『笑顔の練習』
(前回までのあらすじ)
むかしむかし やーますのまちに、わるいことをして おおもうけしている、どふぉーれ という しょうにんがおりました。
このうわさをきいた ふるぶらいと という 腹黒い しょうばいねっしんな わかしゃちょうは、このままでは ウチの商売あがったり やーますのひとたちが ふびんだとかんがえ、どふぉーれの 商売を影から妨害する あくじを こらしめるために、やーますで せいぎのみかたを かつやくさせることにしました。
ふるぶらいとは どうせ捨て石だから地元民でいいや やーますのあくじは やーますのじゅうにんによって ただされるべきだ と かんがえ、やーますのぱぶにいた らいむ という せいねんに、せいぎのみかた「かいけつろびん」に なってくれないか と たのみました。
しかし、らいむは とても うちきなせいかくだったので、 額にRの覆面と黄色いズボンだけは死んでも嫌 せいぎのみかたなど じぶんにはできない といって ことわってしまいます。
これをきいた ふるぶらいとは、 フルブライト商会の圧力をちらつかせて らいむを ねっしんに せっとくし、なんとからいむに ろびんになってもらうことが できたのでした。
(校正:フルブライト書房ウィルミントン支部・校閲部)
◆ ◆ ◆
「さて、ライム君。とりあえずこれで君には、ロビンとしてのひととおりの知識を覚えてもらった。
衣装のサイズ合わせも問題なく終わったところで……最後に、最も重要なことを教えておこう」
「…………はい」
「何だかわかるか?」
「…………いえ……」
「それは
笑顔だ。……そう、ヒーローは
悪を圧する高らかな笑い声と、人々を魅了する爽やかな笑顔を作る術に長けていなければならない」
「無理です」
「そういうところだけリアクションが早いんだな、君は」
「…………」
「大丈夫さ、
屋根の上からポーズを付けて飛び下りる訓練は問題なくクリアできたじゃないか」
「……ぼ、僕、あの訓練の時、
複雑骨折して全治三ヶ月の重傷を……」
「なに、
男のロマンに傷はつきものさ。
大体、任務をしくじってドフォーレの人間に捕まったら、全治三ヶ月どころじゃすまないぞ。ははは」
「……(はははじゃないだろうアンタ)……で、でも……高笑いなんて……僕にはとても」
「そう言うだろうと思って、今日は特別に専門家を呼んであるんだ。
トーマス君、入ってくれたまえ」
◆ ◆ ◆
「なんですか。決算が控えていて忙しいので、用件は手短にして頂きたいのですが」
「企業買収の時に人をはした金で呼びつけて演説を強要する人間の台詞ではないな」
「そうそう。ウィルミントン造船所を買収できたのはフルブライトさんの演説のおかげです。ありがとうございました(棒読み)」
「まさかうちの物件の買収劇にまで呼び出されるとは思いもよらなかったよ。ははは(棒読み)」
「何度買収を仕掛けても懲りずに同盟を結び直してくださって感謝してます(棒読み)」
「さて、前置きはこのぐらいにして……こちらはライム君。今度、我が社のバックアップで、ヤーマスの正義の怪傑として活躍してもらうことになっている」
「
それはお気の毒に」
「彼はトーマス君だ。
グループ企業に金をばらまかせては全国の商会を片っ端から食い潰している、あの有名なトーマスカンパニーの取締役だよ」
「よろしく。
ちなみに次はウィルミントンの老舗企業あたりを狙おうかと思ってるんだ」
「…………よろしく……お願いします」
「早速だがトーマス君。
物件買収で鍛えられた君の見事な作り笑いの能力を見込んで、頼みがある。その力をもって、彼にヒーローに相応しい笑い方をレクチャーしてもらいたい」
「金だ。(即答)」
「そう言うだろうと思って既に用意してある。10万でどうだい?」
「10万ですか……わかりました。やりましょう
(影で舌打ち)」
「
私の演説料の3倍ふんだくっておいてまだ不満かね。……それじゃ、頼むよ。私はまた、
テーマソングのレコーディングに立ち会ってこないといけないから」
◆ ◆ ◆
「…………あの……」
「笑顔……笑顔ねえ。ヒーローっぽい笑いなんて俺の専門外なんだけどな」
「……れ、練習……しないと……」
「どうもあの人の趣味にはついていけないよ。覆面の怪傑なんて今どき流行らないと思わないか?」
「……は、はぁ……」
「もう面倒だからさ、ドフォーレ商会、ウチが買収しちゃうってことで、駄目?」
「えっ」
「そうすれば、君が怪傑になんてならなくて済むってことだよな」
「……そ、それは……」
>トーマスは、さわやかにわらった。
「よろしくお願いします」
>物件を手に入れた!
手に入れた物件…………シーホーク
◆ ◆ ◆
こうして、トーマスカンパニーの 暗黒の 輝かしい歴史には、新たな1ページが刻まれることとなったのです。
(校正:トーマス書房(旧フルブライト書房)ウィルミントン支部・校閲部)