いつも歩く道 第一部 春 





「ただいま…」

「おかえり、お兄ちゃん…ってどうしたの?」

 薫は玄関で打ちひしがれている洋一を見て目を丸くしている。

「お〜ん、帰ってきたんか? 馬鹿息子」

 っと、奥から葉子が顔を出して一言。

「うっさい。あんたの息子なんだから仕方ないだろ」

「せやって、薫はええこやでぇ〜」

 悪びれることなく言い放つ葉子。

「それは、親父のおかげだろ」

「そないな事より、今日どないしたん? へこんどるやん」

「お袋には関係ないだろ?」

 そう言うと、薫が葉子に耳打ちをした。

「ほ〜ん、なるほどなぁ。茜ちゃんか〜、あの子も元気やしな。ああ、せや、宗吾さんとか美恵ちゃんとかと遊びいくんもええなぁ〜」

「勝手にしろよ。俺は感知しないからな」

「せやな、せやったら茜ちゃん家に来るもんな」

「茜も連れてってくれ」

「嫌や、大人の世界に子供はいらんねん」

 その言葉に洋一は軽い不安感を抱いた。

「まさか…親父も連れて行くのか?」

「当たり前やん。仲間はずれにしたら悪いやろ」

 予感的中。

「せや、電話してこよ」

「待てーーーー」

 もはや、聞く耳持たぬ葉子はいそいそとリビングに戻っていった。

「待てって…」

 力なくつぶやく洋一。

 その肩に手を置き、

「お兄ちゃん。無駄」

 止めを刺す薫であった。














「ごちそうさま……」

「あれ? お兄ちゃん、もういいの?」

「ああ、食欲がない」

 洋一が静かに箸を置き、席を立とうとすると相馬が話しかけてきた。

「何か、ありましたか? 洋一君」

「う〜ん、まあ。一応、心労ってことで」

「なるほど、茜さんですか」

 何も言ってないはずなのに洋一の悩みを看破する相馬。

「ははは……まあ」

「そうですか。では、アドバイスを一つ。その程度のことで疲れていてはこれから先身が持ちませんよ」

「どう言うことだ?」

「すぐに解りますよ」

 相馬の意味深な言葉に首を傾げながらも、洋一は自室に戻っていった。














 洋一が、自室のドアを開けると、

「はろー、洋一」

 Tシャツに短パンとラフな格好をした茜がいた。

「………………」

――バタン。

 無言のままドアをしめる洋一。

 そして、二・三回深呼吸をして、再度ドアを開ける。

「何、閉めてるの? ここは洋一の部屋でしょ?」

 そう簡単に現実は変わらなかった。

「茜。何でお前がここにいる?」

「洋一の部屋だから」

「そうじゃなくて、何のためにここにいる?」

「あたしのお父さんとお母さんと、洋一のお父さんとお母さんの計四人で何処かに遊びに行くんでしょ? それで、あたしがこの家に来る事になったから、泊まる部屋を物色しに来たの」

 花の咲く様な笑顔で答える茜。

「不法侵入だろ」

「違うよ。だって、洋一のお父さんとお母さん、薫ちゃんには挨拶したし」

「俺に挨拶はなしか」

「だから、ここで待ってたんでしょ?」

 茜の回答に洋一は少しだけ頭を抱え、茜に聞こえるように呟いた。

「茜……」

「ん? 何? 洋一」

 洋一は不思議そうな顔をしている茜を半眼で睨みつけ言い切る。

「出てけ」

「嫌」

「出ていかんと、襲うぞ」

 即答で拒否した幼馴染みに脅しをかける洋一だが、

「襲ってみ。ほれほれ」

 茜には効かないのか、そう言って腰をくねらす。

――プチン。

「待てや、こらーーー!」

「いや〜ん。洋一のえっち〜」

 こうして、第一回神谷家追いかけっこ大会の幕は上がった。






 ……しかし、こいつ等の恋人の定義はいったいどうなっているのか全くの謎である。



















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