「眞子ちゃん、大丈夫でしょうか……」
お粥を口にしている朝倉に向かってではないが、萌はつぶやいた。
「あいつがどうかしたのか?」
恋人同士だからだろう、年上である萌に向かって普段と変わらない口調で話す。
実際、この2人は、風見学園では知らぬものがいないほどのバカップルだ。
四六時中べたべたしているわけではないが、校内で平然とキスして見せたのが一番の原因だろう。
もっとも、付き合い始めたときはそれなりにごたごたもあったのだが……。
〜あなたのためにできることは〜
「今日は両親ともに夜勤なんですよ」
「……なるほど」
「今は透也さんもいませんし」
「そうだな……」
2人にとっては共通の友人だった人物。
別れの言葉もなく、突然いなくなった幻のような青年。
「そういえば、もう1年も経つんだな」
「はい。わたしはもうすぐ卒業です」
照れたように、けれど少し寂しそうに言う。
「眞子ちゃんが心配だから、今日はもう帰ります」
「ああ。気をつけて」
「はい。純一君も、お大事に」
微笑を残して、萌は朝倉家を後にした。
空気が冷たく澄んでいるからか、いつもより星が綺麗に見えた。
藍色を照り返すアスファルトと、それを照らす街燈。
どれもが窓枠で切り取られた風景でしかないのに、飽きることなく見ていた。
「……ゆっくりと空を見ているのって、実は初めてかもな」
そんなことを考えながら、朝倉はベッドにもぐりこんだ。
熱でけだるい体は、すぐに眠気を誘う。
「ふぁ……」
意識を手放すまで、そう長い時間はかからなかった。
白い吐息を視界の隅に入れながら、萌は家路を歩く。
恋人だから、朝倉の体調は気になる。
できるなら治るまで傍についていたかったし、両親も眞子もそれをしたところで今さら何を言うわけでもないだろう。
だが、同じくらい眞子のことも心配ではあった。
卒パの準備で忙しく、透也を失った痛手は未だ癒えていない。
眞子はあまり誰かに相談するということをしない。
だから、今の状況は心にも体にも大きな負担となる。
「どうすればいいんでしょう……」
いつも迷惑かけてばかりではあるが、大切な妹に、姉としてできることはないだろうか。
もうすぐ卒業してしまう。
そうなると、いざという時でさえ傍にいてあげることができないかもしれない。
幾重にも折り重なる思考が、心を乱した。