Side AIR
誰かのために必死になったのは、あれが初めてだったように思う。
ただ探していた俺にとって、明確な意思なんてものは欠片ほどもなかった。
けれど、このちっぽけな街に降り立ってから、何かが変わった。
いくつもの季節を独りで過ごしてきた俺にとって、誰かと過ごす時間は新鮮だった。
それが、当たり前なんだよと微笑んでくれる少女がいた。
〜きっと、忘れない夏〜
「ふぅ……」
どかっと堤防に腰を下ろす。
ド田舎だが、それゆえに都会のような厳しさがない。
人たちはみんな温かく、俺が心を開きさえすればこの街は簡単に受け入れてくれる。
子供達と戯れ、ときには人形芸のことを一緒になって考えたり。
何もかもが初めてだけど、決して嫌ではなかった。
というよりも、それが心地よくさえ感じる。
一箇所にとどまることや、誰かを頼ったり誰かに頼られることが苦手だった。
けれど、それはただ意地を張ってるだけだったんだ。
そう教えてくれたやつがいた。
「観鈴……」
――往人さんと一緒にいたい。
――痛くても辛くても我慢してくれよ……俺が、お前と一緒にいたいから。
あのとき、確かに想いは重なった。
そうして幾日か過ぎて……。
観鈴が“ゴール”して――
それで、ずっとずっと昔から続いてきた悲しみは終わったんだ。
これから、幸せが続くと思ってた。
「けど、こんなのちっとも幸せな結末じゃないだろう……」
誰もが願ってる。
観鈴……お前が帰ってくることを。
特別すぎたあの夏は、けれど本当にかけがえのない日々。
いつか忘れてしまい、そして忘れてしまったことすら忘れてしまうとしても――
たとえ、帰ってこなかったとしても。
「絶対に、忘れない」
忘れたくない。
けれど、そんな決意はまだ必要ないんだ。
「お前は、帰ってきてくれるだろう?」
いつかきっと……。