茜のお泊りイベントから数日後。
季節は確実に流れ行き、四月を通り越そうとしていた。
そんな頃、新入生にとっては記念すべき最初の行事である体力測定が行なわれていた。
そんな中、長距離を走りながらも愚痴る男が一人。
「しかし、何で男子の長距離は千五で、女子が千で終りなんだ? 不公平だろ」
洋一である。
そんな洋一の愚痴を真横で聞き、武は呆れながらもフォローする様に言う。
「不公平って……一般的に女子の方が体力ないんだから仕方ないだろ」
「何を言う。日本のマラソン界を見てみろ。女子の方ばっか活躍してるぞ」
「それは、世界の男子のレベルが高いって事じゃないの?」
「一概にそうだとは言えないだろ、武」
そう、走りながら言い合っている洋一と武の横を二つの影が軽快にすり抜けていく。
茜と里奈である。
二人は洋一と武を追い越す時それぞれに向かって、
「おっそいよ〜。洋一」
「武、がんばる」
一言ずつかけていった。
「あれどうよ?」
「あの二人は規格外ってことで」
「……だな」
あっという間に抜き去られた洋一と武はしみじみとそう感じていた。
――数分後。
「つ、疲れた……」
「まあ……それは、ね」
見事にへばっている洋一と武の側に茜と里奈がやってくる。
「あ。へばってる、へばってる」
「うるさい。お前らとは距離が違うんだよ」
洋一は弱々しく抗議した。
里奈はいつものやり取りを始めようとしている二人の横を通り過ぎ、座っている武の前にしゃがみこんだ。
「はい、武。飲み物」
「あ。ありがとう、里奈」
里奈が差し出した缶ジュースを、武はそれをありがたく頂く。
そんな光景を横目で見ながら洋一は茜にダメ元で訊いてみた。
「なあ、茜。俺には?」
「ある訳ないでしょ。あっちは恋人って名目上の慈善事業なんだから」
「慈善事業って……」
「奢るって、そういう事じゃない」
そう言い合っていると、武が洋一の目の前に飲みかけの缶ジュースを差し出した。
「飲む?」
「いや、いい。折角、里奈が武の為に買ってきた物なんだから俺が貰うってのもな……」
「気にしなくていいのに」
「いいんだって。それより、次の種目なんだ?」
「確か百メートルだったかな?」
武の回答を聞いて洋一は硬直した。
「……マジ?」
「たぶん」
洋一はその言葉を聞いて数秒思案した後、
「……やっぱくれ」
結局洋一は貰うことにした。
その後、洋一は茜という人の皮を被った悪魔に囃されながらも体力測定を次々とこなしていった。
そして、放課後。
四人は商店街の小さな喫茶店にいた。
「はあ、今日は疲れたな」
「うん。疲れたね」
洋一の溜息混じりの言葉に茜が笑顔で同意する。
「茜さんが言うと疲れたように感じないよね」
「わたしも、そう思う」
「え? そう?」
微笑みながら言う武とそれに賛同する里奈に茜が不思議そうに聞き返した。
「なんていうか、茜さんには疲れたってことば似合わないな。って、思って」
「元気、とも言う」
「つまり、うるさいってことだ」
「洋一、何よそれ」
途中まではうんうんと頷いていた茜だが、洋一の発言にはさすがに頷けずに食い掛かった。
「何よって、ただの事実だろ」
悪びれることなく言い返す洋一に、茜は笑顔を作って、
「よういちぃ〜、もう口利かないから」
と言って、そっぽを向いてしまった。
「洋一、いいのか?」
武が声を潜めて訊いてくる。
「気にすんな。すぐ機嫌直る」
ところが、洋一は全く心配した素振りも見せなかった。
すると、
「洋一……やっぱ、さっきのなし」
茜が話しかけてきた。
「な?」
「……うん、確かに」
少し呆れ気味に武は頷いた。
「……これで、恋人じゃない?」
武の横で里奈が誰にも気付かれないように呟いた。
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