眞子と恋人のフリをするようになってから、数週間が過ぎた。

相変わらずあきらめてくれるような気配はない。

まあ、キスしたりというようなことをしているわけではないから、しょうがないのかもしれないが。

けれど、それでいいような気もする。

俺たちがしているのは、あくまでも『フリ』なのだから。









〜変わりゆく気持ち〜










「おそいよ、透也」

「時間ぴったりだろうに」

文句を言う眞子に返す。

こいつはどのくらい前から来てたんだ?

口にこそ出さないが、度々思う。

必ずといっていいほど、こいつは先に来ているのだ。

「とりあえず、行くか」

「うん」





それから、いつも通りのデートをした。

映画を見て、喫茶店に行って。

いつからだっただろう。

フリであることを気にしなくなったのは。

……いや。

フリであることを、忘れてしまっていたのは。

「どうかした?」

帰り道で眞子が訊いてくる。

「この後のことを考えてた」

「?」

わかってないのかこいつは。

「これであの娘があきらめてくれたとする」

「うん」

「そうすると、フリをする必要はなくなるよな」

「うん」

「それにあの娘が気づいたら、どうする?」

「どうするって」

戸惑ったように言う眞子。

「また、同じことの繰り返しじゃないのか?」

「……」

黙り込んでしまう。

結局のところ、眞子がはっきりと断らないかぎりは続くんじゃないだろうかと思う。

「今はまだいいけどさ。けど、そうなる前に、ちゃんと答えを見つけろよ」

そう言って、俺は背を向けた。

ちょうど眞子の家に着いたから。

「じゃあな」

一言言って、歩き出す。

けれど、言葉は返ってこなかった。








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