学校を卒業した後、私は佐祐理と一緒に暮らすことにした。

 だから、私はこれから佐祐理と一緒に暮らす。

 部屋はもう決まっている。

 だから、後は引っ越すだけ、なのだけど……









舞さんのお引越し
〜荷造り編〜










「全く荷造りしてない、と?」

 祐一が私の部屋を見渡して訊いてくる。

「……はちみつくまさん」

 私は素直に頷く。

「で、手伝って欲しい、と?」

 祐一がジト目で呆れたように私を見る。

「…………はちみつくまさん」

 冷汗を掻きながら目線をそらす私。

「しかし、始めて舞の部屋に来たのがこんな用事で、しかも舞の部屋がこんなに散らかってるとは思わなかったぞ」

 祐一は改めて私の部屋を見渡して溜息をつく。

 私の部屋は見事に散らかっている。

 でも、それは仕方ないと思う。だって、最近まで夜の学校にも行ってたのだから片付けてる時間なんてない。

 それに、これから荷造りするのだから問題ない……はず。

「……うん、きっと大丈夫」

「本当に大丈夫なのか?」

「……あくまで、きっと」











――荷造りが始まって数十分後……

 祐一の手伝いもあって、荷造りは順調に――

「おー! これはあの時のか」

「……懐かしい」

――進んでなかった。

 荷造りをするにあたって、まずは私の部屋に何があるのかを確認するために部屋の片付けをすることになった、のだけど……

「これは、舞の子供の頃の写真か。今見てみても可愛いな」

「…………はずかしい」

「これって、舞が持ってた剣だよな? こうして見ると切れ味悪そうだなぁ、それによく銃刀法違反で捕まらなかったよな……」

「………………ばれなきゃいい」

 こんな感じで思い出の品々が掘り出されてきて全く進まないでいる。

 もっとも私がいちいちそれに反応するのも悪いのだけど。

 それにしても、本当にいろいろな物が出てくる。

 私の小さい頃の写真、私が魔物を討つのに使っていた剣、果ては小さい頃に祐一から貰ったあのうさぎさんの耳のついたカチューシャまで押入れの奥から姿を現した。

「……本当に懐かしい」

 私はポツリとそう零すと、とても大事な事に気付いた。

「そう言えば、舞。お前と佐祐理さんの写真ないよな?」

 祐一が私に訊いてくる。

 そう、私の部屋には佐祐理との写真が一枚もなかった。

 別に、二人で写真を撮ったことがないわけではない。何度か一緒に撮った覚えはある。けど、私は一度もその写真が欲しいと言ったことはなかった。

 だから、私の部屋には佐祐理との写真がなかった。

 ……これで本当に親友と呼べるのだろうか?

 そんな疑問がフッと浮かぶ。

――ブンブンブン。

 頭を振ってその疑問を払拭しようとするが全く消えてくれない。

 私は、佐祐理の……親友でいいの?

「まあ、いいか。別に写真持ってることが親友の条件じゃないからな」

「……祐一?」

 ドキリとした。

 祐一が私の疑問を見透かしたように言ったから。

「俺だって、北川とのツーショット写真はさすがに御免被りたい」

 苦笑いを浮かべながら祐一は続ける。

「それに、これから佐祐理さんと一緒に暮らすなら特に必要ないだろ。毎日一緒にいるんだからな」

 ……そうか、私は何を悩んでいたのだろう。幾ら写真がなくたって、佐祐理と一緒にいた月日は本物なのだ。

 積み重ねた月日が、積み重ねた言葉が、大好きだと言う想いが親友の証なのだ。

「ありがとう、祐一」

 祐一に聞こえないように小さく呟く。

「ん? 何か言ったか?」

「……何も言ってない」

 祐一が目敏く聞き返してきたがここは知らないふりをする。

「……そんなことより、急いでやらないと日が暮れる」

 私は時計を指差す。

 まだ何もしていないのに荷造りが始まってからもう一時間も過ぎている。

「それもそうだな。よし、いっちょやるか」

「はちみつくまさん」

 そして、私たちは荷造りを再会させた。











 大切なものと、いらないもの。

 それぞれを別々の段ボール箱に入れていく。

 どんな物にも思い出はあるけれど、持っていけるものといけないものに分けていく。

 そして、最後に残ったのは私のあの剣。

 これはとても大切なもの。でも、持っていってはならないもの。

 そこで私は考える。これをどうしようか、と。

 捨てる事はできなくもない。いや、むしろその方が簡単だろう。

 でも……私はこれを祐一に託す事にした。

 そう行った時の祐一は目を円くしてどうやって持ち帰ろうかと真剣に悩んでいた。

 その時の祐一がちょっとだけ可愛いと思ったのは私だけの秘密だ。











――そして、

 荷造りが終って、改めて部屋を見渡してみる。

 存外、広い。

 この部屋で暮らしている頃は狭い部屋だと思っていたけど、そんな事はなかったと今になって実感した。

 明日からは他の部屋で暮らすことになるけど、この部屋はいつまでも私の部屋であって欲しいと願う。

 でも、それは叶わぬ願いだ。

 だから、私は深々と頭を下げた。

 今までありがとうございました、と。




To be continued





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あとがき

白犬「どもー、白犬でーす」

舞「……川澄、舞」

白犬「初の対話型あとがきでーす! どんどんぱふぱふ」

舞「……それはいいとして、続くの?」

白犬「HAHAHA、ローテンションの上にいきなり話題にそれを選ぶとはさすがマイブラザ」

舞「……(チャキ)続くの?」

白犬「つ、続きます、続きますです、はい」

舞「……書けるの?」

白犬「ここで死ななければ(冷汗」

舞「……そう、ならいいけど」

そう言いながら剣を納める舞さん。

白犬「そのすぐに抜刀する悪癖を直せば……(ボソッ」

舞「……そう」

――ザシュウウウゥゥゥゥ。

白犬「ぎゃあああぁぁぁぁ……」

舞「……と、言う訳で続かない。それじゃあ、皆さんさようなら」

白犬「……続け、ま……す、って(ガク」

舞「……祐一並みにしぶとい」

白犬「それを言う……なら、北、川……」

舞「……さようなら」

――ザスッ。

その後、白犬の姿を見たものは誰もいなかった……

(こんな終わりはイヤー!)





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