「それにしても、よく水越妹は承諾したな」
「……どういうことだ?」
杉並の言葉の意味がわからず、問う。
「ん? 聞いていないのか、牧野」
「だから何を」
「……ち。俺としたことが、失言だったか」
「はあ?」
「……まあいい。口止めされているわけでもないしな」
聞こえないようにつぶやいて(全部聞こえていたが)、杉並は話し始めた。
眞子と萌先輩、そして朝倉のことについて。
〜波乱のお泊り会〜
〜深夜の語り合い(?)編〜
杉並は簡潔に話してくれたが、それでも結構な時間話していた。
時刻はとっくに真夜中で、杉並は語り終えると早々に眠った。
「……そんなことがあったとはな」
しつこい後輩のことや、恋人のフリのこと。
本当の恋人になってからの日々のこと。
……萌先輩と朝倉のことを話したときの眞子のこと。
「確かに杉並の言うとおりだな」
告白こそしなかったらしいが、好きな人に振られたも同然だ。
いくら他の男(俺だ)と付き合うようになったとはいえ、そう簡単に割り切れるものでもないだろう。
「ん?」
廊下から物音が聞こえたので、向かってみる。
「……眞子」
「起こしちゃったかな?」
「いや」
「そう……」
なんとなく気まずい雰囲気になっているのは、眞子も聞いていたからだろうか。
「お前、もしかしてさっきの話……」
「……うん」
眞子の表情が翳る。
「ごめんね、黙ってて」
つぶやくような小さな声で、眞子は謝る。
「……」
俺は、そんな眞子を無言で抱きしめた。
「確かに話してくれなかったのは悲しいさ。けど、誰だって秘密の1つや2つあるもんだろ」
そう、俺だって眞子にも言えないような秘密を抱えてるのだ。
そんな俺が、隠していたことをどうこう言うような権利なんてない。
「だから、気にするな」
「うん」
俺という恋人がいながら朝倉を気にするのは、やっぱり腹立たしいことだ。
だが、無理に忘れたりする必要はないと思う。
俺は眞子のことだ好きだし、眞子は俺のことを好きだと言ってくれる。
なら、その事実を大切にしたい。
「俺は眞子の全部が好きだ。だから、どんなことがあっても眞子を信じる」
「……うん」
くぐもった声が、胸の辺りから聞こえる。
泣いているのだろうか。
抱いている肩が、小刻みに震えていた。