眞子と本当に付き合うようになって数週間。

恋人同士となったからといって、特に何が変わるというわけではない。

せいぜいひやかされるくらいだ。

それも、しばらくはないが。

学校は夏休みだから。









始まった夏休み
〜前編〜










初音島に来てから初めての、学校以外の日常。

かといって、だらだらと過ごせるわけではない。

午前中は部活があるし、午後からはバイトがある。

「だから、今日みたいにどっちも休みの日は珍しいんだよな」

つぶやいてみたところで、暇がつぶれるわけではないのだが。

「んー、どうするかな…」

眞子に電話してみるか。

それとも、朝倉家に押しかけるか。

「朝倉のほうが無難か」

眞子はあれで忙しいから、急に連絡しても予定は空いてないように思う。

なら、家でずっとごろごろしてる朝倉のほうがいいだろう。

「そうするか」

準備をすると、家を出た。





ピンポーン――

チャイムを押すと、少ししてからがちゃりと戸が開いた。

「どちらさまですか?」

中から出てきたのは、見知らぬ少女だった。

「…あれ?」

「はい?」

家を間違ったわけではないと思う。

「朝倉いる?」

とりあえず聞いてみた。

「兄さんならさっき出かけちゃいましたけど」

「兄さん!?」

あいつに妹がいたのか……。

「ところで、誰ですか?」

「俺は、朝倉のクラスメートだよ」

「音夢、どうかしたの?」

……あれ、この声は。

「もしかして、眞子か?」

思わずつぶやくと、

「眞子も知ってるんですか?」

聞こえてしまったらしく、問い返してきた。

「ああ、まあ…」

答えに困って、曖昧に頷く。

「あれ、透也じゃない。どうしたの?」

「眞子は知ってるの? この人のこと」

「あたしが言うのも何なんだけどさ、中に入らない?」

「そうですね」

どうぞ、と促される。

何が何だかわからないまま、俺はお邪魔せざるを得なかった。








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