「それで、どんな依頼内容なんだ?」
ラグナは改めて訊いた。
「……わたしのお母さんを探してほしいの。わたしと一緒に」
本来、それは立派に警察の仕事だった。それも、都市の治安維持に努める都市警察ではない。司法のエキスパートである、派遣警察官の。
外敵から守るための組織が騎士団だとすると、人間同士の争いを鎮圧するのが警察の仕事だ。
武装盗賊――ようは山賊などだが――は魔物と同じように騎士団が対処する。それは、窃盗などとは違い、人を殺すことに慣れた連中だからだ。集団であることも、要因のひとつである。
それ以外は、全てが警察の仕事だ。その中で、行方不明者の捜索や、都市外に逃亡した犯罪者を追うのが派遣警察。
困難な事件を負うことが多いため、彼らは司法のエキスパートと言われているのだ。「わかっていると思うが、それは警察の仕事になる。もし彼らにも頼んでいるんだとしたら、俺たちは立派な公務執行妨害になる」
「……それが――」
言いにくそうに逡巡してから、リザは話し始めた。
リザの話はこうだ。
数年前、大人数が人質にされた事件があった。都市内に侵入した魔物の内緒で手一杯だったところを突かれた、計画的なものだった。
……そう。城壁の一部が破壊されており、そこから魔物は侵入したのだ。そして、その破壊痕は、人間の手によるものだと断定された。
そして、彼らが要求してきた身代金というのが、リザの母親だったのだ。
大勢の命と、一人の命。……決断は早かった。
その要求に――従ったのだ。
財政が芳しくないこともあった。だから、それで済むのならばと、あっさり引き渡した。
政治的判断というやつだ。
「なるほどな……」
納得してうなずくラグナの態度に、
「なるほどって……」
アスナは驚いた。
それが事実ならば、大変なことだ。この都市の在り様を覆すほどの。
それを、ラグナは「なるほどな」の一言で済ませてしまった。「もしかして、リザの母親には、どこかにアザがなかったか? 何かの文字とか模様みたいな」
「……ある。確か、背中に文字みたいなアザがあったよ」
「やっぱりか。……この話、思ったより厄介だな。まあ、大当たりでもあるんだが」
「ねえ、どういうこと?」
アスナが訊いてくる。見ると、リザも訊きたそうな顔をしていた。
説明しようか迷い、「知らないほうがいい」
一言、そう答えた。
「けど……」
「必要な時が来たら、必ず話す。それまでは知らないほうがいい。知ってしまえば、後戻りできなくなるからな」
「……わかったわ」
アスナは答えた。
リザは、それでも聞きたそうにしていたが、絶対に話してくれないだろうと悟ると諦めた。
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