ドアの開く音。
たぶん、真琴が入ってきたのだろう。
鍵なんてかけてないのだから、開けようと思えば簡単に開いたんだ。
真琴は気づかなかったかもしれないが。
……どうしたいのだろう。
一人にしておいてほしいと言いながら、鍵はかけない。
……なにがしたいのだろう。
ただ暗闇の中で、思い出すだけ。
…ただ、後悔するだけ。
答えはまだ、見つかっていない――
〜いくつもの想いと、いくつかの後悔と〜
何を言いにきたのかと思ったが、真琴は何も言わなかった。
ただ黙って隣に座っている。
俺も、それを拒もうとしない。
ゆっくりと、時間が過ぎる。
そして――
「苦しいよね?」
真琴が語りかける。
「悲しいよね?」
「…何がわかる」
低く、冷たく、短く言い放つ。
「わからないよ」
「なら……」
「何も言ってくれないんだもん。わかるわけ……ないじゃない」
泣きそうになりながら、それを必死で抑えるようにして言う。
「でも、なんとなくそれだけはわかる。……そんな顔、してるから」
長い時間一緒にいたからこそわかるのだろう。
だか俺は、そんな真琴の言葉に対して激情が湧いた。
単なる反発心かもしれないが。
「出てってくれ」
「イヤ」
ハッキリとした、拒絶の意思。
「出てけって言ってるだろ!」
つい俺も声を荒げてしまう。
「どうして一人で傷つこうとするの!?」
真琴が叫ぶ。
「ずっと一緒にいようって約束したじゃない! あれは嘘だったの!?」
「……」
俺は何も言えなかった。
何を言おうとしているのかがさっぱりわからないから。
「真琴はよくわかんないけど。漫画の受け売りだけど……」
涙を流しながら言う。
涙、か……。
俺は、まだ泣いていない。
あゆのために、涙することさえしていない。
「……」
傷ついて、傷つけて――
「一緒にいるって、嬉しいこととか悲しいこととか、そういうのを分かち合うことだと思う」
それでも想いは変わらなかったはずだった――
「支えあうって、そういうことでしょ」
苦しんで、悲しんで、後悔して――
「一人でいたって、寂しいだけだよ……!」
それでも変わらなかったんだ――
「俺は……」
それを手放そうとしている――
……また後悔するのか?
「真琴…」
泣き続ける真琴を、俺は抱きしめる。
嫌だから。
この温もりがなくなってしまうのは。
俺が選んだのは、真琴だから。
たとえどんな理由があったとしても。
この想いさえも否定することは、絶対にしたくない。
「ゆう、いち…?」
「ごめんな」
ただ一言だけ、つぶやいた。