〜いつもと変わらない、特別な日〜










「誕生日おめでとう、佐祐理さん」

「おめでとう、佐祐理」

「ありがとう、舞。祐一さんも、ありがとうございます」

思えば、こうして三人で会うのはずいぶん久しぶりな気がする。

舞と佐祐理さんはバイトで、俺は受験勉強で忙しい。

だから、こうした理由がないと、なかなか会う機会が作れない。

「にしても、すごいな舞」

テーブルに並べられた料理の数々。

それら全てを、舞は一人で作ったらしいのだ。

「全然手伝わせてくれませんでした」

不満そうに言う佐祐理さん。

「はははっ」

いつもと変わらない、他愛ないやりとり。

こうして三人集まるだけで、空白が嘘のように会話が弾む。

二人だけで会うときもあるが、やっぱりこっちの方が自然に思う。

当たり前のように三人で過ごす時間は、何よりも楽しい。

けれど、去年までみたいに『また明日』とは言えない。

それだけが、少し寂しく思う。

……しょうがないんだけどな。

「そうだ」

ふと思い立つ。

「どうかしたんですか?」

「いや、忘れないうちにプレゼントを渡してしまおうと思って」

そう言って、用意していたプレゼントを取り出す。

「二つもあるんですか?」

「いや、一つは佐祐理さんだけど、もう一つは舞にだよ」

「?」

二人が首を傾げる。

「ペアリングにしたんだ。サイズは適当だから、合わなかったら直してもらってから改めて渡すけど」

「ありがとうございます、祐一さん」

「……うれしいけど、何でわたしも?」

「気にするな。取り合えずはめてみて」

俺の言葉に促されて、二人は指輪をはめる。

「……嘘」

意外なことに、二人ともぴったりとはまった。

「本当に適当なの、祐一?」

舞が言う。

「この俺がサイズ分かると思うか?」

「全然」

「訊かれたこともないですし…」

偶然だとしてもできすぎだ。

「まさか薬指にぴったりはまるとはな」

しかも、二人ともこれ見よがしに、わざわざ左手の薬指にはめる。

「あははーっ、祐一さんはどっちを選んでくれるんでしょうね」

笑顔でもの凄いことを言う。

「わたしはどっちでもいい。……祐一も、佐祐理も好きだから」

珍しく、嫌いじゃないと言わずに好きと言う舞。

「そうだね。佐祐理も、舞と祐一さん、両方とも好きだよ」

面と向かって言われるとかなり恥ずかしい。

佐祐理さんの言うとおり、いずれはどちらかを選ばなければならない。

いつまでも、三人一緒にはいられないだろう。

けれど、それでも――

「舞はプレゼント何にしたんだ?」

「わたしは……」

――三人でずっと一緒にいたい。

この幸せな時間を、いつまでも感じていたい。

安らかな温もりの中、俺はそう思った。



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あとがき

久しぶりにkanonのSS書いたなー。
舞と佐祐理さんを書くのは苦手なので、若干違和感がつきまとうかもしれませんが。
それのため、記念以外でもあまり題材にしない可能性も……。
けどまあ、あまりキャラがかたよらないようには気をつけたいと思います。
ではでは黒犬でした。



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