真琴が消えてから、たくさんの変化があった。
そのどれもが、ほんの小さな事でしかない。
「ずいぶんと暖かくなったな…」
あんなに寒かったのに、それが嘘のように思える。
この『ものみの丘』から見える景色も、ずいぶんと変わってしまった。
街から雪がなくなっただけなのに、全然違う場所に見える。
「んーっ」
ぐっと伸びをすると、その場所に腰を下ろす。
吹く風の心地良さを感じながら、街を眺めていた。
〜消えなかった絆〜
ここはどこだろう?
すごく暗くて、すごく寒い。
それに…
「何か、大切な事を忘れた気がする」
それが何なのか、誰なのかさえわからないけど…
きっと忘れちゃいけない事なんだと思う。
「…あれ?」
瞬きした間に、あたりの景色は一変していた。
目の前に広がっているのは闇ではなく緑。
感じるのは寒さではなく暖かさ。
「ここは…」
知っている。
この場所を、あたしは知っている。
どうしてかはわからないけど、そう思った。
だからあたしは、歩き出した。
答えを探しに…
「わあー」
思わず感嘆の声を漏らす。
自分の名前さえ思い出せないけど、この場所は覚えている。
でも、記憶の中の景色とは全然違った。
「あれっ?」
ふと見上げると、枝に引っかかった白い布―
「あっ」
何かが思い出せそうな気がした。
だからあたしは、手を伸ばした…。
「ん…」
何か音が聞こえた気がしたが…
「気のせいか」
チリン―
「鈴の音だ…」
俺は音のした方向へ駆け出した。
「なんでこんなところに…?」
走りながらつぶやく。
ここに足を運ぶ者はそういない。
もしかしたら――
そんなわずかな期待を胸に、走るスピードを上げた。