(2014.4.10 掲載)

フィンランドの言語教育

Kieliopetus kouluissa

 

 注:日本では教育機関によって「児童」や「生徒」と呼び分けていますがフィンランドではこのような区分けはありません。すべて「学習者」ですので「学習者」と呼びます。

 

【母語教育】

 日本の「国語」に当たる教科は,フィンランドでは「母語と文学 Äidinkieli ja kirjallisuus」という教科名です。母語(母国語ではない)というのは聞きなれないがこれについて説明しよう。

 フィンランドでは日本のような一国一言語ではなく,歴史的にフィンランド語とスウェーデン語の2ヶ国語がフィンランドの「国語」である。そしてこの2ヶ国語は,司法・立法・行政上の言語であるから「公用語」である。駅名,街路表示や道路交通標識やホテルのチェックインシートなどは必ずフィンランド語とスウェーデン語が上下2段に書かれている。

 これは元来土着のフィンランド人が住んでいたところにスウェーデン王国がフィンランドを植民地化し(1155〜1808年),スウェーデン人農民・漁民・商人・軍人・行政官が入植してきた。そしてスウェーデン王国の一つの州としてフィンランドが統治されたため彼らの末裔であるスウェーデン系フィンランド人と土着のフィンランド人がこの地でそれぞれの言葉を使って生活して来た。2013年の数字ではスウェーデン系フィンランド人は28万5千人で全体に占める割合は5.34%であり,フィンランド系フィンランド人の人口は全体(5百45万人)の89.33%である。

 このような歴史から政治,法律,行政事務,公共施設などではフィンランド語とスウェーデン語が公用語であり,使用人口は少ないがサーミ人(4/5千人,0.04%)の住む地方ではサーミ語が準公用語となっている。このほかに新入者であるロマニ人(フィンランド語でジプシーのこと,4/5千人)がロマニ語を使用している。これらの言語を一括りとして内国語(sisämaan kieli)と言う。

 このような状況から日本のような「国語」という概念はない。人によってフィンランド語であったりスウェーデン語であったりするからだ。そこで「母語」という言葉を使う。学校教育ではフィンランド語を母語とする学習者のためにフィンランド語を教育言語とする学校を,スウェーデン語を母語とする学習者のためにスウェーデン語を教育言語とする学校をそれぞれ別個に設置している。また北部地方ではサーミ語を母語とする学習者のためにサーミ語を教育言語とする教育も行われている。また手話(フィンランド語手話,スウェーデン語手話)も教育言語とする学校を設置しているし,ロマニ語やその他の少数派言語(英・独・仏・露語など)でも教育を行う学校が少数ではあるがある(ロマニ語による教育は,1989年から基礎教育学校にて実施)。

 現在ではこのように誰でもが母語で基礎的な教育を受けられる制度になっているがここに来るまでにはおよそ800年以上に及ぶ熾烈な言語闘争があった。この言語闘争のため教育制度にまで大きな影響を与え,特に中等教育では私立学校が乱立して1970年代まで民主的な教育を損なってきた。

 かつて小学校教育において,スウェーデン語もフィンランドの公用語なのだからフィンランド語と同等に学ぶべきというスウェーデン系フィンランド人の強い圧力からスウェーデン語が必修であった。しかし,スウェーデン語の学習がフィンランド語系フィンランド人にとってすべての学習意欲を殺ぐ原因となっていた。そこでスウェーデン語を外国語と同じ位置づけにすべきという運動が起こり,外国語の選択は本人の意思に任すべきだという流れの中で法改正に成功した。でも義務教育が終わる15歳までには外国語としてのスウェーデン語を学習すべきことには違いがない。それは内国語であるからである。
 言語闘争はついこの間まで続いた。

上の標語は,「スウェーデン語の義務を止め
よう!」 スウェーデン語の象徴である"
Å"を
屑入れに捨てている様子を描いたもの。    

 以上が日本の国語に当たる「母語と文学」であるがカリキュラム上は次の通り(pdf 95KB)である。外国語教育も合わせてご覧ください。

【外国語教育】

 フィンランドの学校教育は,制度上は初等教育・前期中等教育の一貫教育を目指している。これを基礎教育学校(Peruskoulu)という。最近になって新設の一貫教育校が出来てきたが,1998年に現制度が出来たため日本でいう小学校(下級学校)と中学校(上級学校)に分離した旧来の状態がまだ続いている地域がある。

※ 基礎教育学校2,498校(2014年)のうち,1〜6学年の下級学校が72%,7〜9学年の上級学校が12%,1〜9学年の一貫校が16%である。

 小学校教育の中で最初に行う外国語教育をA外国語といい,第3学年から(2019年8月の新学期からは第1学年から)スタートし,必修である。地方教育委員会等は,A外国語用に10人の学習者が学習を希望した言語を設けるようにし,少なくとも3種類の言語を用意し,そのうち1言語は「もう一つの内国語(フィンランド語母語の人は,スウェーデン語,スウェーデン語母語の人はフィンランド語)」を選択肢に入れるものとすることをフィンランド文部省は推奨しているがこれを完全実施している学校はまだ少ない。
 A言語に加えて自由選択科目としてその他の言語を履修することもできる。7〜9年生(日本の中学生に当たる)には2言語を普通教育として用意してあり,これに加えて選択科目としてその他の言語も選択することもできる。

〈A1外国語〜B3言語〉 カリキュラム《時間配分》を参照しながらお読みください。(pdf 95KB)

 外国語教育は,通常A1外国語を小学校第3学年から開始する。2012年には6.9%の学校で第1学年からA1外国語を開始させた(前年度比0.1%増)。第2学年開始の割合は,12.5%(前年度比0.3%増)で,早まる傾向にある。(2019年8月の新学期からは全国で第1学年から開始する。)
 選択A2言語の学習は第5学年から開始するのが最も一般的であるが第4学年から開始する方向に拡大している。
 B1言語は第7〜9学年に「もう一方の公用語」または英語の学習が開始する。B2言語は第7〜9学年の選択言語として開始する。B3言語は高等学校課程以降で開始する選択科目である。

〈小学1〜6学年の言語選択〉

 A1外国語の中で最も多く希望者のいるは英語である。2012年,学習者の90.5%が最初の外国語として英語を選択した。次はフィンランド語で5.4%,独語:1.3%,スウェーデン語:1.2%,仏語:0.9%,露語:0.3%,スペイン語:0.1%,その他:0.1%であった。
 日本の小学校では外国語イコール英語であるが,フィンランドの場合,何語を履修してもいいのである。

小学校第3学年のA1外国語履修者数と割合

言  語

履修者(2012年)

割合 (%)

対2010年比

英 語

52,463人

90.5

0.0

フィンランド語

3,101人

5.4

+0.2

ドイツ語

712人

1.2

-0.1

スウェーデン語

579人

1.0

0.0

フランス語

538人

0.9

-0.1

ロシア語

184人

0.3

+0.1

スペイン語

79人

0.13

-

サーミ語

1人

0.01

-

注:フィンランド語とは,スウェーデン系フィンランド人が「もう1つの内国語」として履修する言語である。

 

〈選択A2言語〉

 2012年,第5学年生の26.2%がA2言語を選択した。2010年に比較してA2言語の履修者は2012年は500人増加していた。

小学校第5学年のA2言語履修者数と割合

言  語

履修者(2012年)

割合 (%)

対2010年比

ドイツ語

568人

3.7

+0.7

英 語

398人

2.6

+0.2

スウェーデン語

4,223人

27.7

-0.1

フランス語

1,607人

10.6

0.0

ロシア語

459人

3.0

+0.2

フィンランド語

414人

2.7

-0.1

サーミ語

29人

0.2

-

スペイン語

398人

2.6

-

その他

4人

0.02

-

〈7〜9学年の言語選択〉

 2012年,第7〜9学年のほぼ全員の学生が英語を履修した。A2言語の選択から基礎教育学校第7,第8学年に始まるB2言語は以前より減少したことを導き出している。1996年にはB2言語を42.7%の学生が履修していたが2012年には学生の11.5%に減少している。
 2012年B2言語の中で独語は最も人気があった。第8〜9学年の7.7%がB2独語を学習し,仏語は4.8%,露語は1.9%であった。露語学習者は0.2ポイント増加した。
 2012年のB2言語の学習者数は,以下のとおり。独語:9,148人,仏語:5,748人,スペイン語:2,585人,露語:2,302人,ラテン語:474人,その他;82人,イタリア語:67人,英語:49人,フィンランド語:8人,サーミ語:6人,スウェーデン語:2人で合計20,471人であった。

〈高等学校の言語選択〉

 2000年の高等学校生の48.6%が3外国語を学習した。次回調査年の2010年の調査では40.2%に減少し,3外国語学習者は8.4ポイント減少した。同期間の2外国語学習者の割合は,12.1ポイント増加した。(筆者注:このように高等学校生は3ヶ国語または2ヶ国語が使えるようになるのである。)
 高等学校生のほとんど全部がA言語として英語を学習した。2010年のA言語の人気言語は,独語:5.9%(2008年比-1.3ポイント),スウェーデン語:8.2%(+0.6ポイント),仏語:2.1%(-0.1ポイント),露語:0.6%(-0.1ポイント)であった。
 2010年のB2およびB3言語で最も一般的な言語は独語であった。2010年の高等学校の学習者数の10.0%(-2.5ポイント)がB2/B3独語を選択した。仏語は7.3%(-1.0ポイント)で3番目はスペイン語5.1%(+0.6ポイント)であった。露語は2.1%(-0.1ポイント),イタリア語0.8%(-0.1ポイント)である。

 以上の項は,以下のホームページを参照した。
      出典:http://www.minedu.fi/OPM/Tiedotteet/2010/06/tuntijako.html?lang=fi
      出典:http://www.sukol.fi/medialle/kielivalinnat/tilastotietoa_kielivalinnoista

      フィンランド言語教師連盟の初等中等教育における外国語選択(統計)についてはこちら。

 

高等学校の全教育課程修了者の言語選択(2013年)

 高等学校の全教育課程修了者(これをylioppilasと言います。ylioppilasは日本では「大学生」と訳されていますが,正確には,大学受験資格を得た高校生です)の言語選択は,以下のとおりであった。

言  語

必修A

必修B1

選択B2

選択B3

選択言語

合 計

割合 %

英 語

30,099

46

3

0

1

30,149

99.7

スウェーデン語

2,285

25,395

0

7

32

27,719

91.7

フィンランド語

2,040

49

0

57

7

2,153

7.1

フランス語

565

22

777

1,159

2,445

4,968

16.4

ドイツ語

1,303

15

1,216

1,298

3,129

6,961

23.0

ロシア語

235

4

87

654

1,435

2,415

8.0

サーミ語

1

-

0

3

5

9

0.0

ラテン語

0

-

14

62

389

465

1.5

スペイン語

16

-

99

1,706

3,209

5,030

16.6

イタリア語

1

-

2

206

708

917

3.0

その他

0

0

17

6

460

483

1.6

出典:http://tilastokeskus.fi/til/ava/2013/01/ava_2013_01_2013-12-16_tie_001_fi.html

 

 それでは実際の学校での外国語教育はどうであろうか。基礎教育学校であるアレクシス・キヴィ基礎教育学校は,学習者数450名の小中一貫校である。

基礎教育学校 Peruskoulu (ヘルシンキ,Aleksis Kiven peruskoulu  母語がフィンランド語の場合)

カテゴリー

第3〜6学年

第7〜9学年

A言語

英語,仏語,スウェーデン語,独語

英語,仏語,スウェーデン語,独語

A言語自由選択

英語,仏語,スウェーデン語,独語

        

A言語選択必修

        

英語,仏語,スウェーデン語,独語

B1言語

        

スウェーデン語

B2言語

        

仏語,独語,露語

出典:http://www.hel.fi/hki/akivpk/fi/Opetus/Kielitarjonta

 

 また学生数580名で外国語教育に特化した高等学校の場合は以下のとおりである。

高等学校 Lukio (ヘルシンキ,Itäkeskus lukio   母語がフィンランド語の場合)

A言語

英語,スウェーデン語,独語,仏語,露語,スペイン語

B1言語

スウェーデン語

B2言語

独語,仏語

B3言語

スペイン語,イタリア語,独語,仏語,ラテン語
露語,中国語,日本語,フィンランド語

出典:http://www.hel.fi/hki/itislu/fi/Opiskelu/Kielitarjonta

 

 

 


 

 


 

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