―――イメージはしゃぼん玉。風に吹かれて飛んでいく。
どこまでも、どこまでも……。
あの空目指して飛んでいく。
「空は、届かない場所だ……」
ポツリと、青年はつぶやいた。誰が聞いているわけでもないのに、ことさら小さな声で。
挙動が怪しいわけではないが、それでも青年はどこでも目立った。そのためか、周りを気にするあまり、口を開くことが少なくなった。開いたとしても、先程のように小さな声でしか話さない。
だからだろう。彼を少しでも知っているものは、彼のことをこう評価する。つまり、寡黙な奴と。
そんな彼が不意に漏らした言葉は、耳聡い相棒の少女に、少しの驚きを与えた。「なんか、ラグナがひとり言を言うの久しぶりに聞いたよ」
ラグナと呼ばれた青年は、憮然とした面持ちで反論する。
「……俺が独り言を言って悪いのか?」
ありきたりと言えばありきたりの反論に笑いを噛み殺しながら、
「ぜーんぜん」
大げさな身振りを付け加えて少女は言った。
「なら変なこと言うなよ、アスナ」
「はーい……」
少女―――アスナが反省した様子など欠片もなかったが、彼は気にしないことにした。
この街の大通りは比較的賑わっていて、さまざまな露店がつらなっている。もっとも、それだけ裏路地が危険だということでもあるのだが。
それでも、昼間はそんな大事になるような出来事はそう起こらないし、夜間に外出することもあまりない。まあ、彼等のような旅人に限ってのことではあるが。
いくら街の治安がよくても、いったん裏路地に入ってしまえばそんな評判など意味を成さない。これはどんな街ににも―――王都にさえ当てはまることだ。
夜中に出歩かなければならない時だってあるだろうし、早く帰りたいがために裏路地を通る者だっているのだから。「ほんとにここなの?」
「一応そのはずだ」
「でも、約束の時間は過ぎてるよ?」
「ふむ……」
どうしたものか、とラグナが思案し始めたとき―――
「きゃあああああ!!」
「悲鳴だわ!」
「どこからだ?」
2人は辺りを見回す。と、
「あそこ!」
アスナが指差した先には、小さな子供と醜悪な魔物がいた。
「行くぞ」
即断すると、ラグナは帯びていた剣を抜刀しながら駆け出した。
目次へ戻る >>>