Side AIR
ぼーっと海を眺める往人に、ゆっくりと近づく影が2つあった。
「往人君」
「国崎さん」
その声に振り向いて、
「遠野、それに佳乃も」
と、半ば驚きながら声を上げた。
〜幸せの在処〜
「どうしたんだ?」
確かに今いる場所は彼女たちが通う学校の近くだから、会う機会自体は少なくない。
……平日ならば。
今日は休日で、2人が共に学校に来る理由はないのだ。
「なんとなくですよ……」
静かに美凪は答える。
「そうそう」
にっこりと笑って佳乃も。
実のところ、3人だけで会うのは初めてか、そうでなくともそう多くはないことだった。
おのおのが2人で、ということはあったが。
「…なんだか、やっぱり違和感があるな」
往人がぼそりと言う。
「「…………」」
「あ、わりぃ…」
違和感の正体は、観鈴だ。
この夏休みは、往人、佳乃、美凪、そして観鈴の4人でいることが多かった。
しんみりとした空気になる。
ざざーん、ざざーん――
波音が優しく響く。
「ん?」
「どうかしたの、往人君?」
「いや。今、何か聞こえなかったか?」
「波の音しか聞こえませんが……」
「そう…か……」
釈然としない面持ちで答える往人。
「……ゆ……とさ……」
「あれ?」
今度は、3人ともはっきりと聞こえた。
微かに聞こえる声を頼りに、その場所を探す。
なんとなく、誰かの声に似ていたから。
海は青く、空は蒼かった。
夏の面影はもうどこにもないけれど、それだけは変わらなかった。
「往人さん。佳乃ちゃん。美凪さん」
3人を呼ぶ声。
「……ただいま」
いつまでも一緒にいたかった人――
本当に大切だと思える人――
あの日に消えたその人が、そこにいた。
海のように、空のように。
変わらぬ姿で、そこにいた。
「観鈴…」
泣いたらダメだ。
そう、往人は思った。
男が泣くのはみっともないとか、格好悪いとか、そんなのは関係ない。
今ここで泣いてしまえば、観鈴はまたいなくなってしまうような気がしたから。
これが奇跡なら、それに応えなければならない。
どう思ったか、佳乃も美凪も泣かなかった。
――星の記憶を担う最後の子には、どうか、幸せな記憶を。
誰かの言葉がよみがえる。
大好きな人ができたことが幸せなんじゃない。
大切な人たちと共に歩んでいけることが幸せなんだ。
だから――
「「「……おかえり」」」
涙の代わりに、言葉を。