いつも歩く道 第一部 春 





 午前の部が全て終了した後の昼休み。四人はいつも通りとは行かないものの昼食をとっていた。いつもと違う原因は無論、里奈である。

「里奈、いい加減機嫌直したら?」

 お弁当の定番とも言えるたこさんウインナーを口にしながら言う茜。

「そうだぞ。弁当が不味くなるだろ」

 同じく、こちらは玉子焼きを食べながら洋一。

 ちなみに、洋一の食べているお弁当は茜の手製だったりする。

「そうだよ、里奈。里奈の可愛い顔が台無しじゃないか」

 さらっと、恥ずかしい台詞を言ってのけた武。

 ちなみに、武のお弁当は里奈の手製。

「……武……恥ずかしい」

 顔を真っ赤にさせて小声で講義する里奈。確かに、そっちの人じゃなくても可愛らしいと思うだろう。

「そんなことないよ。ぼくたちは一応ちゃんと付き合っているんだから」

 さらに恥ずかしいことを言う武。

 この男は以前、茜に里奈と付き合っている事を強調されたとき赤面していたが、今は自分で強調していると言うことに気付いていないのだろうか?

「お熱いこって」

「お腹いっぱい」

 何時かの報復の意味を込めて皮肉る洋一と茜。

 しかし、相手は本物のカップル。

「洋一と茜さんだって付き合えばこうなるよ」

「もうアツアツ」

 見事な返しをしてきた。














「いつの間に里奈の機嫌って直ってたんだ?」

「わかんない」

 昼食を終えた後の雑談はこの会話からスタートした。

「昼食中ってのは間違いないよ」

「つーか、お前の惚気からだろ」

「僕は惚気てなんかないぞ」

「そうか?」

「そうだ」

 どこと無く終らなそうな二人の会話に見切りをつけて茜は里奈のほうを向いた。

「それにしても、里奈気にしすぎだよ」

「……そうかな?」

「そうだよ。里奈は今のままって嫌なの?」

「……うん」

 里奈は静かに頷く。

 身長の話しになっているにも拘らず里奈が怒らないのは、単にその話題への触れ方であろう。森のように触れられたくない話題へズバリと触れられれば流石の聖人君子も怒ってしまうだろうし。

 その点で言えば茜の触れ方はソフトなので里奈も怒らずに聞いているのだろう。

 まあ何にしろ、同性同士と言うのが一番大きいのだろうが。

「そっか……でも、なんで?」

「おっきい方がかっこいい」

「それって、子供っぽいよりなら大人っぽい方がいいって事?」

「……そう」

「勿体無いなあ。今の里奈すっごく可愛いと思うけど」

「そう、かな?」

「そうだよ。あたしが男だったらほっとかないもん」

「茜は女。それに、武は大人っぽい方が好きだと思うし」

「あはは。ねえ、里奈。里奈は武君と付き合ってるんだよね? だったら、武君は今の里奈で良いと思ってるんじゃないの?」

「……そう?」

「そうよ。じゃなきゃ付き合おう何て思わないわよ」

「……そう、だね。でも、恋愛したことのない茜に諭されるなんて不覚」

「何が言いたいのよ?」

「茜も好きな人がいるって事」

 その刹那、茜が赤面する。実に分かり易い。

「な、何を根拠に」

「……その動揺」

 里奈に確信を衝かれ茜は硬直してしまった。














「お〜い、茜〜。起きろ〜」

――ペシ、ペシ。

 洋一が茜の頬を軽く叩くとゆっくりと茜が目を覚ました。

「……? 洋一? う〜、あたしどうしたの?」

 寝ぼけているような口調で茜が訊ねる。

「何でも、里奈との会話中にいきなりフリーズしたらしいぞ」

 洋一が端的に状況を説明する。

「里奈との……? ハッ」

 洋一の説明で里奈との会話内容を思い出し一瞬で赤面する茜。

「どうした?」

 洋一が訝しげに覗きこむ。

「だ、大丈夫だから。あっち行って、あっち行け、こっち来るな」

 洋一の顔が目の前に迫ると茜は俯き思わず叫んでいた。

「大丈夫ならいいけどな。それじゃ、俺は武の所にでも行って来る」

 そう言って洋一は茜から離れていった。

「……何やってんだろ? あたし……」

 そうごちる茜を母親のように里奈が見つめていた。



















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