大学書林,荻島氏辞書の誤り

(2016年12月20日掲載)

 

 大学書林から発売されている荻島崇氏著「フィンランド語辞典」(平成9(1997)年6月30日 第1版発行)と「フィンランド語日本語小辞典」(平成12(2000)年2月28日 第1版)には,多くの誤りがあります。

 私がこれに初めて気がついたのは,「フィンランド語辞典」(32,000円の高い方)の「asuste」という言葉でした。その説明では, 「帽子・ネクタイなども含む主に男性の衣類」 と書かれています。

  asuste とは,男女関係なく,全ての服飾品で,この中には帽子,ベール,手提げ,負ぶい布,がま口,装飾貴金属,ベルト,吊りベルト,ボレロ,ネッカチーフ,バンダナ,ケープ,仮面,雨傘,扇,靴,靴下など,身にまとうものすべてを指し,日本語の服飾品より広い概念です。

 それから続けて丁寧に見ていくと間違いや不適切な表現が次々と出てきます。

 そして約3年後に見出しの語数を減らして出版された廉価版の「フィンランド語日本語小辞典」(8,000円の方)では,ごく一部を除いて全く見直しがされておらず,間違えたまま出版されました。この頭から281ページ,Nの neljästoista まで1語1語見ていったところ,352語の誤りや語句表現のおかしいところ,多義の単語で1義しか説明されていないもの等々を見つけました。 281分の352で,1ページ当たり1.25語もの間違いや不適切表現 があることになります。

 たくさんの単語を相手にするのですから多少の間違いや語句表現のおかしいところがあるのはやむをえません。しかし,全体のほぼ半分,281ページ中の352語は多過ぎはしませんか?。最後まで見たらいくつになるか,末恐ろしい数です。

 部品が不具合のまま売り出された自動車や電気製品など工業製品の場合,メーカーはリコール制度で部品交換しなければなりません。また,製品に異物が入っていたという食品メーカーは,回収作業に莫大なお金と人手をかけるでしょう。

 ところがこの2冊の本は売りっぱなしで,このまま世の中に出しておいていいのでしょうか?。著者の無責任さもさることながら,出版社の社会に対する無責任さも許せません。大学教授のお墨付きでもって既に日本全国の多くの図書館には辞書棚に鎮座して,間違いを拡散し続けています。
 「小辞典」の方は第4版まで市販されているので数千人の方々が購入していると思います。

 現代は,インターネットという利器がありますから,著者も出版社も正誤表をアップするなどして真摯に対処すべきではないでしょうか。

 すでに買って持っている方は,281ページ分だけですが,下記ファイルで訂正されるといいでしょう。

 

「フィンランド語辞典」「フィンランド語日本語小辞典」の問題点

 「フィンランド語辞典(以下大辞典)」「フィンランド語日本語小辞典(以下小辞典)」に共通する問題点をいくつか例をあげましょう。

(1)明らかに間違いの語 表の記号★★★

(例1) arpoa:将来を占う (小辞典) となっているが,これは間違い。

   @くじで賞金/賞品を引き当てる,くじ引きする
   A占う

(例2) elatusraha:<俗>年金 (大辞典・小辞典) となっているが,これは間違い。

   @別れた配偶者または子への扶養費,養育費です(elatusapu, elatusmaksuともいう)。
   年金であればeläkeまたはeläkerahaです。

(例3) evakko:<俗>移住者 (小辞典) となっているが,これは間違い。

   @難民,避難民です。

(例4) evakuoida:移住する (小辞典) となっているが,これも間違い。

   @(危険地域から)立ち退かせる/避難させる/住民を移す
   A(危険地域やそこに建つ家を)空にする・・・・ことです。

(例5) naistenhuone:婦人の部屋,婦人室 (小辞典) となっているが,これも間違い。

   女子トイレまたは女性用試着室/フィッティングルーム・・・・のことです。

 

(2)多義に亘る語で,一義しか紹介されてない語 表の記号★★

   フィンランド人向けのフィン・フィン辞書を種本とし,その説明文の内,難解な説明は端折っていると思われる部分が多数ある。

 

(3)焦点ボケで訳語が不正確/不適切なもの 表の記号★★

(例1) asuste:帽子・ネクタイなども含む主に男性の衣類 (大辞典・小辞典) と説明されているが前述したとおり「主に男性の」は余計。この意味に女性のものも含まれます。

(例2) ora:木に穴をあけるための道具で,尖った鉄の先端を焼いて使う (大辞典) とあるがこれは即ち「錐(キリ)」のことです。フィン・フィン辞書をそのまま訳したとしか思えません。

(例3) halonhakkuu:(薪にする)木を切る (これも切るではなく割るの誤り) 仕事 (小辞典) としていますがこれは即ち「薪割り」のことです。これもフィン・フィン辞書でしょう。

(例4) merivoimat:海軍力 (大辞典・小辞典) とありますがこれは「海軍」の誤りです。
 meri(海)とvoimat(力<複>)の合成語で,英語のairforce(空軍)と同じ表現です。

 

(4)フィンランド語辞典発行(1997年6月)後,フィンランド語日本語小辞典(2000年2月)発行までの約3年の期間に上記の問題が全く改善されていません。

 

(5)フィンランド語辞典のはしがきでは「言葉は生き物である」と言いながら現代では使われていないような単語も多数入っている。古語・現代語の区別がついていないのではないか?と思われるフシがあります。また方言も随分入っています。掲載する必要性が分かりません。

 その他諸々,問題山積であることを念頭において,「フィンランド語日本語小辞典」(8,000円の方)の頭から281ページまでをご覧ください(pdfファイル)。

 

「フィンランド語日本語小辞典」の頭から281ページまで

 

 「フィンランド語基礎1500語」大学書林 1983(昭和58)年6月30日 第1版にもありました。これも掲載します。  (2016年12月29日)

「フィンランド語基礎1500語」

 

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