「…………」
「…………」
「…………」
無言。
誰もが何も話すことなく黙々と食事を続けている。
「…………」
「…………」
「…………」
うんともすんとも言わず、まして、美味しいだとか、不味いと言う簡単な会話すら出て来ない。まあ、茜の料理の腕は保障済みなので、あえて言わないという可能性もあるが……
――もぐもぐ。
――んぐんぐ。
――ぱくぱく。
ただひたすら、食事の音だけが食卓を支配している。
「何かあったの?」
不意に沈黙が破られる。
案の定と言うか、予想通りというか、気まずい沈黙を破ったのはやはり薫だった。
年上二人――と言っても、片方は実の兄で、片方はほぼ実の姉のような存在だが――が引き起こしている沈黙を破ったのだ。普通ならば相当の勇気が必要な行為である。が――
「…………」
「…………」
――やはり、無言。
「ねぇ、答えてよ。お兄ちゃん」
薫は矛先をどちらかと言うと問い詰めやすい洋一へと向ける。
「…………」
しかし、やはり無言。
と言うか、ジト目で茜を睨んでいる。
「……?」
薫もそれに気付き茜に眼を向ける。
「…………」
「何やってるの? 茜さん」
神谷兄妹が思わず閉口してしまうような奇行をしている。
「……見て分からない?」
茜は自身の料理である炒飯を素晴らしい勢いで掻き込んでいる。
それがどうしたと言う人もいるだろうが、その炒飯がかなり異常である。
「分からない」
「分かりたくない」
神谷兄妹がユニゾンで反論する。
と言うか、誰だって見たら反論するだろう。無論、一部の茜と嗜好が同じ者は別としてだ。
「分からないかなぁ〜、美味しいのに」
茜が不満そうに自己申告を開始する。
「この、こってりとして……」
「確かにこってりしてるな、それは」
「それでいて、さっぱりしていて……」
「うん、さっぱりしてると思うよ」
「とっても、美味しいじゃない?」
「それはない」
「それおかしい」
茜の最終判断を完全否定する神谷兄妹。
何気に、麗しい兄妹愛がここに発揮される。
さっきまでの沈黙が嘘のように騒がしくなっている。
「薫ちゃん酷いなぁ〜。おかしくないよう〜、マヨネーズかけるくらい」
茜の問題発言。
もちろん、マヨネーズをかけているのは野菜とかサラダではない。炒飯にかけているのだ。それも、大量に。
普通の人間ならまずおかしいと言うだろう。
「茜、お前そこまで味覚音痴だったか?」
「それはないと思うよ。だって、この炒飯美味しいもん」
洋一の疑問に茜ではなく薫が反論する。
「そうそう、あたしは味音痴じゃないもん」
そう言いながら、マヨだくの炒飯を頬張る。
ハッキリ言って説得力は皆無である。
そんな茜の姿を見やって洋一は、
「なあ、薫」
「何? お兄ちゃん」
「もう、マヨネーズ買うな」
「うん、そうする」
神谷家からのマヨネーズ根絶宣言を発令した。
この日から、神谷家のマヨネーズが約一ヶ月間消えた。
<<< 目次に戻る >>>