いつも歩く道 第一部 秋 





――学園祭・三日前

「うひゃ〜、ホントにこんなの着なきゃいけないんだ……」

「……結構カワイイと思うけど」

 茜と里奈は学園祭の時に着る制服を広げていた。

 何を隠そう本日は学園祭で行なう喫茶店の制服のお披露目式である。

 学祭の喫茶店で良く制服なんて作れるなと思う人もいるかもしれないが、このクラスには趣味がコスプレで家が大金持ちという困ったお嬢様がいるのだ。

 そのお嬢様の計らいによって学園祭で着る制服が全員分用意されたのだった。

 ……本当にどんなクラスなのだろうか。

「ふむ、意外としっかり出来てるじゃないか」

 茜の肩越しにその制服を見た洋一が感想を言う。

「っ……何で洋一がいるのよ」

「男子全員いるっての。それに、今日はどっちの制服も誰かが着てみるって日だろ」

 そう言って茜の背後に立つ洋一はきっちりと喫茶店で着る制服を着こなしていた。

「よ、洋一……そのかっこって……」

「んあ、制服だよ。制服。もしかして、どっか変か?」

「洋一君、かっこいい……」

「洋一、似合ってるじゃないか」

 洋一の格好を見た里奈と武がそれぞれ感想を言う。

「ぁ…………」

「へぇ、馬子にも衣装ってこのことか」

「洋一くん、カッコイイねぇ♪」

 茜が何か言おうとしたが、クラスの大半が洋一に集った所為で茜の呟きが掻き消されてしまった。

「……はぁ」

 茜は溜息一つ吐くと制服を持って更衣室に出かけていった。









――ばたん……

「……はぁ」

 更衣室のドアを閉め茜はまた溜息を漏らす。

 だめだ、溜息をつくと幸せが逃げるのに……と思いつつもどうしても洋一の事を考えると溜息が出てしまう。

 ……恋煩い? 柄にもないと思うのだが、どうしてもその考えが振り切れないでいた。

「恋煩い?」

「――っ!!?」

 いきなり後ろから声。

 さすがの茜もこれにはビックリした。

「り、里奈……心臓に悪いからそう言うのは止めようよ」

「茜が隙だらけなのが悪いの。ずっと後ろにいたのに気付かなかった」

 少し怒っているような、気遣っているような目を向けてる里奈。

「……そんなに気になるって言うのは、好きって証拠。はやく告白すれば良いのに」

「…………」

 里奈のどうしようもないほど率直な言葉に押し黙る事しかできない茜。

「……分かってる、分かってるよ」

 そう言い、茜はうつむき衣装を抱きしめる。

「…………?」

 その様子に不審を抱いたのか里奈は茜の瞳を覗き込む。

「……今は、まだ、タイミングが悪い気がするの」

 茜は里奈を真っ直ぐ見て自分の意見を言った。

「女の勘?」

「恋する乙女の勘」

 暫しの沈黙。そして、お互い見つめあう二人。

「……茜がそう言うなら間違いないと思う」

「うん……」

 微笑み会う二人。

「よし、何か元気出てきた」

 茜がいつもの調子で声を上げる。

「……なら、とりあえず、それ着て」

 里奈はそう言うと茜が抱えているものを指差す。

「あ……やっぱり、着なきゃダメ?」

「……着ないと話が進まない」

「明日じゃ、ダメ?」

「日程の関係上ダメ」

「……誰のせい?」

「……茜」

 この後、散々駄々をこねる茜だが、結局里奈の鋭すぎるつっこみをかわしきれず、着ることになったのは言うまでもない。

 いや、もちろん最初から茜が着なければいけないのだが……

 ちなみに、茜が制服に着替える時に色々あったのだが、それはまた別のお話である。



















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