いつも歩く道 第一部 秋 





――学園祭・六日前

「ごめん、無理」

「待てい」

 そう言って逃げ出す茜……を寸でのところで捕まえる洋一。

「は、離して洋一。私には……こんな事、出来ない」

 目を伏せて赤面する茜。

 しかし、洋一は茜の演技などお見通しと言わんばかりに睨みつけてた。

 ちなみに、現時刻は午後の5時。とある事の話し合いになってから小一時間ほど二人のコントは続いていた。

「茜さんもいい加減に諦めたら?」

「それに、これはこれでカワイイ」

 呆れたように洋一と茜を見守る武と口論の対象となっている衣装を見て顔を赤らめる里奈。

 実は今、件の喫茶店の衣装を決める話し合いをしているのである。

 喫茶店のホールで働く人員や内装等の話し合いはもう既に終ったのだが、ホールで女子の着る服装に話が移ったときから茜が騒ぎ出した。

「だからぁ、なんであたしがひらひらでフリフリで胸元がセクシーな制服着なきゃいけないの!?」

 またも暴れだす茜。

「もうーっ……こんなの着させようなんて、洋一のエッチ、スケッチ、ワンタッチ!!」

 洋一にあたり出す茜。それにしても、お前はいつの時代の人間だ。

「待て、待て、待て! これは、女子が全員で決めた制服だろ。俺が決めたみたいに言うな」

 もっとも過ぎる洋一の弁解。

「潔く着ろって……つか、お前殆どホールに出ないだろ」

 洋一の一言で半眼の呆れた視線が茜に集中する。

「ああ、アレか? また皆であたしの事いじめるのかぁ? 皆きら……ぶっ」

――ゴチン

 洋一の拳骨がいい角度で茜の頭に命中した。

「きゅうううぅぅ……」

 可愛らしい――と、思われる――言葉を発してのびる茜。

「つーことで、女子の制服はこれに決定。それで、男子の方だけど……」

 そして、問題なく話し合いは進行された。




 合掌。









「ひどい、ひどすぎる」

 洋一と茜、武に里奈のいつもの四人しかいない教室で茜が泣きまねをしている。

「どこら辺が、どんな風に?」

 もはやこの手の茜の台詞は聞き飽きたと言うように洋一は茜に訊く。

「ぜ・ん・ぶ! 女子の制服のくだりからあたしの頭をゴッチンした事。そんで、あたしが気絶してるまに……」

「茜、見苦しい」

「だって、りなぁ〜」

「女子の制服はみんなで決めた事だし、洋一君が茜のことを気絶させたのも茜が勝手に気絶しただけ。それに、最後の一文は余計」

 泣きつこうとした所をあっさりと里奈に受け流される茜。

 結構無下に扱われている様な気がしないでもないが、ある意味仕様がない。

 いや、実際全て茜の自業自得なのだが。

「それはともかく、お前が起きるまで待っててやったんだぞ。俺はいいとして、二人には感謝しろ」

「待っててなんて言ってないよ」

 ぶすーっと脹れる茜。

「お前はどこまで拗ねる気だ」

 そんな茜を見て呆れるように洋一は項垂れる。

「だって、だって〜」

 本当に子供のように駄々をこね始める茜。

「ああ、分かった分かった。愚痴は後で聞くから今日は帰るぞ」

 洋一は強引に会話を切り上げ、出入り口に向かう。

 そして、それを見ながら茜は、

「はーい……」

 どこか、寂しそうに返事をした。



















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