ルート 〜a prologue〜





 最近、ふと思うことがある。

 どうして俺はここにいるのか?

 どうして俺はこうしているのか?

 噎せ返る血潮の香りに頭がくらくらする。

 断末魔の叫びにキーンと耳鳴りがする。

 そんな中、どこかでうめき声が上がる。

 どうやら殺り損じたやつがいるらしい。

 もう既に酸化が始まり、黒く変色した血飛沫がこびり付いた町並みを駆け抜ける。

 半死人。そんな感想をもつことしかできないやつの前に佇む。

 しかし、よく生きているものだ。

 左足と右腕が切断されているくせに、未だ息がある。

 放って置いてもいずれ酸欠で死ぬだろうが、せめてもの慈悲で苦しまないようにしてやる事にした。

 一瞬で、本人に何も分からぬように。

 そう……死んだことすら。









ルート
〜a prologue〜










 窃盗、強姦、放火、詐欺、贈賄、そして、殺人。

 世界は数え切れないほどの犯罪がある。

 小さいものであれ、大きいものであれ、人は生きていくうえで必ず罪を犯す。

 それが行き過ぎると、テレビに映ったり新聞に載ったりする。

 数年前、とある一つの町が、たった一人の人間の手により壊滅した。

 住人は全員死亡。しかし、建物の倒壊などは一切なく、人が殺されただけ。

 そう、殺されただけ。たった一人にたった一晩で……

「今朝、また惨殺死体が発見されました」

 休日の昼間に街の大きいスクリーンで凄惨なニュースが流れる。

 親子連れで賑わう街で流すものではないだろうに。

「これで、発見された遺体は10名にのぼり……」

 そうか、もう10人も……そろそろ、潮時かな。

 俺はそう思うと、裏路地に入る。

 夜、殺人鬼の活動する時間まで身を潜めるために。












 闇夜に浮かぶ月は朗々と輝き、仄かに赤みを帯びている。

「はは、綺麗な月だ。やっぱり、月が綺麗だと殺しの気分も盛り上がる。そうは思わないか? なぁ、紛い物」

 闇から影が現れる。

 まあ、はっきり言って分かりきってはいたが……

「紛い物とは……はて、誰を指すのだい?」

 黒いスーツに黒い帽子、サングラス。ここまであからさまに怪しい殺人鬼などいてもいいのか、と疑問に思ってしまう。

「ははは、お前だって分かってるだろう? 誰が何の紛い物か」

 少しだけ、そう本当に少しだけ、殺意を孕んだ視線をぶつけてやる。

「なるほど、なるほど〜。そんなに私に殺して欲しいか……」

 卑下た薄汚い笑み。

 瞳が濁ってる。こりゃ、精神異常者(ルナティック)か……

「勝手にしろよ、紛い物」

 瞬間、黒服の疾走。

 懐からナイフを取り出し、切りつけてくる。

 見え見えだけどな……

 ナイフでの袈裟切り、はっきり言って素人丸出しの軌跡。

 無論そんなものは、支点となる肩さえ固めれば止める事など雑作ない。

 そのまま、伸びきった腕を絡め取り、持って逝く。

「ぐぎゃあ……」

「あ〜あ、悲鳴まで下品なんだな。そんなものじゃ、殺人鬼とは呼べないぜ?」

 利き腕を押さえて蹲る男に吐き捨てる。

「ぐぅ……ああっ!」

 刹那の跳躍。

 だが、神速の反応をしてもかわせないものもある。

 ……ちっ、左の筋を持っていかれたな。これじゃあ、動けないか……

「ぐゅへっ、ぎょふっ」

 男は意味不明な奇声を発し迫ってくる。

「まさか、精神異常者のくせにヤバイ薬までやってるとはな……ふん、俺も鈍ったもんだ、こんな紛い物に殺されるとは」






※  ※  ※








――某高層ビル屋上

「おいおい、アレでほんとに噂の完全殺人者(パーフェクト・キラー)なのかね」

 戦いを傍観しながら、スーツを着た女性は毒づく。

「おい、助けに行ってやれ。あれじゃあ、使い物にならなくなる。それに、お前の運命でもあるんだろ?」

「……うん、了解」

 少女の後ろに控えていた少女はそう言い、消失した。






※  ※  ※








 心臓めがけて振り下ろされるナイフ。

 死ぬ直前だからだろうか、酷くスローモーションに見える。

 いや、これは単に男が鈍いだけ。

 そう、こんなものは至極楽にかわす事が出来る。

 足の怪我さえなければ。

 そして、気付く。

 やつの腕が消失していることに。

 否、腕だけではなく体ごと。

 脳だけが死を認識しておらず、何かを話そうとしていることが分かる。

 が、それも一瞬。

 男の全てが解体され、地面に落ちていた。

 そして、ようやく本当に気付く。

 髪の長い、血に濡れた女神に。

 そう思えるほど、彼女の姿は美しかった。







「勝手に死なないで……貴方を殺していいのは私だけなんだから」












――Stage Direction――





少年と少女の物語はこれで始まる

しかし、これは始まりではなく終わりでもある

だからと言って意味がないわけではない

この世界に無意味な事象などないのだから

つまり、これはただの

「邂逅」

に過ぎないのだ









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あとがき

 ど〜も、白犬です。
 さて、なんか好き勝手やりましたがどうでしょう?
 中途半端なのは分かってますがこれは仕方ないんです。
 なにが仕方ないのかは……まあ、おいおいw

 で、今回のこれのタイトル「ルート」には2種類ほど意味を込めてみました。
 分かってるとは思いますが、まずは「道」と言う意味です。
 そして、もう一つが数学記号の「√」です。
 まあ、こっちの意味は分かり辛い物とでも取っていただければ幸いです。
 ほら、√ってたまに滅茶苦茶分からないときがあるじゃないですか、ね?
 とりあえず、こんなところです。
 では、感想とかがほしいな〜と思っている白犬でしたw



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