あわただしい転校初日から数週間が過ぎ、この生活にも慣れてきた。
結局部活のほうも、メンバーが足りないときの補欠というふうに決まった。
顧問の先生は、多少下手でも一生懸命練習している者を選びたいと考えていたからだ。
ただ、やはりある程度は結果を出さなければならない。
悩んだ末の妥協案らしかった。
その案に対して、俺は二つ返事で了承した。
部活動なのだから、やっぱり頑張りを評価されるべきだと俺も思っていたから。
そして俺は今、桜公園を歩いている。
〜残照を背に〜
幼少時から体が弱く、俺は何度も入退院を繰り返していた。
だからか、よく街や公園を散歩した。
引越しの忙しさから街を散策する機会がなかった。
一人暮らしをしているから、食事とかは自分で用意しなければならない。
だから、それに関連した店は覚えた。
逆に言うと、それ以外はわからないということなのだが。
そういうこともあって、今日は一日中街を歩いた。
その帰りに、この桜公園に寄ったのだ。
「いい場所だな」
桜が枯れないというのは不思議なことだが、それはそれで心地いい。
景色を見ながら歩いていく。
「お…」
突然、開けた場所に出た。
「ここは…」
眼下には海。
展望台みたいのところか。
「綺麗だな」
オレンジ色の光がキラキラと反射している。
ずっと見ていたいと思ったが、あまり帰りが遅くなってもいけない。
「…帰るか」
そう言いながら、俺は沈み行く様をじっと見つめていた。
帰り道。
ふと夕日が沈んだほうの空を見た。
藍色がかった、茜色の空。
わずかばかり残った、黄昏。
「残照…かな?」
よくはわからないが、たぶんそうだろう。
さっきのようになってもいけない。
冬の夜道は危ないのだから。
特に俺は。
だから……。
残照に背を向けた。
そして、振り向くことなく、家路についた。