第三話『たったひとつの冴えたやり方』 | ||
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5月17日(月) | ||
突然関原教諭が話しかけて来たので何だと思いきや、明日の修学旅行で訪れる沖縄の、夜のブレイク先を検討しているようです。さすが「趣味・風俗」の男は違いますね。 が、残念ながら彼に構っている場合ではありません。前回ようやく学校に登校して来てくれた桧山太陽が、修学旅行に行きたくないと言い出したらしいのです。 初登校からまだ二週間しか経っておらず、皆からの疎外感をぬぐい去ることができない様子の彼。月山美咲やりん子先生の説得により一応は「行きます」と返事をしてくれたものの、その表情は沈鬱です。 とりあえずいつものお約束【明日は修学旅行】を入手。あまり重要なカードではなさそうですが、ともかく皆に話を聞いてみましょう。 りん子先生は無理にでも太陽を旅行へ連れて行くべきだと珍しく強い主張。ここで太陽を休ませてしまえば、また彼が引きこもりに逆戻りしてしまうのではないかと心配しているようです。一方美咲は、太陽のことはほとんど心配していません。本当は楽しみにしているはず、と至ってポジティブです。 まあ、旅行前日では今更あれこれ考えても仕方がありませんね。とにかく少しでも楽しい日々が過ごせることを祈りましょう。 天城あずさが富士美智子と一緒に公園で立ち話をしていました。旅行前の浮かれ気分を隠せないあずさに、マイペースな美智子は苦笑い。 というか二人とも随分変わった話し方をします。美智子様はハッキリとわかる「ですわ」「ますわ」のお嬢様口調、あずささんは話のポイントが微妙に通常人とズレていて、どこか隠れヲタの匂いがします。一見接点がなさそうな二人なのに、とても仲が良さそうで意外ですね。 サクラ橋の上でたそがれている太陽にも念のため会いに行きましたが、何だか余計に落ち込ませてしまいました。ちゃんと行きますとは言ってくれるものの、嫌々なのがまるわかりで少々気の毒です。 ちなみにここの彼に再度【明日は修学旅行】を突きつけに行くと「何度も言われなくたってわかってます」と怒られます。可哀想ですが面白いので一度は見ておきましょう(鬼か)。 | ||
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5月18日(火) | ||
約束通り待ち合わせ場所に来てくれた太陽、しかし「……おはようございます……」と挨拶からして低い有様です。 「太陽くん、(飛行機が)浮いたよー!」「沖縄だぁー!」「シーサーだよー」「海だよー」「ホテ(略)」と、美咲が見ればわかることを一生懸命連呼して盛り上げようとしますが、彼のテンションは現地のホテルに到着してもあまり変わりません。 そんなところに突然高峰先生が拡声器を持ち出し、いきなりとんでもないことを抜かし始めました。 なんと観光を全て取り止め、ホテルの会議室で特別補習を行うというのです。もちろん全日程。「無理強いをするつもりはない」と言ってはいますが、こういうことを言う人は大体直前まで長々と無理強いをしているのが世の常です。高峰から脅迫に近い受験プレッシャーをかけられた生徒たちは、皆恐れおののいて続々と補習の輪に加わって行ってしまいました。 ここで手に入ったのは【高峰の特別補習!?】。高峰本人に直談判をしに行くも、彼は自分のやり方を曲げないとあくまで強硬姿勢。それどころか逆に、成績優秀な太陽に補習を受けさせないことを批判して来やがりました。 結局、3-Bの生徒で観光に残ったのは、月山美咲と彼女に説得された桧山太陽、それに岩木竜二・久住あい・白石雪也のたった5人だけ。お世辞にも親しい友達同士とは言いがたい顔ぶれです。 ガラガラのバスの中でもメンバーは前後に分かれて真っ二つ。最後尾から動こうとしない竜二・あい・雪也と、最前列に座ったきり無言のままの太陽、彼を一生懸命後部座席へ誘おうとする美咲、そして呆れ顔のりん子先生。言うまでもなく全然盛り上がりません。こんなものが【本当の修学旅行】と言えるのでしょうか? そして太陽はアニメムービーに入ると何故か髪の長さとうねり具合と表情の暗さが1.2倍に跳ね上がるのですが、どちらが本当の太陽と言えるのでしょうか。当クラスの男子に二名しかメガネがいないからこそできる離れ業であるものの、これは描き分けのできてない少女漫画家の作品中では間違いなく別人にカウントされる変わり具合です。美咲にヅラだと見抜かれる前に何とかしてください。 この日の観光は海と中央市場を軽く回っただけで終わりました。もちろん観光組の温度差は、相変わらずどころか広がる一方です。 そりゃあ海に行っといて泳ぎもせずに海岸で記念撮影してるようなショボイ観光っぷりじゃ無理もありません。りん子先生と女子二名の水着姿をコッソリ眺めつつ「……いいな……」「まあまあなんじゃねえか」「桧山くんは月山さんの方ばっかり見てるけどね」「えっ、う、うん、いや違うよ」などと交わされる不埒な会話を真剣に期待していた当方がアホみたいじゃないですか畜生め。 | ||
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5月19日(水) | ||
今日も大半の生徒は補習へ行ってしまい、観光組は昨日と変わらず5人です。 が、朝からとんでもない事態が発生! 高峰教諭が観光バスとバスガイドをキャンセルしてしまったため、バスの再手配は何とか間に合ったものの、バスガイドさんが来られなくなってしまったのです。 あんのメガネ野郎何が無理強いはしないだ思いっきり強いて妨害してるじゃねえか!!! 大体何より気に入らないのが、この補習宣告を一週間前に学校でしなかった点です。沖縄まで連れて来ておいて、このリゾート空気の中で補習をさせるなど人間のする事ではありません。突然キャンセルされた旅行会社もいい迷惑ですが、コツコツと積立金を納め続けて来た親はキャンセル料すら戻って来ない払い損です。これなら最初から旅行積立金全額返還の上東京で居残り補習をさせた方がなんぼかマシでしょう。偉そうな事を言ってるくせに行動が中途半端過ぎます。高峰株『↓↓↓積立金泥棒』に一挙大暴落。 しかしこんな時でも前向きな月山美咲が、皆をガッカリさせないために、自らバスガイドの大役を引き受けてくれました。 【美咲のバスガイド】は、知識はともかく持ち前の明るさで見事に場を盛り上げてくれています。が、ただひとり浮かない顔なのが桧山太陽。やはり補習に後ろ髪を引かれているのでしょうか。 本日は首里城・玉泉洞・斎場御獄(せーふぁうたき)・平和祈念公園の4箇所を順不同に回る模様です。 一生懸命ガイドを務めるものの知識がついて来ない美咲の補佐として、首里城で上がった周囲の要望により、太陽が二人目のガイドとして活躍してくれることになりました。盛り上げ役と解説役が上手い具合に揃った名ガイドの誕生です。 この首里城を境にして各観光スポットの解説役が変わりますので(説明してることは大体同じ)、二周目では移動する順番を変えて、双方を聞き比べてみるのも楽しいでしょう。 首里城後に行けるようになった国際通りでは、やけに豊富な己の沖縄知識について、太陽がネタばらしをしてくれました。実は彼、旅行の前日、ネットでこっそり沖縄の情報を仕入れていたのです。 これによって「ほんとは楽しみにしてるはずだよ、素直じゃないからね〜」と17日に言っていた美咲の言葉がまさに事実であったことが判明しました。お見事! 未来の夫のことを良く把握していらっしゃる! そして最後に訪れたのが、沖縄戦を実際に体験したお婆さんの家。人数が少ないこともあって、のんびり縁側に腰掛けながらお話を伺います。 それは、彼女がまだ3-Bの生徒たちと変わらない歳の頃、米軍に追い詰められ、仲の良かった友達が目の前で自決してしまった話。淡々と語る沖縄弁が心に沁みます。 戦争によって奪われてしまった【かけがえのない時間】を思って、いつの間にか真剣に話に聞き入る生徒たち。美咲は話の中の友達を思って泣き出してしまいました。そんな彼女や生徒たちの素直な姿に心打たれつつ「そこですかさず肩を抱いて慰めろ! 太陽!!」と密かにエールを送る節操のない当方(最低)。 バラバラだったメンバーの心が、お婆さんの話のおかげでついに結びつきました。ずっと太陽にやっかみめいた皮肉を洩らしていた岩木竜二も、すっかり彼と打ち解けて、普通に話をするようになっています。 が、太陽の心の扉を開くことができたこの直後、今度はホテルの自室のオートロックに締め出されて怒り顔の面白岩木。前日には「ホテルのタオルって持って帰って良いのか」と素っ頓狂なことを聞いて来ましたし、本当に意外な面白さを見せてくれる生徒です。顔は怖いけど、根は普通の中学生なのですね。 美咲に【かけがえのない時間】を見せてみると、彼女はお婆さんの話に深く感じ入るものがあった様子。 高峰教諭を「先生なりに、受験に負けないように頑張ってくれているんだと思う」と優しくフォローする一方で、一度きりの「かけがえのない時間」である修学旅行を、思い出に残る楽しいものにしてみせると力強く語ります。 しかし高峰は、そんな【がんばる美咲】の思い出づくりなど、人生の大事である受験の前には何の価値もないと一蹴。りん子先生と激しい論撃バトルを繰り広げるものの、やはり聞く耳を持ってくれません。学生時代にテロで修学旅行を潰されてしまったりん子先生は、そんな苦い思い出もあって、余計に生徒たちに楽しい思いをさせてあげたいと願っているようなのですが…… | ||
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5月20日(木) | ||
またも朝から大事件勃発です。ロビーで高峰教諭が何やら酷く月山美咲を叱っているかと思ったら、彼女はホテルを飛び出して行ってしまいました。 どうも桧山太陽を観光に連れ出している美咲を、高峰は「足を引っ張るな」と頭ごなしに叱りつけたらしいのです。かなり傷ついた様子の美咲を無視して太陽に補習を勧める高峰ですが、一部始終を見ていた彼がそれを聞き入れるはずもありません。 いつにない様子で激昂する太陽。「こんなことなら、学校になんて来るんじゃなかった!」と言い放ち、彼は美咲を追って外へ出て行ってしまいました。 ホテルの前に立っていた高千穂誠に事情を聞いてみたところ、あの騒ぎの前、美咲は高峰に観光を許してもらえるよう頼んでいたことがわかります。 二人を心配しつつも補習へ向かった誠と入れ替わりに、岩木竜二・久住あい・白石雪也の観光組3名が捜索の手伝いを申し出てくれました。幸い、太陽はあまり遠くへ行っていないようです。ともかくすぐに後を追いかけなければ! 太陽がいたのは中央市場。ところが彼は先程の怒りもどこへやら、すっかり取り乱しています。 それもそのはず、なんと美咲がいかにも悪そうな高校生ぐらいのヤン公集団に取り囲まれ、どこかへ連れ去られてしまったというのです。 あわわわわわわどうしようどうしようと一緒になって取り乱す当方。不良軍団の前にたった一人で立ちふさがって「勘弁してください!」と言うことができた太陽のナイスガッツに萌える心の余裕もありません。 行き先はまるで見当がつかず、奴らは以前にも女の子を攫って酷い目に遭わせている島内最悪のDQN軍団だと聞かされて、不安は一層募るばかり、思い切って奴らがいそうな海岸へ特攻してみたらまるで見当違いだったらしくりん子先生に携帯で怒られるし、もう何処へ行ったら良いのやら。マジでやばいよ、マジヤバイ! 美咲ヤバイ!! いよいよ行き詰まりかと思えたところで、太陽は高峰の助けを借りようと提案します。確かに時は一刻を争う状況、もう補習がどうとか下らないことを言っていられる状況ではありません。下手をしたら美咲が那覇港に沈む危険だってあるのです。 急いで高峰に美咲の危機を知らせ、捜索の手助けを要請します。が、この人でなし教師はこの期に及んで生徒一人のために他の生徒を巻き添えにするのはどうのこうのと屁理屈をこねやがりました。 もう許せん、誰か殴打カード持って来い! 美咲にもしものことがあったらお前のせいだぞ!! お前が死ね!!!(←落ち着いてください) この石頭にぶつけてやるカードはもちろんあれだけです。美咲がただ遊ぶことしか考えてない馬鹿だと思っているこいつに、一発かまして思い知らせてやりましょう。 『がんばる生徒を認めてやれない、あんたがいちばん馬鹿だろう?』 『馬鹿だろう?』どころか『馬鹿だろうがさっさとケツ上げろこのスットコヤマトンチューが!!!』ぐらい言ってやりたい当方ですが、このソフトな台詞も今の彼には充分過ぎるほどに効いたようです。 補習を中止し、生徒たちを美咲の捜索に回してくれた高峰。ぐずぐずしてはいられません。再度街へ捜索に出掛けましょう! 人手が増えたおかげか、中心街では生徒たちがぽつぽつと不良共の情報を報告してくれるようになりました。 決定的な情報が入ったのは市場の西側。富士美智子がたまたま近くの倉庫に入る不良一団を目撃してくれていたのです。 不気味に静まり返る倉庫を慎重に取り囲んだのは、太陽と竜二・雪也に加えて、美智子と一緒に捜索をしていた北健太。竜二以外は見るからに殴り合いに向かないメンツ、FFで言うとモンク1名と黒魔道師3名でクリスタルタワーに特攻をかけるぐらい無謀です。 誰もが思わず後込みする中、無謀にもたった一人で倉庫内へ突入しようとする太陽。ついこの間まで引きこもりだったインドア少年の言動とは思えません。素晴らしい愛の力です(まだ言うか)。 そんな彼の心意気に覚悟を決めた一同、全員で身構えました。せーの、でドアを蹴って殴り込む……今だ! とまさにその瞬間、鉄のドアが空き、中から二人の人物が顔を見せました。驚いたことに美咲と高峰です。どちらにも傷ひとつありません。 ま、まさか高峰は密かに武術の達人だったのか!? ファイアの本で不良共をバッコバッコとぶん殴って片っ端から16回ヒットで沈めてしまったのか!? それとも禁断の全棒ゴーレム二刀流*で、敵を次から次へと石化させていってしまったのか!?(←年食ったヲタにしか判らないネタはその辺にしておけ) 事実はある意味それよりずっと意外なものでした。フロントで暴走族の溜まり場を聞き出した高峰は、その足でこの倉庫へ直行。中にいた不良たちの前で、彼らが気味悪がって退散してしまうまで、土下座をし続けたというのです。 ともかく、誰にも怪我がなかったようで何より。高峰に美味しい所を持っていかれてしまったのは少々癪ですが、彼の思考の意外な柔軟性に気付いて、再び高峰株を修正することに致しました。この冷静さと柔軟な思考は彼がエリートだからなのか、それともただのエリートとはまた異なる頭脳の持ち主だからなのか。どうにもわかりにくい人ですねえ。 *全棒ゴーレム二刀流……FF3(ファミコン)におけるお得技。「すべての棒」と「ゴーレムの杖」を片手に一本ずつ装備したキャラで敵を攻撃すると、一撃で石化→即死させることができる。終盤の秘密兵器。 | ||
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5月21日(金) | ||
ついに沖縄旅行も本日が最終日。高峰教諭もさすがに今日は補習を休み、生徒たちを観光へ送り出してくれました。 もちろん観光の案内役は月山美咲と桧山太陽の、クラス公認バカ夫婦(決定)です。観光組の三名がさりげなく盛り上げに協力してくれることもあって、バスガイド夫婦はなかなかの人気。 旅行前はあれほど周囲から浮いていた太陽も、日程のほとんどを机に向かっていた補習組も、残り少ない旅行のひとときを、存分に楽しむことができたようです。 そして高峰は、今回の件で色々とまた考えさせられたと語ります。特に美咲を馬鹿呼ばわりしてしまったことを深く反省している様子。美咲が本当の馬鹿には出来ないことをいくつもやっていることに、どうやらようやく気付いてくれたみたいですね。 が、そこで「お前は頭は悪くないんだからやれば出来る。東京に帰ったら補習だ」と思考が結びついてしまう辺りは、やはり彼です。 現実にもたまに居ますね、こういう先生。在学中は生徒に滅茶苦茶嫌われてたのに、卒業して別の学校へ移ってしまったと聞くと「真面目でいい先生だったよなぁ」と言いたくなってしまうようなタイプ。決して諸手を上げていい先生だとは言えませんが、学校に一人は欲しい人材と言うか。 というわけで、本話の最後はいつもの評価修正でお別れしたいと思います。 本日の高峰評価(上方修正)『↑スネイプ先生Lv1』。 いつか本物のスネイプ先生(ホグワーツ魔法学校勤務)のように、生徒に忌み嫌われるのが趣味となるステージに到れるよう頑張ってもらいたいものです。 【→ 第四話『スタア誕生』へ続く】 | ||
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