Side Kanon
最近、あゆちゃんを見かけなくなった。
そして、祐一が元気をなくしてしまった。
それがどういうことだか、わたしには痛いほどわかって……
『あの時』と同じで。
だからわたしは、何も言えなかった。
〜ひとりじゃないから〜
『元気だしなよ』
その一言が、どうしても言えない。
『辛かったら、辛いって言いなよ』
その一言が、どうしても言えない。
心配かけないようにと明るく振舞って見せるから。
それだけじゃない。
あの時のように拒絶されるのが怖くて、踏み込めないでいる。
「それじゃあいけないんだけどね」
つぶやく。
こんな時、あゆちゃんならどう言うんだろう。
心配して慰めるだろうか。
祐一の気持ちを汲んで、黙っているだろうか。
……きっと、そのどちらでもないんだと思う。
「あゆちゃんなら、祐一のこと、怒ったかな」
たとえそれで嫌われたとしても、かまわずに怒ったんじゃないだろうか。
なんとなく、そんな気がする。
自分のことなんか気にせずに、大好きな人のために。
祐一もあゆちゃんも、大好きだから。
「わたしも、あゆちゃんみたいにできるかな?」
答えなんていらなかった。
ただ、勇気がほしかった。
「わたしだけじゃない」
1人だけじゃ怖いけど、みんな心配してくれてるから。
きっと頼めば協力してくれる。
だから――
「わたし達にできること。わたし達にしかできないこと」
祐一のために。
そして、あゆちゃんのために。
わたしは、走り始めた。