私は今日から佐祐理と一緒に生活する。
卒業するちょっと前から計画していたことが現実になろうとしている。
でも、その前にやらなければいけないことがある。
それはもちろん、荷物の搬入作業、なのだけど……
舞さんのお引越し
〜引越し当日編〜
「……佐祐理、この量は何?」
私は目の前の丘を見上げる。
いや、これは佐祐理の荷物だ。
「あははーっ。大した量じゃないですよー」
丘を見上げながら言う佐祐理。
これが大した量じゃないなら何が大した量になるのだろう?
「……佐祐理、こんなに入らない」
「え? そんな事ないよ、舞。ちゃんと測ってきたんだから」
……絶対、嘘。
「祐一たちが来たら、絶対びっくりすると思う」
そう、言い忘れていたけどこの後祐一が助っ人を連れてくる。
多分、あの美坂チームが来るのだろう。
祐一の友達なんて高が知れてる。
「舞〜。今酷いこと考えたでしょ〜」
私の思考に間髪いれずに反応する佐祐理。
「……はちみつくまさん」
どうやら、これからは隠し事が出来ないらしい。
数分して、祐一たちがやってきた。
「な、なんだこりゃ……?」
「祐一、丘があるよ?」
「美坂、俺の目はどうかしたのか?」
「安心なさい、北川君。あたしにも見えるわ」
美坂チームの面々は佐祐理の荷物……もとい丘を見つけた途端、予想通りに驚いた。
「……これは佐祐理の荷物」
驚いている四人に私は簡潔に説明する。
「こ、これが……?」
「祐一、凄い量だよ?」
「美坂、俺の頭はどうかしたのか?」
「受け入れ難くても現実を受け入れなさい」
四人はまたしても予想通りの反応をしてくれる。
「あははーっ。皆さん失礼ですねー」
佐祐理が笑顔で言う。
なんだか、すごく恐い。
でも……
「……佐祐理、仕方ない」
だって、それは自業自得だから。
「……そんなことよりそろそろ始める」
「あははーっ。それもそうですねー」
「あ、ああ……」
「これって片付くの?」
「美坂、終らん気がする」
「為せば成るわよ。きっとね」
……先行き不安。
「相沢〜、そっちちゃんと持ってろよ〜」
「分かってる。つーか、何でこんなに重いんだこれ?」
「知るかー!」
「わっ、馬鹿。手を離すな!」
「え? ぎゃああぁぁぁ……」
「香里〜。もう入んないよ〜」
「気合と根性で捻じ込みなさい」
「無理だよ〜。あの丘がこんな箪笥に入る訳ないよ〜」
「それでも秋子さんの娘なの? 何とかしなさい」
「無茶だよ〜」
「あははーっ。皆さん楽しそうですねー」
「……そう見える?」
「あははーっ。皆さん苦戦してますねー」
「……誰の所為?」
「あははーっ。舞、佐祐理のこと責めてますかー?」
「……はちみつくまさん」
――しばらくして……
なんだろう? この惨事は?
祐一たちが来てくれて、楽に終るだろうと思っていた引越しは、今や立っているのは私だけと言う悲惨な現状に陥っていた。
これも全て、佐祐理の理不尽な量の荷物の所為だろう。
「……どうしよう?」
本当にどうすればいいのか分からない。
祐一と潤は佐祐理の物凄く大きな荷物の下敷きになって再起不能。
名雪と香里は丘の中に埋もれて消息不明。
佐祐理にいたってはどこに行ったのか分からない。
この状況をどう処理すればいいんだろうか?
事後処理ははっきり言って苦手なのだ。
「……とりあえず、片付け」
私は結局、この状況を無視することにした。
引越しさえ終わらせてしまえば、皆助かる……はずだ。
私はそう信じて、片付けを続けることにした。
一人で黙々と荷物を運ぶ。
重いものも軽いものも全て部屋に運び込む。
一番の問題だった佐祐理の丘も簡単に運び込めてしまった。
どうやらアレは、旅行の行きと帰りで実際は変わっていないのに荷物の量が変わったと思ってしまうあの状況とほとんど一緒だったらしい。
つまり、ぐちゃぐちゃに重なってしまったから体積が肥大化していただけだった。
ともあれ、荷物の整理は一応終了した。
今私は、新しい部屋の畳の上で皆の寝顔を見ている。
祐一に潤、名雪に香里。無論、佐祐理もいる。
皆大変な目にあったにも拘らず、何一つ悩みのないような顔で寝息を立てている。
名雪と香里を発見したのは、荷物の丘の中。
上から少しずつ片付けていったら麓の方に埋もれていた。
祐一と潤は無傷で荷物の下から生還。
人体の神秘を見た気がした。
そして、佐祐理は何故だか押入れの中で眠っていた。
きっと、青い猫さんに憧れたんだと思う。
「………………」
冷静に変なことを考えている私が少し可笑しかった。
私は一通り言葉を殺して笑うと姿勢を正した。
そう、あれをやらなければいけないのだ。
そして、私は無言で頭を下げて言った。
これからよろしくお願いします、っと。
To be continued
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あとがき
白犬「どーもー、白犬でーす」
舞「……舞」
白犬「何か、名前言うの略してませんか?」
舞「……貴方と違って知名度高いから」
白犬「(グサッ)……本当のことだから言い返せない(泣」
舞「……ところで、犬さん。また続くの?」
白犬「い、犬さん? ……えーと、続けます」
舞「……またこんなギャグだかシリアスだかほのぼのだか分からないものを書くの?」
白犬「そんなにボロクソ言わないで……(泣」
舞「……書くの?」
白犬「書きます。To be continuedって入れちゃったし」
舞「……無計画」
白犬「今に始まったことじゃないです」
舞「……そう、ならこの辺でさようなら」
白犬「随分と突然な……。何か理由でも?」
舞「……ここに時間掛けてるから、続きが遅くなる」
白犬「御尤も。と言うことでさよなら〜」
舞「……次回、打上げ編」
白犬「次回予告はするの?」
舞「……一応」
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