突然の引越しに驚いていたのは、俺たちだけではなかった。
佳乃や美凪もまた、ようやく仲良くなれた友達と別れなければならないことに、悲しんでいた。
「……どうしても行っちゃうの?」
いつもは元気な佳乃も、今日はいやに大人しかった。
「うん……」
それに感化されてか、観鈴も沈んでいる。
「そうですか」
美凪も残念がっているように見える。
そんな3人を、俺は見ているしかできなかった。
〜変わったものと、変わらないものと〜
〜in the AIR〜
「……やっと着いた」
疲れの残る表情で観鈴はつぶやいた。
「そうだな」
俺は疲れているわけではないが、観鈴の調子に合わせるように同意する。
晴子はというと、着いて早々に仕事場へと向かってしまった。
「とりあえずここで待ってろって晴子は言ってたが……」
家を見る。
「本当にここで合ってるのか?」
豪邸とまではいかないが、結構大きい家だ。
「あら……?」
ボーっと突っ立っていると、玄関から誰かが出てきた。
「家に何か用ですか?」
「いや、晴子にここに来るようにって言われたんだ。自分の名前を言えばわかるからともな」
どう答えればいいかわからなかったから、言われたままに言った。
「ああ、あなたたちがそうなのね。話は聞いてるから、あがってください」
結構な距離を移動してきて疲れていたのも確かなので、その言葉に甘えさせてもらった。
お茶を飲みながら、簡単な自己紹介や取り留めのない会話をしていた。
「ただいまー」
「あら、帰ってきたのね」
リビングの戸を開けて入ってきたのは、赤いカチューシャをした少女だった。
「お帰り、あゆちゃん」
秋子さん(晴子のように呼び捨てにするのがためらわれたので)が立ち上がる。
そして、あゆと呼ばれていた少女の手から荷物を受け取る。
「ねえ秋子さん、この人たちは――」
「「ただいま」」
言いかけたところで、今度は2つの声が玄関から聞こえた。
「ちょうどいいわ。名雪たちが帰ってきたみたいだから……」
そこまで言ったところで、制服を着た少年と少女(俺から見ればだが)が入ってきた。
「お母さん、もしかしてこの人たち……」
「そうよ。とりあえず着替えてらっしゃい。話はそれからよ」
その言葉に頷いて、少女は階段を駆けていった。
「せわしないな、あいつは」
苦笑しながら、少年も2階に向かった。
なんとなくだが、慌しい一日なりそうだと思った。