宿屋の一室に3人はいた。
酒場も兼用しているので、そのざわめきが伝わってくる。
そんな階下の様子とは正反対に静かだ。「……助けてくれて、ありがとう」
少女のぎこちないお礼が、沈黙を破る。
「いや、当然のことをしただけだ。礼はいいよ」
ラグナは、ぶっきらぼうに言い返した。
それを見て、少女は微笑む。「よければ、名前を聞かせてくれないかしら?」
少女の緊張が解けたからだろう。アスナは、それまで名乗らなかった少女に名を聞いた。
「リザ」
「……ん?」
ラグナが首をかしげる。
彼らの依頼人の名も、リザだったからだ。
冒険者に何らかの依頼をする場合、えてして後ろめたいことであることが多い。それは、身元がはっきりしないから、いざというときに足がつかないからである。「まさか、あなたが……?」
冗談半分にアスナは問う。
「うん……」
だが、以外にもリザは肯定した。
名前が同じというのはよくあることだが、こんな偶然は珍しい。「なら話は早い。どんな依頼なんだ?」
「……疑わないの?」
「何が?」
「だって、わたしは子供だし。報酬が払えるかとか、いろいろあるじゃない?」
指摘され、改めてラグナは考えた。が、
「どうでもいいし……」
「ちょっと……」
彼の返事に、アスナが文句を言う。
「どうでもいいことないでしょう?」
「わたしもそう思う」
「いいんだよ」
2人の反論を一蹴するラグナ。
彼自身、世間一般が幼いといえる歳には、もういっぱしの冒険者だった。
だからこそ、細かい経緯とかを詮索する気はなかった。
報酬のことも、今は懐が潤っているから、ないとしても問題はない。「まあ、いいけどね」
アスナも、結局は同意する。
そんな2人に、リザは信じられないといった面持ちだった。「……いいの?」
「依頼したのはキミだろう。いいと言っているんだから、気にするな」
「……ありがとう」
今度はしっかりと、お礼を言った。
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