――二時間ほど前
「はい、席について。今日は、学園祭実行委員会から話があるようなので、静かに聞くように」
聡子が教壇に立ち生徒を見回す。
「よし、静かになったね。松嶋、いいよ」
そう言われ、茜が教壇に立つ。
「えっと、あと一週間で学園祭が始まります。なので、このクラスからの出し物を……」
クラス中の視線が鋭く突き刺さる。
「だ、出し物……を……」
クラス中の視線がますます鋭くなり茜に突き刺さっていく。
その視線は、
「一週間前になって言うな」
だとか、
「よく考えろよ。大した物が準備出来る訳ないだろ」
だとか、
「てか、忘れてただろ」
と、訴えてきている。
「あ、はは……みんな、ごめん」
無言の圧力にさすがの茜も耐え切れなくなって素直に謝る。
しかし、それでも尚みんなの視線は一向に茜を刺し貫いている。
「………………ああ、もう。いいよ、いいよ。あたしが勝手に決めてあたし一人で準備する。その代わり、あんたら全員文句ゼッタイ言わない事!!」
視線に耐え切れなくなった茜が吼えた。
その声にびびり、静かになったクラス全員を見渡す茜。
その目は軽く血走っている。
「じゃあ、出し物は劇! ヒロインはあたしで、主人公は洋一!! 台本もあたしが書くからどんなラブロマンス(むしろ、R指定)になっても知らないからねぇーーーーーー!!!」
またも吼える茜。
しかし、自分がとんでもない事を口走った事に全く気付いていない。
その時、洋一がすっと手を上げる。
「なによ、洋一。文句はぜったい言うなって言ったでしょ」
「いや、まず落ち着けって」
噛み付かんばかりの勢いで反応した茜に半ば呆れたようにいさめる洋一。
「冷静になれって。よく考えてみろ。一週間の準備期間で茜が責任とって頑張るんなら、食事が出来る喫茶店でもやればいいだろ。料理が得意だってのたまってんだから、丁度いい機会じゃないか」
その言葉で冷静になった茜が考えをめぐらす。
そして、自分が犯した失態に顔を赤らめた。
「う、うん。洋一、ナイスアイディア。感動した」
動揺を隠し切れないのか台詞が棒読みになる茜。
表情もがちがちに硬い笑顔である。
「ところで、茜」
「な、なにかな?」
突然声の低くなる洋一に腰が引ける茜。
こころなしか、洋一の笑顔が怖い。
「誰と、誰が、ナニする、劇をやるって?」
「あ、あはは……あれは言葉の綾ですよ、旦那。だ、だからそんな怖い顔しないで」
最初の方は言い繕おうとした茜だったが、洋一の有無を言わせぬ表情に泣きが入る。
「誰かさんのせいで、また好奇な目で見られる日々が続くんだよな。ホント、腹立つ」
「ごめん、あの時はあたしもテンパってたから……ごめんなさい」
素直に謝る茜。
この度の痴話喧嘩は洋一の勝利で幕を閉じた。
しかし、この二人は一週間に一度のペースでこんな事をしているのに「好奇の目で見られる」もなにもないとは思うのだが。
こうして、洋一たちのクラスの文化祭での出し物は喫茶店と言う事になった。
もちろん、茜が一人で準備・運営する羽目になったのは言うまでもない。
「でも結局、みんな手伝うんだよね」
「それが、このクラス」
言うまでもない……はず。
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