秋子さんも入院していた病院の一室に、そいつはいた。
「あ、祐一くん」
「今日も元気そうだな、あゆ」
「もちろんだよ」
あゆは、今もまだこの病院に入院している。
7年もの間意識不明だった少女が、何の前触れもなく意識を取り戻したのだ。
後遺症がないかとか、原因の究明のためにというのが、未だ入院し続ける理由。
厭な言い方をすれば人体実験のようなものだが、あゆがそれを拒まなかった。
入院中の費用と交換条件というのも、ひとつの理由だろう。
――「でも、ボクが協力すれば、もしかしたら助かる誰かがいるかもしれないから」
あゆは笑ってそう言った。
今日あった出来事や、退院してから同じ学校に通いたいと言うあゆのために勉強を教える。
「そういえば、来週の頭ぐらいには退院できるかもって、お医者さんが言ってたよ」
「本当か?」
「うん」
日常の中でも当たり前に生活できるよう、一時帰宅を繰り返していた。
でも、そうじゃなくて、ずっと一緒に暮らせるのだと言う。
「わからないことはたくさんある。けど、あゆちゃんを病院に閉じ込めておく理由がなくなったからね」
いつの間にか入ってきていたあゆの担当医が、そう言った。
「ああ、聖さん」
「やあ、相沢君。相変わらず熱心だな」
「そんなんじゃないですよ。でも、さっきのはずいぶんな言い様ですね」
まるで悪役みたいな言い方だ。
「そうか? でも、元気な子を病院に入れる必要なんてないだろ」
本当に医者なのだろうかという発言。
「調べることはあるんじゃないんですか?」
「いいんだよ。奇蹟が起きた……それでいいんじゃないか?」
「……そうですね」
「わたしも、そろそろ戻らなければならないんだ」
聖さんは、どこか別の街で開業医をしているらしい。
父親の跡を継いだのだと、語ってくれた。
「それじゃあな」
そういって、彼女は立ち去った。
「相変わらずだな、あの人は」
苦笑して、
「さ、続きをやるぞ」
「うん」
そうして俺は、面会時間が終わるまで、あゆと過ごした。