帰ろうと外に出ると、
「栞じゃないか」
「祐一さん」
偶然栞と出会った。
「今日もあゆさんのお見舞いですか?」
「そりゃあな」
「あゆさんが羨ましいです」
「そういう栞はどうなんだ?」
栞も病気が治り、今は普通の人と変わらない生活をしている。
「最近、お姉ちゃんが相手してくれないんです」
「……それはしょうがないだろ」
なんだかんだと、俺たちは受験生だ。
特に、香里の志望校はレベルが高い。
忙しくて当然だろう。
「それに、ちゃんと彼氏もいるわけだし、恋に勉強に忙しい、健全な学生生活だろ」
「それはそうですけど」
茶化しはするが、本当のところはそうじゃないだろう。
栞を拒絶し続けてきたから、どこか後ろ暗いのもある。
「今まで通りではいられないだろ。なら、もっと仲良くなればいいんだ」
奥深くでは、2人はちゃんと結ばれているのだ。
その絆を信じさえすれば、決して離れはしない。
「そう……ですよね……」
「変わるってことは、失うことでも、ましてや捨てることでもない……前に進むってことだ」
栞のクセが移ったのか、妙にカッコいいことを言ってしまう。
自分のクサいセリフが恥ずかしくて、照れ隠しに栞の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。
「わあ。やめてくださいよ、祐一さん」
「ははは……」
そうして他愛ないやり取りをしながら歩いていると、
「ここでお別れですね」
「そうだな」
「それじゃあ、また明日です」
「ああ」
栞は笑顔で言って、駆け出した。
「俺も帰るか」
見送ってから、俺も歩き出した。