思って浮上させると、
    圧力の違いでみっちゃんが逝ってしまいます」
平家「平家みちよは 『深海魚』 かい!」
中澤「考えてみたら、今回のは自分で期限何時迄って決めてへんやん、
    裏を返せば 『ゆっくり』 に輪を掛けて 『チビチビ』 書いてもええねんな、
    ちゅうことで、久々に気合入れてみました……。
    ……言うたかて、この場合の 『チビチビ』 は辻・加護のこととはちゃうよ」
平家「分かってるわ!」
中澤「……さ〜て、次回の 『MOP』 は、『2001, 12/12 (水) 未明』 予定。
    (じゃんけん、ぽん! グフフフフ……)」
平家「笑い方間違うとるやないかい!」
辻・加護「ハァ〜イ! バブゥ……」
平家「なんで 『W (ダブル)・ イクラちゃん』 やねん!」
26  920ch@居酒屋  2001/12/12(Wed) 04:42
【 An apology 】

中澤「早いよなぁ、今年も残すところ 2/3 を切ってるで」
平家「ホンマやね」
中澤「人もけしきも、忙しそうに、年末やから、あぁぁぁぁ……」
平家「なんで 『雪が降る町』 やねん」
中澤「……ホンマは今日、更新予定日やん」
平家「せやで」
中澤「……一週間延期。
    (ウッハッハッハッハッハ……!)」
平家「なんで笑い方がヤケクソやねん!
    鼻の穴膨らんどるやないかい!」
中澤「一応、今の話は始めると二週間スパンで書いてるやん。
    せやから通常は十分間に合うはずやねん。……はずやねんけどな、
    師走や言うたかて日曜日まで出るのは計算外やっちゅうねん。
    それもな、休日出勤ちゃうで、自主出勤……
    (ウッハッハッハッハッハ……!)」
27  920ch@居酒屋  2001/12/12(Wed) 04:43
平家「自作自演で 『小○の靴屋』 かい」
中澤「(シクシク……) しゃーないがな、
    『○人の靴屋』 にしとかんと仕事が間に合われへんねんもん」
平家「ほんでこっちの更新が落ちてしもたと……」
中澤「オレかて勝算無かったら書かれへんけどな、
    今回は見事に見込み違いやったね、……ちゅうか不可抗力?」
平家「……『オレ』 とか口悪いで」
中澤「(あっ!?) ……アカンわ、気い緩むと時々出てまうね。
    せやけどみっちゃんかてウチと二人の時はよう 『ワシ』 言うてるやないかい、
    この 『だんじりファイター』」
平家「誰が 『だんじりファイター』 やねん! そんなん言うてへんわ!」
中澤「ショート・ヴァージョンで載せよかとも思たんやけど、
    やっぱり作者が納得出来へんねん。せやから今回はお休み。
    ちゅうわけで、更新は一週間延びて 『2001, 12/19 (水) 未明』 予定です。
    ……まぁ、みっちゃんクヨクヨするなや、心の広いウチが勘弁したる」
平家「……自分で言うなや」

                                            【 Please wait 】
28  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:49
中澤「みっちゃん、メリー・クリスマス!」
平家「なぁ、裕ちゃん……、今日って何曜日?」
中澤「…………バカヤローー!! (バチン!)」
平家「(!) ……痛あぁぁ、……なんでいきなり平手打ちやねん!」
中澤「『だんじりファイター』 には、『闘魂注入』 がお約束やん。
    ……ええか小川、『猪木祭』 や、
    もうな、使命的なもんに目覚めなアカンねんで」
小川「はい! 中澤さん!」
平家「せやから 『だんじりファイター』 ちゃう言うてるやろ!
    アンタらは何を目指してるねん!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハッ……)
    何って、分かってるがな、更新予定日過ぎてる言いたいんやろ。
    作者がここに来て、年末恒例行事の攻勢に遭うててな、
    アレやで、飲み過ぎてオ○○ェェェェ!」
平家「吐くなあぁぁぁぁ!」

                                       【 Continued on Ed 】
29  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:51
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            〜 Now episodeEnergy Fools The Magician
                                     【 Duty execution : 02 】
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三機の行く手には巨大なクレーターが見え始めていた。
半径にして数百メートル、深さにして数十メートルというところであろうか。
しかし、解せないのは、クレーター周辺部に地表の隆起が無いことであった。

考えてみれば、保田と辻が目撃した時点でも、光こそ見えたものの、
地面に激突した衝撃までが伝わった記憶は無い。
まるで、何かにえぐり取られたかのように口を開けた大地は、
それが単なる物理現象では無いことを示している。

保田達の前には、せわしなく動く調査艇と、
その向こうに停泊する五隻の大きな影。船籍データの照合により、
フリゲート艦 <Restless : レストレス> を旗艦とする五隻の軍艦であることが判明、
それは、どうやら 『プリンス・フォートレス』 の所属では無いようであった。

この世界において軍艦とは、
必ずしも狭義な軍隊の戦船のことを指しているわけでは無い。
主立った役割は対外界の治安から救援まで、その任務内容を可能な限り拡大し、
日夜人類を守る為に働くという、言ってみれば、
内界各都市の互助的な運用による警備隊という概きが強い。
30  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:53
もちろん、内界にも個別に警察、消防、救急等は存在するが、
格段に厳しい環境である外界では、いかなる外憂をも想定し、
これを一手に引き受けるために、無理をしてまで整備されているのが、
軍部とその艦艇であった。

しかし、内界の負担も決して楽では無く、
やりくりの末にどうにか生み出されている上、装備も数も、
いくらあっても足りていないという現状においては、
<MOP> のような万能艦の存在は、大いに歓迎されるべきことであった。

「<マザー> の方々ですね?」

入電した画面上には、実直そうな士官が敬礼をして一行を出迎えた。
あえて問うまでもなく、相手とて自分達のことを分かっているはずであるが、
その声には、緊張と嬉しさの入り交じった昂揚が感じられる。
保田もつられたのか、とっさに返礼をしてしまった。

確かに軍部から見ても、<マザー・オブ・パール> の存在は超一線級であり、
それが一種の憧れとなっていることは、紛れもない事実であろう。

「内界に向かう途中で、妙な光に遭遇したんで気になって……」

保田本人の意志というより、
辻にせっつかれてやって来たということは、さすがに話せない。
31  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:55
「あの…… (ん!?)」
「(!)」
「こらっ! 辻ちゃん」

続きを切り出そうとした保田は絶句してしまった。
突然画面に割って入ってきた辻の顔は、
極限までひまわりの種を詰め込んだハムスターのようにお菓子を頬張っている。
慌てて吉澤がたしなめるが、膨らんだ両の頬のためか、
驚いて見開かれた目の、その下の口は開くことが出来ないでいる。

「(ハッハッハッハッ……) いやぁ、元気があって結構ですね」

なんともバツが悪いと言うべきか、辻の身代わりに赤面してしまった保田に、
穏やかに笑いかける士官の姿が、肩にまとわりつくような格式を薄めた。

「随分大きなクレーターですね」
「見てお分かりと思いますが、妙な状態です」

士官の言葉は真面目な語り口になる。

「我々もレーダーに捕捉し、調査隊を編成しました。
 しかし、こうして駆け付けてみると、現在も調査続行中ですが……、
 いまだに何も見つかっていないのです」
32  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:57
「何も無い……? (プッ!)」
「辻ちゃん!」
「てへへへへへ……」

保田は度々吹き出してしまう。
構ってもらいたいが故に、ちょっかいを仕掛ける子供のように、
あれから度々変顔で画面に割り込んでくる辻には、
その都度吉澤が注意を続けていた。

「それは、このクレーターが衝突によるものでは無いと言うことです」
「こんなに大きな穴なのに? じゃぁ、あの光は一体……?」
「分かりません。
 ……この調査は空振りに終わるかも知れません。
 ですが、<MOP> の方々と直接お会い出来たことだけでも良しとしましょう」

嬉しいことを言ってくれるが、その向こうでは辻の <ユニコーン> と、
吉澤の <ハルシオン> がとうとう鬼ごっこを始めてしまった。

「分かりました。私達も取り合えずデータを集めさせてもらいます」

本来であれば、そのデータは <ユニコーン> で集めたいものであったが、
あまりに恥ずかしい子供ぶりを発揮している今の辻はあてにならない。
保田の <オライオン> は、辻の機体を敢えて無視するように、
データの収集を始めた。
33  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 04:59
「飯田さん、サンドイッチ食べます?」
「……うん?」

飯田は黙々とキャンバスを彩り続けている。
食べ物の用立てを頼まれた石川は、取り合えずコンビニを探すと、
おにぎり、飲み物、サンドイッチ……、軽目の食事で揃えることにした。
しかし、約束の時間までにはまだしばらく間がある。

立ち読みもさほど長く続く訳では無く、しばらく店内を周回すると、
大きな袋を下げた石川は表へと出た。人の往来は決してまばらではない。

こうして雑踏に紛れてみると、今でも不思議な気分に囚われる。
もしここで、自分の素性が明かされれば、
たちどころに身動きの取れない程の人垣に囲まれてしまうであろう。

自分からは誰一人として知らない人々の視線……、
しかし、相手はみな自分のことを知っているという、
異次元の世界にでも迷い込んだ様な奇妙な感覚。
かつては自分も向こう側の人間であったろうはずであるのに。

この仕事を続けていれば、いつかは薄れて行くのかも知れない……、
そんな感覚に、石川はまだまだ戸惑うことがしばしばであった。
34  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:01
何やらいたたまれなくなる気持ちを紛らすように、
再び歩き始めようとした石川に誰かがぶつかった。
慌てて謝ると、その場を足早に去ろうとする石川に、
その声はいたずらっぽい笑みを含んで優しく語り掛ける。

思わず顔を上げると、それは飯田であった。
もうそんなに時間が過ぎてしまっていたのであろうか。
石川の手荷物と同じように、大きく抱えられた飯田の袋の中身は、
画材用具一式が揃えられていた。しかも、何故か二人分……。

「準備 OK?」
「はい」
「じゃ、少し歩くけど、車乗るほどじゃないからいいよね」
「……はい?」

石川はなんとなくピクニックを想像していたが、
どうやらメインは写生になるらしい。
大きな荷物をモノともしない飯田の後をついて行く石川は、
やがて乱雑に草木の生い茂る、造成の荒い斜面へとたどり着いた。

「ここ登り切ればもう少しだからね」
「あの、……いいんですか? こんな所に来ちゃって……」
35  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:03
その場所は、艦艇の停泊するドックと区画を隔てた、
最も奥まった位置にあり、整備途上のかなり危険な現場に思われたが、
飯田は構わず進んで行く。ところどころで足を取られてしまう石川には、
何とも頼もしいリーダーのサポートが入った。

「わぁ……」

登り切った眺望の素晴らしさに、石川は思わず感嘆の声を上げた。
内界が一望出来る広々とした開放感に、澄み切った空はどこまでも続いている。
日常的に外界に接している石川にとっては、
明確な比較対象が存在する分だけ、感激はより一層であった。

「ここはね、かおりだけの秘密の場所なんだよ」

遊び盛りの子供が見せるような会心の笑顔で話す飯田に、
石川もつられて、いつしか笑みを浮かべていた。
やがて荷物の用意を始めた飯田を見ると、
石川も自分の手荷物を広げようとしたが、食べ物以外には
何一つ気の利いた準備の無いことに気付き、愕然としてしまう。

「石川、そっち持って広げて」

困ったような顔をしている石川に、飯田は何もかも心得ているように、
シートを広げ始めた。そもそも、そのつもりで揃えた荷物である。
準備は万端であった。
36  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:05
「じゃぁ、こっちが石川の道具ね。……さ、張り切って描くわよ」

それ以降、次第に没頭して行く飯田を横目に、
時々食べ物で気を引いてみるのではあったが、
返って来るのは生返事ばかり、仕方なく石川もキャンバスに向かう。

「わぁ、飯田さん上手……」

飯田が絵を描くそもそもの始まりは、ホームシックの代償であり、
我流ではあるが、今や画集を出すまでの腕前となっていた。
確かに現在の自分達のネームバリューの前にはどんな企画でも通る気はする。
しかし、やはり保田が画集と言ったなら、悪い冗談になってしまうであろう。
飯田はその画力に加え、ポエムまで添えて見せる。才能であった。

飯田の頭に、何故か被っていないはずのベレー帽までも見えた気がした石川は、
目の前の絵に、保田のアヴァンギャルドな絵を思い比べてしまい、
飯田の絵が通常思うところの、更に10倍から20倍も上手いようにさえ感じられた。
……とは言え、保田と比較すること自体が失礼な話であるとも思うが。

オフを持て余しているように見えた飯田であったが、
いつしか静かに、そして真剣な顔になっている。
街中を歩いている時の元気の無さとは違う表情に、石川はどこか嬉しくなった。

「石川の絵も見せなさいよね」
37  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:07
「え!? 私のはダメです」

生返事ばかりを返す飯田が突然自分に向き直った。
見られているばかりで腹が立ったのであろうか、
あるいは素朴な興味なのであろうか、その表情はどちらとも言えない。
そうしている間にも、飯田は体を乗り出してきた。

「本当にダメですってば」

風景を描いているはずであった。
しかし、今一つ身が入らないのか、いつの間にやら花やうさぎなど、
取り留めの無いイラストが氾濫していた自分のキャンバスに、
これを見られたら怒られるであろうと思った石川は、
その追求の手から懸命に自分の絵を隠す。

「あっ!?」
「はい?」

飯田の視線が、石川の上を通り越し遠景に走った。
にわかに驚いているリーダーに自分も目線を移してみると、
内界を構築していた景色の数々が、
幾重ものオーロラを一枚一枚剥ぐように、無機質な本当の姿に戻って行く。
やがて辺りには、木霊が返るようにアラートが鳴り始めた。
38  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:09
「……こんなん、ウチが目え通さんでもええのんとちゃう?」

ブリッジの中澤の顔は憮然としていた。
一向に減る気配を見せない仕事の量には辟易としてしまう。
いつしか、先刻平家の部屋で作った自分の料理を、
温め直して食べ始めていたが、これが我ながら美味い。
食べる身にとっては罰ゲームにも等しい平家の手料理と比べたなら、
これはもう、天と地の差である。中澤はひとりほくそ笑んだ。

「(……?) なんや、せわしないなぁ……」

その料理の出来に、幾分気分を持ち直した中澤であったが、
不意に外の様子がおかしなことに気付いた。
内界の都市とドックは厳密な区画で隔てられているので、
窓越しに街の様子など分かろうはずは無い。
しかし、ドック内に停泊している 『プリンス・フォートレス』 所属の軍艦、
そして、隔壁の各ゲートにおける動きが、にわかに慌ただしくなって来ている。

「……管制布かれてるやん」

何かが起こっている?
日常の手段では、既に情報を掴むことは出来なくなっていた。
すっかり統制下に置かれている通信網からは、
外界の状況を知る術も、ことのほか難しくなっている。

この世界では、不慮の事態には 『障害発生』 という建前のもとに、
処理が遂行されるが、それは往々にして事実を隠蔽する傾向が強い。
39  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:11
確かに、厳しい外界を相手に生存の根を張る人類にとって、
それは至極妥当な理由付けとも思われたが、その発表の裏に、
時として何かが起こっているであろうことは、
種々のネットワークが複雑に介在している以上、
完璧に隠し通すことなど不可能であった。
例えば何かの兆候だけでも、類推、邪推は跳梁する訳である。

そうした観点から <マザー> に興味を示す人間も少なからず存在するが、
そもそも彼女ら当人にとっても、自分達の活動と相まって、
当初から隠密を前提とした任務でもない限り、それは土台無理な話であった。

……とは言え、今の場面ではいくら軍部の動きが慌ただしいとしたところで、
あくまで自分達の範疇外での出来事であり、中澤の出る幕では無いことであった。
しかし、今日の内界にはオフを過ごすメンバー達も降り立っているのである。
黙って成り行きを見ている訳にも行かない。

「あの……、なんや起きてはります?」
「さぁ? なんでしょうね」

ドックのコントロール・ルームだけは、唯一まともに回線が通じる。
その管制官は、朗らかな感じの良い人物であったが、肝心の用件に対しては、
とぼけているのか、或いは、まさか本当に関知していないのであろうか、
さっぱり要領を得ない。埒が開かないことを悟った中澤は、
面倒な自分本来の仕事を体よく小休止すると、
軍部に悟られないようにドックの隔壁にポッドを取り付かせ、
内・外界の様子を探ることにした。
40  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:13
「みんな、もっといっぱい食うべ」

動かざること山の如し……。
……いや、もはや自重で動けなくなっているのかも知れない。
悠々と食べ続ける安倍の後には、
先立って注文された肉を収めるパレットが、
背後を囲む壁のようにそびえており、
それは大昔の合戦における本陣を思わせていた。

「こんなにたくさん、オイラ達だけじゃ食べきれないよ」

さすがの 『焼き肉隊長』 矢口も、
まさか親方をして壁にされてしまうとは思ってもみなかった。
思わずしげるに視線を向けるが、小さな熊はプイと横を向くと、
大好きと公言する加護の方に向き直る。

「圭ちゃん達も来れば良かったのにね」

矢口ほどストレートには語らない後藤の言葉も、
焼き肉好きの保田はもとより、この量を打開する切り札としては、
是非辻の胃袋が必要であることを悟ってのものであろう。
41  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:15
「……なしてみんな、チラチラなっちの顔見るべサ。
 今日はオフだべ。ゆっくり食べればいいっしょ、
 なっちも夕方にはデザート食ってるべ」
「そういう問題じゃないんだけど」

……そ、そうか、そういう腹積もりなのか親方!

矢口と後藤が顔を見合わせ溜め息をついた。その向こうでは、
とっくに食事の席を離れ、ホログラフに夢中になっている加護と、
まるで、家庭教師であるかのようなミカが、
先程から部屋の風景をランダムに変えまくっている。

ある時は、地平線まで見渡す限り一面の花園、
またある時は、熱帯魚が泳ぎ回る海の底……、
それは、もはや実在することの無い、ありし日の惑星の姿であった。

「わっ!? コラァ! 変なモノ飛ばすなあぁぁぁぁ!」

突如、矢口の目の前を翼竜の影がかすめた。
辺りはいつの間にか太古の地上となり、遠方には大きな竜の姿が見える。
加護には笑顔が戻っているが、矢口は元来この手のモノが得意では無い。

「わあぁぁぁぁ! 加護おぉぉぉぉ!」
42  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:17
別に加護が狙ってその映像を送り出している訳では無いのであるが、
再度飛来した大きな翼に、矢口は後藤に抱き付くと、
つい大声を上げてしまう。
一部始終を見つめながら、貫禄の食を続ける安倍の目の前で、
しかし、原始世界のホログラムは突然消滅した。

「あれ?」
「……加護ちゃん、そこのスイッチは?」

突如発生した不調に、あれこれ装置を操作する加護とミカであったが、
映像は一向に回復しない。
しばらくすると、肉を焼いていた火力も、蝋燭を吹くように消滅してしまった。

「壊れちゃったのかな?」

後藤が近付いて来ると、今度は室内の照明までもが消えた。
薄暗い部屋の中は、すぐに目も慣れたが、
室内に窓は無く、外の様子など皆目分からない。

「わっ!? ウチら閉じこめられてる!」

入口へ向かった矢口は、自身で務める DJ のような大声を上げた。
……部屋の機能が麻痺。一体何が起こっているのであろうか。
43  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:19
「心配することねえべ!」

かすかな狼狽を見せる四人の前で、
目を閉じ腕を組んだまま動かなかった親方が、突然腹を叩いて立ち上がった。
集中する一同の視線の前に、安倍はどこに隠し持っていたのであろうか、
携行用のエナジー・バッテリーを次々と取り出すと、
ゴトゴトと大きな音をたてながら、テーブルの上に並べ始める。

……なんだか凄いぞ親方。別の次元に収納が出来るポケットなど、
『評議員』 のテクノロジーでさえ聞いたことがない。
矢口には、その姿が 『ことわざ辞典』 にまで登場するロボットに見えた。

バッテリーと、その他様々なパーツを取り出し終えた安倍は間髪を入れず、
手際よくそれらを組み立てて行く。……なんだかだまされてるみたいだぞ親方。
やがて、組み上がった一方は照明に、そしてもう一方は調理器具となった。

「これはなっちのお気に入り、『万能調理器』 だべ、
 これで安心して焼き肉の続きをするっしょ」
「だから、そういう問題じゃないだろ!」

矢口の親友は食いしん坊……。
加護には、矢口が本気で切れているように思えた。
44  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:21
保田以下三機は、内界への帰途に就いている。
縦隊は先頭から <オライオン>、<ユニコーン>、<ハルシオン>。
しかし、どうにも保田のコンソールが冴えない。
原因が辻であることはまたしても明白であった。

確かに、朝早くに出向いてからそれなりに時間は経っている。
そろそろ携行食……、辻の場合はお菓子であろうが、
食べること自体は一向に構わない。自分でも何か口にしようかと思ったところだ。
しかし、その度にジャミングというのは問題であろう。

旧リーダー中澤はハッキリものを言う性分であったのに対し、
保田も飯田も、元来それは得意な方では無い。
しかし、保田とて目下は <マザー> 副長の任、相手がまだ子供であるとはいえ、
さすがに、ここはひとつガツンと言っておく必要がある。
保田は機体後部より辻機に向け、先端が吸盤状になっているケーブルを射出した。

「アンタ、いい加減にしなさいよ!」

しかし、辻からの応答は無い。
……やがて辻との交信をあきらめた保田は、後部から射出した吸盤を収容し、
そのまま機体を横にスライドさせると、縦隊の先頭を <ユニコーン> に譲り、
自機は <ハルシオン> が追いつくまで速度を落とす。

間もなく吉澤が横並びになると、二機は並走を始め、
保田機は側面から先程と同様の吸盤を、今度は吉澤機に向けて射出した。
45  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:23
吸着した装置を通し、少しの間を置いて保田と吉澤の回線が結ばれる。
それは、どことなく玩具の矢を思わせる形状をしていた。
『strings : ストリングス』、通称 『糸電話』 と呼ばれるこの装備は、
通信補助の一手段として、音声のみではあるが、
繋がれた機体間のみでの通信を可能とする。一見原始的であるが、
シンプルであるが故、存外重宝するフューチャーであった。

「また波出してるよね」
「どうしましょう?」
「とにかく辻の動きを止めて、二人で怒鳴ってやろう」

短く言葉を交わすと、<オライオン> と <ハルシオン> は、
<ユニコーン> を挟むように両サイドに移動し、徐々に辻機との間隔を狭め始めた。

「よっすぃ、行くわよ!」

保田のパッシングに、吉澤もパッシングで応答する。
<ユニコーン> をピタリと挟んだ二機は、そのまま <オライオン> を中心軸に、
時計回りに回転を始めた。

「吉澤、行きます! どおりゃあぁぁぁぁ!」

男前な吉澤の掛け声と同時に、
やおら発動した <ハルシオン> の特殊機能 『フェイズ・ディメンション』 は、
壮絶な土煙とともに、見事 <ユニコーン> を制止させた。
46  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:25
「辻ちゃ〜ん!」
「こら、辻!」

二人の糸電話からの応酬に、
しぶしぶ答えるように解除されたジャミングから現れた辻の顔は、
明らかに寝ぼけている。
よだれの跡と、急な制止により頭から投げ出されたのであろうか、
本人にとっては身に覚えの無いたんこぶに頭を抱える姿は、
妙におかしく、それ以上突っ込む気を失せさせてしまった。

「寝てたの?」
「……へい? ……いてててて」

事の真相は、操縦をフルオートにして眠りに入った辻の、
無意識の操作によりジャミングのスイッチが入ってしまったということらしい。
なんとも間抜けで平和な光景に思えるが、そもそも眠っている人間が
どうすれば器用に間違えてジャミングを ON に出来る?

「……ねてないもん」
「(クスクスクス……)」
「……辻、シッ! 静かにして」

まだ眠気を残しながら強情を張る辻の、
可愛らしさ、間抜けさ、憎らしさをない交ぜにしたような顔に、
吉澤は笑いを堪えきれなくなってしまったが、改めて帰途に就こうとする一行に、
回復した回線から聞こえてくる情報はひどく気になるものであった。
47  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:27
『S……SOS……、……SOS……、……SO』
「SOS……?」
「……間違い無い、<レストレス> からだわ」

機械的に発信されている救援要請は、
既に発信主が無事ではないことを物語っている。
保田の脳裏に一瞬、あの実直な士官の顔が浮かんだ。

『……こちら 『プリンス・フォートレス』、……至急応援求む!!
 こちら 『プリンス・フォートレス』……』
「……おーえん?」

通信が錯綜している。内界からの発信は警備隊からのものであろう。
その声は鬼気迫るものとなっていた。

「『プリンス・フォートレス』 って言ったら、みんなは!?」
「分からないわ。……でも、とにかく急いで帰らなくちゃ。
 アタシと辻もこのまま続くから、よっすぃは先に飛ばして。
 でも 『ディメンション』……、無理しないでね」
「分かってるよ、……圭〜ちゃん!」

モニター越しの吉澤は、そう言ってニッコリと微笑むと、
保田のお株を奪うウィンクをして見せた。
48  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:29
収束するサーチライトを目標に集まるホバーの群れは、
群れ集まる蛾を思わせた。飛び交う蛾の群はまるで交尾をしているかのように、
崩れた内壁の跡に、修復の為の原液の結晶膏を放ち続けている。
それは、比較的短時間で凝固するのであるが、
内壁のダメージは、その時間にさえ猶予を与えない危機感を孕んでいた。

「キャッ!」
「石川、こっち!!」

時折崩れ落ちる結晶膏の破片が、あざ笑うように石川と飯田に襲いかかる。
あれだけあった人の往来が、既に一切の姿を無くしていた。
皆、日頃の避難訓練が行き届いているたまものなのであろうか。
素の姿に戻った街並みは、整然としたグレーのスクエアで組み上げられた、
無機物のモニュメントを思わせ、そのトーンがどこか鬱々とした気分にさせた。

建物という建物の窓やシャッターはかたくなに閉ざされ、
どこにも二人に逃げ場を与えてくれない。
低く、固く、身を潜めているかのような街並みの中を、
相次いで寸断するように封鎖された区画や路面の、
その為に迫り上がった巨大な鉄壁が、
難儀な障害物として石川と飯田の前に立ちはだかっていた。

「全然通じないんです……」
「通信管制が布かれてるんだよ、……そこ曲がろう」
49  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:31
どこにも通じない石川の携帯端末は、空しく待受状態に戻る。
障害発生自体は、二人にとってはそこまで珍しいことでは無いが、
内壁が崩れてくるような事態は、そう滅多にお目に掛かることでは無い。
時に石川の手を強く握る飯田の目は、先を見据えてはいるものの、
ドックまでの道のりはまだまだ遠かった。

「石川ゴメンな。厄介なことに巻き込んじゃって」
「えっ!? ……そんなこと、
 それより、飯田さんはいつからあの場所のこと知ってるんですか?」

飯田とて被害者であろう。それに、自分もあの眺望に感動した口だ。
謝罪などされれば却って困ってしまう。

「かおりの秘密の場所? あそこはねぇ…… (うわっ!?)」
「キャッ!」

大きな破片であった。突如崩れ落ちる残骸に、強烈なホバーの風圧。
飯田は石川を抱きかかえるようにして、
封鎖の為の巨大な壁に、体ごと叩き付けられた。

「……痛たたたた」
「……飯田さん、……血!?」

石川は息を飲んだ。
うつむき加減に唸っている飯田の額から、赤い糸が滴っている。
50  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:33
「飯田さん……」
「……大丈夫、……急ごう」

切れた額より、打ち付けられた背中の方が痛いのであったが、
今にも泣き出しそうになっている石川を不安にさせないように、
絞り出すように言葉を発した飯田は、よろよろと立ち上がると石川の手を引く。
石川は半泣きになりながら、自分のハンカチを飯田の額に当てる。

「参ったね、……ありがとう。でもハンカチ血だらけになっちゃうよ」

自分でも不思議に思えるほど落ち着いていた。
どうやらパニックのモードに入る様子の無いことを自覚した飯田は、
微笑みまで浮かべて、石川の涙を拭ってやっていたが、
要求に応えることの出来なかった端末が、突如シグナルを発し始めた。

「石川!」
「(!) ……<マザー>!? 中澤さん!?」

手に取った端末からは、竜騎兵を誘惑するメロディが流れ出していた……。

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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
                        〜 About aEnergy Fools The Magician
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51  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:35
【 Continued from Op 】

中澤「(ワッハッハッハッハッハッ……)
    ところでみっちゃん、今年もいろいろあったけどな、
    例えば 『くず』 さん。芸人さんでオリコン5位やて。
    みっちゃん的にはどないやねん」
平家「どないや言われても……、
    ええよなぁ、パロディなのになぁ……」
中澤「みっちゃんかて頑張ってるのにな……。
    ええ歌も貰てるのにな……」
平家「なんでいきなり優しいねん、涙出て来るやんか、
    (ウルウル……)」
中澤「せやけど 『くず』 さんは企画性っちゅうこともあるよな。
    ウチとさやかのも、企画っちゃ企画やし、
    どないやろ、みっちゃんにもシャッフル以外のユニット。
    これで自分で、20枚も自分の CD 買われへんでも済むねんで」
平家「(……シクシク) ……裕ちゃん」
52  920ch@居酒屋  2001/12/24(Mon) 05:37
中澤「言うてもな、それかてパロディっちゅうことは承知してな」
平家「パロディ?」
中澤「あっちゃんと二人のユニットやねん、ユニット名は 『ぐず』!」
平家「……もしもし」
中澤「あっちゃんの 『ANEKI (アネキ)』 に、
    みっちゃんの 『MICHI (ミチ)』。
    吉本の芸人さんを、元吉本の二人がパロディ!
    (ワッハッハッハッハッハッ……)
    ほんで、曲名がな……」
平家「誰が 『ぐず』 やねん! 元吉本はあっちゃんだけや!
    結局おちょくっとるだけやろ!」
小川「小川、がんばります!」
平家「小川ちゃん、この姐さんに乗せられてたらアカンで」
中澤「しゃー、コノヤローー!! 次回は 『年内中にもう一本』 予定!!」
平家「なんでファイティング・ポーズやねん! えらいアバウトやんか」
中澤「しゃーないやん、『猪木祭』、ホンマに小川が出えへんかったら、
    ウチが出なアカンねんで、もうなんちゅうか、オ○○ェェェェ!」
平家「汚い締め方すなあぁぁぁぁ!」
53  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:47
中澤「みっちゃん、ハッピー・ニュー・イヤ〜ン!」
平家「何が 『イヤ〜ン』 やねん。
    ……アンタわざとやってるやろ、
    更新年内とか言うて、しっかり年明けてるやないかい」
中澤「……ウチかて小説とか書いてるけどな、
    個人的にはあくまで一介のネタ書きやで。
    せやからネタの一貫として、身を呈してボケとるんやないかい
    (ワッハッハッハッハッハッ……)」
平家「モノは言いようの世界やな」
中澤「せやけど、『猪木祭』!
    秒殺されたみっちゃんはアレとして、
    圭坊のギロチンチョーク! ウチはメッチャ感動したで」
平家「誰が 『秒殺』 やねん!
    そのネタは何処でも激しく既出やんか!」
中澤「さよか? ほな、ウチの愛しい矢口の話はどないや」
平家「どないや言われてもなぁ……」
54  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:49
中澤「最近、汚れ役にも強なってる矢口やねんけどな、
    その分、露出とかも目に見えて増えてへん?」
平家「『Mステ』 とか 『とくばん』 の話な」
中澤「それが嬉しいちゅう人も、
    世の中にはようさん居るとは思うねんけど、
    ウチはそこがごっつ心配やねん」
平家「何の心配やねん?」
中澤「エスカレートしてたら恐いやん。
    このまま段取り間違うて 『衝撃のスッポンポン』 とかやってもうたら、
    放送事故で済む問題ちゃうで、ウチはどないしたらええねん!
    (ワッハッハッハッハッハッ……)」
平家「またアホなこと言うとる」
矢口「そんなことしないもん! ……裕子のバカ〜〜!!」
平家「矢口走って行ってもうたやないかい」
中澤「矢口可愛いなぁ…… (ウルウル……)」
平家「なんで感涙やねん」

                                       【 Continued on Ed 】
55  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:51
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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
            〜 Now episodeEnergy Fools The Magician
                                     【 Duty execution : 03 】
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「生きとるか、石川? かおりも、無事か?」
「中澤さん! 飯田さんが、飯田さんが……」
「大丈夫だよ、落ち着きなって」

開口一番、生きているかと言うのも随分なご挨拶であるが、
石川にとってその声は天啓にも等しい響きであった。

嬉しさのあまり、せっつくようにまくし立てる石川の肩に、
飯田はそっと手を置くと、穏やかに石川を鎮めようとする。
しかし、大丈夫とは言うものの、額をつたう赤い糸は相変わらずであった。

「そっちはどないになっとる?」
「都市機能が麻痺。街中は封鎖。
 内壁が崩れて来ててね、修復のホバーが飛び回ってる。裕ちゃんの方は?」
「管制布かれてるやん、内も外もよう分からへんねんで、
 ポッド飛ばして諸々探っとったらラッキーやったね、
 二人を引っかけることが出来たわ」
「中澤さん! 飯田さんがケガ……」

二人のやり取りに、前にのめるように石川が割って入った。
56  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:53
「いいから落ち着きなさい、ウッ……」

滴る血が目の中に流れ込んだ。
興奮していた石川は、それを見て我に返ったのか、
不意にテンションを下げると、
飯田の色に染まったハンカチを、かいがいしくその目元にあてる。

「他に誰か居るか?」
「ウチらだけだね、取り残されちゃったみたい」
「キャッ!」

再び破片が降り注ぐ。飯田は石川をかばうように抱きかかえると、
二人は出来るだけ壁際に身を寄せた。

「よっしゃ! 二人ともそこから動いたらアカンで。
 コントロール・ルームだけは非常管制の外やねん。
 すぐに救援のホバー要請するさかい、辛抱しててや」
「了解。裕ちゃん……大好きだよ!」
「……何言うてるねん」

照れたのであろうか、中澤の言葉が一瞬別人の声に聞こえた。
57  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:55
< MOP-09 Halcyon : ハルシオン >。
吉澤の専用機は MOP シリーズ中、トータル性能において、
最もバランスの取れた機体である。
搭載された 『フェイズ・ディメンション』 は、自機を自身の波動周期に同化させ、
基本物理量の限界を超越する特殊機能であった。

これにより、<ハルシオン> は陸上タイプの機体であるにも関わらず、
機動性では航空タイプの機体を凌ぐ性能を発揮することが出来る。

そして、『フェイズ・ディメンション』 は 『評議員』 のテクノロジーでは無く、
この世界に遺されたテクノロジーを結集した人類の意地とも呼べる技術であった。
しかし、それ故かパイロットに強いる負担も過大であり、
一時期吉澤のウェイトが増していたのは、それが一因とも言われている。

「わっ!? 何……?」

保田、辻に先駆け、件の現場へ到着した吉澤の視界に、
不可思議な物体が姿を現し始めた。
それは全身から光を発し、巨大な人の形をしている。

人の形と言っても外郭すべてが光っているだけという、大きな光だけの射影、
生命反応らしきものは検知出来ないのであるが、
見える限りの印象では、紛れもなく生物であった。
58  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:57
内界を取り巻くように散会する警備隊も、決め手を欠いているのであろうか、
牽制を見せつつ、それ以上動けない様子であった。
そして、さらにその周囲には座礁した軍艦が散在している。

「これって……」

その姿は、まるで果汁を搾り取ったフルーツを思わせ、
ボロボロになってしまった船体表面は、かつての時代に怪異現象と呼ばれた、
体の中身を吸い取られた動物達の遺骸のようでもあった。

「こちら <マザー・オブ・パール> 所属 <ハルシオン>。
 応援要請により任務を遂行します」
「こちら警備隊旗艦 < Valorous : バロラス >。
 <MOP> の方ですか、ご協力感謝します」

勇名を馳せる <マザー・オブ・パール> である。交信先からは歓声が聞こえた。

吉澤のゴーグル内に示されているアラートには、
この光の巨人が目指すであろうターゲットが示されている。
警備隊が必死になって守ろうとしているモノ、
それは、内界のエナジー・プラントであった。

内界を構成する各種建造物は、半地下よりも下方に広がる都市部と、
通常上方に造られていることの多い基幹部から成り立つ。
とりわけエナジー・プラントは、内界の心臓部に当たり、
このコアが機能を停止すれば、それは即ちその内界の死を意味することとなる。
59  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 03:59
流れるように躍り出た <ハルシオン> は、
パルス・レーザーを照射するが、巨人には無効であった。
続いて多弾頭ミサイルを発射するが、これも効果が見られない。
それは、固さの前に歯が立たないというより、吸収されているようであった。

「通常攻撃が効かない?」
「我々も苦慮中です。この光体が出現した時は……」

<バロラス> からの報告によれば、
―― 出現当初の光はここまで巨大では無かった。
内界近郊に突如出現した謎の光体は、エナジー・プラント・コアに向けて接近。
異常事態に発進した警備隊の艦砲射撃により、一旦は放逐に成功。

しかし、この時点での光は、攻撃を避ける傾向にあり、
回避された攻撃は内界上壁に着弾。
これにより、都市部は内壁破損、生命維持機能低下等の被害が発生。

やがて姿を消した光体は、今度は艦艇の後部、主に機関部に対して出現。
エネルギーの吸収を始め、被害を受けた艦は周知の通り座礁。

奪ったエネルギーにより自己を拡張しているのか、現在は人型となり、
通常の攻撃は一方的に吸収。
再び、エナジー・プラントに取り付こうとしている。 ――
60  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:01
報告を受けた吉澤の口調が、厄介な事態に険しくなる。

「じゃぁ、『ディメンション』 で行く手を阻むしか……」
「気を付けて下さい。取り込まれたら終わりです」

既に攻撃をかわす段階から、
吸収する段階に移行している光の巨人には、通常の攻撃が通用しない。
だとすれば、接近して対抗するしか手だてが無いであろうが、
闇雲に突撃したところで、待っているのは返り討ちとなり座礁した姿である。

運動神経には自信のある吉澤であった。
<ハルシオン> は果敢に跳躍から体当たりを敢行し、
アタックと同時に 『ディメンション』 を発動することにより、
コアに迫る巨人を弾き、その進行を食い止め始める。
しかし、これを無制限に続けることが不可能であることは、
誰よりも吉澤本人が最も自覚していた。

『フェイズ・ディメンション』 が自身に強いる負担。
別れ際に保田はそのことを気遣ってくれたのだが、
やはり安穏としている訳には行かず、吉澤は無理を承知でここまでを急いだ。

しかし、その代償は肝心の場面でその発動数に制限を与えるほどの、
身体へのダメージの蓄積である。
<ハルシオン> 自体が平常なだけに、悔しい気持はひとしおであった……。
61  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:03
中澤が掛け合ってくれたおかげであろう、
補修とは任務を異にするホバーが新たに飛び交い始めると、
その内の一機が、壁際に待避する飯田と石川を発見した。

しっかりと抱き合ったままの二人は、
そのままホバーに収容されると、一路ドックを目指したがそこはマシンである。
人の足とは比べるべくもない走行性能は、
ゲートまでの道のりを、素晴らしい速度で走破した。

「済みません、私たちはここまでですが、……お気をつけて」
「ありがとうございました!」

ドックは外界とも直接通じているため、
各種有害物質の侵入から内界を護る必要上、
都市部とを隔てるゲートと、停泊している各艦を結ぶ道は、
個別に延びるチューブを通して往来が行われる。

チューブと言っても、小型の車両ほどであれば通行も可能な大きさである。
こんな時の間口はやけに大きく見え、入場をためらわせるようにさえ感じられたが、
市街へ降り立つ時とは違う、ひどく緊張した気持が二人の背中を押した。

「石川、<マザー> に戻ったら、かおりのことはいいから、
 裕ちゃんの所へ向かって」
「でも、傷の手当てとか……」
62  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:05
流血は次第に収まっていたが、
黒み掛かるように変色して凝固した血の跡が痛々しい。

「自分でやるから大丈夫。
 それより石川が <マザー> 動かさなかったら、裕ちゃんが動かしちゃうよ」
「……そうですね、分かりました」

中澤は、母艦の航術・戦術のどちらも執ることが出来るが少々手荒い。
しかし二人が戻ったことを確認すれば、自分で発進してしまうであろう。
石川はどうせ手荒いことになってしまうのであれば、
航術は自分で担当することに同意した。

自然と早足から小走りになっていた二人は、
近寄り過ぎたなら、全体の形など把握することが出来ないほど巨大な艦体の、
側舷に接続されたチューブから飛び込むように帰還を果たすと、
休む間もなく二手に分かれた。

「裕ちゃんが暴走しそうになったら頼むよ!」
「はい!?」

大声を上げた飯田の言葉の語尾が少し聞き取れなかったが、
振り向いた時にはリーダーの姿はどこにも見えなくなっていた。
63  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:07
「中澤さん、ありがとうございました」
「かおりの方は大丈夫か?」
「飯田さんは自分で手当するから大丈夫だって、
 私には <マザー> の操縦を頼むって……」
「さよか。ほな航術は石川に任せるで」

案の定、中澤は自分でスタンバイを始めていた。
おかげで石川が席に就く時点では、すぐにでも発進出来る状態になっている。

「あの、外界はどうなって……」
「上、見てみい」

ブリッジの大画面パネルには、巨大な人型の光と、
それを取り巻く警備隊の艦艇、そして今や唯一の頼みである
吉澤の <ハルシオン> が闘っている姿が鮮明に映し出されていた。

「石川達と連絡取れてからな、
 ここのコントロール・ルームと改めて話ししたんよ。
 相変わらずとぼけてるみたいやってんで、
 しゃーないから、録音してた二人の声を聞かせてやってな……」

興奮がよみがえってくるのであろうか、
中澤の顔が若干上気しているように見える。
64  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:09
「『ウチらかて自分達のライブ会場守る権利は有る!』
 『まだ、他のメンバーが中に居るねんで!』
 言うて迫ったらようやっと分かってくれてな、
 これ、外向けの中継やろ? せやけどこっちにも回線よこしてくれた訳や」

最近では優しいとは言え、そもそも 『弱肉強食』 がテーゼの中澤である。
食って掛かる最中は、さぞ凄まじい剣幕であったろう。
その姿が浮かんでしまった石川は、思わず首をすくめた。

民間の所属である <MOP> が応援要請に応えた場合、
そこには協力した謝礼として、決して安いとは言えない費用が発生する。
内界上層部は <マザー> への直接の要請を、
その為に敢えて拒んでいたというのは邪推であろうか。

とは言え、中澤にはこの際金銭云々などという話は全く念頭には無かった。
この先、内界と本部が行うやり取りこそ自分には関知しない部分であり、
それよりも、独自に調査・収集した内容から鎌を掛けた面こそ否めないものの、
純粋にメンバーを案じる気持が、
本気のやり取りとして表出したであろうことは、想像に難くない。

「吉澤かてあのままやったら持たんわ。
 ……行くで石川。<マザー・オブ・パール> 発進!」

ドックを後にするブリッジで、中澤は再び管制室に回線を繋ぐと素早く敬礼をした。
65  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:11
「ダメだ、全然開かないや」

五人の閉じこめられた部屋は、
時折照明が復調する以外、相変わらずの不調を託っている。
その照明でさえ、点灯したと思えばすぐに消えてしまう始末であった。

そんな中でも、一人動ぜずと言った風情で食べ続ける安倍を見て、
矢口は後藤と顔を見合わせる。
喧嘩を演出している訳では無いので、
目と目が合った時に吹き出すことは無い。

「これ <ハルシオン> じゃない?」
「ホンマや、よっすぃや」

ホログラフ装置の不調に、あれこれ操作を試していたミカと加護は、
しかし、それに拘ることはしなかった。

「それって圭ちゃんに改造してもらったヤツ?」

ミカの言葉に反応した後藤が、二人のもとに歩み寄る。
加護の手に握られた端末は、
ピンク色の本体に自分で貼り付けたのであろうか、
多少貼る角度の歪んだネコのマスコットが、部分的に顔を覗かせていた。
66  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:13
おばちゃんとは言いながらも、決して保田を嫌っている訳では無い加護は、
一緒に TV を見るなど、その行動自体は普通に気さくな仲である。

加護の端末がどういう経緯で保田に預けられたのかを知る由は無いが、
メカニックである保田から返された端末には、気の利いた仕掛けが施されていた。

加護は壁まで行くと、ホロの装置から延びた線のコネクタを外し、
自分の端末から改めてするすると細いコードを伸ばすと、
本来は合致することのない、形状の違う端子に器用にコードの先を固定させた。

そして、ひとしきりチューニングを合わせた末、端末に映し出されたのは、
多分にノイズが酷く、見続けていると極度の疲労を招くような画質であるが、
どうやら外界の様子であった。

そこには、全身から光を放つ謎の巨人と、勇敢に攻撃を仕掛ける一機のマシン、
その特徴的な動きは、すぐに吉澤であることが判別出来た。

「このモンスターが原因でウチら閉じこめられちゃったのかな?」

いつの間にか、二人に覆い被さるように見入っている後藤が疑問を呈した。
その言葉を聞いた安倍が、口を動かしながら無言でうなづく。
なんとも言いようのない、おかしな貫禄が可笑しくなり、
後藤はつい吹き出してしまった。
67  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:15
「ちょっと、ごっちん……、わあぁぁぁぁ!!」

突然の悲鳴に、一同の視線は一斉に矢口に集中した。
なんとかして扉を開くことに頭が一杯になっていた矢口は、
自分に寄り掛かる大きな体に、
その大きさの割には妙に軽いことを疑問に感じながらも、
それが後藤であると信じて疑わなかった。

しかし、振り向くとそこには大きな熊の姿。
しかも顔は怒り笑いである。
しげるは、デモノイドであるが故、
ある程度体格を変化させることが可能であった。

たまには大きい状態のしげるを抱いていることもある矢口であったが、
ぶしつけな巨大化と、恐い笑い方には正直たまげてしまった。

「ビックリしたぁぁ……、もうこれで気が済んだでしょ」
「うっス!」

逆襲に成功したしげるは、安倍に親指を立てて見せる。
そのサインを受けた親方は、なおも口を動かしながら無言でうなづく。
矢口は大きな溜め息をつくと、
諦めたように端末を見つめる三人の方へ歩き出した……。
68  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:17
「ショックカノン、全門斉射!」
「<マザー>!?」

自身の攻撃に神経を集中していた吉澤は、
その攻撃で、対峙する巨人越しの遠方に見える母艦の姿に気付いた。

<マザー> は、プラント・コアに向かう巨人の背後に、左舷を正面として位置すると、
中澤のオペレーションのもと、幾重もの光束を一斉に放ったが、
それは何事も無いように巨大な光の中に吸い込まれて行く。

「ホンマえらいやっちゃな、まるで手品師やで。
 (ワッハッハッハッハッハッ……)」
「中澤さん、笑ってる場合じゃ無いですよ!」
「<マザー> の主砲やで、攻撃力は <ハルシオン> より全然上なはずやねんけど、
 やっぱりアカンか……、吉澤無事か?」
「えぇ、おかげさまで……」

回線を繋いだ吉澤の言葉尻は、疲労の色を隠せない。
『ディメンション』 を発動する限界が近付いていることは明白であった。

「ヘタにアンカー打ち込んでも、今度はプラントが危険やしな、
 ……どないしたもんやろか?」

アンカーは精細な制御が出来ない。故に巨人に絡み付け引き戻すという方策は、
プラントを破損させる危険性の方が大であった。
思案する中澤をよそに、巨人はゆっくりとコアに向けての移動を続けている。
69  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:19
「くっ!」

母艦による背後からの攻撃にも、全く動じる様子を見せず、
いよいよプラント目前まで迫り来る巨人に、
吉澤は 『フェイズ・イリュージョン』 を発動してみるが、
これは 『ディメンション』 ほどの効果を発揮出来なかった。

『イリュージョン』 とは原理的に 『ディメンション』 と同じであり、
基本物理量を超越する際のエネルギーを、段階的に減衰させることにより、
分身状の幻影を作り出す 『ディメンション』 のバリエーションである。
自身に対する負担は低くなるのであるが、その分、当たりも弱いのであろう、
目の前の相手から芳しい効果は得られないようであった。

巨人の手はいよいよプラントに掛かろうとしている。
吉澤は気力を振り絞り、執念の 『ディメンション』 を発動した。

「わっ! …………」

その一瞬、吉澤本人にも何が起きたのか判断出来ない衝撃がマシンを襲う。
無情にも最後の一撃は巨人の勝ちであった。

まばゆい光の一振りに弾き飛ばされた <ハルシオン> は、
大きく弧を描いて宙を舞うと、大地に半刺しになるように落下し、
吉澤から母艦への応答はそのまま途絶えた。
70  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:21
一路内界を目指す <オライオン> と <ユニコーン>、
そのコックピットの中、保田の表情は今一つ冴えないものであった。

救援と応援……。

あの時、錯綜する通信の二者択一で、保田達は応援を選択した。
<レストレス> 隊の SOS が気にならぬ訳では決して無かったが、
例えレスキューに向かったところで、
この三機だけでは満足な活動が行える訳でもなかろう。

<レストレス> の実直な士官の顔が不意に目の前をよぎる。
しかし、応援要請の先には自分達の仲間が、
少なくともまだ無事でいるのである。
保田は自分の行動を納得させようと、あれこれ思いめぐらせていた。

"こちら 『プリンス・フォートレス』。
 現在応戦中、至急応援求む。こちら……

うつむき加減の眼前に、応援を要請するための中継画像が飛び込んで来た。
ようやくここまで漕ぎ着けた。現場まではもう近い。

思い悩む思念は一旦封印され、
保田はゴーグルの中の映像を食い入るように見入った。
71  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:23
<ハルシオン> を駆り、単身気を迫く吉澤の姿は、
しかし、もはやそれほどの猶予が残されていないように思える。

「やっぱり 『ディメンション』 使い過ぎたのね、よっすぃ大丈夫かしら……、
 辻ももうすぐだからね、準備してなさいよ」
「へい!」
「(プッ!) ……アンタは本当に」

サブモニタの辻は、すっかり元気であったが、
食い入るように見入るというよりは、まんまお菓子を食い入っている。
腹が減っては戦が出来ぬということか。

「あっ!?」
「よっすぃ!!」

頬を一杯に膨らませたままの辻が、大きな声を上げる。
その驚きようは、危うく口の中のモノを吹き出してしまうところであった。
同時に息を飲んだ保田の目の前で、
<ハルシオン> が、弾かれた白球のように大きな弧を描きそのまま落下して行く。

「よっすぃ……。辻、もう少し速度上げられる?」
「へい!」

<オライオン> と <ユニコーン> は、限界まで速度を上昇させた。
72  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:25
「よっすぃ! よっすぃ!
 ……<ハルシオン> と連絡取れません」

石川が青ざめている。その顔を他人事として見ることが出来るのなら、
額から目にかけて、縦線が引かれたように見える、
絵に描いたようなリアクションに可笑しくなってしまうであろうが、
事態は急を要している。
昼行灯を発揮し、呑気に構えている暇はどこにもあるはずが無い。

「大丈夫やて。
 吉澤、『ディメンション』 乱発してたやろ。気い失ってるだけや。
 そもそもな、<ハルシオン> のパイロット保護機能は特上やで、
 アカンことあるかい!」

……そう願いたいものであった。
とは言え、吉澤機が離脱してしまった現状に、
警備隊同様 <マザー> も軽率に手出しをすることが出来無くなっている。

そうこうしているうちにも、
ゆっくりと、まるで余裕を見せているかのように動いていた巨人が、
とうとうコアに取り付いてしまった。
衆目の中で、その光の強さはみるみる増して行く。
73  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:27
「プラントが!」
「……プラントちゅうもんは、
 五分や十分でお陀仏になるほど柔とちゃう。
 せやけど、その間になんも出来へんかったら……」
「そんな……」

渋い顔をしている中澤に、石川が悲しい視線を向ける。
苦い一瞬が経過すると、出し抜けに大画面パネルの映像が切り替わった。

「ブリッジ! かおり出るよ」
「飯田さん!」

パネルには、頭から額にかけて包帯を巻いた飯田の顔が大映しになっている。
額の包帯には前髪が枝垂れ掛かり、それが何故か格好良く見えた。

「傷の具合はどないや?」
「あんなのへっちゃらだよ。それより、<アイアン・デューク>。
 スピード出ないから <マザー> を先に接近させてて」
「了解。……飯田さん、気を付けて」
「おぅ! 任せとけ!」

飯田の口調は、どこかおどけるように聞かせているが、
その裏側に、ある種の悲壮感が見えていることは、
ブリッジの二人も承知していることであった。
74  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:29
石川のコンソールに GO サインが点灯する。

「<アイアン・デューク> 発進 OK です」
「かおり、頼むで」

固唾を呑むように見守るブリッジの二人を遙か上方に、
巨人に向けて前進する母艦の側舷が開かれると、
滑り出すように、大きな箱型のマシンが姿を現した。

< MOP-05 Iron Duke : アイアン・デューク >。
MOP シリーズ中最大のパワーを持つ飯田の機体は、
基本的に巨大な人型であるが、<マザー> 格納時及び自身の移動時は、
全ての突起部が折り畳まれたキューブ状となる。

また、この形態時では防御力も最強になるため、
その活動時に於いて、敢えて人型を採らないこともままあった。

どちらかと言えば、
汎用土木マシンとも呼べる <アイアン・デューク> ではあるが、
多彩な運用性と、その固さは戦闘時にも頼りになる存在であり、
自身がリーダーとなってからの <アイアン・デューク> は、
より一層頼もしさが増したようにさえ思える。
75  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:31
しかし、その飯田にとっても、
相手が巨大な人型であるというケースは前代未聞であった。
しかも、よりによってこれから格闘を挑もうとしているのである。

巨人をコアから引き離さなければならない……。
いつの間にか重大な使命を背負ってしまった飯田は、
プレッシャーなのであろうか、唇の乾きに舌を出すと、
次いで、思い出したように掌に 『人』 の字を書き、それを飲み込む仕草をした。

「よっしゃ!」

気合の入る時は、何故か中澤の口調がダブってしまう。
そんな自分に、妙な可笑しさを感じてしまったが、
飯田はブリッジには聞こえない程小さな気合を入れると、
箱型の機体は人型へと変型を始めた。

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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
                        〜 About aEnergy Fools The Magician
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76  920ch@居酒屋  2002/01/06(Sun) 04:33
【 Continued from Op 】

矢口「裕ちゃんのバカ〜〜! (カプッ!)
    ……裕ちゃんは塩味」
中澤「矢口〜〜! (チュッ! チュッ!)」
(キャッキャッ!)
平家「結局じゃれ合うとるやないかい」
中澤「今のウチにとっての 『モーニング娘。』 はな、
    『母性愛』、……ちゅうか 『人間愛』 やね。
    せやけど人間だけとちゃうで、
    ウチはな、例えみっちゃんが猿やっても愛する自信はある!」
平家「(ウルウル……) モキー! 裕ちゃん、モキキキ……、
    ……って、誰が 『猿』 やねん!」
中澤「『猿』 はアカンかった?
    せやったら、『類人猿』! ……『ドテチン』 みたいなとこやね。
    ……みっちゃん、フルーツ噛み砕いてお酒にしてちょうだい」
平家「『はじめ人間ギャートルズ』 かい!」
中澤「(ワッハッハッハッハッハッ……)
    ……さて、最近の予告はどこかのゲーム並みに、建前だけですねんけど、
    一応次回は 『2002, 1/20 (日) 未明』 予定です。
    みっちゃん、カウント過ぎてもダジャレ言われへんかったらお尻に電撃やで」
平家「『ダジャレ人間ゴン』 かい!」
77  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:18
中澤「あんな、これ更新してへん間も世の中はいろいろ動いてるなぁ」
平家「ホンマやね、ちなみに裕ちゃんやったら話題は何?」
中澤「そんなん決まってるやん、『平家みちよ更迭』!
    みっちゃんに泣かれたら恐ろしいで、……耳取られるもんな
    (ワッハッハッハッハッハッ……)」
平家「誰が 『耳なし芳一』 やねん!」
中澤「まぁな、このトピックが来たおかげなんかな、
    例の話は案外平穏に通過したみたいやね」
平家「『例の話』って、矢……」
中澤「(ゴホン!) ……今更ええやん。
    ところで、『モーニングコーヒー (2002version)』。これも何かと話題やね」
平家「なんでこの特別な曲を……、っちゅう意見とかな」
中澤「OッK やん! 『モーコー』 パワーポップ・ヴァージョン!
    ウチにはジョニー・ロットンの声まで聴こえてきたで」
平家「……とっとと医者へ行き」
中澤「せやけど 『モーコー』 言うたらこれに先立って重要なんが他にもあるやろ」
平家「……何? 何が先立ってるねん?」
中澤「めっきり話題にも上らへんのが悲しいとこやねんけど、
    『カバー・モーニング娘。!』 中の 『SHAKATAK』 のカヴァー!
    (ワッハッハッハッハッハッ……)」

                                       【 Continued on Ed 】
78  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:20
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            〜 Now episodeEnergy Fools The Magician
                                     【 Duty execution : 04 】
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「<ハルシオン> やられちゃったね……」

吉澤の行方を目で追っていた後藤は、
弧を描いて落下する機体の軌跡にシンクロするように、
力無く加護の上腕を抱えると、
端末を握るその腕はかすかに震えているように感じられた。

一撃のもとに弾き飛ばされ、
大地に突き刺さったまま動かなくなった吉澤の機体を見守る四人は、
一様に声のトーンを下げている。

「ヤバイじゃん、この巨人このままじゃ……」
「コアに取り付くべ」

画面が一切見えていないはずの安倍は、しかし四人の会話から察しているのか、
頑なに食のペースを崩さないまま、矢口の声に言葉を繋いだ。

「だって、取り付かれちゃったら、誰も止められなかったら……」
「内界は終わりですね」
79  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:22
低いトーンではあるが興奮気味の矢口に、ミカが冷静かつドライに答えた。
親方はその言葉を聞いて、口を動かしながら大きくうなずいている。

「なんだよ、オイラ達はこのまま何も出来ないのかよ……」
「内界を食らうなんて、大したヤツだべ」

まったりとした安倍の言いぐさは、
食いしん坊同士が大食いで張り合うつもりなのであるかのように聞こえたが、
誰からも笑い声は起こらない。

不調を託っていた室内照明は完全に沈黙し、
親方の取り出した照明と調理器のみが稼働しているという状態は、
皆の不安な気持を象徴するようであった。

「みんな、元気出すっしょ。
 まだまだ肉はあるべ、とにかくこっち来て食うべサ」

本陣のような安倍の背後は相変わらずの壁面を形作っている。
親方の無茶苦茶な注文は、こうなってしまうと結果的ではあるが、
気を紛らすには十分過ぎる程の量の肉を確保していたことになる。

確かにこれでは自分達にはどうすることも出来ない。
四人としげるは、すごすごと自分の席に就くと、無言で箸を取り直した。
80  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:24
「<マザー> も出てるっしょ?
 したら絶対なんとかなる。ウチらはその時に備えて腹ごしらえしとくべ」

腹ごしらえ……。その胃袋は別の次元にでも通じているのであろうか。
すっかり暗くなってしまった四人に対して、
泰然としている安倍からのみ、それほどの深刻さは表出していない。

後藤はその姿に、大人になった親方を改めて見直してしまいそうになったが、
何も考えていない可能性も十分にあるので、その考えは一旦保留することにした。

うつむき加減に再び食べ始めたメンバーに、
安倍は、まるで他人事といった様子で、絶えず視線を各人に向けている。
食事の席はすっかり静まり返っていた。

「最後の晩餐……」

ポツリとつぶやいたしげるの頭を矢口の鉄拳が見舞う。
涙目になって頭を抱えたしげるが、
助けを求めるように加護のもとへ近寄ろうとすると、加護は突然目を丸くした。

「どしたの、加護ちゃん?」
「<アイアン・デューク> や」
81  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:26
箸をくわえたまま、突然動きの止まった加護にミカが問い掛けた。
親方以外のメンバーが静かになってしまった一因には、
この酷い画像による疲労も考えられるかも知れない。

時折、自分達の振り付けにでもあるような寄り目をしたなら、
別の絵でも見えてきそうになる携帯端末が伝える映像には、
巨大なマシンが箱型から人型に変型しようとしていた。

ミカと加護が互いに頬を合わせるように画面に見入っていると、
矢口と後藤も皿と箸を持ったまま、二人の背後にやって来た。
あまり行儀の良い行動では無いが、いつの間にか腹は空いていたらしい。

「戻ってたんだ、かおりとりかちゃん」
「……格闘戦に持ち込むのかな」
「でも、そんなの今まで見たこと無いじゃん」

ことの成り行きに、思わず箸と皿をテーブルに置いた矢口と後藤は、
いよいよ加護とミカに覆い被さった。
確かに、巨大な人型同士の格闘など前代未聞なのである。

「腰を低く、怒濤の突き押しで一気に勝負を付けるべ」

枡席の解説者になったような安倍の言葉はあまりにもお気楽である。
しかし、矢口からの突っ込みは無かった……。
82  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:28
展開されるキューブは身体を構成する各部と化し、
最後に開いた肩から頭部が現れると、
ゴーグル状の目には波線状のラインが流れる。
ゆっくりと立ち上がる <アイアン・デューク> は巨大であった。

「行くわよ!」

母艦の進行段階から接近していたため、目指す相手は目前である。
コアに覆い被さるように取り付いている巨人は、
近付いてみると、<アイアン・デューク> を以てしても尚、遥かに大きい。
過激な実況で鳴らしたアナウンサーが口角を飛ばしたなら、
さながら 『人間山脈』 対 『燃える闘魂』 と言ったところか。

「おとなしく離れなさいよ!」

鼓動は早鐘を撞くようであった。しかし、躊躇している時間など無い。
飯田は自身の中から一切の交信を締め出すと、
気合とともに光の巨人の胴体部分を抱え込んだ。
<ハルシオン> を弾いた光体は、確固たる物体としてそこに存在している。

「危険です! 取り込まれたら……」

警備隊からの通信にも敢えて答えることはしなかった。
そんなことは百も承知なのである。
プラントに損傷を与えず巨人を引き離すというオペレーションに、
現状での選択肢は <アイアン・デューク> で挑み掛かるしか無いではないか。
83  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:30
もし自機に危険が及べば、『サイコ・ウェーブ』 をお見舞いしてやるつもりであった。
『Psycho Wave : サイコ・ウェーブ』。
とかくパワーに目が行きがちな <アイアン・デューク> はもう一つの特徴として、
思念波を増幅させ対象の動きを制する機能を有している。

ただし、これは操縦者本人の心身のコンディションにより、
往々にして発動結果にばらつきが生じてしまうため、
不確定要素の誘因を考えると、決して使い易い機能とは言えなかったが、
今なら最大限に効果が発揮出来ると飯田は確信していた。

組み付いた巨人の胴体は、
多分にでっぷりとした感触としてマニピュレータからフィードバックされる。
辻と比べたなら、どちらが上であろうか。しかし巨人の様子に変化は見られない。
こちらに気付かないのであろうか。或いは無視しているのであろうか。

飯田は次第にパワーを上げるが、やはり巨人からの反応は皆無であった。
そして、肝心のコアから引き離すことも一向に叶わない。
無視され続ける飯田本人からは、徐々に頭に血が昇り初めているのか、
組み付くまでの緊張感や憂鬱感がゆっくり消滅しようとしていた。

「アンタいい加減にしなさいよね!」

自分を襲って来ない巨人に、恐怖感までも薄くなり始めていた飯田は、
埒の開かない相手から右腕を離すと、その拳にパワーを集中し始めた。
84  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:32
「かおり! 何するねん、ど突く気かい!?」
「引っ張っても動かないんだよ。引いてダメなら押してみるって」

時間の猶予の無いところに来て、この膠着は確かにまずい状況であったが、
中澤には <アイアン・デューク> による鉄拳は、正直なところ反対であった。
……しかし、ここは飯田の判断に任せるしか無い。
衆目の見守る中、飯田機はパワーを乗せた強烈なパンチを繰り出した。

「キャッ!」
「痛あぁぁぁぁい!!」

石川が声を上げると同時に、回線からは飯田の悲鳴が吐き出された。
<アイアン・デューク> の鉄拳が、打ち出したまま巨人の体に突き刺さっている。

「キャアァァァァァ!! 痛たたたたた!!」
「取り込まれてるやないかい! 早よ腕外して逃げんかい!」
「は、外れないんだよ! キャアァァァァァ!!」

<アイアン・デューク> の体は右上腕部までが巨人の胴体に突き刺さり、
気付くと巨人は、体を向き変えないまま正面を飯田の機体に向けている。
それに伴ってか、その体はほんの少しだけコアから離れていた。

「……で、でも飯田さんやりましたよね、プラントから引き離しましたよね」
「言うたかて、このままやったらただの時間稼ぎや。
 まだまだ離さなアカンし、かおりかてなんとかしてやらな」
85  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:34
なんとかポジティブに言葉をしぼる石川に、
中澤の口調は、任務の成功と飯田の状況を天秤に掛けているようであった。
確かに、巨人の体が一旦プラントから離れたことにより、
コア機能停止のカウント・ダウンには待ったがかかった。
しかし、この距離では飯田の機体に決着がついてしまえば、
巨人はまたすぐにでもコアに取り付いてしまうであろう。

「キャアァァァァァ!! 外れないぃぃぃぃ!!」

<アイアン・デューク> は、メンテナンス等のために、
各部位の解体が可能である。腕を外すことも別段造作もないことではあった。
しかし、フィードバックが生きたままの今の状態で腕を切り離せば、
飯田本人に過大な負担と極度の激痛が伴ってしまう。

とは言え、このままでは飯田機そのものが危険である。
痛みを覚悟した上でも早急に腕を切り離したいところであったが、
苦悶する飯田の機体からはその制御自体が完全に失われているようであった。

「痛いって言ってるでしょ!! 痛あぁぁぁぁぁい!!」
「かおり、落ち着き! そないに動かれたら腕に狙いが付けられへん!」

<マザー> の攻撃で腕を破壊出来ないものかと思案する中澤であったが、
固い機体である上、悶え動く <アイアン・デューク> の腕だけに狙いを絞るなど、
等しく無理難題であった。
86  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:36
「キャアァァァァァ!!」

自分達のバラエティ番組で足のツボを押されるのであれば、
泣き笑いで逃げることも可能であったかも知れない。
しかし、目下は非常事態に突入していた。
悲鳴を上げ続ける飯田は、既に半狂乱の怒り泣きになっている。
幾度となく発動しているはずの 『サイコ・ウェーブ』 も、
時折巨人の上体を揺らす程度で、期待したほどの効果は見られていない。

「いいらさん、がんばるれす!」

鬼気迫る状況の中、
巨人と <アイアン・デューク> に釘付けになっていたブリッジの二人の視界に、
突如として小さな機体が飛び込んだ。

「裕ちゃん、石川、聞こえる?
 <ユニコーン> が合体するけど、『デリシャス』 は辻じゃ撃てないでしょ。
 かおり、痛過ぎて気を失っちゃうとまずいから頼むね」
「二人ともよう間に合うたなぁ……、よっしゃ、まかせとき! ……ほな石川」
「……あ、あの、やっぱり歌うんですか?」
「好きな曲でええねんで、その歌声は今このために有る!」

馬鹿にされているようにも聞こえた。自分の歌唱力については自嘲ならまだしも、
人から言われたなら、例えそれが中澤であっても余り気分の良いものでは無い。
石川の頬は一瞬歪んだが、それ以上に飯田がピンチなのである。
ややあったものの、心を決めると石川はおごそかに歌い始めた。
87  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:38
「<アイアン・デューク> もピンチや……」
「かごちん、目真っ赤」
「根詰め過ぎなんでないかい? 目を閉じてゆっくりモグモグだべ」

暗がりに目を凝らす画像は苦行に等しい画質であった。
持ち主は加護であるが故、それまで誰も咎めようとはしなかったが、
気が付いてみると、その黒目がちな瞳は、
いつの間にか耳長の小動物を思わせる色になっている。

後藤と安倍の言葉にうなづいたように見えた加護であったが、
視線は尚も端末の中に向けられていた。

「かおり、大丈夫かなぁ?」
「<オライオン> と <ユニコーン> が到着しましたね」

生来の気質か、沸かしつけている湯のようにどこかせわしなくなっている矢口は、
この場で不鮮明な画像を見つめ続けるだけの自分が歯がゆいのであろう、
さっきからソワソワと落ち着かない。
そして、ひどい画像からでも的確に機体を言い当てるミカは、
破綻を見せない分、より一層矢口を躁状態に映しているようであった。

「あっ?」
「今度は何だべ?」
88  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:40
小さく声を揚げた赤目の加護の表情が曇る。
凝視を続ける目の前でバッテリーが上がってしまった。
確かに、そもそもは携帯機である上、
極端に悪い受信条件のもとで映写を続けているのである。
バッテリーの容量消費は甚大であった。

「これを使うべ」

にわかに眼を潤ませている加護に、
ゴトリと音をたてると、安倍は新たな携行用バッテリーをテーブルの上に乗せる。
どこまで持続出来るかは未知数であったが、
誰もが外界で起こっている事態から目を離せない状況となっていた。

「加護ちゃん、ちょっと貸して」

切れたバッテリーを外し、
その端子を親方から渡されたバッテリーに器用に繋ぎ変えた加護は、
ミカの要求に存外素直に応じた。

渡された端末をあれこれ試していたミカは、
少しして納得したと言う表情をすると、まるで自分の持ち物であるかのように、
貼られた猫の顔の内側に並ぶボタンを操作し始めた。
89  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:42
「出た!」
「ミカちゃん、冴えてるね」

感心している矢口と後藤の眼前に、端末からは模式的な 3D画像が映し出される。
それは、中継画像を解析した上でタクティカルに現場の状況を再構成したもので、
携帯端末故の簡易版ではあるが、
小さな玩具のブロックを並べているような映像は分かり易い上に、
これで加護の目に対する負担も大幅に軽減されることは一目瞭然であった。

「この赤がモンスターで、青が <マザー> と飯田さんとよっすぃやね?」

模式画像は、巨人を赤、母艦と搭載機を青、
そして警備隊他の艦艇を緑で色分けしている。
模式とは言いながら、飯田を表す青い人型のブロックは、
その腕を赤い人型に突き刺し、駄々をこねる子供のように体を振っている。

暗がりに浮かび上がるように展開した画像は、
一見何かのゲームをしているようでもあったが、
それは現在、現場で起こっていることの裏付けなのである。
室内は依然重い空気であった。

「なんでみんな取り巻いてるだけで、かおりのこと助けてあげないのさ!」
「コアが近いべ、それは難しいのサ」
90  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:44
語気を荒げる矢口に、今度はしっかりと画像を見ている安倍が、
咀嚼することを休めずに答えた。

「<ユニコーン> が合体しようとしてるみたい」

後藤の言葉に矢口が視線を戻す。3D 状に示されている青いブロックは、
巨人とプラントの周囲を、様子を伺うように往来する母艦と、
巨人から少し離れたところに距離を置く保田の <オライオン>。

いまだ巨人から離脱出来ない飯田の <アイアン・デューク> と、
いつの間にかその背後に接近し、ジャンプを繰り返している辻の <ユニコーン>。

そして、弾き飛ばされた衝撃で、大地に突き刺さっていることを示すように、
機体斜め半分だけで表現されている吉澤の <ハルシオン> は、
遙か遠方に位置し、その距離は <マザー> と巨人以上かも知れない。

内界周囲に展開している警備隊等の各種艦艇は、
依然ギャラリーにしか過ぎないように当事者達を取り巻いている。

「辻、早く合体しろよ……」

模式画像の上でも如実に表現されている飯田機の動きでは、
それが難儀であることは百も承知であったが、矢口は思わずつぶやいていた。
91  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:46
「ええで石川、その調子や」
「キャアァァァハハハ、何これ!? 痛あぁぁハハハハハ!」

飯田の言動に、『怒』『哀』 の他に 『楽』 が加わり始めていた。
端で聞いていると、いよいよ人格がおかしくなって来ているように思えてしまうが、
気を確かに持ってもらうならそれでも上出来である。
<アイアン・デューク> に合体を試みる <ユニコーン> は、
とらえどころの無い飯田機の動きに、ジャンプを繰り返しているが、
依然不成功を続けていた。

「石川の歌、絶好調やん」
「あ、あの中澤さん……」
「やめたらアカン、辻がまだやねんで」

中澤に促され、やむなく歌うことを再開した石川であったが、
そもそもアカペラである上、さっきから中澤があれこれ加え始めている SE は、
どう聴いてもその歌を滑稽にすることにのみ主眼が置かれているようであり、
歌い続ける気持の中では、自分が何かとても情けなくなっていた。

「りかちゃん、てへへへへへ……」
「笑っちゃダメよ」

確かにこの歌声なら、『サイコ・ウェーブ』 より遥かに強力かも知れない。
辻をたしなめた保田には、石川が必死であることが十分に伝わって来る。
そして、遊んでいるようでいて、実は真摯な中澤の姿も伝わっていた。
92  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:48
「辻、まだダメ?」

問い掛ける保田は、飯田の疲弊がひどくなって来ていることが気が気でならない。
辻の機体は <アイアン・デューク> のドッキング・ベイから発せられる
トラクター・ビームを捉えつつも、苦悶する飯田機の動きによって、
肝心のタイミングで合体のポイントを外してしまう。

それはまるで、獲物の捕獲を何度でも試みる子猫を見ているようであった。
しかし、辻とてプロである。電子的な補正が頼りにならない状況にあっては、
着々と自らの感覚を頼りに、合体のオペレーションを補正していた。

「いまれす!」

スコープが合致するタイミングをわざと外し、何十度目ともなるジャンプを試みると、
引っ掛けるようにトラクター・ビームがその輪郭を光りで包み込み、
<ユニコーン> は <アイアン・デューク> の広い背中の窪み行く定位置に、
ジグソーパズルのピースが埋まるように吸い込まれて行った。

「いいらさん!」
「誰えぇハッハッハッハッハ? ののおぉハッハッハッハッハ?」

笑うという行為は自発的に免疫力を増加させる働きがあるというが、
飯田はよくがんばり続けている。そして、飯田の為にライブを続ける
メイン・ヴォーカルの石川とミキサーの中澤も同様であった。
93  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:50
「『さいこ・でりしゃす』、じゅんびかんりょう!」
「わっ、わかった、『サイコ・デリシャス』 発動ハッハッハッハッ……」

飯田の笑い声は力無くすり切れていた。
三つの感情表現を一気に表出し続けていたのである、もはや限度いっぱいか。

<アイアン・デューク> のボディは右腕から既に半身までが、
巨人の浸食により座礁した軍艦と同様の状態になっている。
飯田の機体は、その干からびた腕の直線上に顔を向けると極彩色の光を発した。

『Psycho Delicious : サイコ・デリシャス』。
飯田機と辻機の合体により発動される光波は、
別名 『アシッド・ウェーブ』 とも呼ばれ、音響兵器の一種であるのだが、
極度に身体に悪そうな色彩の可視光として発現されるという特性を持つ。

『サイコ・ウェーブ』 との最大の相違点は、
共振による破壊を主としている点であるが、
安定した発動効果も重要な要素であり、その引き金は飯田の機体が握っていた。

これは、扱いを間違えれば非常に危険な威力への安全弁であるのだが、
飯田にとっては、今ほどこのトリガーをもどかしく思ったことは無いであろう。

「効いてるで、『バッド・テイスト』!」
94  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:52
『サイコ・デリシャス』 をまともに浴びた巨人は、
突如として驚愕したかのように動き出すと、極彩色の波を振り払おうとするように、
身をよじりながらプラントを後に、その巨体を前方に踏み出し始めた。
そのリアクションは、直前までの <アイアン・デューク> を思わせる。

「いいらさん、いいらさん!」

飯田からの応答は途絶えていた。気を失ってしまったのであろうか。
苦悶していた巨人は、やがて自身のくわえ込んでいた飯田機の腕を
吐き出すように体から放つと、
その反動からか、二つの巨体はマグネットの同極が反発するに等しい勢いをつけ、
大きく仰け反るようにその場から分離した。

「かおり、お疲れ! 今度はアタシが相手よ!」

盛大な土煙を伴って倒れた <アイアン・デューク> はそのまま動かない。
しかし、巨人は体勢を立て直すとまたゆっくりとプラントへ向かい始める。
果敢にその進路上に割って入った保田は、
<オライオン> の攻撃では全面的に無効であることを承知で砲火を放ち始めた。

飯田が捨て身でコアから引き離した巨人である。
なんとかしたいという気持だけが先に立っての行動であった。

……しかし、これが <レストレス> 隊を壊滅させた張本人なのであろうか。
その姿は余りにも巨大で、保田の攻撃は時間稼ぎにさえならないかも知れない。
赤い光を見た時の嫌な予感が頭の中をよぎった。
95  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:54
「圭坊、早よそこどき!」
「えっ!? わっ!?」

巨人にのみ意識が集中している保田に中澤の声が飛んだ。
ジリジリと後退しながら、尚も攻撃を続ける保田機には、
周囲に対する注意が、多少なりともおろそかになっていたのかも知れない。

前進する巨人を正面から攻撃する <オライオン> の対角線上を右へ、
巨人の斜め後ろから一隻の軍艦が、光る巨体目掛け猛進して来ていた。

保田機が間一髪軍艦の進路から退避すると、
壮絶に大地を巻き上げながら進む艦は、コアに迫る巨体に接触し、
押し出すように光る体をプラントから遠ざけるとそのまま猛烈な直進を続けたが、
相変わらず体を向き変えないままで巨人が艦体に正体し直すと、
その拮抗とともに徐々に減速を始め、やがて完全に制止させられてしまった。

……それは警備隊旗艦 <バロラス> であった。

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▼ Capricious SeriesMother Of Pearl
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96  920ch@居酒屋  2002/02/24(Sun) 03:56
【 Continued from Op 】

平家「これ笑うよな、どっから聴いてもシャカタクやわ」
中澤「『ナイト・バーズ』、『インヴィテーション』……、まんまあの時代のあの音に、
    力技で 『モーコー』 を混ぜてるこの仕上げ、ツボにはまったらたまらんで」
平家「一歩間違うたら、スーパーのお買物 BGM やねんけどな」
中澤「そもそもフュージョンやん、
    アルバム中、最異色なんは異論あらへんとこやけど、
    この人選はなんでやろ思たら、『制作 : ユニバーサルポリドール』 やて、
    ……合点と同時に、これは完全にその世代に向けとるね」
平家「この中では珍味扱いちゅうか、
    聴ける人と聴けない人をハッキリ分けるカヴァーやけどね」
中澤「全12曲入やねんけど、ウチはこれと 『真夏の光線』 が好っきやわ。
    次点で 『I WISH』」
平家「『モーコー』 とは対極やん。もろ直球のアレンジ」
中澤「もともと楽曲自体が好きやねんけど、これは超爽快、泣ける位に痛快!
    洋楽好きはこの1曲のためだけにこのコンピレーションを買う価値が有る!」
平家「何を断言してるねん」
中澤「ウチはな、全曲みっちゃんのカヴァーも聴いてみたい思うねんで」
平家「嬉しいこと言うてくれるなぁ……、
    せやけど 『カバー・平家みちよ!』 やったら誰に頼んだらええんやろ?」
中澤「そんなん 『ARCH ENEMY』 やろ、『SKYFIRE』、『SOILWORK』……」
平家「なんで 『デスメタル』 オンリーやねん!」


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