チリン、チリン――
鈴の音は鳴り続ける。
音をたどるように、俺は走る。
〜想い、きっと…〜
そして、丘の頂上に近づいたとき――
ぶあっ!
「うわっ!?」
突然、強風が吹いた。
「何だった…」
途中まで言ってから、俺は錯覚でも見ているのかと思った。
空を舞う白い布。
「ヴェールだ…」
それは、真琴との結婚式で使ったウェディングヴェールによく似ていた。
「どうして…」
あんなものが、と思った。
子供が遊びで使えるような代物じゃない。
それに、こんなところで結婚式を挙げようなんてやつもいないだろう。
ならば、あれはいったい…
「あぅー」
「え…」
それは聞き慣れた声だった。
ずっと、聞きたかった……聞いていたかった声。
森と丘との境界に、その声の主はいた。
「真琴…」
名を紡ぐ。
後姿ではあったが、間違いないと思った。
「真琴!」
今度は大声で呼びかける。
俺の目の前で消えた、最愛の者の名を。
「えっ…」
背中を向けていた少女が振り向く。
「ゆう…いち…」
「ああ」
短く告げる。
すると、真琴はポロポロと涙を流した。
「ほんとに…?」
「ああっ…」
答えて、気付いた。
俺もまた、真琴と同じように泣いていたことに。
想いは、どれだけ伝えることができるのだろう。
言葉にしなければ伝わらないそれは、けれど言葉では伝えきれない。
もちろん、言いたいことはたくさんある。
けれど今は…
この温もりを感じていたかった。
カタチにしないと伝えられない気持ちは、カタチでは伝えきれないから。
だから俺は、思い切り抱きしめる。
きっと伝わると思うから。
「真琴」
二度とこの温もりを失わないように。
今度こそ、ずっと一緒にいられるように。
ぎゅっと抱きしめた。