家に帰って1人になっても、鼓動がおさまることはなかった。
「ついに言ったんだ……」
そう思うと、居ても立ってもいられなくなる。
断られたらどうしようという恐怖。
承諾されたらどうしようという不安。
「俺がどうこう考えても仕方がないんだけど」
それでも、どうしても考えてしまう。
……結局、その日はあまり眠れなかった。
〜いつかの約束は〜
後 編
告白してから数日が経つが、未だに美坂からの答えはない。
それどころか、どこか気まずい雰囲気すらある。
覚悟していたとはいえ、この状況はやっぱりつらい。
いい加減諦めかけたとき、
「北川君、今日空いてるかしら?」
「……もちろん」
ちょうどバイトが休みだったからそう答えた。
けど、もしバイトが入っていても、頼んで変わってもらっただろう。
今の俺と美坂が2人きりでなにか話すことがあるとすれば、告白への回答でしかないからだ。
場所は、告白したときと同じ、あの公園。
「あたしは、北川君のことをどう思っているのか……ずっとわからなかった」
ゆっくりと、美坂は話し始めた。
「北川君があたしを好きだっていうのは、告白される前からわかってたから……」
……そうだったのか。
そんなにあからさまに態度に出てたかなぁ。
「約束を覚えていてくれたなら……そして、それが本物なら……あたしは変われるんだと思った」
――自分に素直になれるんだと、そう思ったの……。
その言葉の中に、どれだけの思いがあるのか、俺はわからない。
なにを背負っていて、どんな傷を負っていて……。
そうして苦しんでいる姿を見たくなくて……。
好きな人には、いつだって笑っていてほしくて……。
あの日の言葉は、俺にとっては約束じゃない。
それよりももっと重い……誓いだ。
「けど、やっぱりあたしは臆病で、1歩を踏み出す勇気が持てなかった」
いつの間にか、青空はその色を変え、世界を赤く染めていた。
「北川君がいなかったら、そんな自分を認めることさえできなかったと思う。だから――」
夕陽がその色を増していく。
「あたしも、北川君のことが好きなんだと思う」
風がそよいだ。
それに背中を押されたような気がして、1歩を踏み出した。
「北川君……」
美坂もまた、歩み寄る。
空を染める茜色が濃紺へと移り変わり、地面に映し出されていた影が薄れていく中で――
ふたつの影が、そっと重なった。
前編へ 前へ戻る
あとがき
別に私は北×香が嫌いだというわけではないんですよ?
ただ、主人公以外の視点って少し苦手なんですよ。
だから、あまりこういうお話は書かなかったんです。
近況報告として――
最近は、何だか長編以外のものが書けなくなってしまい、四苦八苦しています。
これも1本で終わらせるつもりだったんですが、結局前後編になってしまいましたし。
まあ、結構白の怠慢で更新が雑になったりしますが(プチ責任転嫁)年末に向けて、もう少し出しておきたいなと思います。
それでは、黒犬でした。
前編へ 前へ戻る