「行方不明?」
洋一は至極呆れた声で、鸚鵡返しに聞き返す。
「そうなんやて、茜ちゃんどこ行ったか分からんらしいねん」
微塵も心配してないかのように葉子は言い切った。
「少しは心配しろよ」
「せやって、うちの子やないしな。それに、宗吾さんと美恵ちゃんもあんま心配しとらへんし」
「あんたら、親の自覚ないだろ」
洋一は本当に呆れた声で言い切る。
まあ、10歳の少女が行方不明になって心配しないのはこいつらだけだろうが……
「別に心配してどないするん? どうせお前が見付けるんと違うか?」
葉子は反省の色一つせず、洋一の頬を軽く突っついた。
「都合のいい時ばっかり息子に頼りやがって」
「男の子やろ? 探して来い」
「分かったよ、行けばいいんだろ?」
洋一は渋々と玄関に向けて歩き出す」
「どうせ、見当くらいついとんのやろ?」
「不本意ながら」
そう言って洋一は茜探しを開始した。
「開始三分、捜索終了」
「ふぇ……洋一?」
体育座りで俯いていた茜は洋一の声で頭を上げた。
「いい加減、何かあったらここに隠れるの止めろよ」
「洋一には関係ないでしょ?」
「関係ある。茜が行方不明になると必ず俺に白羽の矢が立つ」
「わるうございました」
「んで、今日はどうなさいましたか? お姫様」
「洋一、からかうから教えない」
そう言って茜はそっぽを向く。
「まあ、いいけどな。見当はついてる……けどなぁ、慣れろよ」
「うるさいなぁ! 洋一になんかあたしの気持ちは分からないでしょ」
「そりゃ、分からんけど……毎度毎度あの三馬鹿にスカートめくりされたくらいでここに逃げるのはどうかと思うぞ?」
「うっ……お、乙女心は複雑なの」
「だからって、毎日ペースは止めてくれ」
「だって、あいつらやって来るんだもん」
「だから俺がボコしてやったのにお前がまた」
「うう、ごめん……でも、その所為で洋一と一緒に帰れないの嫌だったから」
「はぁ、まあいいかどうせ三分だし」
「……えっと〜、なにが?」
「へそ曲げたお前を見つける時間」
「あうあう」
「帰るぞ?」
そう言って差し出される右手。
「うんっ」
その手にとって、茜は嬉しそうに頷いた。
「はい、質問」
元気よく手を上げる薫。
「何? 薫ちゃん」
「これ?」
「違うよ」
「これも違うの!?」
「大丈夫、この次だから」
「うう〜、じゃあ、早く話してよ」
薫は不満げな声を上げる。
「でも、薫ちゃんが話し止めたんだよ」
「うう……、じゃあついでにもう一個質問」
「何?」
「あの三馬鹿の件って必要なの?」
「え? えっとねぇ……」
茜は顎に手を当てて考える。
「……いらない、かな?」
「じゃあ、何で話したの?」
「一応……」
茜は「てへっ」っと、舌を出して誤魔化す。
「それに騙されるのはお兄ちゃんだけだよ。とにかく、真相を話してよ」
薫は何気にひどい事を言いながらも茜のことを促した。
「分かってるよ。じゃあ、真相だよ」
そう言って茜は三度話し出した。
――大好きな男の子がかつてしてくれた事を……
<<< 目次に戻る >>>