いつも歩く道 第一部 夏 





――夏休み・最終日前日

 蝉が忙しなく鳴く中、洋一と茜、そして薫は駅前にいた。それなりに大荷物を抱えて。

「あっついね〜」

 薄手のキャミソールの胸元を危な気なくパタつかせる。

 茜はそれほど巨乳と言う訳ではないが、それでも、それなりに育ってはいる。その所為か、周りの男性通行人がチラチラ茜を流し見ていた。

「止めろっての」

 それをさり気なく洋一が自分の影に隠す。

「それにしても遅いね」

 そんな洋一の気苦労を知ってか知らずか、未だに胸元をパタつかせている茜が洋一に訊ねる。

 そう、彼等は待ち合わせ中なのだった。











――昨夜

 たまりにたまった夏休みの宿題を片付けていた最中の――

「海に行こう」

――この、茜の一言。

 このたったこれだけが原因で海に行く事になったのだった。

 その後の茜の行動力は凄まじく、武、里奈に連絡をつけると、そのまま海へ行くための用意を全て終らせてしまったのである。











――再び夏休み・最終日前日

 現時刻、9時17分。

「約束の時間から17分遅れ……あの二人に何かあったのかな?」

 珍しく遅れている二人を茜が心配する。

 大抵あの二人は約束の三十分前以前には待ち合わせ場所にいる。と言うより、大抵遅れるのは洋一と茜のほうであった。

 駄目カップルである。

「……あ」

 そんな中、二人の様子を鬱陶しげにされど、眩しそうに見ていた薫が何かを思い出したように呟く。

「ん、武たち来たのか? と言うか、暑くない?」

 洋一たちとは違い街路樹の木蔭に入らず、行きかう人の波を見つめている薫に疑問を投げかける。

「大丈夫だよ。涼しい格好してるし、帽子も被ってるもん。それに、お兄ちゃんより暑さには強いから」

 そう言って微笑む。

 確かに薫の格好は白いワンピースに麦藁帽子と、どこぞの田舎から上京してきたんだ、この娘? と思わせるような格好だ。確かに、洋一の服装に比べたらかなり涼しさに違いが生まれるだろう。

「あ、それと……実は武さんと里奈さんから伝言があった事忘れてたんだけど……」

「武と里奈から伝言?」

「まさか、行けないとか?」

 薫の言葉に洋一と茜が次々に反応する。

「あの……行けないとかじゃなくて、現地集合にしてくれって言う……」

 薫は言いにくそうに目を伏せた。

「現地集合?」

「つまり、ここには来ない?」

 こくこくと茜の言葉に頷く薫。

「じゃあ、遅れてるのは……」

「あたしたちってこと?」

 顔を見合わせて溜息をつく二人。

「あの……ごめん、お兄ちゃん、茜さん」

「気にするなって。いつも通りになっただけだ」

 頭を下げた薫の頭に、ぽんと手を置いて洋一が慰める。

 この慰め方は、さすがお兄ちゃんと言った所だろう。

「それじゃあ、早いとこ切符かって電車にのろ」

 茜はそんな良い兄妹の二人を見て嬉しくなったのか、凄く優しい笑顔で二人を促す。

「ああ、そうだな。あの二人のことだし、もう場所取りも準備体操も終って待ってるだろうし」

 そして、三人は手を繋いで歩き出す。

 傍目から見たらこの三人はどう見えるのだろう?

 中のいい幼馴染み? 仲のいい兄妹? 仲のいい親子?

 それとも、仲のいい恋人とその妹?

 何にせよ「仲のいい」とさえ見えていれば、それでいい。あ、でも親子は勘弁。だって、あたしも洋一もそんなに年を取ってるように見えないし、もし薫ちゃんが母親に見られたらショックが大きすぎる。

 でも……出来れば、あたしと洋一が仲のいい恋人で、薫ちゃんがその仲のいい恋人の仲のいい妹に見えれば嬉しいな。

 と、茜は想いながら、洋一と繋いだ手を強く握りなおした。





――願わくば、この二人に永劫の幸せがあらんことを――






 ふっと吹いていく夏の暑い風の中で、誰かがそんな願いを口にした気がした。















夏:友達と恋人の間

――終――


















あとがきへ


<<<  目次に戻る