いつも歩く道 第一部 春 





出会いと別れ。

その全てが交錯する時、新しい物語が始まる。

ここにも、新たな出会いがあるかもしれない所に向かう少年が一人。

季節は……春。

桜の舞い散る道を通り、少年はそこに向かっていた。





 四月の初頭。この季節、そこでは珍しいことに桜が咲いていた。本来ならば、そこでは四月の終わりから五月の初めまでに咲くはずなのにである。

 そんな満開の桜の木々の下を一人の少年、神谷洋一は気だるそうに歩いていた。

「はぁ、面倒くせぇ〜」

 この少年、神谷洋一は一言で言えば怠惰だった。スポーツも勉強もそれなりにでき、それなりに優しい。顔も中性的でいかにも男女共に好かれそうだが、その怠惰な性格と時々妙に哲学的になることが災いしてか友達も少なく、恋人も今まで一人もいない。詰まるところの変人だったりする。

 そんな彼だが、この春、超難関と有名な進学校に通うことになった。と、言っても実際のところは古くからの友人――まぁ、幼馴染みだが――に無理矢理受験させられ、あろうことか受かってしまったからであった。別に、受かったから必ずその学校に通わなければならない訳ではないのだが、受かったことが彼の親戚中に知れ渡ってしまい、こうして有無を言わさず通う破目になってしまったのだった。

「このままサボっちまってもいいだろ?」

 誰に言うとでもなく独りごちる。すると、

「そんなこと、御上が許してもあたしが許さないんだからねぇ〜」

 不意に後ろからよく通る透き通った声が飛んできた。その刹那――

――ガスッ。

 後頭部に鈍い衝撃が走る。

「がはっ?」

 見事なまでの不意打ちに洋一はなすすべもなく倒れ付した。

「うん。今日も絶好調。あ、でも、もう少し重い方が……」

 洋一に不意打ちを喰らわした挙げ句、妙なことを口走っている少女の名前は松嶋茜。少し長めの髪をポニーテールに束ね、活発そうな外見をしている。その容姿は小さい顔に大きめの瞳と、美人と言うより可愛らしいと言う表現が一番合っている。性格はしっかり者だが少々抜けているところがあり、いわゆる爆弾娘。しかし、以外にも料理が得意と少々女の子らしいところがあるためか、実は繊細で寂しがりやだと本人はのたまっている。が、現状では誰一人として信じていない。言うまでもなく、洋一をこの学校に入れようとした張本人である。

「あ〜か〜ね〜」

 洋一は地の底から響くような声を上げて起き上がった。

「あっ、復活した」

「あっ、復活した。じゃねぇだろ! いきなり不意打ちかましてくれや……」

「おはよう。洋一」

「んあ? ああ、おはよう……じゃなくて!」

「どうでもいいけどさ。早くしないと遅刻するよ。あたし、入学初日から遅刻なんて嫌なんだけど」

 いい様に翻弄されてきた洋一だが、半ば呆れたように茜が自身の腕時計を指差して告げると、茜の腕時計を覗き込んで呻く様に呟いた。

「マジで?」

「大マジ」

 その言葉を聞いて洋一は真顔になったが、数秒の思案の後すぐにいつものけだるい表情に戻った。

「いいや、遅刻で。どうせ最初からそのつもりだったし」

「確かあそこって、規則も厳しいのよね。入学初日から遅刻して、弛んどるとか言われて普段誰も掃除しないような場所をひとりで掃除させられ、そして気付けばもう夜。家に帰っても、こんな時間まで出歩く息子は知らん。とか何とか言われて、結局、野宿。嗚呼、なんて可哀想な洋一」

「もう、いい。走るぞ」

「うん。そうだね」

 自分勝手な妄想の中をひた走っていた茜だったが、洋一が意見を改めると手のひらを返したように洋一に同意し、一緒に走り出した。

「ところで茜、どうしてこんなに時間がないんだ? 結構余裕だったと思ったんだが」

「洋一が寝てたからでしょ?」

「まて、俺の所為か?」

「当然でしょ?」

「じゃあ、もし俺が起きなかったらどうしたんだ?」

「当然捨ててったわよ」

 その時、洋一は茜への報復を固く誓った。



















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