いつも歩く道 第一部 秋 





 所変わって――

 教室を追い出された男子は一先ず隣の教室に避難していた。

「いや〜、いいもの見れたなぁ〜。眼福、眼福」

「おお、たしかに」

「しかし、白とはね〜。俺は個人的に縞パンだと思ってたんだけど」

 さっそく先程見た茜の下着の話を始める男子。

 年頃なのだ、仕方がない。

「あの衣装のせいでさ、なんかすっげーエロくなかった?」

「あ〜、俺もそう思った」

「もともときわどい衣装だしなぁ……」

 男子たちはそんな話をしながら先程のことを思い出していた。

「お前らなぁ……」

 そんな、男子たちを見やって洋一が溜息をつく。

「あ、悪い悪い。松嶋はお前の嫁だったな」

「嫁の下着見られれば気分悪いか」

「いや、気付かなかった」

「だから、違う……」

 こめかみにうっすら青筋を立てる洋一。

「第一な、今更あいつの下着見られたとかで怒るかっての。むしろ、怒るのは茜本人だろ」

「ほう……、つまりお前はアレ以上のものをもうすでに見てるから他のやつが下着見ようと感知しないと」

「夜明けのコーヒー飲む仲ってやつ?」

「高校生の癖になんてやつだ」

 洋一の一言に脊椎反射で誇大解釈をした言葉を言う男子たち。

「いや、だから……」

「いいよな〜、洋一は」

「だな。松嶋って、結構可愛いし、スタイルもいいし、性格も悪くない」

「本当、お前みたいな朴念仁には勿体無い」

「……もういい」

 多分、何を言っても無駄だろうとさすがに感づいたのか、洋一はそれ以上の討論は無駄だと話を切り上げた。

 無論男子たちは、依然くだらない憶測で話を進めている。

「……はぁ」

 洋一は溜息を一つ吐くと窓辺で本を読んでいる武のもとへ向かった。

――がたん

 武が座っている席の前の席に陣取る。

「……ん、あ、洋一」

「……よう」

 自分から向かって行ったくせに武の反応にそっけない返事をする洋一。

「随分、疲れてるみたいだね」

「うん、疲れてる」

「やっぱり、さっきの茜さんのこと?」

「まあ、それだな……むしろ、その後の方が頭痛いが」

「後の方?」

「ん……なんか、いろいろフォローとか何やらが絶対俺に来る気がする」

「あはは……それは仕方ないね」

「ははっ……仕方ないか」

「うん。だって、どうしても茜さんって言ったら洋一じゃないか」

「分かっちゃいるけどさ……やっぱり運命か? 宿命か? 天命なのか?」

「その中なら運命が一番いいんじゃない?」

「運命かぁ……ならもう少しマシな運命の方が良かったな……」

「いい運命だと思うけど? あんなに明るくて器量の良い人に好かれてるんだから」

「器量ね……あいつの顔はもう見慣れたからそんなにいいと思えないんだが」

「羨ましいね」

「そう?」

「そう」

 その一言で、自然と二人は沈黙する。

 洋一は、未だ先程の事件の熱冷めやらずに興奮して色々話している男子たちを眺める。

 そして、武は、元々読んでいた本に目を移した。

 他人事の喧騒をBGMに二人の親友は無言で時を過ごしていた。

 特に洋一にはこの沈黙は色々考えさせられる時間であった。

 結局、自分は松島茜のことをどう思っているのか。

 幼馴染みとして好きなのか、女として愛しているのか。

 自分の年では幾分早すぎるようなことを考えてるなぁと、我ながらに苦笑いをしてしまいそうだ。

 と言っても、どうやら茜は待ってはくれないらしい。

 本能的にだが茜がいい加減答えを要求していると言う事には気づいている。

 だから、答えを出したい。

 長くても今年中、早ければ今日中にも答えを出したい。

 さもなければ、茜のことだ、きっと自分の前から走り去って二度と追いつけない気がする。

 危機感にも似た焦燥感とでも言うのだろう。

 そんな物が何故か自分を素直にさせてくれないと洋一は気づくことが出来ないのだ。

 後は一言、洋一が茜に「好きだ」と言うだけで、この物語は完結してしまう。

 素直な茜は自分の気持ちに気づいている。否、もとから知っている。

 しかし、悲しきかな。洋一はスタートラインにようやくついたばかりなのだ。

 そう、茜まではあと100m以上も走らなければいけないほど距離があるのだ。

 洋一が駆け抜ける舞台は学園祭。

 もう、すぐそこまでそれは迫っていた。



















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