過ぎ去っていく日々は、雪のように儚い。
「そう思うのも、今が冬だからかしら……」
1年という月日は本当にあっという間で、振り返れば全てが昨日のことのように思い出せる。
「……でも、透也はいない」
それだけがしこりとなって、眞子の胸に残っていた。
〜キミという温もり〜
本校舎に移ったからといって行事が大きく変わるわけではない。
眞子がそれを実感したのは、卒パの準備をし始めた頃だった。
幸か不幸か、吹奏楽部として参加することになったのだ。
「まさか二年続けてとは……」
イヤというわけではなかった。
けれど、たまにはゆっくり見て回りたいとも思う。
準備にあくせくしているときにカップルを見かけると、余計にそう思う。
「ま、独り身は大人しく盛り上げる側に回ってますか」
愚痴をこぼして、音楽室に向かった。
友達と一緒に練習して、空が暮れた頃に家路につく。
透也と別れたあの日から過ごして来た日常。
「朝倉をお姉ちゃんに取られたときでも、こんなに辛くはなかったんだけどな……」
ふいに感じる切なさは、どうしてもあの人の温もりを求める。
「……逢いたいよ、透也」
無理だとわかっていて、つぶやく。
初音島は、年中桜が咲いてるくせに、今年は雪がなかなかなくならない。
だから、春が間近に迫った3月という時期でさえ結構な寒さを感じる。
それが余計に寂しさを募らせる。
「さっさと帰ろう」
眞子はつぶやきながら、歩く足を速めた。
よほど忙しいのか、両親はともに朝早くから夜遅くまで家を空けることが多い。
萌は、体調を崩した朝倉の看病のために家にいない。
「まあ、たまには1人で食べるのもいいよね」
無理やりに明るく言う。
今まではなんとも思わなかった風景。
今は――空元気。
空の色が自身の心情を代弁してくれているようで……。
少しだけ、心が軽くなった気がした。