桜の花びらが舞い、雪がしんしんと降り積もる。
それは、信じられないほどに幻想的な風景。
「すごいな…」
素直に感動する。
ここが、今日から過ごすことになる初音島。
俺――牧野透也――は、ゆっくりと一歩を踏み出した。
〜ある冬の日の転校生〜
ここに来てから数日。
ようやく引越しの片付けなどが一段落し、ようやく今日から学校に通うことになる。
「ここか…」
校門の前に立つと、校舎を見渡す。
広い……のだろうか?
「…やだなぁ」
広いといろいろ不便だ。
まず、職員室がわからない。
この歳で道に迷ったなんて恥ずかしい目に遭いたくはない。
「とりあえず、中に入ろう」
桜が咲いているからといって、暖かいわけではないのだ。
……ていうか、ムチャクチャ寒い。
職員室までは、何とか辿り着くことができた。
そして、担任である教師とともに教室に向かう。
後の経緯は、お約束に忠実な展開となったため自主的に検閲。
………………。
「疲れた…」
授業も終わりようやく放課となる。
周りを見ると、帰りの準備やら部活に行く者がいる中、一人だけぼーっとしているやつがいた。
あれは確か、朝倉っていったっけ。
これでも記憶力には自信があり、ある程度の人数なら名前はすぐに覚えられる。
近づいていく。
「なあ。ちょっと聞きたいんだけど」
話しかける。
「ん?」
「音楽室ってどこ?」
「……は?」
いやまぁ、我ながら唐突ではあると思うが、その反応は大げさな気が。
「朝倉ー」
「ん、眞子か。なんか用か?」
「ええ。…って、この人誰?」
「ああっと、今日転校してきたんだ」
「牧野透也っていうんだ。透也でいい。よろしく、ええと…」
「あたしは水越眞子。あたしも眞子でいいわ。よろしくね」
挨拶を交わす。
「で、何の用だ?」
「お姉ちゃんが呼んでた。今日、急に部活休みになったから一緒に帰ろうって」
「ん、わかった。お前はどうすんだ?」
「あたしは少し練習してから帰るけど」
「ならちょうどいい。こいつを案内してやってくれ」
二人の間で発展していく展開に、俺は半ばついていけずにいた。
「音楽室に?」
「ああ」
「別にいいけど。何の用があるの?」
俺に向かって訊いてくる。
「吹奏楽を見学したかったんだけど…」
話の感じでは、眞子は吹奏楽に所属しているようだ。
それに、今日は部が休みらしい。
「何人かはあたしみたいに自主練する人もいると思うから、それでいいなら」
「かまわないよ」
そんなこんなで、俺は眞子とともに音楽室へ向かった。