そして俺たちは、水瀬家にたどり着いた。
「怖いか?」
「…少しだけ」
「そうか」
真琴の気持ちがわかるから、俺はそれ以上何も言わなかった。
7年ぶりにここに来たときは、俺も不安だったから。
「入るぞ」
「…うん」
〜居場所〜
いつもの通りに中に入り、ただいまと言ってリビングに向かう。
その間、真琴は何も言わなかった。
だから俺も何も言わない。
真琴は単に怖いだけなのだろうが、俺には別の思惑があるからだ。
「名雪、秋子さん」
真琴は天野とあった時と同じように背中に隠れている。
「どうしたの、祐一?」
そう問いながら、ふたりともが寄ってくる。
「実はさ、すごいの見つけたんだ」
「何そのすごいのって?」
「でっかいおでんだね」
「はぁ?」
3人の声が見事にハモる。
「…今の誰の声?」
声出したらさすがに気づくか。
「誰だと思う?」
「知らないよ、そんなの」
このやり取りを、秋子さんは笑顔で見守っている。
「秋子さんはわかりますか」
「さすがにわからないわ」
まあ、そうだな。
…てか、あれだけで気づいたらそれはそれですごいが。
「それじゃ、正解を発表します」
おどけた口調で言い、真琴を引っ張る。
「わぁ、ちょっと」
予期していなかったのか、いとも簡単に引っ張られる。
「なにするのよ急に!」
「真琴…」
驚いたことに、話しかけたのは名雪だった。
名雪のおかげで真琴は水瀬家に住むことになったのだが、その名雪が、真琴と呼ぶまでに時間がかかった。
もちろん本人に対しては名前で呼んでいたが、それ以外ではあの子と呼ぶことが多かった。
その名雪が、真っ先に真琴の名を呼んだ。
それが、きっと真琴の背中を押したのだろう。
「ただいま!」
あのときのままの笑顔で、真琴は言う。
「お帰り、真琴」
名雪が答え、秋子さんはそれを見守る。
真琴はわかってくれたろうか。
不安がることはないんだと。
怖がることはないんだと。
だって――
ここが、真琴の居場所なんだから。