Side Kanon
香里や北川の言葉。
栞や美汐の、そして何より、名雪の想い。
祐一は知った。
迷う必要はなかったのだと。
そして、答えはすぐ近くにあったのだと。
〜長かった夜が明けるとき〜
「あゆ……」
ぴっぴっぴっ、と規則正しく鳴る機械音は、あゆが生きている証だった。
ずっと眠り続けたまま。
あの日から、あゆの時は止まったままだ。
「俺は、お前のことが好きだ」
そっと撫でる。
「きっとさ、俺は怖かったんだ」
祐一は、あゆと過ごした日々を思った。
7年前の出会いから、別れを告げたあの日までを。
「ちゃんと、約束したろ?」
――もっと、祐一君と一緒にいたい。
あゆの本当の気持ち。
それはきっと、叶えられなかった3つ目の願い。
あの日、約束した。
――何でもだ……ただし、俺に叶えられる範囲でだけどな。
あゆに。
そして、自分自身に。
いつでも傍にいてくれたこの少女のために、俺ができること。
それは――
「ぅ……」
「…え?」
呻き声。
この病室には、祐一以外は誰もいない。
……あゆを除いては。
「まさか…」
じっとあゆを見つめる。
「ぅぅ……」
微かにだが、確かに聞こえる。
「あ……ゆ…………?」
恐る恐る、祐一は名を呼んだ。
「ゆ……ち……く……」
その目を開いて、掠れながらもしっかりと呼び返す。
「あゆ!」
プルプルと震えながら差し出された手を、祐一はぎゅっと握り締める。
「伝えたい……ことが、あったんだけど…………」
はぁはぁ、と息を切らせながらつぶやく。
「……思い……出せないや……」
「いいんだ。あゆがいてくれれば、それで……」
祐一の言葉に、あゆはにっこりと頷いた。
「ん……すぅ…………」
そして、再び眠りについた。
祐一はそっと、キスをした。
「また明日な、あゆ」
また始まるのだ……あの頃の日常が。
祐一は、病室を後にした。